複雑・ファジー小説
- Re: 少女の香は花に似ている。 ( No.3 )
- 日時: 2018/06/30 22:44
- 名前: 片谷天晴 ◆nqpaN7kCns (ID: QUK6VU.N)
「子宮は物を考えないよ」
突然の言葉に、僕は「はぁ」とわかってるんだかわかってないんだかわからないような返事をする。子宮は物を考えない。いや、当たり前だろう。物を考えるのは脳みその仕事だ。子宮は子供を育てるところ。育てる?そういう言い方をすると、なんだか自発的に行動しているように聞こえるので、言い換えるべきか。子供が生まれるまでいる場所。ああもうこれでいいか。とか考えてると、僕のモノはしゅるしゅると音を立てるような勢いで萎んでいく。あー、萎えた。萎えるっていう字と萎むっていう字は同じなので、つまりそういうことなのだ。それを見て彼女は細くて白くて長い脚を僕の腰あたりに巻きつけて「なんで萎えてるの」とちょっと笑った。
「いや、萎えるでしょ」
「うん、まあそうかも」
私もサハラ砂漠〜と言いながら起き上がった彼女は、さっきまで僕の下で喘いでいた女の子とは別人みたいで、なんだか罪悪感みたいなものが押し寄せてくる。僕、知らない子とホテル入っちゃった?みたいな。いや、彼女は正真正銘僕の彼女だし、ずっと同じ人間だし。でもなんか、サハラ砂漠って言われるとやっぱなんかさっきまであんな喘いでたのに?演技?女の子って怖い。ってなっちゃう。
「飲む?」
差し出されたペットボトルを受け取る。彼女が髪を耳にかけると、甘い香りがした。同じシャンプー使ってるはずなのに、なぁんか違うんだよなぁ。なんて思いながらペットボトルを傾けるけど、一向に液体は出てこなくて、あれ?と首をかしげる。そんな僕を見て、彼女はケラケラ笑って「ふつー気づかない?」と、僕の手から空のペットボトルを取り上げて、まだ未開封のそれと入れ替えた。
「まだ時間あるね、仕切り直す?」
「そういう気分なる?」
「わりと女って切り替え早いのよ」
ふーん、そういうもんか。
どうしようかな、と思っていると、ピッという音と共にテレビがつく。わざとらしい女の喘ぎ声。ホテルの無料チャンネルで延々流され続けているAV。これの需要ってどこにあるんだろうな。やっぱなんか雰囲気とか変わっちゃうのかなー、なんて思いながらモザイクの向こう側を想像していると、僕の右手に彼女の手が触れた。どうしたの、と声をかけようとして、その手が少し震えているのに気がつく。寒い?いや、空調は多分大丈夫。僕は寒くない(こういう時、自分目線でしか考えられないから男はダメなのよ、と同級生が愚痴っていたのを思い出す)。
「熟れた果実は、いずれ腐って落ちるのよ」
震えた声。
まだ幼さの残る体が、声が、表情が、心が、大人になるのを拒んでいる。僕の体はもう随分大人になって、彼女の体もそうなのだけれど、その変化がきっとひどく恐ろしいものに感じてしまうのかもしれない。大人になることは、子供ではいられなくなることだ。責任も、老いも、未来も、全てがこの小さな肩にのし掛かってくる。だから僕は、その肩を抱いて囁く。
「その前に、僕が食べてあげる」