複雑・ファジー小説
- 黒き原初 ( No.18 )
- 日時: 2018/06/12 22:33
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
討伐依頼
雷子を仲間に入れ、ノワール達は宿へ戻る。転移魔法を使えば大したことは無い。門の近くに移動し、その後は歩いて行く。
「お帰りなさい……って、この美女は誰ですか?!」
雷子を連れていたので、門番に驚かれる。詳しい事は聞かれたく無いので雷子の分の税金を納め、直ぐに街に入る。早く冒険者にし、身分証明書を作らなければ。この街がある国は身分証明書があれば税金を納め無くても大丈夫という決まりがある。商人などはまた別だが。
巨魚亭に戻るとまた女将さんにも驚かれる。黒山羊は、もう一部屋を取り食堂で夕食を取ることにした。
メニューを決め、席で待っていると、隣にジョージが来た。
「な、なぁ、あの美女、誰だよ。」
やはり雷子が気になるのか、ノワールに対して質問を投げかける。はぁ、と溜息を吐く。美女なのは分かっていたがここまで有名になるとは。
「ねぇ、その事なんだけど、これあげるからあんまり広めないでね。」
ノワールはジョージに黙ってて、と口に人差し指を立てる合図をした。そして、ジョージの手にダガーを握らせる。
「わっ分かった。」
ノワールの謎めいた雰囲気にジョージは飲まれてしまった。タガーも賄賂じみている。
「あれー、ノワールさまぁ、何やってるんですかぁ?」
酒に酔った雷子がノワールに話しかける。相変わらず酒癖が酷い。
「別に何でも無いよ。」
ノワールは笑顔で言う。雷子の事を広めないでね、と言っただけなのだから。黒山羊は苦笑いを浮かべているようだった。
夕食が机に置かれ、ノワール達は手をつける。ノワールの食べる速さは尋常じゃ無い。食べ方は綺麗だが、やはり速いのだ。
「ご馳走様でした。」
ノワールは言い終わると、食器をカウンターに持って行く。先に食べ始めていたジョージよりも完食してしまうのだから、ジョージはいつも通りに驚いている。雷子もその速さにウットリとしていた。
ノワールは部屋に戻る前に、ジョージにもう一度、宜しくね、と言っておいた。ジョージは頷く。
《あの男に何の魔法道具をあげたんだよ。》
自分の部屋に戻った後、死蛇に聞かれる。ノワールは別に大したものではない、と言うが信じられないようだった。
《どうせ、レアリティが高い奴をあげたんだろ?》
ノワールのレアリティが高い、というのは星8〜10だ。死蛇との認識の違いの差がある。
「星6のやつ。弱いよ?この間作った試作品だし。同じのあるから鑑定してみる?」
ノワールは無限保管庫から、ジョージにあげたダガーと全く同じものを出す。
堕天使の短刀 レア度・星6
相手を傷つけると、削れたHPの3分の1のHPが回復する。地に堕ちた天使が復讐の念を込めて作り上げたダガー。
《おいおい、良い性能のやつじゃねぇか。》
所謂、ドレインの作用を持つ魔法道具だ。珍しいものと言っても過言ではない。
「短刀だし、攻撃できる範囲も狭い。ドレインの作用も使いどころが難しいやつだからね。でも、使いこなせれば確実に強くなるよ。」
トドメの一撃としての役割はある。しかし、それではドレインの作用があまり無いのが現状である。
《そこそこの武器ってやつか。》
死蛇はつまらないようだった。ノワールは、くすくすと笑っていた。
「明日は、雷子をギルドに登録して貰って、討伐依頼をしに行こう。」
死蛇は、あー、と面倒臭いようだった。ノワールはおやすみ、と言い眠りにつく。
朝食を済ませてギルドに向かう。雷子は朝っぱらから酒を飲んでいた。
「冒険者ギルドねぇ。何か狩りたいわぁ。」
雷子が物騒なことを呟く。確かに討伐系の依頼を受けるのも悪くはないだろう。
『では、雷子殿を登録して依頼を受ける、という予定で宜しいですね。』
黒山羊は予定を立ててくれた。ノワールはお願いと一言。
話に夢中になっていると、ギルドに着く。黒山羊がドアを開け、ノワール達は入る。すると、入ってきた雷子に男達は釘付けに。
「ふーん、弱そうな奴ばっか。」
雷子はその男達の心にグサッと刺さるような言葉を放つ。
「やっぱり、ノワール様よね!」
ノワールの腕に飛びつく。ノワールは苦笑いを浮かべていた。それが逆に不気味だったようで、男達は急に無言になる。
「ほら、雷子。登録しなきゃ。一緒にパーティー組めないよ?」
そう言って、ノワールは雷子を腕から離す。雷子は不貞腐れていたが、宥められたようだ。
《めんどーな女だな。》
死蛇が小さな声で、雷子に言う。雷子は聞こえていたようで、はぁ?!とブチ切れていた。ノワールも参っている。それを見兼ねた黒山羊は、睨みつけ、2人は直ぐに引き下がった。
「えっと、本日の要件は……。」
カウンターに行くまでにこのようなことがあった為か、受付嬢は少し引いていた。
「この、雷子をギルドに登録して欲しいんですが。」
微妙な空間の中、ノワールは話を切り出す。雷子を指差して、この人です、と言った。
「この紙に最低でも名前を書いてください。」
雷子はそう言われるとササッと書く。しかし、その文字が古代文字で受付嬢は困惑する。
『雷子、と書きます。申し訳ありません。異国から来たものですから。』
黒山羊が雷子の失敗をフォローする。ノワールは小声でこれからは普通に書いて、と雷子にお願いをした。
受付嬢はカウンターの奥に入り、数分後に戻ってきた。ギルドカードを持って。
「雷子さんのギルドカードです。」
その後、雷子に冒険者ギルドの説明をした。その間にノワール達は討伐依頼を探す。
『Fランクでの討伐は少ないですね。Eランクでもスライムぐらいですし……。』
低いランクには低レベルのモンスター討伐しか無い。もっと上に上がれば強いモンスターと戦えるのだが。
「取り敢えず、スライムぐらいにしよう。みんなのスキルも把握したいし。」
雷子の説明が終わった後、パーティーに雷子を参加させて、スライムの討伐依頼を受ける。
「そういえば、この間、言い忘れていたんですが、パーティー名をつけてください。」
それはギルドの掟らしい。なら何故忘れていたのか、とツッコんしまいそうだった。
「うーん、そうねー。ノワール様のセンスは無いに等しいから、黒山羊につけてもらえば?」
ノワールは率直に言われ、心に刺さったようだ。黒山羊は一生懸命フォローしている。
『そうですね……黒き者達、は如何でしょうか?』
黒山羊がまたもや厨二臭いネーミングセンスを発揮する。ノワール的にはこの世界に厨二病が無くて良かったと思っている。
「良いよ、それにしようか。」
黒山羊の発音状況が完全にドイツ語なのだが、しょうがないだろう。
「畏まりました。」
パーティー名をつけてもらった後、討伐に向かう。
街を出て、少し近くに森があったので、そこでスライムを狩ることにした。
「予想してた通りだね。」
スライム
Lv.12
種族 スライム
固有スキル
分裂
自分の身体を分裂させる。
変形
自分の身体を変形できる。
そこそこ強そうなスキルなのだが、実際発動に時間がかかってしまう。
「『黒雷滅』」
雷子がそう言い放つとスライムは蒸発してしまう。スキルとLvの差だろう。
「うーん、やっぱりスライムじゃあ物足りないわね。スライムの上位モンスターとかいないの?」
スライムの上位モンスターにノワールはあったことが無い為、分からない。何となく大きそうだなと思った。
『ドラゴンならば満足出来ますが……やはり、ランクを上げなければ戦えませんか。』
黒山羊も物足りないらしい。強い方が良いが……やはりモンスターコンプリートをしたい。
「あ。」
ノワールは何かを思い出したようで、無限保管庫から、本を取り出す。
「何?それ。」
雷子が聞いてくる。ノワールは本を開き、説明をする。
「モンスター、装備、素材なんかの図鑑。」
ノワールはそう言い、スライムのドロップアイテムを本の上に置く。すると魔法陣が浮き上がる。
「よしっ、と。」
魔法陣の光が消えたので、本の上に置いていたものを無限保管庫に入れる。
「こうやって、情報を手に入れるんだよ。」
雷子は目を輝かせ、黒山羊は素晴らしいと連呼を、死蛇は成る程な、と感嘆の声をあげる。
黒き知識の書
本の上にものを置くと、情報を本に書かれる。黒の原初が創り上げた、全ての知識を手に入れるための本。
ノワールが作った本は魔法道具なのは変わりない。
スライムのドロップアイテムは、お金とネバネバした液体だった。
「討伐も完了した事だし、ギルドに戻ろうか。」
ノワール達は街へと戻る。
ギルドに入ると、人で溢れていた。何とかカウンターに行き着き、討伐依頼完了を報告した。
「はい、これが報酬です。」
受付嬢は黒山羊に報酬を渡す。銀貨6枚だった。
「ノワールさん達にお話ししてませんでしたけど、最近、龍が出たみたいです。緊急依頼で討伐するようです。」
しかし、緊急依頼は Cランク以上の冒険者しか参加出来ないようだ。
「残念だね。」
ノワールは少し気落ちしている。雷子も拗ねていた。実力はあるが、それを見せられないのは仕方がない。
「せめて、何処に出現したのか教えてくれませんか?」
受付嬢は頷き、
「龍王のダンジョンらしいですよ。」
地図を作った為、何処にあるのかは分かる。ノワールは黒山羊と目を合わせる。
『畏まりました、手配をしておきます。』
その場にいたパーティーメンバーは笑う。