複雑・ファジー小説
- 黒き原初 ( No.6 )
- 日時: 2018/06/03 12:26
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
壱章
新しい世界
黒山羊が提案してくれた場所にノワールは行くことにした。しかし何も持っていないから準備の仕様がない。服は何着か持った方が良いのだろうが……どうにも手持ちがない。制服姿なのもどうにも出来ない。黒山羊に聞いてようと思った。
「なぁ、黒山羊。俺さ、服持ってないから何か手持ちあったら貸して欲しいんだけど……。」
向こうに行けばある程度は買うことが出来るだろうが、街まで遠いだろう。まずは森に降りて、そこから街に入る事を予定しているからだ。
『えぇ、揃えておきました。向こうでの服は歩きにくいでしょうから、10着程度御座います。』
黒山羊が空間魔法でノワールの服を出す。パーカーとTシャツ、パンツを出してくれた。寝巻きにはセーターなんかもある。黒山羊と魔法を習得した時に空間魔法のやり方も覚えたのでそこに仕舞う。謎の変身魔法も覚えているからそれで瞬間的に制服からパーカーに着替える。
『魔法もますます上達しておりますね。感激します。』
ノワールは最近、黒山羊の過保護に少し引いているようだが、それを気にしない黒山羊だった。
『私が日常品など持っておりますのでご安心下さい。必要な時はいつでもお申し付けください。』
黒山羊は黒い執事服に黒いコートを羽織る。白い手袋は外さないようだ。
「転移魔法?だっけ。使えるか分かんないよ?場所は教えてもらったけど……。」
ノワールは事前に黒山羊に場所を教えてもらい、転移魔法を発動してみることにしたのだが、まだ不安が残るようだ。
『拡大魔法でその場所を見ながら使いますと成功しますよ。』
黒山羊は簡単にコツを教える。自分よりも魔法の知識が豊富な彼の事だから間違いないと思った。
「まぁ、やってみるよ。」
そう言いノワールは魔法を発動させる。同時並行は何となく遊んでいたら出来るようになっていた。
黒山羊とノワールの足元から魔法陣が現れ、黒く光り始める。その光が最高潮に達し、二人は光に呑まれる。
気付けば二人は黄昏時の森にいた。
『成功しましたね。少し時間が遅くなってしまいましたが大丈夫でしょう。私達に眠りは必要ないようですから。』
何千億年ぐらいの時を眠らずに過ごす事が出来たのも次元の力のおかげだろう。眠りが必要ないのは生きる上では素晴らしい事だ。不老不死だが。
『……ふむ、面白い世界ですね。ノワール様、頭の中でステータスと念じてみてください。』
黒山羊が何かに気づいたのか、ノワールに伝える。ゲームのようでノワールはワクワクしている。黒山羊の言った通りにステータスと念じてみる。
ノワール=ディユ・ブラン
Lv.???
種族 黒の原初
職業 漆黒なる次元
「何これ……凄い厨二感があるのは俺だけ?」
この人は厨二です、そう言わんばかりのステータスだった。レベルはカンストしているようだ。種族も職業もおかしい。誰もこんなものになろうとは思わない筈だ。
『詳細と念じるとHPやMPなどが分かるようです。また、説明も表示されますね。』
黒山羊がまた発見した事を話す。これ以上見ると自分が厨二なのかと錯覚しそうだとノワールは思う。
「やってみるよ……。」
恥ずかしいが仕方なくやってみる。
HP ∞
MP ∞
攻撃力 ???
防御力 ???
素早さ ???
固有スキル
死霧 漆黒創造 夢想獣召喚
次元操作 暗黒永遠 黒神蘇生
スキル
「スキルは無いのに固有スキルは何故ある?!普通逆だろ!多すぎだし!」
思わず声を荒げてしまった。確かに固有スキルを使えるのは楽しい事だろう。しかしだ、あまりにも厨二すぎないか、ノワールは思う。前世では厨二は痛いなどと罵倒されてきた。自分も二次元にはまったわけでは無いし、そもそも縁が無かったからこそ叩かれなかったものの、この世界でこうなるとは思っていなかったのだ。
『素晴らしいステータスですね。私はノワール様の眷属なのでステータスが共有可能になりました。』
黒山羊は何故か褒める。厨二要素しかない俺のステータスを褒めてくれた。ノワールは少し嬉しいようだ。
黒山羊は大分この世界に順応している。やはり知識が豊富だからなのだろう。
「黒山羊、ありがとう……元気でたよ。」
厨二ステータスに心がボロボロだったが慰められ元気になったノワールはご機嫌になる。
「それにしても死霧てなんだ?説明読むか。」
ノワールも少しずつ順応しているようだった。
死霧
自分自身から死を誘う霧を出す。自分自身も霧になる事が可能であり、物理攻撃が無効化される。この霧を吸った生命は死ぬ。黒の原初の固有スキル。
漆黒創造
その名の通り創造する事が出来る。生命も創造可能。黒の原初の固有スキル。
夢想獣召喚
その名の通り夢想獣を召喚できる。夢想獣は自分で想像すると召喚できる。黒の原初の固有スキル。
次元操作
次元の全てを操作可能。全てを消し去る事さえ簡単に出来る。また、ものに力を与える事も出来る。次元王系統の職業限定の固有スキル。
暗黒永遠
不老不死の上位互換。不老不死は魂が1つなのに対し、このスキルは魂すらも無限大。黒の原初の固有スキル。
黒神蘇生
蘇生の上位互換。蘇生の速度が蘇生の五千万倍ある。つまり、攻撃を受けた瞬間に蘇生する。これは怪我をした場合にも適応される。黒の原初の固有スキル。
「やっぱりチートじゃねぇか!」
ノワールの声が森に大きく響いた。
- 黒き原初 ( No.7 )
- 日時: 2018/06/03 12:25
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
暗い森の中
ノワールの声が響いた時、もう既に夕日は東に沈み始める。どうにもこの世界は西から東に太陽が移動するようだ。
『ノワール様、大丈夫ですよ。気にし過ぎもあまり良くないですし。』
黒山羊はノワールを慰めるが、相当落ち込んでいるのか、体育座りでうずくまっている。
「もうやだ……なんでこんなチートなの……。レベル上げ要素無いじゃん。」
ノワールは普通のスキルが獲得できるものだと認識していないようだ。それに気づいた黒山羊は説明しておく。
『安心して下さい。スキルは獲得出来ますから。ほら、せっかく来たのですから、探索しましょう?』
スキル、その言葉に反応したノワールは、獲得出来ることを知り、気力が戻って来たようだ。
「スキル獲得……!成る程、最強スキルを手に入れる為の努力という要素もあるんだな……。」
元気になる。黒山羊は安心したが、ノワールは早く進もうと急かしてきた。黒山羊は分かりました、と言い、森から抜けようとする。
「森の中って不思議だな。なんか出てこないかなぁ。」
現在は夜。美しい夜空が木の間から見える。夜の森とはやはり何かと出会えるような感覚がある。
そう考えていると、背後から急にザッザッ、と音がする。黒山羊も気付いたようで、魔法のライトを向ける。するとそこには狼の群れがいた。
「狼の群れ……初めて見るな。」
しかし、ノワールと黒山羊は驚きもせず、逆に興味を持っているようだ。
『このような動物にもステータスはあるようです。しかし鑑定というスキルが無いと出来ないようですが。』
スキルは基準を満たすと獲得出来る。誰もその基準を知らないが。
「黒山羊のステータスを見れば分かるかな?」
ステータスを見る事が出来れば獲得出来そうな気がした。ノワールは眷属である黒山羊のステータスを見る。
狼は襲い掛かりそうだが、黒山羊が魔法を放つと固まった。硬直の魔法だろう。簡易的なものだから、時間稼ぎ程度にしかならない。
その少しの時間を使い、ノワールは黒山羊のステータスを見る。
黒山羊
Lv.???
種族 異形なる怪物
職業 漆黒の次元王の執事
(黒山羊もレベルカンストしたんだな……。)
黒山羊の詳細まで見ていないが、強さを感じる。
その後、自分のスキル欄を見てみると、
スキル
鑑定
とあった。初めての普通のスキルはノワールにとって感動的なようだ。
『鑑定が取得出来ましたか。流石です。』
黒山羊も取得しているのだが、気付いていないようだった。
「よし、狼にも使って見るぞ!」
初めてスキルを使用するから緊張する。頭の中で鑑定と念じると、狼のステータスが表示された。
ムーンウルフ
Lv.24
種族 ムーンウルフ
HP 265
MP 110
攻撃力 655
防御力 220
素早さ 565
固有スキル
満月覚醒
満月の日にステータスがupする。
スキル
モンスターには職業と名前は適応されないらしい。ゲームの世界らしいと言えばらしいが。
「なんか、アレだな。あんまり強く無いな。」
ポツリと呟く。別に何か悪いわけでは無いが物足りない事は確かだ。
『種族により元のステータス量が違いますからね。ドラゴンなどは元のステータスが高い事で有名ですし。』
確かに、と思う。元々の才能にステータスはよるのだろう。そこに職業がプラスされていくのか。
「ねぇ、黒山羊。俺が倒して良い?固有スキル使ってみたいんだけど……いいかな?」
黒山羊に聞いてみる。多分、過保護な黒山羊の事だから反対してくるだろうと思っていたが、
『……分かりました。しかし、危ないと判断できる場合は私が入りますから。』
了承はしてくれた。渋々だったが。
何を使って倒そうかと思ったが、1番使ってみたかったのは死霧だった。ノワールはスキルの名前を念じる。すると自分の身体から霧が発生した。黒い霧だ。霧はまるで自分の一部のように感じた。手を狼に向けると霧が一瞬にして狼の所に蔓延する。狼はそれを吸ったらしく、倒れてしまった。それからドミノ倒しの如く倒れていく。最後の1匹だけを残して。1匹は怯えて逃げようとしが、ノワールの瞳と目を合わせた瞬間、倒れてしまった。ノワールは最後の1匹だけ他のスキルで倒そうと思ったが、何故か倒れてしまい、困惑している。ノワールはもしや、と思いスキルを見てみると。
固有スキル
漆黒の隻眼
目を合わせた時、自分が殺意を抱く相手を殺す。黒の原初の固有スキル。
真紅の隻眼
目を合わせた時、敵意を抱く相手に恐怖を与える。黒の原初の固有スキル。
「普通のスキルじゃないんかい!」
思わず突っ込んでしまった。固有スキルって獲得出来るのかよ、ノワールは内心厨二感が増したと思う。
『固有スキルは発動すると表示されるようになるようですね。』
「早く言ってよ!」
また、チート能力を手に入れてしまう、ノワールだった。
- 黒き原初 ( No.8 )
- 日時: 2018/06/03 13:41
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
ドロップと食事
チートスキルを手に入れた後、狼達を見ると、灰になっていき、最後に毛皮の様なものと袋が残った。
「待て、この世界ってもしかしてドロップアイテム制?」
RPGでよくあったのが、ドロップアイテム制だ。モンスターを倒した後、そのモンスターが素材やお金などを落とすタイプのアレの事だ。まさかこの世界もそうだったとは思いもしなかった。
『アイテムを落とすのですか……。確かに、獣を捌くのは抵抗があるでしょう。にしても、この世界を使った神の顔を見てみたいものです。』
黒山羊からは謎の不気味なオーラが滲み出ていた。
「お金は……銀貨と銅貨が混ざってる。そんなにあるわけでは無いな。毛皮も大した事ないな。」
この世界の通貨も分からないが、一応持っておいて損は無い。空間魔法の中にアイテムをしまう。
『さて、ご飯を頂きましょう。一仕事終えた後は食べた方が疲れが癒されますし。』
そう黒山羊が言い、テーブルと椅子を出し、ノワールを座らせる。そして料理が次々と出てきた。食べられそうにない量だった。
「いや……あのそんな食えないんですが。」
黒山羊に向かって言う。
『大丈夫ですよ。』
黒山羊が明るい雰囲気で言う。お腹は減った事だし、余ったら余ったで、次の日とかに食べればいっか、と思い食べ始める。
まずは鶏肉から。香ばしく焼き上げてあり、甘辛の味付けが美味しい。すぐに平らげてしまった。次にスープを飲み干し、白いご飯も食べる。サラダも食べ、豚肉で包んだものを食べた。
そんなこんなで全部を平らげてしまったが、お腹が一杯になった気配はしない。
『そもそも私達は食べる必要性はありません。しかしお腹が減るという生理現象は起こってしまうのです。膨大な力故に、カロリーの消費が激しいのです。』
黒山羊の説明に納得がいく。しかし此処まで食べられるとは思っていなかったが。
『最後のデザートです。』
最後にはケーキと紅茶が出てきた。ペロッと食べてしまったが、とても相性が良く美味しかった。
『食事も終わった事ですし、街を目指しましょう。』
休憩が終わり、ノワール達は街を目指す。
- 黒き原初 ( No.9 )
- 日時: 2018/06/04 22:14
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
森の外
探索魔法を用いて、森の地図を作り、敵の接触を避けて出口へと向かう。日は昇り始めた。森は綺麗な赤色に染め上げられる。
「出口はもうすぐだね。街はまだ見えないけど……。」
出口まではもうすぐ。探索魔法を発動し続けているから、街も何処にあるか分かるはずだが、見当たらない。かなり遠いのだろう。探索魔法の範囲は半径100キロメートル。それ以上を超えての探索も可能だが、地図に収まらないのだ。詳細な情報を求めているから仕方がない。
『出口が見えてきましたね。』
黒山羊が指をさしながら言う。その方向を見ると光が満ち溢れている。その先には何があるのか分からない。しかし、楽しい事なのは間違いない。ノワールは確信した。
光が溢れる方に向かい、飲み込まれる。
森の中から外に出ると広大な草原が広がる。真っ青な雲1つない空と、そよ風が冒険日和だと思わせる。
「凄い……!こんな綺麗な草原、日本には無かったよ。やっぱり異世界って気がする。」
大自然、日本にいた頃には見れなかった。きっと他の国にもあったのだろうが、ノワール自身にとっては初めての光景だった。ゲームの中にあるような風景で、今にもモンスター達が飛びかかって来そうだ。
『素晴らしい自然ですね。この草原に公道、といっても整備はされていないような道ですがあるようです。商人達も通るようですし、街につながっているはずです。』
どうせなら人工衛星でも飛ばして、何処に何があるのか、Go◯gle先生に教えて貰いたい。今度、作れるのであれば、作ろうと思う。
そんなことをノワールは思いながら、黒山羊と共に公道へ向かう。魔除けの魔法をかけているので、ある程度弱い魔物は近寄ってこないだろう。
「見えてきたっ……て、なんか魔獣がいるように見えるんだけど…。」
公道が見えてきた時、公道の端に魔物がいた。いや、石像のようにも見えるが。
『ガーゴイルですね。何処かの国の私有の道路なのでしょう。バリケードでは維持費が高い為、魔物を使用することはよくあります。』
ノワールが持つ、夢想獣召喚の下位互換なのだろう。もしくはテイマーが調教したのかもしれない。どちらにせよ、面倒であること間違いない。
『ガーゴイル程度、透明化をすれば躱せる事でしょう。』
黒山羊から教わった魔法で透明化をする。変身魔法系統の1つである。
ガーゴイルとガーゴイルの間を通って行く。バリケードも無かった為、すんなりと入ることが出来た。ガーゴイルは外からの部外者しか反応しない為、道の中でで透明化を解く。人通りも少ないようだ。
「あっさりと入れるんだな。これじゃ、セキュリティとしてどうかと思うけど。」
率直な感想を述べる。セキュリティとしてガーゴイルを設置しているのに、意味を成さないのはあまり効率的では無いからだ。
『透明化の魔法を使える魔術師など中々いないでしょうし、盗賊などが主なのでそもそも使う事が無いのです。』
まぁ、盗賊除けの為に設置しているから、セキュリティ性はあるのかも知れない。これを抜けられる者がいるとするなら、きっと強者なのだろう。
『そうですね、馬車の跡があります。向こうへ向かっているようです。行きましょう。』
黒山羊が向いた方向にノワール達は進んで行く。
- 黒き原初 ( No.10 )
- 日時: 2018/06/08 19:37
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
夢想獣召喚
道を歩き続けて1日、疲れは無いが面倒なのは進みが遅いことだ。これでは拉致があかない。ヒッチハイクをしてみたが黒山羊の姿に驚き逃げるか武器を向けるかされる。魔眼で威圧すれば逃げるが。
「あー、馬車が欲しい。」
思わず声に出してしまう。転移魔法やら飛行魔法は目立つから使えない。透明化する方法もあるが後処理が面倒だ。
『馬車は街でなら買う事が出来ますが……私達で作るのも良いですが馬をテイムしなければいけませんし、調教も大変ですよ?』
黒山羊が正論な意見を言う。自分達で作るのは時間もかかる。今すぐ街に行きたいのだ。うーんと悩んでいるとふと、固有スキル欄にある夢想獣召喚が頭に横切る。
「待って、黒山羊。俺のスキルに『夢想獣召喚』ていうのがあるんだけど……使えるかな?」
黒山羊に相談してみる。すると、即座に行動し始め透明化魔法、馬車の材料を取り出してきた。
『準備は整いました。しかし、召喚陣の大きさが分からないので空間魔法か空中での召喚をお願いします。』
黒山羊の行動の早さにノワールは引いてしまった。いや、とても素晴らしい事なのだ。しかしながらここまでやって貰うと申し訳ないと思ってしまう。
「お、おう、分かった。」
ノワールはそう返事をした後、空間魔法で面積を確保しスキルを頭の中で念じてみる。
ノワールは想像しないと召喚が出来ない事を思い出す。しかし、何を想像すれば良いのか分からない。試行錯誤していると前世見た、悪夢が急に頭を横切る。気色悪い化け物だったと思う。目が沢山付いていて、骨が主に肉が少し付いている。細長い形で物凄く大きかった。例えるなら蛇とか、そんな感じだった。夢の中でそれは何かを問いかけて気がした。
《あぁ、主人。久し振りに会えたな。》
ノワールは夢の思い出に浸っていて、魔法陣が光り出していたことに気づいていなかった。それはドス黒く光っていた為、あまり見たいものでは無かったが。
ノワールは話しかけられたので前を見ると夢の中の化け物がいたことに驚く。
《おいおい、驚くなって。前にも会ってるだろ?》
まぁ、そうかと納得する。しかし……こいつを馬車として使うのも、周りからの目が大変だろう。
《あー、なんとなく分かったわ。じゃあ姿変えるな。》
化け物はそう答えるとノワールの腕に巻き付く。そして圧縮されたようにブレスレットとなる。綺麗な丸い石がついてるやつだ。
《それ目だから。触っても平気だけど。》
うえ、これ全部目なのかと思ってしまった。気持ち悪いだろ、普通。
しかし、肝心の馬が無い。困ったものだ。
《馬だろ?なら創ってやるよ。》
ブレスレットから声がする。ブレスレットが光り始め、骨だけの馬が作成されていく。いやこれもこれでヤバい気がするんだけど。……背に腹は変えられないか。
空間魔法から出ようとする前に、ふと頭に思い浮かんだ事を死蛇に話す。
「そう言えば名前なんて言うんだ?」
化け物と呼んでいるのも面倒だ。
《さぁ、あったかなぁ?覚えてねぇよ。》
呆気のない返事を返される。 あったかなぁって曖昧なのか。
「じゃあ、何て呼ばれてたの?」
名前では無く、あだ名みたいなのを聞いてみる。
《屍王、死神、死者の帝王、とかか?主人が夢から生み出した後、暴れてたからなぁ。こんな見た目だし。》
厨二病感が半端ではない。何故、俺の周りには厨二病要素が集まるんだと、ノワールは思った。
「じゃあ結局なんて呼べば良いのさ。」
《そうだなぁ、死蛇とでも呼んでくれや。》
なんか植物の名前だな。シダ植物って部類もあるぐらいなんだが。
そんなこんなで仲間が新しく加わったのであった。
- 黒き原初 ( No.11 )
- 日時: 2018/06/15 21:51
- 名前: こあく (ID: 9Zr7Ikip)
初めての街
空間魔法から出ると、黒山羊が既に馬車の本体を作り終えていた。
『ノワール様、お帰りなさいませ。』
黒山羊がお辞儀をする。するといきなり死蛇がブレスレットから身体の一部を出してきた。
《誰だこいつ。》
死蛇が黒山羊をジッと見つめる。
『これがノワール様の夢想獣……。独創的で素晴らしいですね。』
感想はそこか。とノワールはツッコミを入れる。死蛇はまだ黒山羊を見つめている。
《……いけすかねぇやつ。》
そう言葉を吐き捨てるとブレスレットに戻っていった。
『口が悪いですね。』
黒山羊の言葉にとても同感する。口の悪さはピカイチだと、ノワールは思った。
骨の馬達に指示を出し、馬車を引いて貰う。馬車は高級感溢れ、飾りの少ないシンプルな感じのものだった。
『どうぞ、お乗りください。』
黒山羊はそう言い、馬車の扉を開ける。ノワールはそれに誘導され、乗る。
馬車の中は見た目よりも広く、高級ホテルのスイートルーム並みだった。家具も一通りあった。
『付与、という技術でお部屋を改造させていただきました。お気に召しましたでしょうか?』
素敵な部屋だったからか、ノワールは何度も頷いた。
『嬉しい限りです。直ぐに出発致します。お寛ぎ下さい。』
黒山羊はそういうと、馬車の中から出て行き、操縦席に移動した。
しばらくすると動き出す。ノワールはベッドにダイブする。暇なので死蛇に話しかけてみる。
「ねぇ、付与って何?」
黒山羊の話していた言葉が気になったのだろう。
《付与?そんなん魔法を埋め込む作業に決まってんだろ。例えば、この馬車は空間魔法を利用したんだろうな。》
付与について、教えてくれた。説明は雑だったが。今度、黒山羊に教えて貰うとノワールは思う。
「ありがとう。」
死蛇にお礼を言うと、死蛇はどうも、と返事した。
死蛇との会話も無くなり、暇になってしまったノワールは、折角ベッドがあるのだから寝てみようと思った。睡眠は必要無いが、眠れない訳では無い。ベッドに横たわり、意識を手放す。
どれ程の時間が経ったのだろうか。ノワールは外の風に当たろうと窓を開ける。もう、夜だった。辺りは真っ暗だが、馬車が進む道の方向に灯りが見えた。きっと、あれが街なのだろう。温かみのある灯りは中世の雰囲気を醸し出していた。
馬車がどんどん進んでいくと門が見えてきた。松明に照らされて人影も見える。門番の人だろうか。
目の前になり、馬車が止まる。
「こんな夜遅くに何の用だ……!魔物!?なぜこのようなところにいる!おい、門番を集めろ!冒険者ギルドにも連絡を!」
薄々気付いていたが、骨馬達に驚いてしまったらしい。騒動になる。まだ街の中に連絡はしていないようだが。ノワールは溜息を吐くと、馬車の外へ降りる。
まずは門番全員の目をノワール自身の魔眼に引きつける。そして、真紅の隻眼を発動させる。
ー門番達は硬直した。ー
まるで絶対王者から逃げる術の無い、獲物のように。ノワールの威圧によって硬直した門番達に話しかける。
「ねぇ、この街に入りたいんだけどいいかな?」
なんとか会話をしようとしている門番達は金魚の様に口をパクパクさせていた。
「この子達も危害を加えなければ襲わないよ。」
そう言って、馬を撫でる。表情は変わらないが喜んでいる様だ。
「大丈夫かな?」
ノワールはその言葉を合図に威圧を解く。しかしまだ怯えている様だ。最悪、門番達に呪いをかける方法もあるのだが、穏便に済ませたい。
「は、はいっ!おい、持ち場に戻れ!連絡はするな!」
門番達が危機感を感じ、元の持ち場に戻る。
「此処に入る為には、税金をお納め下さい。」
門番は丁寧な口調で話しかける。やはり先程の威圧が効果的だったのであろう。
『済まぬが、この世界の通貨に関して知りたい。異国から来たものでな。』
黒山羊が代弁して話してくれている。黒山羊に驚いていたが、直ぐに表情を引き締めて、分かりましたと返事をしていた。
「この国の通貨ですが、銅貨が1番下の価値のものになります。銀貨1枚は銅貨100枚の価値を、金貨は銀貨100枚の価値があります。1番上の価値の通貨は大王金貨です。」
本当に中世、いや近世の通貨の価値だ。沢山の通貨がある様で覚えるのにも一苦労するだろう。
『で、税金は幾らだ?』
ノワールは説明を聞いた後、税金は幾らかを質問する。銀貨と銅貨は沢山あるのだが、金貨は一枚も無い。
「一人、銀貨5枚です。」
良かった、足りると安心する。しかし、次の瞬間に
「馬車、並びにテイムした魔獣を入れる場合は、金貨3枚も加算されます。」
(金貨持ってないんですが?!)
どうしようと悩む。ものを売るか、それともこの街に入らないかのどちらかだ。ものは黒山羊しか無い。唯一の救いは死蛇がブレスレットになっている事だ。4枚になる羽目だった。
『買取はしているか?』
黒山羊が門番に質問する。やはり売りしかないと思ったのだろう。
「ええ、しております。しかし、冒険者ギルドよりも値段が安くなってしまいます。宜しいですか?」
黒山羊は頷く。すると、持ってくると門番に告げるとノワールの元に向かい、馬車の中に共に入る。
「持ってないよ?金貨になる物なんて……。」
率直に言う。何も金目の物は持っていないと。スキル欄を見る。何か役立つものがないかと。
ふと、『漆黒創造』というスキルが目に入る。
「黒山羊!俺のスキルで何か造るから、持って行ってくれる?」
作業に取り掛かりながら黒山羊に聞く。
『分かりました。』
黒山羊がYESと言ってくれた。多分作れば良いだろう。何を作ろうか……。あ、良いものを思いついた。ノワールは金色の石を作り始める。
『それは何ですか?』
黒山羊が聞いてきた。やはり気になるのだろうとウキウキした。
「10個ぐらいあげるよ。」
黒山羊の手に、握らせる。
「これはね、テイムする為の石だよ。まぁ、売るからにはソコソコの確率にしないといけないんだけど。黒山羊のは絶対にテイムできるから安心して。」
ノワールは所謂、従順させる石を作っているのだ。
「確率は……10分の1だよね。流石に高すぎるのも良くないし。」
約100個を作り、鑑定を使用して完成したか見てみる。
従順石 レア度・星6
モンスターからドロップする石。確率は10分の1でモンスターをテイムできる。黒の原初が作ったものが世界に飛び散り、モンスター達の体内で作られる様になった。
この世界にはレア度と言うものがあるようで、星で表され1から10まである。
「何で黒の原初って言葉が使われるの?確かに作ったの俺だけどさ。」
まぁ、どうこう言ってられないのだが。どうせ名前までは特定されてないし。この世界の常識を変えてしまった気もするが。
ノワールは黒山羊のも見てみる。
神眷属石 レア度・星10
モンスターからドロップする。神が眷属化をする如く、必ずモンスターをテイムできる。黒き原初が遠い昔に生み出したもの。
「よし、黒山羊、この従順石を売り出そう!」
黒山羊の確定の石の鑑定も終わったので、黒山羊に100個持たせ、門番のところに行く。
『これは如何ですか。』
黒山羊が門番に話しかける。門番は石を鑑定すると、
「こんなにも従順石が……全て買取しても宜しいのでしょうか?」
「はい。」
別に減るもんじゃないしな、と心の中でノワールは思った。自分で作ることが出来るのだから。
門番は中に入り、少し経ってから出てきた。
「金貨を三枚引きまして、白金貨1枚と、金貨17枚になります。」
それを受け取る。資金も集まったので良かった。
「ではお入り下さい。馬車が置けるところは巨魚亭と言う宿がよろしいでしょう。」
門番は門を開けてくれた。序でにいい宿も。
「ありがとう。」
そう言って馬車に乗り込み、馬車は街の中に入る。
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