複雑・ファジー小説
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.35 )
- 日時: 2020/04/26 22:41
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: rtUefBQN)
【 死神さんと 5 】
むかしは悪い連中とつるんで犯罪まがいのことをした。取り返しのつかない過去がある。
その人は、私と付き合う前に戻れない過去の後悔を吐露した。
仲の良かった友人に流されるように青春を壊した。高校はちゃんと卒業しなかったし、しょうもないことにお金を使って、どうしようもない人間の、クズのレールを走っていた。やばいと気づいたのは、その友人がドラッグに落ちて崩れたとき。異常な脳になった友人は狂ったように周りの人間を傷つけて廃人になった。どうにか立ち直ってほしかったけれど、彼に薬に堕ちることを強要されたとき、ああもうだめなんだ、と思った。そこから、自分の過ちをどうにか懺悔する道を探そうと思った。
彼は言った。優しくなりたいんだと。
もう誰も傷つけない。誰かを守れるような、優しい人間になりたい、と。
付き合ってからはとても幸せだった。私を恋人として大事に扱ってくれる、くすぐったいような甘い時間に私は酔いしれていた。過去に何人彼女がいたとか、そういうのもどうでもいいくらいに。君だけが大事だよ、なんて気障な台詞をベッドの上で囁いて、私が「馬鹿」というと恥ずかしそうに彼は笑った。
スマホに何度もくる着信を拒否したのは、彼との五度目のデートのあとだった。
前に付き合っていた恋人には束縛癖があって、私が好きと言わないと、愛していると言わないとすぐに殴る男だった。付き合う前はとてもやさしかったのに、恋人になってからは狂ったように私のことを欲した。歪んだ愛だとわかっていながらも、それでも彼から離れられなくて、全身がボロボロに壊れた時にようやく彼から逃げる決心を決めた。
彼が家に来た時に、すぐにドアを閉めればよかった。ちゃんとチェーンだってしていたのに。いや、それで安心してしまっていたのかもしれない。
「愛してる。僕から離れないでよ。ずっと僕のことを愛してるって言ったじゃん」
がしゃんとチェーンが切られて彼の手が私の首を包み込む。ぎゅっと、喉を潰されそうになるくらい強く。視線が合わない彼の瞳。彼は一体、私の何を見ていたのだろう。
無理やり言わせた「愛してる」に、何の意味があったのだろう。
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何度も何度も殴られて、蹴られて、鈍器の鈍い音が部屋に小さく響く。口にされたガムテープで私の叫び声なんて聞こえやしない。足をじたばたさせて、泣きわめこうが彼が行為をやめることはなかった。痛くて苦しくて、死んだほうがましだと思った。
私はこいつに殺されることが、悔しくて仕方がなかった。
死ぬんだな、と思った時に彼は私の首をまたぎゅっと絞めつけて、そのまま風呂場に私を運んで浴槽に服を着たまま放り捨てた。水道の蛇口をまわして水をためていく。やがて呼吸ができなくなった時、もう私の意識はなかった。
ようやく本当に好きな人ができたのに、こんなやつのエゴで私は殺されるのか。
もう会えない。大好きな、君にもう会えない。
どうしようもない。好きだと笑ってくれた彼を思い出す。優しくなりたいといった彼を思い出す。
冷たい水に溺れて私は死んだ。雨音のうるさい、いつもの日曜日のことだった。