複雑・ファジー小説

Primitives Schwarz ( No.22 )
日時: 2018/06/15 17:51
名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)

肆章 日常
Eランク昇格と商人護衛

ノワール達は今日も討伐依頼を受けていた。今回はリザードマンらしい。Fランクじゃ物足りないので、Eランクの依頼を最近は受けている。
「うーん、こんだけ倒しちゃったから、ジェネラルとかキングとかもいないかも。」
雷子が呟く。リザードマンには上位種という存在がいる。ジェネラル、キング、キャスター、アーチャーなどだ。これらの種類は高値で取引され、モンスターランクも上である。尤も、この面子では雑魚に等しいが。
「お金も少ないし、素材も良くないから収穫は見込めないと思うよ。」
ノワールは言い放つ。ノワールのスキルであればこの世の全ての物質を創る事が可能だ。素材集めは必要ないと言っても過言ではない。しかし彼にはコンプリートする、という目的もある。見たこともない素材などを収集して図鑑を作ることも目標の一つだ。
「やはりリザードマンは威圧を放つと逃げてしまう。ノワール、一旦場所を変えた方が良いと思うが。」
ドラークはリザードマンに剣を突き刺しながら話しかける。ノワールはそうだね、と平然とした顔だ。慣れ、というものは怖い。
『目的は達成していますが、ノワール様、どういたしましょう?』
黒山羊が聞いてくる。一旦ギルドに戻るのもありだな、と思った。
「一旦ギルドに戻って情報を収集した後、討伐しに行こう。」
ノワールの提案に皆が頷く。


ノワール達はギルドに戻り、報酬を受け取る。
「ノワールさん達にご報告があります。」
受付嬢が話を切り出してきた。ノワール達は大体予測が付いていた。
「なんと、皆さん、驚かないでください。Eランク昇格です!」
受付嬢がはしゃいでいる姿を普通に見ているだけだった。受付嬢は冷たい目線に少しだけ冷や汗をかいていた。
「なんで喜ばないんですか?!昇格したのに!」
半ギレされた。ノワールは受付嬢に迫られる。もう大丈夫ですと手を前に出す。
「だって分かりきってる事じゃない。別にEランクだし。」
雷子がギルドカードを更新して欲しい為、無理矢理手渡す。それに乗じて、ノワール達も出す。
「も、もう分かりましたから。やりますよー。」
受付嬢は少し嘆きながらも更新してくれた。
『Dランクの依頼を調べて参りました。商人の運搬護衛です。近くの街に行くようですから、どうでしょうか。』
黒山羊が更新中に依頼を探してくれたようだ。ノワールはありがとうと一声かけ、その依頼を受付嬢に渡す。
「もう依頼を受けるんですか?まぁ、いいですけど。」
受付嬢はまだブーブーと言ってる。ノワールは苦笑してしまった。


商人の護衛は明後日からで、かなりの規模の商団らしいので、沢山の冒険者が集められる。
宿に戻る。明後日にはチェックアウトしてしまう。物は置かなかったのでしまうものは無い。
この部屋に愛着はある。この惑星に来て、初めての宿だったのだから。
ノワールはそう考えているとグー、とお腹が鳴った。お昼か、と思い食堂へ向かう。
「あ、ノワール!」
ジョージに声をかけられる。ドラークの一件以来、話していなかった。
「あぁ、この間の緊急依頼のことなんだが……。」
ジョージは申し訳なさそうに言い始める。ノワールは別にどうでも良かった。ドラークを仲間に出来たのだから。
「本当に凄かったな。やっぱり次元が違うっつうか、俺よりランクが低いのが不思議だよ。」
「しょうがないよ、昇格制なんだから。今日でEランクになれたんだし。」
ノワールは今日で1ランク上に上がれたのだ。1ヶ月で。これは最速記録と言っても過言ではない。
「早いな?!俺もEランクになるまで一年はかかったぜ。永遠のCランクだしな。」
冒険者でBランク以上になれるのは一握りらしい。Cランクになる時は三十代ぐらいだからだ。衰え、と言うものが感じられる。SSSランクはエルフなどの長寿種らしい、と言う噂も聞いたことがある。
「そのうち、SSSランクまでいくから、見ててね。」
ノワールが笑顔で話す。ジョージは流石だな、と真剣に返した。
「じゃあ、俺は黒の原初を信仰しようかな。強くなれそうだし。」
今度はノワールは苦笑してしまった。信仰、考えたこともなかったからだ。
「じゃあ、布教しといてよ。あ、ご飯食べ終わったから、行くね。」
冗談混じりに言う。ノワールは席を立ち、食堂から部屋へと向かった。


「ご利用、ありがとうございました。」
早朝、宿屋の女将さんにそう言われ、宿を出て行く。馬車達は預かってもらうが、部屋はチェックアウトしたのだ。
ノワール達は門へと向かう。冒険者パーティーが5団体ぐらいいた。
「此処ねー、強そうなやつ、いないわね。」
雷子には相変わらずデレカシーというものが無い。
『ノワール様、あちらの商人の方のようです。』
黒山羊が依頼主のところに案内をしてくれた。
「あぁ、貴方達がEランクパーティーの黒の者達ですか。今回の依頼主、エドワードと申します。」
「リーダーのノワールです。今回はよろしくお願いします。」
依頼主、エドワードが挨拶した後手を前に出してきた。ノワールも挨拶を交わした後、エドワードと握手をする。
握手が終わるとメンバーが自己紹介をし始める。
『黒山羊と申します。』
「雷子でーす。」
「ドラークと申す。」
個性的な挨拶だ。話し方で誰が誰だか良くわかる。
「今回は私の馬車の護衛を頼みます。
他の商人も冒険者を雇っていますので、団体での護衛となります。」
商人が丁寧に説明をしてくれた。道中では盗賊に襲われることが多く、冒険者に護衛を依頼する事が一般的になっているようだ。
「もうそろそろで出発します。荷台にお乗りください。」
荷台には荷物も積まれてたが、冒険者用にスペースを取っておいてくれたようだ。ノワールはありがとうございます、と一瞥して乗り込む。


荷台がガタンゴトンと音を立てながら揺れる。街を出発してから3時間ぐらい経った。今は森の中の道を進む。このようなところに盗賊が出没しやすいが、今のところはまだだった。
「ノワール様、何やってるの?」
作業中のノワールに雷子が質問する。ノワールは手元に置いてある黒災禍に魔力を流していた。
「黒災禍を強化中なんだよ。」
雷子の質問に答える。黒災禍は赤黒く光り始める。
『回路が増えました。全属性魔法を纏えるようになります。』
黒災禍が強化に成功した事を、自分の主人、ノワールに伝える。
ノワールは作業が終わった為、黒災禍を鞘に戻す。そして無限保管庫にしまう。
「自我を持つ剣、耳にした事はあるのだが、見た事は無かったな。」
ドラークが言葉を口にする。自我を持つ剣、それはこの世で最も珍しい魔剣である。その魔剣の大半は誰かの強い思いがその剣に乗り移ったようで、呪いだったりもする。
「欲しいの?作るけど。」
ノワールがに聞くがドラークは遠慮する、と答えた。
「じゃあさ、私に作ってくれない?武器をさ。自我は面倒だからなくていいや。」
雷子が武器をくれと強請ってきた。ノワールはいいよ、と返事をする。
「どんなのがいいの?」
まずは雷子の要望を聞く。雷子は、弓が良いわね、と言ってきた。
「弓ね、ちょっと待ってて。『漆黒創造』」
ノワールがスキル名を口にすると魔法陣が床に浮かびあがり、黒い光を放つ。それが消えていくと、雷のようなものがあった。
「これは、形の無い弓だよ。自由自在に操れる。魔力を込めれば矢も出現する。当たらないものはない、百発百中だよ。」
ノワールは雷子にやってみて、と言う。荷台の窓から外を見ると盗賊が1人、偵察に来ているようだった。
「よいしょ!」
弓を引き、放つと雷光の如く、矢が飛んでいき、見事なヘッドショットだった。
「『ドロップ回収』」
ノワールは呪文を唱え、雷子が倒した盗賊の手持ちを確認する。


銀貨67枚 金貨5枚
装備
盗賊のダガー レア度・星2


あまり良いものを持っていなかったようだ。
「やっぱり凄いわね、ノワール様作の武器は!」
雷子はキャッキャと喜んでいた。ノワールは雷子が倒した盗賊のダガーを溶かしてミスリル合金に作り直し、後で売ろうと思う。


ノワール達はのんびりとしていた。
「……盗賊の群れが近づいている。」
ドラークが物音に気付いたようで威圧を与える。
「雷子ちゃんアロー!」
暇潰しのように、雷子が適当な事を言いながら弓で射る。一回引いただけで億の矢が放たれる。それも確実に。20人ぐらいいた盗賊は一気に倒れる。ノワールはドロップ回収という作業に追われていた。他の商人のところは馬車から降りて戦っているらしい。
「手伝うか?それとも威圧で硬直させるか?」
ドラークがノワールに聞いてきた。手こずらせると後々面倒なので、お願い、と答える。
ドラークが威圧を放ち、盗賊達が硬直した。その隙に冒険者達が倒していく。それは直ぐに終わり、また、商人達が馬を走らせる。


深夜にやっと隣の街に着いた。門番にギルドカードを見せ、街の中へと入る。冒険者達は此処で解散である。
ノワール達は先ず、宿屋を見つけなければならない。
『この街にはダンジョンがあるようです。地下廊タイプのようで、現在は26階層まで辿り着いているみたいですね。』
深夜なのに賑わっている理由が良く分かった。少しの間、此処に滞在しようと黒山羊が提案してきたのでメンバー全員が頷く。


殆ど宿屋が満杯で、10軒目にしてやっと泊まれる。少し高めだったがしょうがないだろう。四つの部屋を借り、今日は自分の部屋に戻り睡眠を取る。巨魚亭より少し高い分、お風呂が豪華だった。
ノワールは風呂に入り終わり、ベッドに寝付く。

Primitives Schwarz ( No.23 )
日時: 2018/06/16 23:05
名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)

ダンジョン依頼

この街にもギルドがあるようで、ダンジョン専用の依頼があるようだった。早朝からノワール達は屋台へ寄り道しながらもギルドへ向かう。
「ダンジョンで得点稼ぎして、早くCランクにはなりたいね。」
ノワールがパンにハムやレタスを挟んだものを食べながら言う。
『Cランクになればある程度の緊急依頼は受けることができますからね。』
黒山羊はノワールの口が汚れるたびにナプキンで彼の口元を拭いていた。
「だが、此処のダンジョンは邪神に通じている。厄介な事にならないと良いが……。」
ドラークは神々に巻き込まれる事を懸念していた。確かに、雷子とドラークを引き抜いてしまったのだから。
「それはそれで大丈夫でしょ。最強のノワール様がいるんですからー。」
最後の方は棒読みだった。雷子は相変わらずのテンションだ。
話しているうちにこの街、パルジャンのギルドに着いた。
ギルドのドアを開く。中はノワール達がいた街より大きい造りだった。冒険者達で溢れかえっている。
「依頼は……ダークシープの討伐とかか。」
ノワールは紙を取り、カウンターへ向かう。
「なんのご用件でしょうか。」
受付の人に依頼を渡す。ギルドカードを提示しながら。
「畏まりました。ダンジョンから3ヶ月出てこなかった場合、死亡とさせていただきますのでご注意下さい。」
確かにダンジョンの中に入って確認は出来ない。何故ならダンジョンの栄養分として蓄えられたり、アンデッドモンスターにされたりするのだから。
「分かりました。」
受付が終わり、ギルドからダンジョンへ向かおうとした矢先、
「おい、べっぴんさんよー、俺と遊ぼうぜ?」
雷子が変な奴に絡まれていた。雷子は気にしないで髪をくるくるとしていた。
「雷子、行くよ。」
ノワールが声をかけると、はーい、とだらしのない声が返ってくる。雷子がノワールのところへ行こうとすると、男に腕を掴まれた。
「なぁ、あんなひょろっちぃ男より、俺と一緒のパーティーに入んねぇか?」
雷子の顔が鬱陶しそうだった。睨みつけている。ドラークは隣にいたようで、男の手を掴む。
「我等の仲間に手を出すのはやめて頂こうか。」
雷子はドラークにそうよ、そうよ!と便乗していた。黒山羊は面倒ですね、殺しますか?と物騒な言葉を使ってきた。
「はぁ、面倒だなぁ。ドラーク、雷子、ほっといてあげて。黒山羊がキレてるから。」
2人とも頷きドラークは男の腕を離して戻ってきた。男の腕には跡がついていた。
「逃げんじゃねぇよ、お坊ちゃんよ。金で仲間を釣ってんだろ?」
男は挑発した。ノワールは気にしないつもりだったが、地雷を踏まれたようで、男の元へ静かに向かう。
男が殴ろうとしてきたのでノワールはその腕を掴み、壁へとぶち当てる。
「黙ってろよ、屑が。死にたいの?」
ノワールは低い声で言葉を口にする。オッドアイが目を見開き、殺意と化す。その目を合わせれば殺される、と生存本能が危険を察知したのか、
「ひっ!す、すいませんでしたー!」
男は勢い良く土下座をする。ノワールはすぐにその場を離れ、仲間の元に戻る。


ギルドを出た後、ノワールはスッキリしたように笑顔だった。
「……ノワール様って怖いのね。」
雷子がボソッと呟いた。ノワールはそうだった?と苦笑しながら言う。
「裏表が激しいのか、それとも素なのか……分からないのよねー。」
ノワールはそうかもね、と答えを曖昧に返すだけだった。雷子もそれ以上追跡しようとは思わなかった。


ダンジョンの入り口についた。兵士が入り口の前に立っていた。
「ギルドカードを提示してください。」
冒険者などしか入れないようだ。ノワール達はギルドカードを見せ、ダンジョンの中に潜っていく。


ダンジョンの中は迷宮だった。別れ道、行き止まりなどあり、ゲーム感覚で楽しめる。尤も、モンスターが出るので普通の冒険者には危険極まりないが。
「地図があると効率的だね。」
ノワールは地図を作っていた。そのようなスキルを持っている者がダンジョンの地図を売り出しているようだが、この世界では紙は貴重でコストがかかる。
「ダークシープは弱いわね。どうせならボスのところまで行きましょうよ。」
簡単に1階層は突破、今は5階層である。5階ごとにボス部屋が設置されており、確定で宝箱が出現する。
「そうだね、その後に1階層に転移しようか。」
行き着いた階層はその後、転移することができるようになる。例えば、1階層から5階層までの間を転移で移動できる。勿論、場所は階段の部屋だけという決まりはあるが。
「あっちにモンスタートラップがあるみたいだけど……どうする?」
モンスタートラップはモンスターが大量出現する部屋だ。ドロップアイテムも入手しやすく、経験値稼ぎも出来る。
「そうだな、腕試しに行ってみるのも悪くは無いな。」
ドラークは賛成してくれた。確かに四方八方からモンスターがやってくるという事は技術を高めることも出来る。
「よし、じゃあその後にボス部屋に行こうか。」
ノワールが意見をまとめ、モンスタートラップへと向かう。


「この部屋がモンスタートラップ?普通の部屋だけど……。」
モンスタートラップの部屋に入るが、至って普通の場所だった。しかし、中心部の足元にあるスイッチを雷子が踏むと、いきなり魔物が出てきた。
「ちょ、いきなり過ぎない?!」
雷子は自分が踏んだことに気が付いていないようだった。急いで雷子は弓をドラークも刀を持つ。黒山羊は何処からか死神が持ちそうな巨大な鎌を手にする。ノワールは愛用の黒災禍を握り、モンスターに攻撃を始める。
『『喰らい』』
黒山羊は自分のスキルなのだろうか、魔法を発動した。何処からか黒いものが発生しモンスターを飲み込んでいく。飲み込まれなかった奴等を鎌で斬る。
「『黒災禍ー獄炎』」
ノワールは黒災禍に黒き炎を纏わせ、モンスターを一気に突き刺す。密集していたモンスターに炎が移る。
「『黒雷滅』」
雷子は黒雷滅を放ちながら何万本もの矢を撃つ。それは見事なヘッドショットを決める。
「『破壊』」
ドラークも破壊魔法を使用しながら、黒破刀と龍獄刀で素早い斬撃をモンスターに食らわせる。


「ふー、良い運動になったなぁ。」
外の世界を透視で見る。まだ昼前だったので、ボス部屋に行けそうだ。
この世界には時計が高価な為、ダンジョンにいると時間がわからなくなる。だからこそ透視魔法が役に立つ。
「『ドロップ回収』」
ノワールは魔法を唱え、モンスターから出た大量のアイテムを回収する。
アイテムを見てみるが良いものは少なかった。
「ハズレか。」
ノワールは少し落ち込んだ。もう少しランクが高いモンスターと戦いたいな、とも思った。


モンスタートラップの部屋から出て、ボス部屋に向かう。冒険者達が並んでいた。
『ボス部屋には1つの団体ずつ入るようです。ボスは倒された後、新しく生成されますので心配無いからでしょう。』
成る程、と感嘆の声をあげる。その方が山分けをしなくてもすむ。
「ねぇ、あの男。朝あった奴だよね。」
雷子は顔を顰める。あまり会いたくはなかった。男はこちらに気付いたのか、ノワールの方に向かってきた。
「奇遇だなぁ。今朝は酷い目に遭わせやがって……!許す訳ねぇだろ?!」
掴みかかって来た。ノワールはそれを簡単に避ける。
「君さ、少しは学習しようよ。勝てないよ、そんなんじゃ。」
ノワールは笑顔を浮かべる。それに腹が立ったようで殴りかかってくる。
『ノワール様に手を出そうとは、良い度胸だな。』
黒山羊が入ってきた。今回の件は彼にとって許せなかったようだ。男の手をとんでもない握力で握る。
「あ、亜人が人間と一緒にいるのが胸糞悪いんだよ!さっさっと街を出て行けよ!」
男が大声で叫ぶ。周りにも冒険者がいるのにもかかわらず。
「では、このような提案はどうだ。貴様と我々でどちらが早くボスを倒せるか、賭けをしよう。」
ドラークが提案をしてきた。この場を騒がせたくなかったのだろう。
「ちっ、その提案に乗ってやる。だが、その坊主と俺での対決だ。部外者はその場で待っていろ。」
黒山羊は完璧にキレているようだ。ノワールの安全第一である彼にとって、この提案には乗れないようだ。
「いいよ。黒山羊、安心して。死ぬ訳ないから。」
ドラークが1番よくわかっていた。彼と剣を交え、その強さを証明しているのだから。
「よし、入るぞ。」
男の順番が来たらしく、ノワールと共にボス部屋の扉を開く。

Primitives Schwarz ( No.24 )
日時: 2018/06/21 20:41
名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)

勝者

男と共にノワールはボス部屋に入る。その部屋の中心には、大きい牛がいた。角を生やしているようで、所謂闘牛というやつだろう。
「これは……!Dランクモンスターのタウロマキアじゃねえか!」
Dランクなのか、と少しノワールは興味を持った。ノワールは黒災禍を出し構える。
「俺がいただくぜ!」
男は背中に担いでいたクレイモアを手に取り、タウロマキアに斬りつける、というより叩きつける。しかし、ビクともしない。
「くっ、何だよこいつ、皮膚が異常に硬ぇ。」
何度も剣を叩きつけているが傷もつかない。ノワールは呟く。
「皮膚が異常に硬い、ね。メモメモっと。」
余裕そうな口ぶりに男はムカついた。
「てめぇ、モンスターに殺されるぞ?調子乗ってんじゃあねぇよ!」
ノワールは男の怒声も気にせずにメモをしていた。メモをし終わると、男の方を傍観する。
「ちっ、少しは手伝えよ!……もしや怖いのか?はは、坊ちゃんだもなぁ!」
ノワールはそう、と簡単な返事しかしない。男は高笑いをした後、モンスターに向かって行く。
剣を叩きつける。しかし、傷がつかない。男は何度も何度も叩きつける。
「魔法は使わないの?」
「使える訳ねぇだろ!俺は剣士だぞ!」
物理攻撃よりも魔法の方が効果覿面だと思うが、男は使えないようだ。魔導師はこの世界でも珍しいらしい。
「くっ、おい、お前、モンスターがきてるぞ!」
タウロマキアが体当たりの攻撃を仕掛けてくる。男は避けるがノワールは動こうとしない。
「……『閃光』」
ノワールはそう唱えると、眩しいほどの閃光がタウロマキアを突き刺す。タウロマキアは一瞬何が起こったのかわからないようだったが、気付く時には命の灯火が消えていた。
「これ、もらうね。」
タウロマキアのドロップアイテムをノワールは回収する。
「お、おう。」
男はノワールに絡もうともしなかった。ノワールは回収し終わり、最後に出現した宝箱を開ける。
「……いらないな。」
宝箱の中身は剣とペンダントだった。

灼熱の剣 レア度・星4
炎属性が宿る剣。この剣を装備すると火属性魔法が使えるようになる。

賢者のペンダント レア度・星6
魔力がupする。初級魔法までなら全属性使用可能となる。

鑑定した後、ノワールは宝箱を閉める。
「あげるよ。」
そのまま、ボス部屋から仲間のところへ戻っていってしまった。

仲間のところへ戻り、報告をする。
ノワールは一仕事終えると、ギルドへの転移魔法を起動させる。
「このまま、報酬を受け取りに行くで良いかな?」
一斉に頷く。ノワールは良かった、と一言呟き、転移させる。

バレると不味いので、ギルドの近くの人が少ない路地裏に転移した。そこから徒歩でギルドに向かう。


ギルドに着き、カウンターで報酬をもらう。
「凄い量ですね。」
暇つぶしで他のモンスターも狩っていたから、依頼対象外のものもある。
「これが今回の買取と報酬の金額です。」
金貨2枚と銀貨82枚だった。ここまでだと少し、受け取りにくかった。
「保管状態も考慮した結果です。受け取ってください。」
ありがとうと言い、宿に戻る。


「何なんだよ、アイツは……。」
男はまだダンジョンにいた。彼にとって、ノワールが放った魔法は見たことがなかった。魔法使いの仲間に見せてもらったことがあるが実力が違う。初級魔法なのにあの威力と速さ。魔法の威力は魔力量によって異なる。込める力が強ければ強いほど、その魔法は強くなる。
「……魔法、か。」
宝箱の中身を鑑定した後、彼はそれを自分に装着する。
「魔法で勝ってやるのも良いかもな!」
高笑いをする。装備により魔法が使えるようになる。これで魔法剣士の職業が解放されることであろう。魔力量の補正がかかる為、威力も底上げできる。だからこそ勝てると思っていたのだろう。一生無理だろうが。


あとがき
投稿が遅れて申し訳ありません。これからは余裕が出てきたので、一週間に何回か投稿出来そうです。イラストも投稿出来たらな、と思っております。これからもお願いします。

Primitives Schwarz ( No.25 )
日時: 2018/06/28 19:48
名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)

雷子の本気

今日もノワール達はダンジョンに潜る。当初の予定では、滞在は5日だったが、10日にすることにした。
「物足りんな。」
ドラークが不満を呟く。現在、彼等は19階層にいる。此処まで、5階層を含めて、ボスとは三回戦っている。しかし、レベルが掛け離れている為、手応えを感じないのだ。
「いっそのこと、ドラークともう一回戦闘したいなぁ。」
ノワールが言い放つと、ドラークは苦笑いを浮かべる。
「いや、遠慮しておこう。死ぬ予感しかしない。」
そう?とノワールは笑いながら言う。雷子は、はぁと溜息を吐く。
「早く20階に行きたい。」
雷子はつまらなそうに愚痴を零す。黒山羊はそんな雷子を見て、口を開く。
『20階からはボスな毎回出現するようですから、頑張りましょう。』
黒山羊がダンジョンの新情報を話す。すると雷子はそれを聞きピンピンと元気になる。
「行くわよ!トレジャーハンティングしてやるわ!」
その意気込みに若干メンバーは引き気味である。しかし、雷子を止められるはずもなく、無理矢理進むことになった。

いつのまにか、20階のボスの部屋の扉前まで来てしまった。
「今回は私1人にやらせてね?さて、何が出てくるかしら?」
雷子は一人で倒したいらしい。殺る気満々だ。字が物騒になる程に。
「……ほう、我が同胞のようだな。」
ドラークがそう呟く。雷子はポカンとしていたようだったが、ノワールと黒山羊は顔を顰める。
『それは、竜、ということですか?』
黒山羊が疑問を突き付ける。ドラークは首を振る。
「龍、だ。竜の上位互換であり、この世界で最強の種族と言われる。」
竜と龍は同じようで違うらしい。強い方が龍で、その劣化版が竜のようだ。
「へー、楽しめそうね。」
雷子は不敵な笑みを浮かべる。ドラークはそうか、と答えた後、言葉を続ける。
「龍はLv.5000を超えるぞ?勝てるのか?」
ドラークは心配そうに言う。しかし雷子は親指を立てる。
「強い方が燃えるって言うでしょ?それに、この無敵な雷子様にかかれば楽勝よ!だから安心しなさい。」
雷子は最高の笑顔を向ける。ドラークはふっ、と笑っていた。ノワールも黒山羊も微笑む。
「じゃあ、行くよ!」
ノワールは合図をした後、力を込めて扉を開ける。


ボス部屋にいたのはドラークの言う通り、巨大な龍だった。それも金色の。
「古代龍か。それも暴走状態突入付きで。」
ドラークがドラゴン専用の単語を使用する。雷子はちんぷんかんぷんだった。ドラークはそれを見て解説する。
「龍もいくつかの種族がある。古代龍は龍の中でも特に強力な種族だ。暴走状態はドラゴンならではの状態異常だ。ステータスが倍増し、混乱状態になる。」
ドラークの丁寧な説明に雷子はふーんと頷いてはいたが、見た目からして理解していないようだ。
「ま、とにかく鑑定してからの話よ!」
前向きな姿勢は素晴らしいのだが、人の話を聞けと、この場にいたメンバーは全員思ったことだろう。
そんな雰囲気を気にせず、雷子は鑑定をする。

ゴールデンオルター
Lv.7095
種族 古代龍

固有スキル
古代龍の知恵
古代魔法を全属性使える。古代龍限定の固有のスキル。

金色の息吹
金色の息を吐く。この息に当たると身体が金になる。ゴールデンオルター限定の固有のスキル。

黄金なる鱗鎧
攻撃を75パーセント軽減する。また、光属性を宿している。ゴールデンオルター限定の固有のスキル。

光輝の太陽
灼熱の太陽を作り出す。その威力は国1つを滅ぼす程に及ぶ。しかし、発動するのに5分必要。ゴールデンオルター限定の固有のスキル。


「いいわね、こうでなくっちゃ!」
雷子は弓を出す。そして魔力を込め、引く。矢の数は、一千万に及ぶ程だった。矢は古代龍を目指し、雷光の如く飛んで行く。龍も流石に避けきれなかったのか、直で受ける。
「……て言っても軽減されてるわよね。」
あれだけの矢を受けても無事だった古代龍の軽減スキルは凄いのだろう。
「『黒雷滅』一億落とすわよ!」
雷子がそう言い放つと多数の黒雷滅が落ちてくる。そんな中、黒山羊はパラソルと机、椅子を出し、お茶会を始める。パラソルに雷が当たったが、吸収されていった。
「頑張れー。」
ノワールは紅茶を飲みながら応援している。クッキーを手に取りながら。しかし雷子には届いていないようだった。
「もう!私は近接武器ないのにそんな近距離で薙ぎ払いされたらダメージ食らうわよ?!空気読めや!」
雷子は攻撃を避けながらゴールデンオルター相手に怒りを撒き散らしている。当然、暴走状態だから聞こえていないのだが。
「ちっ、ノワール様!剣とかないの!お茶会してるから暇でしょ!」
龍の胴体の上に乗り、叫ぶ。ノワールは待ってましたとばかりにスキルの中から金色の長剣を取り出し、雷子に向かって投げる。
「鑑定してね。」
簡単にそう伝えた。雷子は長剣をキャッチし、鑑定スキルを発動する。

雷女神の神剣 レア度・星10
罪人の裁きに罰を下す為に作られた神剣。雷滅属性を宿しており、雷属性魔法を流し込むと強化できる。一定の確率で即死を与える。それはレベルが弱い程、起こりやすい。また、防御力を無視し、攻撃が通る。黒の原初が黒雷滅の熾天使に贈った、黒の天神達の神器の1つ。

「ノワール様って最高よね!」
雷子は鑑定し終わると、笑みを浮かべて、鞘から剣を抜く。神剣は雷を纏っていた。その剣を龍に突き刺す。防御力無視の威力は生半可なものでは無く、強力なガードスキルを持つゴールデンオルターでさえ、悲鳴をあげる程だった。
『グ、グァァァァ!』
その悲鳴は衝撃波となるが、その場にいる全員には影響無かったようだ。
「やっぱりこの爽快感はたまらないわ!」
雷子は楽しそうに言う。ダメージにより暴れ出したゴールデンオルターの攻撃も簡単に避ける。
「よいしょ!」
黒雷滅を放ちながら神剣を龍の身体に突き刺す。これを繰り返すうちに龍の攻撃も鈍くなる。
「トドメの一撃!」
雷子が神剣を刺そうとした時、薙ぎ払おうと尾が雷子に向かう。その速さは尋常では無く、避けられそうに無かった。ドラークや黒山羊は心配していた。しかしノワールは気にしないようだった。
「……平気なのか?」
ドラークが恐る恐る聞く。ノワールは頷く。
「雷子の実力はそんな程度じゃあ無いさ。」
ノワールが雷子の方を指差す。衝撃で埃が立ち、よく見えない。
少しずつ見えてきた。その中には人影がある。光を放ちながら。
「ドラーク、ちゃんと見てなよ。あれが、黒の女神様さ。」
ノワールは紅茶を嗜みながら話す。横目で雷子を見ながら。

雷子は薙ぎ払いを避ける事は不可能だと直感的に悟った。ならば、どうすればいいのか。受け身の体制をとったところで、吹っ飛ばされこの戦局は不利になる事間違いなしだ。自身のあまり良くない頭で知恵を振り絞る。当たるまで、1秒も無い。打開方法が見当たらない。すると、ある事を思い出す。ドラークとの戦いを見た時、彼には自身の鱗を鎧とする事を。ゴールデンオルターも同じだった。自身が持つ最大の特徴を活かす。それが打開策なのでは。雷子は賭ける。一か八か、勝利の可能性があるのであれば、と。
「『黒雷滅装備』」
黒雷滅を一瞬のうちに纏う。そして、薙ぎ払いをその鎧で受け止める。最大限の魔力を流しながら。

龍の尾は、雷子の鎧に当たると止まる。動揺しているゴールデンオルターの隙を見て、雷子は黒い10枚の羽根を広げ、空高く舞い上がる。
「『裁きの黒雷滅』!」
大声で、究極魔法を唱えると魔法陣が出現した。そこからレザーの様に大きな雷を上から落とす。その光にゴールデンオルターは飲み込まれる。
雷子は力を使い果たしたのかそのまま地上へと落ちる。
「『重力無効』『究極の癒し』」
ノワールは疲れ切った雷子に対し、重力無効と回復をする。雷子はそれを受けると直ぐに起き上がる。
「えっ、ちょっとなんで浮いてんの?!」
「慈悲だよ。素直に受け取ってね。」
ノワールは少々毒舌だったが、心から雷子の勝利を喜んでいる。表に出さないが。雷子は納得がいかない様だった。
「倒したんだから不貞腐れないで。レベルアップもしたんだから、いいじゃないか。『解除』」
ノワールは席を立ち、雷子の方に向かいながら言う。重力無効を解除し、床に落ちた雷子の前に立つ。
「最高の女神に祝福を。」
そう言い、座っている雷子に手を前に出す。雷子はその手を握って立ち上がる。
「有り難きお言葉。」
笑いながら冗談の様に言う。ノワールも満足そうだった。
「じゃあ、宝箱回収しなきゃ。」
ドロップアイテムは回収した為、最後は宝箱を開けるだけだった。
「君のだから、開けてきなよ。」
ノワールは雷子を宝箱の方向に誘導し、背中を押す。雷子は楽しそうに飛び跳ねながら行く。
「さぁ、行くわよー!」
煌びやかな宝箱に手をかけ、雷子は力強く開ける。その中身は、
「……指輪?」
雷子は中身を見ながら言う。ノワールも気になり、宝箱を覗く。
「金色だけど、錆びれてるね。」
金色だとわかるが、所々錆びている。一見、使えなさそうだが只ならぬ雰囲気を醸し出している。気になり鑑定スキルを使った。

古代龍の古びた指輪 レア度・星8
かつて栄えた龍達の力が宿った指輪。現在は錆びていてその力が発揮されることは無いが、磨いたり、加工したりすると変化する可能性がある。

「曖昧よね。使えるんだか、使えないんだか。」
ノワールも共感している。星8なのに対し、この性能はあり得ないだろう。所謂ハズレ。加工技術が無ければの話だが。
「『召喚』」
ノワールはそう言い放つと黒騎士が出てきた。黒騎士は敬礼ポーズをする。
『久し振りでございます!一時は見捨てられかと……ノワール様はやはり素晴らしいですね!尊敬します!』
黒騎士は兜から涙を流す。ノワール達はどこから出ているのか気になっていたが、口には出さなかった。
「加工、出来る?」
黒騎士からの返事は決まっている。
『御意!私に出来ないことは無いのですから!』
ノワールが指輪を差し出すと直ぐに受け取り、その場で加工し始める。
先ずは磨きの作業から、次に文字を埋め込み始める。最後に魔力が通るか確認し、作業は完了した。所要時間は約10分だった。その後、ノワールに指輪を渡す。
「何者?あの人。」
雷子が黒騎士に対して指を指す。黒騎士はそれに気づき、
『私は、上級スキルを全て扱うことが出来ます。ノワール様や雷子様方には及びませんが、ある程度の事ならこなしてみせましょう。』
そう説明する。スパダリとしか思えない。雷子は料理、裁縫、家事が出来ない為、
「私よりスペック高いんですけど……。」
とボソボソと呟いていた。ノワール自身もやったことが無いことが多い為、経験では上だろう、と思う。
「ありがと、黒騎士。先に宿に戻ってて。」
ノワールは指輪のお礼をした後、黒騎士に指示をすると、はっ!と威勢の良い挨拶の後、転移魔法で宿に戻っていった。
「じゃあ、これ、雷子のだから。」
ノワールは手に握っていた指輪を雷子の右手中指に嵌める。
「はい、綺麗だね。」
加工した時に付けた、深い青の宝石がキラキラと輝いていた。
「あ、ありがと。」
雷子は指に嵌めてもらえたのが嬉しかった。
「うん、強くなってね。」
ノワールはそう言い、雷子の手をぎゅっと握って離す。雷子は頬を赤らめていた。
「帰ろっか。」
ノワールが言う。ドラークや黒山羊が頷く。雷子はボーッとしている。
『……雷子殿。失礼ですが、あまり期待しない方がよろしいと思います。』
黒山羊が雷子に近付き、耳元で囁く。雷子はまだ頬を赤らめている。話を聞いていないようだった。黒山羊は溜息を吐いた後、ノワールの近くに戻っていった。


あとがき
お久し振りです。前回、今週は何回か投稿できるかも、と言った記憶があるような……。申し訳ありません。言い訳ですが本当に忙しいのと、内容が思いつかない事が多くなってしまったのです。大体の内容は決めているんですが、細かい事までは、というところです。月何回かの投稿になってしまうのですが、なるべく多く投稿できるように努力します。これからもよろしくお願いします。後、加工後の指輪の能力は解説集にあります。