複雑・ファジー小説
- Re: ただ、それだけのこと。(短編集) ( No.4 )
- 日時: 2018/10/01 09:31
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: DPXEEa5h)
ぬぬぬ...長いなぁ(´・ω・`)
元々、動画投稿サイトで見つけたコメントに心引かれて、小説を書きました。
そして私事ですが、小説投稿サイト「エブリスタ」を始めました。
エブリスタさんは多ジャンルでイベントも豊富なので、良いなーと思ったからです。
一応「小説家になろう」でも活動しているので、良かったら見に来て下さい( ´∀`)
名前は一緒です。名前に意味は特に無いです。
(私の投稿を昔から見てる人なら知ってるかも)
意味合い(後)
少女が豆粒みたいに小さくなったと思ったら、いつの間にか少女は自転車を漕ぐのを止めていた。
「……体力、ある……ね、部活何か、やってるの?」
息切れしながら言葉を吐き出すと少女は「バドミントンやってるし」と誇らしげに言った。
「で、自殺する気失せた?」
「見事に失せちゃったよ。どうしてくれるのさ」
冗談めかしく言うと少女は苦笑した。川の水面に満月が煌々と照らし出されている。少女は小首を傾げてから尋ねた。
「ところでどうしてお兄さんは死ぬの? 誰かにフラれた? 酒とタバコに溺れた? パチンコで失敗したとか?」
「君は汚い大人を見すぎだね……。死ぬのに特別な理由はないよ」
———ただ疲れたから。人生という膨大で先の見えないステージの上から降りるだけだ。
「……お兄さんは詩人みたいだね……」
頭の上に「?」が沢山ある気がした。少女は眉間にシワを寄せている。
少し難しかったか、と聞くと「SNS上によく居るポエマーみたい」と言った。今度は僕が苦笑する番だった。
「君は生きているのに何か理由はあるかい?」
少女は目を瞑り、静かに頷く。
「へぇ、どんな理由?」
少女は走行する自動車の音にかき消されるような、小さな透き通る声で呟いた。
———綺麗に死ぬために、今日を生きてる。
周辺の雑音が大きいはずなのに、少女の声は玲瓏で鮮明に聞こえた。少女の方がよっぽど詩人に見えた。
月夜の水面に映る少女が、どれだけ大人っぽく綺麗に見えたことか。
「……なかなか難しいね」
「そうかな?」
電車への飛び降りは確実だけど、ダイヤが乱れて大勢に迷惑をかける。
首吊りは生き残った時が大変だし、死んだ後の処理が面倒。
練炭もギロチンも有効だけど、用意するのが大変。
病気で苦しんで死んでいくのは費用がかかる。
「身内の目の前で死んだら葬式費用がかかる。綺麗に死んだわけでもない、納得して死んだわけでもないのに、そんな所に金を使ってほしくない」
さも当たり前のように喋る少女は本当に中学生なのか?
それすらも疑わしく思えてきた。
少女の言葉を、少女の身内に今ここで聞かせたら何と言うだろうか。
もし僕が同じように家族の目の前で、こんなことを言ったら何と言われるだろうか。
「変人だ」とか「気持ち悪い」と言われるだろうか。病院の精神科に強制入院させられるだろうか。
だが僕は少女が間違えているとは思わない。
寧ろそのような考えが浮かび上がるなんて凄いと思う程だ。
「……つまりそれは、安楽死したいってこと?」
「んー、最終的に死ぬ手段が無かったら。でも」
「でも?」
「私が生きている内に綺麗に死ねる装置ができたら、私は迷わず使用すると思う」
真っ直ぐ前を見つめる少女は、未来へ向かって将来を想像し歩んでいく子供に見える。
だが心の中を一度覗くと、中身は人生を放棄し、「死」への想像へと膨らんでいるのが分かる。
「そうだねぇ。装置があれば僕も使用するのかな」
「でも安楽死を導入しない限り、そんな装置の使用だって禁止される。そうなると、私はまだ生き続けなきゃいけない」
結局その装置が発明されない限り、死んだら誰かに迷惑をかけちゃうんだよね、と感慨深く少女は言った。
「……ところで、もう夜の8時過ぎだけど、大丈夫?」
「うわぁ、ママに怒られちゃうから帰らなきゃ」
先ほどまで人生を悟ったように語っていた少女から「ママ」という言葉が出てきて一安心した。
ちゃんと可愛らしい中学生の一面が見えて、内心ホッとしている。
「こんなにスッキリしたの初めて。お兄さんとまた話せたらいいなぁ。それじゃあ、バイバーイ!」
最後は可愛らしく手を振り、全速力で自転車を漕いで消えた。
この後僕が、"自殺することを考慮して"、あえて何も言及しなかった少女に感謝する。
僕は再び月が反射した水面を覗いてみたが、諦めて盗んだ自転車を返すために、カラカラと重い自転車を引きずって歩き始めた。
川のせせらぎは穏やかに、背中を押すように静寂に流れていた。