複雑・ファジー小説
- 黒き原初 ( No.14 )
- 日時: 2018/06/10 10:49
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
弐章 雷滅の熾天使
噂
黒山羊とギルドの掲示板を見て、薬草の採取の依頼を受ける事にした。
「これで宜しいですか?」
受付嬢の言葉に頷きを返す。
「分かりました。」
依頼の紙に受託用の判子を押して貰う。
「しかし、気をつけてくださいね。最近、薬草が取れる平原の近くに雷が落ちた様ですから。」
雷、か。見た事はある。しかし近距離で見た事はないし、稲妻の形をしっかりと見たことはない。ノワールは情報提供をありがとう、と言っておいた。
『昼になりましたので、ここの酒場で食べますか?』
お酒、飲めるだろうか。ノワールは飲んでみたい。前世は未成年だったからだ。
「お酒飲んでみたいし。」
うん、と言う。酒場の席を取り、注文する。暇だな、と他の客の話に耳を傾ける。
「……知ってたか?最近教会に雷が落ちたこと。」
「平原とかにも落っこちたみたいじゃねぇか。」
「信徒達は熾天使様の天罰とか言ってるようだが……実際はどうなんだか。」
「もしそうだったら、祈るしかねぇな。」
最近、雷が多発しているようだ。向こうの世界では夏には頻繁に起こっていたが。
『この世界では四季があまり無く、国にもよりますが殆ど晴天の場合が多いです。雷の目撃情報では人や建物を狙っているようにも見えますし。』
誰かが意図的に、ということだ。ノワールはこの世界を作った神のことを知らない。そもそも天界を創っただけなのだから。
「成る程。もし、それが神様だったら会ってみたいね。」
ノワールは会ってみたいのだ。天界の神達に。
『私も同感です。昼食を食べた後、教会とやらに行ってみましょう。』
黒山羊の提案に乗る。そう話しているうちに食べ物が出てきたので、食べ始める。直ぐに食べ終わってしまったが。
ギルドから出て、薬草の採取に向かう。門へ向かうとこの間の門番に出会った。ギルドカードを見せる。
「冒険者になられたのですね。何処へ向かうのですか?」
そう聞かれる。薬草の採取をしに行くと伝えた。
「最近雷が多発しているようなので気を引き締めて下さいね。」
いってらっしゃいと言われた。やはり町中で噂になっているらしい。ありがとう、と返事をする。
平原に着くと、真ん中が焼かれていて、草が生えていなかった。
『雷が落ちた様ですね。』
別に興味は無い。薬草さえ取れれば良いのだから。黒山羊もこれ以上深掘りはしなかった。
薬草を採取し終わり、街へと戻る。ギルドに行こうとした時何故だか騒いでいた。教会の前で。
「民衆よ!あの雷は天罰だ!自分の行いを見直し、神に祈るのだ!」
神への信仰を促している。
「君も神へ信仰しようよ。」
少年に声をかけられる。
「何かに縋るつもりは無いよ。」
とノワールは冷たく言葉を返す。その場から離れようとすると、神への冒涜だ!と少年が叫ぶ。しかし、気にも留めずにギルドを目指す。
ギルドでも大変な騒ぎになっていた。雷がまた落ちた様だ。
「薬草、お願いします。」
カウンターで依頼の達成を報告する。
「はい、承りました。これが今回の報酬です。そういえば、雷が家に落ちたんですよ。」
だから騒いでいたのか、と納得がいった。少し、気になる。
「黒山羊。」
『畏まりました。』
雷を起こす本人に会いに行こうか。
- 黒き原初 ( No.15 )
- 日時: 2018/06/10 11:13
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
天界と熾天使
『良くやった、雷滅よ。』
天界の神々が、容姿美麗な美女に対し、褒める。
「有難き御言葉。」
丁寧な口調で、返事をする。
『これで、少しは神に信仰する事であろう。』
神々の高らかな笑い声が天界に響く。
(コイツら、心腐ってるわぁー。)
熾天使は心の中でそう思う。しかし、神に忠誠を誓っているからこそ、この地位にいられるのは重々承知の上だ。
『また、頼むぞ。』
「畏まりました。」
別に人も神も興味が無いのだ。自分さえ良ければいい、そんな熾天使なのだ。気高き天使では無い。自覚もしているが。
熾天使は天界の玉座の部屋から出て行く。
「雷、落とすか。」
独り言を呟く。
彼女は彼と出会う事をまだ知らない。
- 黒き原初 ( No.16 )
- 日時: 2018/06/15 21:52
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
黒雷滅の熾天使女王の誕生
『天界に私の僕を送っていましたが、雷を落とした本人は、『雷滅の熾天使』と呼ばれている様です。』
黒山羊が天界の神々を信用していないため、僕を送っていた。神々よりも強い彼らは発見されることなどあり得ない。
彼らが見た一部始終を映像化してもらったが、信仰を集める悪徳集団としか思えなかった。
「雷滅はこの政策は気に入ってない様だけど。」
心を読み取る魔法を使わなくても分かる。顔に出ていたのだから。良い奴なのだろう。
『ですから、雷滅の熾天使を此方に引き込めば良いのでは?新しい仲間として、ノワール様の役にたつでしょう。』
確かに、雷の威力を見るに、本気を出せば惑星1つは破壊出来るだろう。熾天使、という存在は一度でいいから会ってもみたい。
「うん。で、雷滅を仲間に入れれば終わりだよね。」
神々の説教は雷滅を仲間にしても起こる様であれば行う。黒山羊が担当してくれる様だ。
『雷滅を呼び寄せる魔法陣は完成しました。しかし、良いのでしょうか、この様なところで。』
黒山羊は夜空を見上げる。此処は、教会。奥に崩れた神の像があり、ノワール達はボロボロの長椅子に座っている。屋根は崩れ落ち、壁の塗装も剥がれている。
「ほら、此処はさ、神の権限が死んだ場所なんだよ。見るからにして。」
像の顔は床に落ちて、腕は無い。威厳など何処かに去っていったかの様に。
『成る程、彼女が忠誠を誓った神の権限は此処で死ぬのですね。』
黒山羊にそういう事、とノワールは言う。黒山羊はまた、ノワール様は素晴らしい、などと独り言をブツブツと呟く。
《でもよぉ、そんな簡単に熾天使が呼び寄せられるか?天使の中じゃあ1番強いみてぇだし。》
死蛇が大きな身体を露わにして言う。此処にはノワール、黒山羊、死蛇しかいないからだ。
「黒山羊がやってくれるんだから大丈夫だよ。そこは信頼してあげないと。」
ノワールがそう言うと死蛇はチッと舌打ちをした後、しゃあねぇなと返事をする。本当に黒山羊が嫌いらしい。
『さて、魔力を流し始めましょうか。召喚できる事でしょう。』
黒山羊がそう言い、魔法陣に魔力を流し込む。すると魔法陣が金色に光だし、暗い夜を照らす。それが段々と強くなり、絶頂に達した時、人影が見えた。そしてその光は終息する。
「ははーん、この超絶美少女を読んだのは誰かな!」
そこから見えたのは天使の輪をつけ、雷の様な翼が10個あり、ロングな金髪、青い目の美女が仁王立ちしていた。
《なんだ、このキモ女。》
死蛇の率直な感想が彼女の心をグサッと刺した。
「はぁ?!お前の方が目玉ありまくってキモいでしょ!鏡見てこいや!」
最初に登場した時の口調とは異なり、物凄く口が悪くなる。
死蛇は面倒臭い、と言い、会話を黒山羊にパスする。
『貴方が雷滅ですか。申し遅れました、私、ノワール様の専属執事で御座います、黒山羊と申します。』
黒山羊は自己紹介をし始める。それが終わると、ノワールの素晴らしいことを語り始めた。彼女は少し引き気味だ。ノワールは一旦やめようか、と黒山羊にツッコむ。
「えーと、雷滅の熾天使さんって呼べば良いかな?俺の名前はノワール。君を此処へ呼んだ理由なんだけど……。」
ノワールが最後に自己紹介をして、要件を話そうとする。しかし雷滅は分かった様な顔をする。
「どうせ、雷を落とすのやめて欲しいんでしょ?神様の命令だから無理なんだよね。」
それは第2の目的である。雷を落とすと騒ぎになるのが面倒だったのだ。しかし、1番大切なことはまた別だ。
『そんな事ではありませんよ。貴方、ノワール様に仕える気はありませんか?』
第1の目的、それは彼女を仲間にする事。神々の説教も良いが、彼女がいなくなれば雷が無くなり、この惑星への神々の被害が無くなる事だろう。いつかは説教をするが。
「はぁ?私はね、今の地位に満足してるの。こんな人間に仕えたって意味ないでしょ。それとも、今の地位以上の物をくれるって訳?それとも一生分のお酒でもくれないとダメよ。」
流石は映像で見た通りの人柄だ。自分の欲に忠実で、その為ならば何でもやるタイプの性格。
「良いよ。それで仲間になってくれるなら。」
ノワールは簡単にOKを出す。正直に言って、彼に出来ないことは無い。
『そうですね……ノワール様、彼女に次元専属の熾天使女王にでもなっていただきましょう。今よりも地位は格段に上ですし。』
黒山羊の提案に頷く。ノワールは席から立つと、彼女の方へ向かう。
彼女の目の前に立つと、こう言い放つ。
「今から君は、漆黒の次元王からの命令で、黒き雷滅の熾天使女王になるんだ。」
彼女の目を見て、威圧を与える。彼女は地面へと膝をつく。
「私の御名において、君を重臣にしよう。全ての天使を司る神となれ。」
彼の言葉は言霊と化し、彼女を縛っていた見えない鎖を砕く。そして、彼女に力を与えた。彼女は黒き光に包まれた。その光が徐々に消えていくと、天使の輪と雷の羽が黒くなった。
「これで完了っと。大丈夫?立てる?」
ノワールは膝をついていた彼女に手を伸ばす。彼女は顔を上げる。満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう!いやー、これで自由だわ!酒沢山飲めるー!禁欲とかマジ無理だし。」
凄く元気になっていた。この人もギャグ属性かとノワールは思ってしまった。
「あ、これもあげる。」
ノワールは元気に飛び跳ねる彼女に、無限保管庫から杯を取り出す。
「これは魔法道具で、飲みたい飲み物を出せるやつなんだよね。お酒対応もしてるから、いつでも使ってね。」
それを見ると目をキラキラさせ、手に取り早速使っていた。酒をゴクゴクと飲む。余程の酒好きなのだろう。
『はぁ、仲間になったのは良いですが、自由気まま過ぎるのもどうかと思いますが。』
黒山羊の意見にも賛成だ。元気なのは良いが、職務中に酒を飲むのはどうかと思う。
《主人よぉ、あいつの名前、決めたのか?》
死蛇に言われた。確かに、思い付いてはいたが、ナンセンスだと言われてしまうだろうと思い、別の名前を考えていたところだ。
《……ステータス欄に雷子ってあるぞ。》
ノワールは思わずふぇ?と声に出す。彼女もステータス欄を見ると絶句していた。ノワールは鑑定を使った。
雷子
Lv.6825
種族 黒き熾天使
職業 黒雷滅の熾天使女王
固有スキル
黒雷滅
黒雷を落とし、相手を滅殺する。黒雷滅の熾天使女王の固有のスキル。
熾天使の癒し
HP、MP共に全回復をさせる。また、一定時間、ステータスをUPさせる。黒き熾天使の固有のスキル。
黒天使の蘇生
死んだ生命を生き返らせる。黒き熾天使の固有のスキル。
黒天使統制
自らの僕を創り出すことが出来る。そして、それを統制することが可能。不老不死も付いてくる。黒雷滅の熾天使女王の固有のスキル。
漆黒なる加護
全属性魔法を使う事が出来る。また、全ステータスがUPする。漆黒の次元王の眷属限定の固有のスキル。
スキル
鑑定 眷属
「何、このスキル!チートじゃない!」
ノワールはそこかい!とツッコんでしまった。名前のナンセンスさを感じてしまう。
《まぁ、アレだ。しょうがねぇよ。》
死蛇がフォローしてくれているようだが、全然励ましになっていない。
「ね、ねぇ、名前の方、なんかごめん……。」
ノワールは彼女に謝る。少し言い辛そうだったが。
「え?あぁ、名前ね。大丈夫よ。だって貴方が与えてくれたんでしょう?これからは、ノワール様って呼ぶから。」
思っていたよりも好印象だった。というか名前など正直どうでも良さそうだった。
「……ねぇ、ノワール様、ごめんなさい。私のスキルなんて貴方には勝てないわね。」
雷子は身の程を弁えたように言った。確かにノワールはチートだ。しかし、雷子も充分チートだろう。
『ノワール様、また強くなりましたね。嬉しい限りです。』
黒山羊も何故か骨から涙を流す。何処から出て来たのだろう。
《主人、鈍感すぎねぇか?》
死蛇にそう言われる。ノワールは自身のステータスを見る。
固有スキル
黒の眷属化
力を与える事が出来る。眷属化もする事が出来る。黒の原初の固有のスキル。
黒き超越
全属性の魔法、最高級の魔法まで使用可能。
「何故固有スキルしか増えないんですかねー?!」
ノワールの声が綺麗な夜空に響く。
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