複雑・ファジー小説

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.44 )
日時: 2019/09/12 08:56
名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)

スターはメープルの所に派遣する二人を美琴と不動にしようと考えていた。美琴は前回のカイザー招集任務において見事に成果を出しているし、不動の戦闘力は折り紙付きだ。女性と対峙すると弱体化する泣き所を抱えているものの、それは美琴がフォローするだろう。彼らは普段からよくスパーリングをするので相性も良いだろう。彼はそのように考え、机に並べた門下生達の顔写真を片づけ、部屋の電気を消そうとした。
その時、深夜の会長室に響く不敵な笑い声が一つ。
「フフフフフフフ、偉大なるスター様。本当にそれでよろしいのですかな」
声の主はジャドウ=グレイだ。彼の白の軍服は部屋の光を浴びて眩いばかりに光っている。
音も無く一切の気配も感じさせずに出現した彼をスターは歓迎し、ニコニコと微笑む。

「久しぶりだね、ジャドウ君。今回はどこへ行っていたのかな?」
「南の島にバカンスに行っていたのですよ」
「そうかね」

スターは彼の言葉が嘘だと見抜いていた。
彼が自分から姿を晦ます時は殆どが良からぬことを企んでいる時だ。重度の女性嫌いであるジャドウが水着姿の女性が数多くいる南の島に行くわけがない。彼はそれを知っていたが、追求することはしなかった。その必要がないからだ。
ジャドウは一瞬、スターの前から姿を消した。
そして次に気づいた時には机の前に立っていた。
所謂高速移動をしたのである。
彼は机の上に置かれた写真を見下ろし、言った。

「メープルが脱獄し、彼女を捕らえる者がこの二人というのですな」
「何か不満でもあるのかね」
「スター様がそれで良いのでしたら、一向に構いませが、吾輩の目から見てあなたはこの人選に納得がいっていない」
「……よく気づいたね。その通りだよ。では、君ならどうする?」
「そうですな。吾輩なら、このようにします」
ジャドウは不動の写真をとり、代わりにヨハネスの写真を美琴の隣に並べる。
「何故、このメンバーにしたのかね」

訊ねながらも、スターの目はキラキラと輝き、口元には満面の笑みが浮かんでいる。ジャドウはほんの僅かの間を置いて告げた。

「不動は強いだけで華がありませんからな。美琴と不動は関わり合う時間も多い。これでは、スター流の絶対的な掟を破る可能性もあり得ます。それに引き換え、ヨハネスとのコンビは新鮮ですし、見栄えも良い。そして何より——」
「掟を破る心配がない」

ジャドウの言葉をスターが締めくくった。
スターは笑いが止まらなかった。彼はどうしてこうも的確に自分の欲望を見抜き、それを叶えてくれるのか。

「流石はジャドウ君だ。では、明日このメンバーを会議で発表するよ! 君は参加するかね」
「折角の申し出ですが、お断り致します。ネタを知っていては楽しみが半減しますからな。それに、古い友人に顔を見せたいと思いましてね」
「それは誰かな」

ジャドウはその疑問には答えず、くるりと踵を返し、扉へと歩き出す。そして含み笑いをして。

「ヒントを一つ差し上げましょう。スター様がよくご存じの方ですよ」

ジャドウが扉から外へ出た後、スターは思案する。
自分が知っている人物でジャドウの友人。
おかしい。彼は友人などいないはずだ。
そうなると自分が心当たりがあるのは——
ここまで考えてスターは気づいた。
彼が会いに行った人物はやつしかいない。

「ジャドウ君は相変わらずとんでもないことを考える」

自分の右腕の知略にスターは満足し高笑いをした。

翌日。スターはジャドウの助言通りのメンバーを会議で発表した。その点に関してカイザーと不動は不満はないのか、無言を保っている。だが、美琴は違った。顔は青ざめ、口には引きつった笑みが見え、机に置かれた両手が微かに震えている。紛れもなく動揺している証拠だ。
ヨハネスとは組みたくない。彼女の全身から放つ意思を感じ取り、スターは満足だった。
ムースと美琴のコンビも女同士の友情とそれを超えた何かを感じられて面白かったが、今回の凸凹コンビも楽しませてくれそうだ。

「それでは会議を終わりにしよう。美琴ちゃん、ヨハネス君、頑張ってくれたまえ!」
「はい……」
「僕達にできないことはないよ」

蚊のなくような小声で返事をする美琴に、自慢の髪をさらりとかき上げ、優美な微笑むヨハネス。
相変わらず美しい子だ。性別を忘れそうになるほどに。
だからこそ、美琴ちゃんは彼が男子であることに気づいていない。女子だと思い込んでいる。わたしが君付けで彼の名を呼んでも察しないほど彼女は鈍い。
それだけに、性別が明らかになった時、どんな反応を見せるのか実に楽しみだ。彼らに背を向け会議室を後にするスター。
彼は聞き逃さなかった。美琴が小さくため息を吐いた音を。