複雑・ファジー小説

Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.18 )
日時: 2018/08/30 19:58
名前: 流聖 (ID: Hh73DxLo)

最後には噛みつくような関係になりたい。

「新しい血に、乾杯。」

カラン、と心地よい音色を奏でてグラス同士がぶつかり合う。ワイングラスに入ったその新鮮な赤い液体は私達の大好物だ。高級なお肉よりも、希少な珍味よりも、好きな人の想いが込められた料理よりも、好きなもの。それは血だ。紅く、美しい、さらさらの血液。それは神の葡萄酒である。すなわち私達が好物として飲んでいるのは言い方を代えれば葡萄酒。つまりヴァンパイアこそ神。十字架とかにんにくとか銀とか日光とか、弱点は多いし、年々数も減少してきているけれど、私達こそ牙を得た唯一無二の神なのだ。

「ふふふ、やっぱり血は美味しいなあ。だろう?ニンゲン。」

ヴァンパイアのくせにこの人は血を飲むと酔ってしまう。滑舌がうまく回らなくて紫の神秘的な瞳は微睡んでいる。白く精鋼な牙を無防備に見せ、青白い肌は珍しく赤らんでいた。美味しいだろうなんて言われてもよくわからない。ニンゲンの私には。そもそもこの人が飲んだ血は私の、まあ、あれだ。毎月女の子だけにくるせいりってやつだ。
飲まれてもこちらに損はなく、相手も得を得る。ヴァンパイアと月経を迎えた女子は、例えるなら猛暑とコーラ、食事とレンアイ。それと同じくらい結び付きが強い。

「吸わせろ、ニンゲン」

強引だなあ。でもそれくらいが丁度いい。がぶっと噛みついて、血を吸って、私の一部があなたのものになる。たぶんこれってすごく素敵ですごくおかしい事だ。でもね、私ニンゲンじゃないのよ。

「ニンゲン、じゃないわ。私には名前があるのよ。」
「ニンゲンはニンゲンだ。ならば問うぞニンゲン。お前は虫けらの顔の区別がつくか?」
「つかないわ。でもそれとこれとじゃ違」
「違わない。虫けらの顔の区別をつける必要がないように、ニンゲンに区別をつける名前など必要ない。名前が必要なのは個々として価値ある生き物だけだ。」

名前は必要ない。私には必要ない。名前というレッテルにすがることも、守ることも、必要ないのだ。彼が言いたいのは、私が言ってほしいのは、きっとそういうこと。
窓から見えた月は一片も欠けていない、満月だった。月なんて所詮黄色いボールよ。誰にも何もすがらず守らず真の存在はあなただけ。そう、onlyヴァンパイア。