複雑・ファジー小説
- Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.38 )
- 日時: 2019/09/07 16:40
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
ムースはロボを担ぎ上げたまま、豪雨の中で跳躍しては着地を繰り返す。落下の速度を合わせることで、より彼の身体をヘシ折りやすくしているのだ。自らの身体からネジやナットが放出されているのを見て、ここにきて初めてHNΩは自身が少なからず損傷を受け始めていることを悟った。ロボに痛覚がないとはいえ、体を構成する骨格や回路などは存在する。それを切断されてしまえば、流石の彼も機能停止という道を辿らざるを得なくなる。
それだけは御免だ。
人間、それも少女に破壊されたとあっては殺し屋ロボとして轟かせてきた地位も名誉も地に落ちる。
そんなことはあってはならない。
成し遂げた依頼は一〇〇パーセント遂行する。同じ台詞を口にして三下の李如きに呆気なくやられた目黒怨とは年季が違う。
俺の方が強く、依頼金も高い。
やつと同格かそれ以下になってしまえば、依頼主は減り、金は稼げなくなる。惨めな思いは御免だ。
俺はこれからも大金を稼ぎたい。
稼ぎまくって自らを改良し、必ずやあの男を倒したい。
ここで破壊されては俺の夢は幻に終わる。それだけはいけない。暇潰しにはなるかと期待したが、少々面倒臭いことになった。この女も依頼の対象に入っている。
わざわざ遊ぶ理由はないはずだ。
仕方あるまい。
少々後始末に手間はかかるが、依頼を達成できないよりはずっといい。
あと一分。残り一分ジャストでこの女を始末し、その後は美琴の番だ。
「次で終わりにしよう」
ムースの反らす力が弱まったのを察知したHNΩは顎と太腿のクラッチを外して技から脱出。
右腕を剣状に変形させ、一気に間合いを詰めてムースに斬りかかる。
全ての力を出し尽くしたムースにそれを躱す体力はなく、腹部に斬撃を食らってしまう。だが、彼女のコルセットのみが切断され腹を露出させるだけにとどまった。
「浅いですわね。そのおかげでわたくしはこんなはしたない恰好をさせられる羽目になりましたわ」
冷や汗を流しながらも軽口をたたく彼女にHNΩは電子音で笑い。
「今のは俺の最終奥義の序曲に過ぎない。本当に恐ろしいのはこれからだッ!」
ムースを左腕で首を絞めながら高々と抱え上げ、空いた右腕を鋭利な細槍に変換させる。
HNΩはムースのへそに細槍を根本まで深々と差し入れた。
彼女の縦長のへそから体内に侵入した槍は彼女の身体の中で無数に分裂し極細槍と化し、五臓六腑を貫いた。無数の槍は背中まで貫通し、彼女の背後から鮮血が迸る。
「がはっ……」
口から血を噴き出し、ムースの青い瞳は白目を剥く。
「任務完了だ」
体内から腕を引き抜いたHNΩは、血染めとなったムースを蹴飛ばし踵を返す。
「まずは一人目は始末した。次は美琴の番か」