複雑・ファジー小説
- Re: ただ、それだけのこと。(短編集) ( No.5 )
- 日時: 2018/11/17 14:23
- 名前: 麗楓 ◆F.XzXC1pug (ID: 5/4jlQyE)
こんにちは、麗楓です。
模試の判定がEからDに一つ上がりました。
舞い上がって親に報告しようか悩んでいたら、校内順位は下から2番目と気づきました。
報告は諦めます(´・ω・`)
初めてだった。
「かっこよかったよ」
頬を赤らめた彼女は、俺の顔を見ずにそう言う。
「3Pシュート決めてたの、凄く良かった」
黒髪から覗く堂々とした茶色の瞳は、強い信念を持っているように見える。俺は肩ベルトを強く握りしめた。
「3秒前にシュートされて逆転負けしたけど、かっこいいって思う?」
「思うよ」
彼女の凛とした真っ直ぐの瞳が俺を見つめる。即答だった。
放課後の夕焼けに照らされた彼女は、髪の毛1本1本から泥で汚れたスニーカーまで、全てが逆光に包まれて眩しかった。
「……俺さ、体育大会のバスケで優勝したら、好きな人に告白するって決めてたんだ」
「うん、知ってる。この前聞いた」
「告白なんて初めてだから、無理に高い目標まで定めて。結局決勝にすら行けないなんて、バカみたいだなぁなんて……」
誤魔化して笑おうとしても、上手く笑えない。上ずった声しか出なかった。しばらくの間、沈黙が訪れる。
———本当に、バカみたいだよな。
弧を描いて飛ぶボールを今でも思い出す。
試合終了3秒前にシュートを決められて、ボールの感触が手に残るなか、7対8で俺達は負けた。
———あのボールに触っていたら。
———あと1本シュートを入れていたら。
体育館の天井を見上げながら、何度も悔やむしかなかった。
クラスメートは労いの言葉をかけた。誰も3Pシュートのことなど、俺自身もシュートを打ったことすら忘れていた。
なのに、傷を抉るように思い出された過去。
出来れば封印して、二度と思い出すことがないようにしたかった。
———なのに、
外靴に履き替えた俺は靴紐を軽く結び直してから、沈黙を突き破るように明るく喋った。
「3Pシュートの話したの、お前が初めてだわ。俺の名前も呼んでくれてたでしょ?」
「え、私が呼んだの気づいた?」
「気づいた気づいた」
「うん、そっか…………ごめん。もしかしたら気分損ねるかもしれないんだけど」
「何?」
———なのに、
「あの試合、君がかっこよかったこと以外覚えてない」
———なのに。
———どうして君から発せられる「かっこいい」の言葉は、こんなにも胸に響き嬉しくなるのか。
誰かの「かっこいい」より君の「かっこいい」が一番心に染み渡るのは何故だろうか。
初めてだった。誰かから「かっこいい」と言われて胸が高鳴るのは。
初めてだった。誰かから自分の名前を呼ばれて、あんなに自分の名前は美しい響きをしていたのか、と思うのは。
その説得力のある澄んだ瞳に、嘘など見受けられるはずがなかった。
「しかし、よく人に向かって褒め言葉がぽんぽん出てくるよな。羨ましい限りだわ」
「別に全員に対して言ってるわけじゃないよ? 好きな人にしか言わないもの」
「ふーん………………え?」
今、「好きな人」って———。
心臓がバクバクと音を立てて制御が出来ない状態。試合の時よりも頬は火照って身体中熱くなっている。半開きの唇は閉じないまま、いつまでも開いていた。
「よそ見してると置いてっちゃうよ?」
悪戯っぽく微笑む彼女は、可憐で綺麗だった。
やっぱり勝ち負け関係なく、ちゃんと伝えたい———。
彼女の手を掴み、俺は深呼吸をする。そして、
「試合では負けたけど、俺本当はお前のこと———」
君に、初めての告白をしよう。