複雑・ファジー小説

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.31 )
日時: 2020/08/10 06:52
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

一瞬、何が起きたのか把握できませんでした。
爆発音がして、その直後にムースさんに顔をテーブルに叩き付けられたことは確かです。
なぜ、ムースさんはそんなことをしたのでしょう。
直前の言葉から察するにわたしの身に危険が迫っていたことだけは間違いないようです。彼女が手を頭から離しましたので、顔を起こして見店内を見渡して状況を確かめます。すると、わたし達を除いてお店には誰一人としておらず、カウンターには大穴が空き無残にも破壊されていることがわかりました。
きっとカウンターの被害は先ほどの爆発によるものなのでしょうが、一体誰がこのようなことをしたのでしょう。何の予告もなく攻撃を仕掛けるというのは卑怯ですし、罪もない一般人を巻き込む可能性だってあるのですから、決して許しておけない行為です。
砕け散った窓の外を見てみますと、道路に誰か立っています。
道の真ん中に堂々と立っていては車の邪魔ですから、どういう意図かは知りませんが、どいてもらわなければなりません。いくら破壊されているからとはいえ、窓から出るのはあまり良くないので、扉から外へ飛び出しました。もちろんムースさんも一緒です。近づいて道路にいる人物をよく見たわたしは、驚きのあまり小さく息を飲みました。何と、人間ではないのです。スポーツカーのようなド派手な赤い細身のボディを輝かせ、目と鼻のないつるりとした顔の中心には緑色の光を放つ一つ目があります。相手は特撮番組にでも登場しそうな近未来風のロボットだったのです。機械ですし言葉が通じるかわかりませんが、わたしは彼(?)に近づき口を開きました。
「あなたがお店を爆発させたのですか」
「そうだ。お前達二人の始末を依頼されたからな。だが、こうして生き伸びるとは手間がかかる。先ほどの一撃で消えていれば良かったものを。面倒臭ぇ」
感情の無い機械合成音のような声で、謎のロボットは告げました。目的はわたしたちを殺めることにあることはわかりました。
被害を顧みることなく淡々と任務を遂行しそうな言動からは機械特有の冷徹さを覚えます。
「冥土の土産に教えてやろう。俺はハント=ニュートライザー=オメガ。略称はHNΩだ」
「HNΩ……あなたが!?」
ロボットの名前を聞いた途端、ムースさんの顔が一気に青ざめました。
わたしの手を握る力が強くなり、微かに震えているのがわかります。
「ムースさん、知っているのですか」
「ええ。嘗てスター流のメンバーを次々に殺害し、壊滅状態に追い込んだ殺し屋機械人形がいるという話は、地獄監獄で散々耳にしましたわ。
まさか、彼がHNΩとは、初めてその姿を見ましたわ」
ムースさんの反応にHNΩさんは目玉を不気味に点滅させて。
「せめてロボットと言ってほしいところだが、お前達と会話するのも面倒臭ぇ。さっさとこの世から消えてくれ」
彼が右腕を上空に掲げますと、瞬時に彼の右手には銀色のバズーカ砲が握られていました。
「カッコいいだろ?
俺の愛用武器、シグマ=ミキサー=ドライブ=キャノン。通称ΣMDC。
これでお前達を塵にしてやる!」
彼は標準をわたしたちに合わせ、無慈悲に引き金を引きました。
銃口から放たれる深緑色のエネルギー弾は、ボウリングの玉ほどの大きさを誇っています。弾くことは可能でしょうが、弾く方向によっては街に被害を及ぼすこともありますし、何より隣にいるムースさんに危険が及ぶでしょう。
ここで取るべき策は一つしかありません。
わたしはムースさんを掌底で後方に吹き飛ばし、手と足を精一杯延ばしてエネルギー弾を待ち構えます。
わたしは攻撃を反射できるのですから、人を守れるはずです!

美琴は身体を張ってエネルギー弾を食らい、ムースと街を守った。
だがその代償として全身は緑色の光線に包まれ、激痛のあまり悲鳴を発する。光線が消えた後、彼女は服を黒焦げにし、両膝から崩れ落ちるようにして倒れた。
「美琴様!」
慌てて駆け寄るムースに彼女は弱々しく笑みを浮かべる。
「ムースさん……」
「大丈夫ですの!?」
「心配しないでください。これくらい何でもありません……」
苦痛に顔を歪めながらも立ち上がる美琴に、HNΩは電子音を発して嘲笑した。
「よく耐えたと言いたいところだが、その様子では止めを刺されるために立ち上がったとしか思えんな」
「違いますわよ」
美琴の代わりに口を開いたのはムースだ。彼女はHNΩを指差し。
「ポンコツの機械人形であるあなたはご存じでないのも当たり前でしょうが、美琴様はあらゆる攻撃を何倍にもして跳ね返す能力を持っていますの」
「あらゆる攻撃を何倍にもして跳ね返す……だと!?」
「あなたの攻撃もすぐに反射してご覧に入れるでしょう。そうですわよね、美琴様」
美琴に返事はない。だが、彼女の肉体や肌からダメージが癒えてきていることからムースは彼女が何をしようとしているのかを察した。
嘗て自分と闘った時も同じような現象が起きたことを思い出しながら、ムースは得意気に告げた。
「あなたのご自慢の光線銃がアダとなりましたわね。激痛を味わうのはあなたの方ですわ。さあ、わたくしに存分にアルトの断末魔を聴かせてくださいな」
表情こそ変わらないものの、一、二歩後退し頭を抱える様子にムースは勝利を確信した。
彼女の無敵の能力の前では光線銃など玩具以下の武器でしかない。
相手が悪かったと後悔しながら、破壊していく姿を見せてほしい。
期待に満ち溢れた歓喜の笑みを顔に貼りつけるムース。
「オーッホッホッホッホ!
無様ですわね。そのままスクラップになって焼却炉で燃え尽きるのが、あなたにはお似合いですわよ。
お馬鹿な機械人形さん」
勝ち誇ったムースが彼を煽ったその時である。身体の治癒が完了したはずの美琴が再び倒れ、地面を七転八倒し悶絶し始めたのである。
突然の異変にムースは困惑する。
「何が起きたのです!?」
「どうした、俺に光線を跳ね返す算段ではなかったのかな」
「あなた、何をしましたの!」
掴みかからんばかりの勢いで睨むムースにHNΩは地面に突き刺していた愛銃を拾い上げ。
「俺の銃は対能力者用に作られている。まともに食らったら能力を一日封じられる効果があるんだよ」
敵から放たれた衝撃の事実に、ムースは言葉を失った。
一見治癒しているように見える美琴だが、よく見ると定期的に身体に緑色のスパークが現れる。
これは先ほどの光線を受けた影響と見て間違いない。彼女は光線の力に蝕まれているのだ。
今の美琴は能力が使用できない。
それ以前に激しいダメージで闘うことも困難な状態だ。
もしもこの状況下でもう一度光線を受けたら、彼女は間違いなく力尽きる。
そこまで考えた時、ムースは全身に寒気を覚えた。実際の寒さではなく、相手の能力に恐怖を感じたからである。
だが、ムースは逃げるという選択肢を取らなかった。
それどころか倒れている美琴を背にして、HNΩにコルセットの裾を持ち上げ、礼をする。これは彼女が戦闘態勢に入ることを意味している。
「ムース……さん……」
蚊の鳴くような小さな声で相棒の名を呼ぶ美琴。その声を聞いたムースは頷き。
「今日は趣向を変えて機械油と音声合成音の悲鳴が聴きたくなりましたの。この勝負、わたくしに譲ってくださいな」