複雑・ファジー小説
- 黒き原初 ( No.1 )
- 日時: 2018/05/30 17:20
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
序章
少年が、駅のホームへと向かう。そして白線の近くに並ぶ。人混みでごった返しのホームに揉まれながら。
「九番線、間もなく電車が到着します。白線の手前でお待ちください。」
放送など気にもしない民衆。電車が見えてきた。ホームへ差し掛かる。ふと、少年が線路内へ飛び出す。誰かが背中を押して。彼は落ちていく。電車が迫って…ぶち当たった。民衆は気にも止めなかった。轟音にかき消されたからだ。
しかし、少年が死んだニュースが報道される事が無かった。まるで世界から消されたかの様に。
—ようこそ、我が王よ—
彼が強大な力を手に入れることも知らず。
- 黒き原初 ( No.2 )
- 日時: 2018/06/03 11:22
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
暗黒の主
其処は黒き世界だった。明かりは無く、正に暗黒だった。その場所に一人の少年が落ちてきた。しかし、底無しなのだろうか、一向に着地する気配は無い。ただ、ゆっくりと落下していく。
時間が経っても止まらぬ落下。そして目覚めない彼。しかし、彼が着地したかのように停止した。いや、着地というより、誰かが歯止めをかけたように。
しばらくすると、何処と無く足音が聞こえ、少しずつ音が大きくなる。その音が大きくなるに連れて、暗黒の世界が色彩を帯びてきた。世界は黒なのだが、少年の姿はくっきりと、そして足音の主の姿も。見えるようになる頃には、足音の主は少年の前に。しかしながら少年は目覚めようとしない。
どれ程の時間が経ったのか。一年のようにも、1秒のようにも思える。そんな時間をただ、山羊の頭骨をした足音の主は待ち続けていた。そして、その時は訪れる。
少年は目を覚ましたとき、違和感を感じた。何故意識があるのか、と。あの時、誰かに駅のホームで押されて、線路内に落ち、電車に轢かれたのだと。普通死んでいるはずだと困惑するばかり。彼は自分の上半身を起こす。
『ようこそ、我が王よ。』
そして、体を起こした先には、山羊の頭骨を持つした人物がいた。彼が声を発したのだろうか。
「うぇ、と。って喋れる……?
死んだんじゃ無かったのか?!」
てっきり少年は死んだのだと思っていた。喋れるなんて思いもしない。夢かも、そう思って頬を抓る。体には触れる事はできる。が、痛くは無い。
『……王よ。貴方の記憶に違和感はございませんか?』
そう、目の前の人物に聞かれた。答えないと殺される。直感で思ったのか、急いで自分の頭の中を整理する。
「えっと、駅のホームで誰かに押されて、線路内に落ちまして……。電車に轢かれたはずなんですけど……。ここって地獄ですか?」
敬語口調で、そう答える。そうとしか考えられない。生きている事は不可能だからだ。
『……ふむ、誰かが突き落とした、間違い無いですね?』
また問いかけられたので、ウンウンと頷く。
『分かりました。過去の事を掘り返しても意味は無いですものね。さて、質問という無礼を働いてしまい申し訳ありません。王からの疑問にお答えしましょう。また、私には普通の口調で大丈夫ですよ。』
相手も敬語口調。それも少年を王と呼ぶ。自分よりも上の存在だと、自負しているのだろう。
『まず、ここは地獄かという質問ですが、違います。一から説明させていただくと長くなり、専門用語も多くなってしまうので、簡単に。』
そう彼は言うと、何処からか資料みたいな物を出した。
『この世界は、私が創り上げた次元なのです。王が住んでいました世界は層のようになっており、その最高が次元です。』
資料は自分が住んでいた世界で言う、宇宙が米粒ぐらいに描かれており、その上に何個もの層に囲まれて、1番外側が『次元』と書かれていた。
『私はその次元が究極だと確信いたしました。だからこそ、次元を研究し、この世界を創ったのです。しかしながら、次元はそれを許しませんでした。私はその次元の流れから外れてしまったのです。』
次元って自我があるのか?少年は疑問に思うが、彼の話を聴くとそのようだと確信した。
『命からがら逃げましたが、力を失い、この次元に閉篭もる事が最良の選択肢かと思いました。それからと言うもの、後継者を捜しておりました。それが、王よ、貴方です。』
いつのまにか大きな話になっていた。少年は次元の操作?とついていけてないようだ。
『難しい話は後回しに、先ずは世界を創造しましょう。その世界が文明を築き上げるまで、たっぷりと時間はありますから。』
彼にそう言われた。彼は資料を何処かに仕舞い、少年に実践させることにしたようだ。少年は困り果てた。
「そんな事出来ないよ?」
タメ口が大丈夫だと言われたのだから思わずそうしてしまった。
『その口調で大丈夫です。
先ずは貴方に魔法をお教えします。魔法、ご存知だと思います。何か頭の中で想像してみて下さい。』
そう言われたので、少年は想像する。魔法と言えば、炎かな、そう思うと、目の前に巨大な黒い炎が発生した。
『えぇ、やはり素晴らしい。天賦の才能ですね。もう少し、練習しましょう。』
彼は笑っているのだろうか、表情が少しだけ柔らかいような。ただ、骨なので雰囲気だけだが。
「でも、何発も撃って疲れない?」
ふと、疑問が浮かぶ。自分のいた世界の中のゲームはMP消費型のRPGが多かった。その影響が大きいのだろうか。
『次元から全ては発生します。王は次元そのもので御座いますから、無限に魔力が発生します。生命力も尽きる事は無いのです。この世は思いの儘ですよ。』
少し、恐ろしい気がした。もしかしたら、次元が神様なのだろうと少年は感じる。
「じゃあ、もう世界を創造できるってこと?」
初っ端からそう言っていれば良かったのに、と。
『使い方が分からないと失敗してしまいますからね。では、創りましょうか。』
こうして異世界制作が始まった。
- 黒き原初 ( No.3 )
- 日時: 2018/06/02 16:59
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
天と地の創造
『世界は先程も申しました通り、何層にも積み重なっています。次元は全ての源ですから、近い世界ほどその力は強くなります。』
何となく、言っていることは分かる。電波が近ければ携帯は繋がりやすいし、遠いと圏外になるような事なんだろう。
『つまり、神が住んでいる天界から、生命が住む地界までを作る必要があるのです。』
自分の世界にも神様もいるんだな、迷信だと思っていた事が事実なのだと少年は確信した。
「疲れそうだよね、たくさんの世界を創るなんて。」
そう、言い放つと山羊は
『そのような事は御座いません。天界さえ創造してしまえば、後に神々が勝手に世界を創るのです。神々はそのように使いを生み出していったのです。神が新たな神を生むなど良くある事です。』
原初の神が世界を創り、自分の子がまた神になる、良くある神話のようだった。これも実は本当なのだろう。
『ですから、先ずは天界を。世界を創れば王が住んでいた世界のように神が誕生するでしょう。私達は待つだけです。』
それでは、と天界を創り始める。力を込めて、それを固めていくような感覚で。すると暗黒の世界に一つの光が出来た。とても小さいが。
『流石は王です。一発で成功させるとは。小さいと思うでしょうが、これが普通なのです。それだけ次元の力は強大だという事をお分かりいただけたかと存じます。』
そうなのか。次元の強大さを実感する。前いた世界の次元は今の自分よりも比べ物にならない。そう感じた。
『ほら、新しい神が誕生する瞬間です。』
天界を見てみる。小さ過ぎて見えない。目に何となく力を込めると拡大される。
そこでは力が集まり、一つの浮遊物体が生まれる。
「これが神様?なんだか思ってたのと違うけど。」
思わず、声に出してしまう。人型では無いのか。
『ご安心下さい。これから幾度と進化を遂げていきます。それは私達にとって1秒な出来事かも知れませんが。』
確かに、時間の流れが早い気がする。
『まだ、新しき世界が出来上がるまでお時間がありますのでお茶でも召し上がってください。』
また何処からか机と椅子が出て来る。ついでにお茶のカップとティーポットも。綺麗な細工がされている。
『これは私が調合いたしました、紅茶で御座います。お口に合うと良いのですが……。』
そう言って、山羊頭は少年に紅茶を差し出す。少年はそれを一口飲む。
「美味しい……。初めて飲んだよ、こんなの!」
目を輝かせて、紅茶をまじまじと見つめる。山羊頭は嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
『喜ばしい限りです。
一つ質問を宜しいでしょうか。』
彼はお礼を言った後、少年に質問をする。
「別にいいよ。」
少年は笑顔で答える。
『お名前をお聴きしたいのですが……宜しいでしょうか。』
少年はYESと頷く。
- 黒き原初 ( No.4 )
- 日時: 2018/06/02 19:21
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
原初の御名
「名前は、白神 黒だよ。」
あっさりとした、何処にでもいそうな名前だ。だが、この名前が何故か少年の風貌を表しているように思えた。白い髪に、右側の一部分は黒色。目は左が赤、右は黒で、2つとも所謂魔眼と言われる部類だ。
『成る程、シュバルツとヴァイス……。2つの対なる物同士が融合した、最高の存在なのですね。』
山羊は喜ばしい様子だ。自分の事ではないのに、黒はそう思った。
別に自分の名前が特に気に入っている訳ではない。寧ろ嫌いである。両親が考えもせずに付けた名前だ。まるで被検体番号のような嫌悪感がある。
『……自分のお名前に御不満があるようですね。ならば、その名前を外国語に翻訳しましょう。きっと素晴らしい名になりますよ。』
まるで、黒が不機嫌な事を読み取った様に、話を変える。そもそも顔に出ていたが、本人は気づいていないようだ。原初の御名
「名前は、白神 黒だよ。」
あっさりとした、何処にでもいそうな名前だ。だが、この名前が何故か少年の風貌を表しているように思えた。白い髪に、右側の一部分は黒色。目は左が赤、右は黒で、2つとも所謂魔眼と言われる部類だ。
『成る程、シュバルツとヴァイス……。2つの対なる物同士が融合した、最高の存在なのですね。』
山羊は喜ばしい様子だ。自分の事ではないのに、黒はそう思った。
別に自分の名前が特に気に入っている訳ではない。寧ろ嫌いである。両親が考えもせずに付けた名前だ。まるで被検体番号のような嫌悪感がある。
『……自分のお名前に御不満があるようですね。ならば、その名前を外国語に翻訳しましょう。きっと素晴らしい名になりますよ。』
まるで、黒が不機嫌な事を読み取った様に、話を変える。そもそも顔に出ていたが、本人は気づいていないようだ。
『そうですね……フランス語はいかがでしょう。ドイツ語など悩みましたが、これがいいと思いましたので。』
少し、焦らす。そして、期待を膨らませる。
『ノワール=ディユ・ブランは如何でしょう。』
- 黒き原初 ( No.5 )
- 日時: 2018/06/02 22:14
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
黒山羊と新しい世界
「そういえば、君はなんて名前なの?」
黒、又の名をノワールは山羊に聞く。名前が無ければ呼びにくいだろう。
『名前はありません。このような姿ですから、山羊とでも呼んでください。』
自分の名前などどうでも良い、そのように受け取ることが出来る。ノワールはそれは駄目、と顔に出ている。名前を考えているのか、険しい表情になり、はたまた閃いたのか顔が明るくなる。
「黒山羊!苗字ぽくて響きが良くない?」
黒山羊、ストレートな名前だ。ほぼまんまだろう。しかし、名前を考えてくれたが嬉しいのか、山羊は喜んでいた。やはり雰囲気だが。
『素晴らしい名前です。ノワール様が付けてくださった名を一生を心に留めておきます。』
重く捉えているようだ。ノワールはそうは思わなかったようで少し引いている。
『時間が経ったようですから、天界の様子を見に行きましょう。』
長きに渡り話をしていたら、いつのまにか時間が経っていたらしい。此処では時間の流れなど感じないが。
天界が見える場所に着くと、前より大きくなっていることに気づく。まぁ、水素原子から炭素原子になったぐらいだが。
「成長したなぁ。」
ノワールは前回覚えた拡大魔法で天界を見る。黒山羊も同様の魔法を使っているみたいだ。
『神々が増えましたね。新しい世界も出来ているようです。ものすごく小さいですが。』
見てみると最初の神を囲むように宴会をしている。とんでもない体たらくだなとノワールは思う。
神々が創った世界も見てみる。人間が文明を築いている。どう見ても早いのではないか。
「なんでもう文明もあるの?俺ら話してただけだよね?」
ノワールが黒山羊に問いかける。いくらなんでもおかしいと。
『ノワール様が思っている以上に時間の流れは私達が感じるより早いのです。人間にとっての一生も、我々にとっては1秒にも満たない。この次元にいる限りは、ですが。』
次元にいる限りはと言われたので気になってしまう。なんで、と顔に出すと黒山羊は丁寧に答えてくれた。
『私達がおります此処は、この次元の最高地点です。それから下に降りて行きますと、その場所の時間の流れ方が適用されるのです。我々も例外では無い、とは言い難いですが、自己判断で可能です。』
流れまで変えられることが出来る、それは最強としか言えないのだろう。次元の力がどこまで強大なのか、分かった気がした。
『そうですね、折角ですからその世界に行きましょう。ノワール様の世界にあったゲームに近いはずですから。長い時を生きるのですから、気楽に行きましょう。』
黒山羊に提案された。ゲーム、一度だけノワールは友人の家で遊んだ事がある。とても楽しかったことを今でも覚えている。少し、ワクワクした。
「うん、行こう。折角だし!」
明るい声が、暗黒の世界に響く。
−序章閉幕−