複雑・ファジー小説

Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.10 )
日時: 2018/08/18 23:33
名前: 流聖 (ID: m.NeDO8r)

真似琴マネキンヲ好イ人ダト思フ

マネキンが好きだった。完璧な美しい体を持っているのはマネキンだけだったから。
足が特に好きだった。太股の太さ、脹ら脛のふとさ、太股から脹ら脛にかけてのライン、骨格、肉付き、膝小僧の出具合、足首の引き締まり具合。全てが美しい。思わず頬擦りしたくなる。顔は、顎の角度、目の大きさ、口角の上がった唇、唇の太さ、大きさ、鼻の大きさ、高さ、顎の出具合、頬骨の出具合、額の面積、目と眉の距離、といったところをよく見ていた。自分のお金でマネキンを買ってしまうくらいには好きだった。生身の人間にこれほど均整のとれた体を持つものはいない。そう思っていたが、ついこの間、見つけてしまった。

「君って、ほんと…綺麗だね」

そう正直に言うと彼は驚いた顔をした。もしかして今まで気づかなかったのだろうか。彼はおそらく障害者だったが、その美貌を前にすれば霞む程度のものだ。何てことない。それよりも、僕は彼をとにかく愛でたかった。写真を撮って眺めたい。一日中ずーっと。一緒にいればいるほど彼を美しいと思う心は膨れ上がった。凄い。いつどう見ても彼は美しい。どのアングルからでも、どんな状況でも、彼は美しいのだ。どれだけ彼が馬鹿でも、その美しさはいささかも否定されない。美しさを抑えなければいけないほどの美しさ。まるで天使。人の姿をして地上に舞い降りた天使。羽をもぎ取られて帰れなくなった天使。彼の美しさがここにいるべき者じゃないと訴えている。汚れたどろどろのぬかるみを美しい素足で歩くのが君には相応しい。飛べないのだから。

「君は、綺麗だっ。僕は君が好きなんだ。付き合ってほしい。」

君を一生愛でるには付き合わなくちゃいけないんだ。この際性別の壁は無視しよう。

「世の中から離別しよう!無理に同調しなくていいんだ!誰も何も君を呑まないし圧さないし傷つけない。たった一人の莫大な寵愛で閉じ込められればいいんだよ!そうすれば君は、天使だってこと、忘れられるから。」

君は世界の終わりを告げられたような、絶望した顔だった。この世の中では君は生きていけない。飛べないのに浮いて、同調圧力をかけられるほど孤立するんだ。でも大丈夫。君の足は世の中から離別するために歩めるはずだ。道は僕が用意した。それが嫌なら飛んだふりにも付き合ってあげよう。僕が空になる。それか沈むとこまで堕ちればいい。底から僕が引きずり下ろすから。

「君が好きなものを僕も好きだと思えなくてごめん。付き合えない。」

彼はうつむいて泣きながらそう言った。泣いてる顔も綺麗だなぁ。マネキンは簡単に手に入ったのになぁ。僕をふらなかったマネキンは結構いい奴なのかもしれない。やっぱり生身の人間に僕の理想とする者はいないんだ。これから天使はどんどん傷つけられて歩くのだろう。美しいままで。きっとずっと永遠に。