複雑・ファジー小説
- Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.47 )
- 日時: 2019/09/12 09:11
- 名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)
美琴の猛反撃を受け、押されながらヨハネスは考えた。
仲間を守るためなら彼女はこれほどの力を発揮することができる。彼女が自分を相手にどこまで力を出せるのか、確かめる価値はある。仮に自分を倒せなければ所詮それまでの者だったというだけだ。
不意にヨハネスはリングから降りるとエプロンの中に隠れた。
場外乱闘を良しとしない美琴が待っていると、彼は鎖やメリケンサックなど、多数の凶器を持ってリングに舞い戻る。
「また凶器に頼るのですか」
「その逆だよ。僕が凶器に頼らざるを得ない程、君は強いということさ」
真っ直ぐ突進して彼女の首に鎖を巻き付けると、渾身の力で引っ張り、ぐいぐいと首を絞めていく。
コーナーの最上段に昇ると、彼女を引き寄せながら、より一層鎖を持つ手に力を込める。美琴は顔を青くしながらも、鎖に手をかけ、握力で引き千切った。
コーナーから飛び上がり放たれたニードロップの一撃を自爆させ、膝を痛めながらもメリケンサックを両手に装着して襲い掛かる相手の攻撃を俊敏な動きで全て躱してのけ、手首に手刀を打ち、武器を離させた。
武器を全て失い額に汗をかきながらも、ヨハネスの瞳の闘志と口元の笑みは揺るがない。彼にはまだ勝算があった。
「正直言って、君がここまで僕を追い詰めるとは思わなかった。驚いている。でも、最後に笑うのは僕だよ。何故なら、僕にはまだ奥の手があるからね」
彼はニヤッと笑うとシャツの袖を捲り上げた。
「見せてあげよう。僕の最高必殺技を!」
すると彼の両腕が黄金色に発光し、鋭利な刃へと変形した。
「受けてみよ。僕の最高奥義、聖剣拳を!」
突風のように突進したヨハネスは、黄金に輝く右手を大きく振り上げる。
手刀を見舞うと察した美琴は腕をX字にして防ごうとする。しかし彼の掌から発する異様な輝きに生命の危機を覚え、慌てて跳躍した。
刹那に下ろされた刃は、背後にある鋼製のロープを容易に切断するだけにとどまらず、地面に亀裂を走らせ、練習場の壁も破壊。あと一秒跳躍が遅れていたら、自分はあのロープのように一刀両断にされていただろう。恐るべき聖剣拳の威力。
美琴は相手の最強奥義に戦慄し、ほんの一瞬、動きが硬直した。
「隙ありだッ!」
ヨハネスの必殺の手刀が唸り、美琴の身体にいくつもの斬撃を浴びせる。
斬られる度に美琴の身体からは大量の血が噴き出し、衣服は赤く染まっていく。
空中で斬撃を無防備で受け続けた美琴は、自分の血で出来た血の池に落下し、ピクリとも動かない。
胸には斜めに斬られた痛々しい傷跡が刻まれている。
ヨハネスは自らの頬に付着した彼女の血を指で拭き取り、それを舐め。
「少し、やり過ぎちゃったかな。でも、これが勝負なのだから仕方がないよ」
当然ながら美琴に反応はない。瞳孔は見開かれ、呼吸は完全に停止している。
「それじゃあ、僕はムースの処刑をスターさんに頼んでくるよ」
踵を返し、リングを降りようとしたその刹那、ヨハネスは背後に気配を感じ、振り返る。するとそこには、傷だらけになりながらも、震える足で立ち上がる美琴の姿があった。
「まだ、勝負は終わっていません!」
「馬鹿な。なぜ、あの状態で立ち上がれるんだ。僕は完全に止めを刺したはずなのに」
予想外の事態にヨハネスは動揺するが、その視線が美琴の胴に向けられた瞬間、謎は解けた。
彼女の傷が徐々に塞がってきているのだ。それは能力が解放された証。
つまり、薬の効果が切れかけていることを意味する。
だが今なら間に合うはず。彼女は虫の息。
あと一撃で僕の勝利が決まる。
焦りながらも貫手を彼女の胸目がけて放つヨハネスだったが、手刀が直撃するよりも彼女の能力の開放が速かった。
「……ごめんなさい」
小さく呟き涙を流す美琴。それはこれから自分が彼に無意識に与える苦痛への謝罪だった。
「いいんだよ」
ヨハネスが微笑み返したのと同時に、自身に聖剣拳の威力が跳ね返り、血達磨となった彼は仰向けにリングに倒れた。
対する美琴も体力の限界で同じように轟沈。
彼らに立ち上がる力は残されていなかった。
「引き分けか……」
美少年は額に手を置いてため息を吐く。
「仮にも僕が持てる力を出したのにも関わらず引き分けに持ち込むなんて、君は大した奴だ」
「ヨハネスさんの執念には驚かされました。わたしはこれまで勝ち方にこだわって勝ちたいという意識が薄いところがありました。ですが今日、あなたの勝利に対する執着を見て考えが変わりました。時には絶対に勝たなければならないと気合を入れないといけない時もあるのだと」
「そうか。それが学べたのなら良かった。僕達は如何なる闘いにおいても勝たなければいけない。たとえどんな醜い形であっても勝利をもぎ取らなければ、悪から人々を守ることはできないからね。負けて反省し、そこから成長することもあるけど、そんなことを言えるのは練習試合だけだよ」
「ヨハネスさん、これからも色々と学ばせてください」
「勿論だよ。僕の新しい相棒」
二人の拳と拳が軽く触れ合い、彼らの絆が生まれた瞬間だった。