複雑・ファジー小説
- 黒き原初 ( No.13 )
- 日時: 2018/06/10 09:05
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
冒険者ギルド
馬車を走らせて、門番に勧められた宿へ向かう。探知魔法で何処にあるかは分かる。その前に地図も作ってしまったし。
『此処ですか。ノワール様、少々お待ち下さい。中に入りチェックインをして参ります。』
ノワールは馬車から降り、黒山羊は宿の中へ入る。
「なんか、本当に異世界なんだなぁ。」
街並みも見て思ったが、やはり此処は前世とは違う、紛れも無い異世界なのだと思う。
感傷に浸っていると、黒山羊と店内の人だろうか、その様な人もいた。
『ノワール様、店主の方です。馬車などの保管の場所へ案内をしてくれます。部屋は2つ取ることが出来ました。』
ノワールは黒山羊に笑顔を見せる。ありがとうという意味を込めて。
「初めまして、ノワールさん。巨魚亭の店主です。馬車や馬を移動させますね。」
店主さんは女の人で母性溢れる優しい人だった。
馬車を移動させた後、骨馬達も飼育小屋の様なところに連れて行ってもらった。一通り終わり、ノワール達は宿の中に入る。
「何か、家だね。」
個人経営だからだろうか、少し大きな家の様に見える。扉を開けて入ると食堂が広がっている。奥には上に登る階段がある。夜だからか、重装備の人達がご飯を食べている。
『夕食は如何致しましょう。此処でお召し上がりになりますか?』
黒山羊が夕食について聞いてきてくれた。折角なのだから此処で食べようと黒山羊に伝える。すると、すぐにカウンターの方へ向かい注文しに行った。ノワールは席に座る。
「よぉ、見ねぇ顔だがよそのもんか?」
隣に座っていた酒に酔った男に話しかけられる。
「えぇ、そうですが。貴方はもしかして、冒険者ですか?」
重装備の格好をしていた為、冒険者だと思った。ギルドみたいなところがこの街にあるのだろう。
「おお、そうだぜ。お前、冒険者になりたいのか?まぁ、小僧には無理だと思うがなぁ。」
大きな声で笑っていた。この姿だからか、そう思う人も多いだろう。人は見かけによらないとも言うのだが。
「そうですか。では力試しに入ってみようと思います。」
大きな声でまた笑われる。別に興味も無い。そもそもこの世界では楽しむ事が目的なのだから。
「舐めない方がいいぜ。冒険者はいつ死ぬか分かんねぇしな。不老不死でも無い限りなぁ!」
その死ぬ、という定義が存在していないのだから別に心配の必要性もない。というかその不老不死の上位互換なのだが。
「もしかしたら、不老不死かもしれないですよ?」
彼の目を見つめて少し、威圧をかける。彼は硬直する。
黒山羊が部屋に食事を持ってきてもらいましょう、と言ってきた。男の席に1つ、赤色の石を置き、またと声をかけて席を離れる。
『何を差し上げたのですか?』
部屋へ移動している最中に黒山羊に男に何をあげたのか聞かれた。
「普通の召喚石。」
黒山羊は少し笑った。ノワールの言う普通とは、異常な程ハイスペックなものなのだから。
『何故、彼に?』
黒山羊は更に疑問を突きつける。
「うーん、あれ以上強くなるのは大変だろうからさ。運も逃げてたみたいだし。」
ノワールは鑑定を使い、彼のステータスを見たのだ。
ジョージ
Lv.24
種族 人間
職業 剣士
固有スキル
スキル
剣術Lv.5 冒険Lv.7 鑑定
装備
鋼の鎧 鋼のクレイモア
称号
C級冒険者
まぁ、自分と比べるのもアレだが。折角話しかけてくれたのだ、心からのプレゼントである。
『そうですか。しかし、本当に何の召喚石なのですか?ノワール様の事ですからレアリティが高い物だと思うのですが……。』
ノワールに最後の質問を問いかける。
話しているうちに部屋に着いてしまった。ノワールは黒山羊の手に石を握らせる。
「それをあげたから鑑定してね。」
おやすみ、と黒山羊に言い、部屋に入っていく。黒山羊もおやすみなさい、と返事をし、部屋へ入る。
その頃、ジョージは宿の部屋に戻っていた。ノワールに貰った石を見ながら。
「あの小僧、ただなら無い雰囲気だったなぁ。それにしてもこの石、なんなんだ?」
彼はその石を鑑定してみる。
最上級召喚石 レア度・星7
Aランクモンスターを高確率で召喚、契約出来る。黒き原初が作り上げた石が世界に散らばり、モンスターの体内で作り出されるようになった。
「レア度・星7!?何でこんなもんを持ってるんだよ?!モンスターを何体倒してもドロップしなかったのに……。」
彼は召喚石すらもモンスターからドロップした事がなかった。正直に言えば、ノワールが設定したドロップ確率は約10000分の1なのだが。それもAランクモンスター以上と限定されて。
「……お礼をしなきゃならねぇな。確か冒険者ギルドに行くって言ってたか。案内ぐらいしてやるか。」
やはりジョージはノワールが冒険者に適さないと思っている。まさか自分より強いとも思う訳がない。
ジョージは朝早く起き、彼を冒険者ギルドに連れて行くことを決意した。
朝になりノワールは起きる。昨日の女将さんのご飯はとても美味しかった。家庭の味、というものだ。別に大したものでは無い。しかし、手間がかかっていて、愛情も感じた。
ノワールが起きる時間は大体誰も起きない時間帯だ。日が昇り始める頃に起きるのだから。支度をし、この間漆黒創造で創り上げた、無限保管庫、というスキルに沢山の石を入れる。昨夜、実験で物凄い量の石を作ったのだ。神王召喚石、賢王の光石、言霊の秘石など、レア度・星10の物ばかりを大量に生産していたのだ。
ノワールは部屋から出て、黒山羊の部屋のドアをノックする。直ぐに開き、黒山羊が出て来る。
「おはよう。」
『おはようございます。』
朝の挨拶を交わした後、食堂へ移動する。朝早いのであまり人はいないが。
「おはようございます。お二人は朝早いですね。」
女将さんに挨拶される。確かに誰も起きない時間だろう。女将さんは食堂の支度やらで忙しいらしい。
「まだ、朝食の準備が出来ていなくて……、外の屋台ならやっていると思うのですが。折角なら行ってみたらどうでしょうか?」
屋台、ノワールはその単語を聞くと、気になる、と言い、黒山羊は行きましょうと同意する。そんな3人の会話に昨日の男、ジョージが入ってくる。
「よぉ、小僧、昨日はありがとな。お礼と言っちゃあ何だが、ギルドに連れって行ってやるよ。」
少し上から目線なのが黒山羊は気に入らなかったのか、ジョージを睨みつける。
「ひっ!あ、アンタもどうだい?」
宥めようとする。ノワールはこのままでは朝ご飯に辿り着けないと思ったのか、
「そうだね、黒山羊、どうせなら屋台にも連れて行ってもらおうよ。」
と新たな提案を出す。ジョージはこれ以上黒山羊の機嫌を損ねたく無いので、分かったと頷く。黒山羊もノワール様の為なら、と頷く。
宿を出て、ジョージに大通りに連れてかれる。そこには屋台がずらっと並んでいた。
「うわー、凄いね。人も結構いる。竹下通りみたい。」
実質的には竹下通りの人の多さよりも圧倒的に少ない。一千万人も東京にいたのだから、比にならない。
「なんだ?その……たけしたどおりって。まぁ、この街の人気スポットは間違いなしだ。」
笑顔で言ってくる。しかし、ノワールは人の話を聞かずに食べ物を大量購入して食べる。というか既に食べ終わっていた。
「このぐらいでいっか。あれ?食べなかったの?」
ジョージは行動の速さに驚き、少し引いていた。黒山羊はまた睨む。
「い、いや大丈夫だ。まずは冒険者ギルドに行こうぜ。」
黒山羊にビビりながらも、三人は冒険者ギルドに向かう。
ノワールは途中も買い食いをしていたが、ぺろっと食べてしまう。そんなこんなで冒険者ギルドに着く。
「ここが俺たち冒険者が集うギルドだ。」
自慢気にジョージが言う。かなり大きな建物だ。しかし、東京育ちのノワールにとっては雑居ビルよりも小さいなと思ってしまうが。
「よし、中に入ろうぜ。」
ジョージが冒険者ギルドのドアを開ける。そこからはたくさんの冒険者が集まっている光景が見えた。昼からお酒を飲む者やカウンターで物を売っている者、依頼の紙を見ている者など、沢山いた。
「ねぇ、どこで冒険者になる受付をするの?」
ノワールは早く登録したいという思いがあり、ジョージを急かす。
「焦るなって。あそこのカウンターで出来るぞ。」
そうジョージが言い放った瞬間、黒山羊は瞬時に向かう。黒山羊の姿を見た者は絶句する。いきなり黒山羊がカウンターに行くと黒山羊が注目の的となる。
『すまぬが、ここで冒険者登録をしたいのだが、よろしいか?』
黒山羊が受付嬢に話しかける。
「はっ、はい!紙を持ってきます!」
カウンターの奥に入り、何かを持ってくる。
「おい、あれってジョージじゃねえの?」
「あいつの隣にいる小僧も、変な容姿してんな。」
コソコソと何かを話している。ノワールの話になった途端、黒山羊は睨みつけた。すると黙る。ノワールは黒山羊のところへ向かい、睨まないであげてと言う。ジョージも仕方なく後について行く。
「かっ、紙を只今持って参りましたので、ご記入をお願いします!」
何か力んでいるように見える。緊張しているのだろう。異色の二人に。
「あの、職業とか種族とかって必ずしも記入するんですか?」
ノワールが質問をする。
「えっと、記入しなくても大丈夫です。最低でも名前だけご記入いただければ。」
受付嬢がそう言う。ノワールと黒山羊は名前だけ記入した。
「えっと、ノワール=ディユ・ブランさんと黒山羊さんですか。貴族出身ですか?」
受付嬢にそう聞かれた。なんでも苗字持ちは貴族に多いそうで。
「いえ、違いますが。」
そもそもの話、全ての祖なのだが。
「そ、そうですか。」
受付嬢はあっさりとした否定に少し困惑する。
「では、冒険者ギルドについて説明しますね。ギルドは国家に囚われない、独立したものです。これからお渡しするギルドカードは身分証明書の代わりになります。ギルドには、ランク付けがあり、FからSSSまで御座います。お二人はFからのスタートです。ランクは条件を満たすと上に上がれますが、その条件は公開はしておりません。また、依頼を立て続けに失敗したり、一年以上依頼を受けない、迷惑行為をした場合は除名や降格の処分もあります。依頼はあの掲示板の紙を剥がしてカウンターに持参して受付をします。1つ上までのランクの依頼は受けられます。何か質問があれば言ってください。」
ノワールが質問があります!というように挙手する。
「パーティーってありますか?」
ゲームや小説の中ではど定番のパーティーだ。黒山羊と組みたいのだろう。
「はい、御座います。今から組みますか?」
はい、とノワールは言う。すると受付嬢はまた、カウンターの奥へ行く。カウンターに戻ってくるとギルドカードを二人に渡し、パーティーにもしてくれた。
『ありがとうございます。』
そうお礼を黒山羊は述べ、ノワールと共に掲示板の方へと向かった。