複雑・ファジー小説
- Re: 華壱匁 ( No.3 )
- 日時: 2018/08/11 15:32
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「今回集まってもらったのは、まあ散歩中に見かけたヤツのことだ。こいつぁ、猫又も見てるからあっしの話で信用できなかったら、猫又に聞け」
帰宅後、すぐに招集をかけ、集まれるものだけ集まった広間にて、御幸を中心にして、会議のようなものが行われた。集まった妖怪たちは実に御幸と猫又を入れて六。その中には一つ目小僧もいた。他は集まらなかったようだ。
「さて事の発端は、数十分前に一つ目小僧がよこした噂話になるんだが。長くなるぜ」
近頃噂になっているという、八尺ほどの女、八尺様。その内容を事細かに伝える。途中で一つ目小僧もそうだそうだと頷いていた。何がそうなのかはわからないが。
「そんで、さっきあっしらは散歩に出かけたときだ。妙なやつを見かけた。八尺ほどの身長で、白のワンピースに白い帽子、やたらと長い黒い髪の女を」
「姐さん!そいつぁぜってぇ八尺様だぜ!オイラ確信する」
「そこでだ。一つ目、他に八尺様ってやつについて、知ってるこたぁねえかぃ?」
立ち上がった一つ目小僧に、御幸は他の情報を吐き出すよう、促した。合点承知之助でい!力強くそう言うと、一つ目小僧は自信たっぷりに話し始める。
「八尺様は、聞けば若い男を好むんだとさ。まあ魅入られるとか言われてるらしいがね。そんで魅入られちまったやつぁ、数日以内に死んじまうらしい。対処法が、そいつが封印されてたその地区を出るか、盛り塩と御札でかったーく封された部屋には、少なくとも一晩ははいってこれねえってよ」
「ほォ……で、なんで今。その八尺様の噂が?」
「こっからが本題なんだよ姐さん!それを話す前に散歩行っちまうんだから。どうにも八尺様の封印が解かれたみてぇで、しかもなんか封印してた地区から出られるようになっちまったんだ!現にここいらじゃねえけど、八尺様に魅入られて死んでった人間が、あちらこちらにいるみてぇなんだ」
一つ目がそういった時には、もう部屋の空気は変わり果てていた。麓の村ではないにしろ、すでにもう被害が出ているとは。ただの噂話が広まっただけかと思いきや、もうそこまで来ていたか。御幸はなんだか無性に苛立って舌打ちをする。どうしたんさ御幸と他の妖怪に声をかけられるも、いや大丈夫でさァ。と返事をする。
「だから姐さんにまだ話は終わってねえっていったんだぜ」
「あー、聞いてなかったわ。すまねぇな!」
「だぁーろうと思ったよォ!」
「して、八尺様とやらに魅入られて、そこから逃げ延びれた人間は今いるのかしら?」
「うぉ、骨女姉さん」
このまま続けば言い合いが始まるだろう。そう踏んだのか、集まっていた妖怪のうちの一つ、『骨女』が割って入ってきた。それまで静かに事を見るつもりだったのだろうか、だんまりを決め込んでいたが、突然とも言えるそのタイミングで声をかけたものだから、一つ目小僧は思わずのけぞる。その様子に骨女はふふ、と笑い、一つ目に続きを促した。
「それがよぉ、噂をしてる割には、みーんな死んじまってるってよ?話すもみんなが噂してるもんだからさ、だーれも信用しねえんだ。ただの都市伝説だろってさ!」
「あらあ。人間、そういう類のものは好き好んで流すくせに、いざ『本物』が出てきたと思ったら尻込みするのねえ」
「仕方ねェさ。人間っつぅもんは、『自分とは別の存在のものとの会話を拒む』もんさ。都市伝説もそういうもんだろう。話は聞いてて面白いが、実際に現れたら人間は逃げるぜ?面白いようにな」
「姐さんがそれ言う〜?」
からかうように一つ目は言うが、あっしはまた別もんさ、と涼しい顔で受け流す。いつの間にか点けていた煙管を口にくわえ、煙を楽しむ。
「とにかくだ。遅かれ早かれ、麓の村にも来るかもしれねえよ。これはもう出るしかねえんじゃないか、姐さん」
「まて、一つ目。その八尺様がこの村に来るという確証がない。急いで動くのは危険だ。まだ事を静観すべきだろう」
「ぐぬぬ、青坊主の旦那まで……」
「一つ目くん、そんなに外に行きたいのかい?なら今夜あたり僕と出かけようか」
「鎌鼬の兄さん!っくぅ〜やっぱ鎌鼬の兄さんがいて良かったぜ!」
「こーらこら、甘やかすなィ」
『青坊主』が止め、一時はこれで引き下がるかと思われたが、横からの『鎌鼬』の甘言に台無しになる。それを御幸は止めようとそう言うが、すっかり図に乗った一つ目はその場でぴょんぴょんと跳ねる始末。やれやれ、話を最後まで聞くのはどっちだ。ふぁ、と口から煙が漏れ出す。
「やれやれ。そんなに見てぇんなら今夜あたり見てきたらどうだィ。いるかもわからねぇけどな」
「いたらまっさきに姐さんに伝えるぜ!」
「……若造、本当に良いのか。こやつをいかせて」
「鎌鼬もいるしまだいいだろ。まだ」
「なぁん」
「あとは社会見学的なやつだ」
「御幸ちゃん……もしかして、めんどくさいっておもってる?」
「さぁてあっしは昼寝と洒落込もうかね」
「逃げたな」
会議は終わりだ、各自解散。図星をつかれたのか、そうでないのか、単に眠いだけなのか。御幸は返事を返すことなく、やけに大きな独り言を吐いたと思ったら、猫又を抱えて別の部屋へと去っていった。その後ろ姿を見て、青坊主はため息をつき、骨女はあらあらとおかしそうに笑い。
残りの鎌鼬と一つ目小僧は、今夜のことで話が持ちきりであった。
◇
真夜中。誰もが寝静まる丑三つ時。御幸ですらも熟睡中。一つ目小僧と鎌鼬はワクワクしながら山の麓の村、いや街へと降りてきた。流石にこんな時間にであるっている人間は少ない。表立って堂々と自分たちが歩けてしまうくらいである。
一つ目小僧は今このときが大変に楽しいのか、口元も、一つの目玉の目元もゆるゆるに緩んでいた。それを鎌鼬がヨイショと治すのだが。
「八尺様いるかねえ、鎌鼬の兄さん」
「うーん、それは実際にあってみないとなあ」
「だーよなー」
からんからんと下駄を鳴らしながら歩いていると、突然鎌鼬が一つ目小僧をぐいっと引っ張り、物陰に隠れる。あまりに突然のことだったので、一つ目小僧は何すんだよと語気を強めるが、しっと口に蓋をされる。何かいるらしい。
鎌鼬はそうっと気になる方向を見る。一つ目小僧の下駄の音にまぎれて、もうひとつ靴音がしたのだ。そう、今見ているそちら側から。
完全に姿が見えるようになると、そこには若く窶れた男が歩いてきたのがわかった。どこかやせ細っているようだ。一体どうしたことだろうか。手には酒瓶をもち、ふらふらと足元がおぼつかないようで、いろいろなものにぶつかってしまうほど。
なぜそうなってでも酒を飲んだんだ?いや、そうなった理由はなんだ?あれだけの若い人ならば、普段のご飯もガツガツと食べきりそうなのに。鎌鼬は疑問に思ったが、次に耳にした音で、完全に理解した。
『ぽっ ぽぽっ ぽぽ ぽ ぽ…』
その若い男の背後から、そんな不可解な音が聞こえてきた。まるで自らそう『発している』かのようだ。よくよく見れば、男の背後には、『八尺ほどの身長で、白のワンピースに白の帽子、やたらと長ったらしい黒髪を持った女』がいた。これはまさか、いやもしかしなくとも。
『ぽぽ ぽぽぽっ… ぽっぽぽ』
気がついたときには、鎌鼬は一つ目小僧を連れて、音もなく逃げていた。
『ぽ ぽぽ』
たしかにそいつは、『こっち』を『見た』。
次回更新日 8/17