複雑・ファジー小説

Re: チュリーロゼッタ、可愛い君は ( No.9 )
日時: 2018/08/18 22:22
名前: 流聖 (ID: m.NeDO8r)

君って、ほんと…

「君って、ほんと…」

よく言われた言葉だ。続きは馬鹿だねとかアホだねとか。それは失望の言葉。自分が見捨てられたという印だ。自分でもどうしてこんなに馬鹿でアホなのかわからなかった。彼等は決して僕に悪口を言った訳じゃない。本当の事を指摘しただけだから、相手を傷つけようが傷つけまいが本当の事なら悪口じゃない。悪いのは僕だ。ママがそう言っていた。妹は頭がよくて100点をよくとっていたのに、僕は100点を取ったことがない。でも僕は頑張っている。つもりだ。はずなんだ。100点をとれなかったら頑張っていないということだろうか。夜中まで起きてノートに百回ずつ明日のテストで出そうな感じを書く。結局次の日のテストで書けた漢字は3問だけだった。当たっていたのは2問。何回も同じ問題を解いて音読してみたり、頑張ってるつもりなんだけど、どうしてもテストの結果は散々だった。

友達はあんまりいなかった。僕は人の話を聞けない馬鹿だから、何度も聞き返してしまった。適当に相づちを打つと話が噛み合わないし、何度も同じことを喋らせるのは良くない。それはよくわかっている。わかっているし、話を聞くときは全身の神経を研ぎ澄まして集中してる。それでも全く頭に内容は入ってこなかった。特に早口で一気に大量の情報を話されると頭が混乱した。ゆっくり、何度も、聞かないと理解できなかった。

部活は卓球部に入っていた。たまに審判をするのだけれど、その時も僕は馬鹿だった。例えば、Aさんが打った玉がオーバーしてBさんのコートに入らなかったとする。そしたらBさんの点になる。たったそれだけのことなのに、僕はわからなかった。Aさんが打った玉がオーバーしてBさんのコートに入らなかったという部分はちゃんと見ている。くっきりはっきり視界に映った。だけど、見えただけで、それがBさんの点になることがわからなかった。いや、何故Bさんの点になるかはわかっている。ルールもちゃんと理解している。でも=Bさんの得点になるというところまでに進まないのだ。状況の情報を視界から得て、脳で処理するとき、処理するとこの状況はつまりこういうことだとわかるのだが、僕は情報処理が異様に遅かった。

それによくじろじろ見られた。まるで異物を見るような眼差しで。異常に頭が悪い僕はここまで悪いと寧ろ珍しいのだろう。僕はまるで奇怪なもののようだ。僕が問題を間違えたり、教科書を音読したり、給食を配膳しているだけで教室の空気はおかしくなった。女子と一部の男子はそわそわとして大半の男子から敵意が向けられる。世の中に同調できなかった。世の中に押し潰されていっそのことなくなってしまえばいいのに、僕は絶対に孤立して存在していた。僕は特別なんじゃなくて、異質だった。
どうして皆こんなに頭がいいんだろう。どうして僕はこんなに頭が悪いんだろう。僕が頑張っていないからかな。じゃあもっと頑張らないと。頑張れ、頑張れ。
いつの間にか世界を歩めなくなっていた。道が見えなかった。僕が歩んだ後ろは道ではなかった。

「君って、ほんと…綺麗だね。」

彼はうっとりとした表情でそう言った。僕は、綺麗らしい。僕より頭のいい人が言うんだ、本当に決まってる。彼が僕を初めて認めてくれる人だった。彼は僕に合った学校を選んでくれた。そこは、勉強を馬鹿にする環境だった。勉強はカッコワルイ。カッコイイのは女の子と遊ぶこと。そこに頭の良さは関係なかった。必要なかった。ほんの少し声をかけて、笑って、触れれば、女の子は遊んでくれた。僕は少し世の中に同調できた気がする。世の中と同じ色に染まって僕は飛ぶ羽をもぎ取られた。どうせなら歩む足を奪って欲しかった。