複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.29 )
日時: 2020/01/08 23:56
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「例の調査はどうなっている」
「はい。メシアの揺り籠の『神父』を使って進めさせていますが……収穫がありました」
「と言うと?」
「……失踪していた信者の子供が見つかり、かつマグノリアの本拠地を掴みました」

 薄暗い部屋で、若い女と初老の男が会話をしていた。女の手には報告書かなにかと思われる紙の束。対して男は女の目の前で足を組み、ふむ、と自らの顎を撫でた。その口元はゆるりと上がる。まるで、無くしていた玩具をやっと見つけた子供のように。
 男は女に向かって手を伸ばす。書類をよこせと言っているのだろう、それを察した女は何も言わずにそれを手渡した。やや乱雑にそれを受け取ると、男は椅子の背もたれに深く背中を預けると、パラパラとめくり出す。そしてあるところで気になるものでも見つけたのか、ぴたりとその手を止めた。

「『奴』も…いるのか」
「はい。その反応が強く出ていましたので。ただ推測の範囲を出ていませんが」
「……ふぅむ。これは中々」

 面白そうに小さく笑うと、紙の束をばさりと目の前の机に置き捨てる。しばらく沈黙がその部屋に流れると、男は女の方へと向き直り、ゆっくりと口を開く。

「引き続き『神父』を使おう。信者の子供はそちらに投げておけばいい。『神父』のフォルテはこちらとしても有効利用したいところだからな」
「我々はどう致しますか?」
「マグノリアか?まだ放置していてもいいだろう。今すぐなにか起こるというわけでもない。それに」
「それに?」

 男は全てを見下した目で、面白げに呟く。

「所詮は『社会を録に見れていない子供の反抗期』だろう?」





「目的地へ到着しました」
『了解。周囲を警戒しながらメシアの揺り籠への本拠地をめざし、その途中状況を逐一報告してください』

 時雨、泥、そして理の3人は予め伝えられていた目的地───メシアの揺り籠本拠地である神奈川県の某所より10キロ離れた地点に降り立つ。司令室のオペレーターに状況を伝えると、ぐるりと辺りを見回す。特に危害となりそうなものは見えない。今のところは、だが。

「泥、理さん。何かあったか」
「いや何も。というか時雨が何もないって思ったら僕達でも何も無いよ」
「…同意である」

 すっと静かに口を開き、その後胸元のロザリオを口元によせ、口付けた。そして目を少し細めると、ほう、と息をつく。
 聖職者のような容姿をした彼の名は遠山 理(とおやま さとる)という。自らが信仰する『神々』が何よりも絶対だと信じている、敬虔な信徒である。故に神の名を騙り、悪事を重ねる連中が許せなかった。だからこそ今回の『メシアの揺り籠』の件で出撃命令が出た時、いの一番に出撃ポートへ向かい、許可が出された瞬間に己のフォルテを使って武器を『造り出し』ていた。さすがに時雨と泥が止めさせたが。

「取り敢えずここで突っ立ってても何も進まないし、周囲を警戒しながら行くぞ」
「周りから僕達は見えないようになってるんだっけ?」
「服装が目立つからな」
「……否定はしない」

 3人はそれぞれに言い合いながらも、まずはメシアの揺り籠の本拠地に自然と歩みを始めた。

 今回課された任務は『メシアの揺り籠をこちらから手を出さずに壊滅させること』、そして

『電堂芳賀の両親の殺害』である。





 同時刻、マグノリアのフォルテッシモ出撃ポート。2人の男女が今まさにフォルテッシモに乗り込もうとしていた。その2人のうちの1人の男、電堂芳賀こそが今回の任務のキーパーソンである。ゆらゆらと不安定な動きをしながらも、自らのフォルテッシモへと歩み寄っていく。心做しか、目の焦点があっちこっちいって定まってない。出撃させて大丈夫なのだろうかと不安になるくらいだ。
 もう1人の女は藤山まろん。こちらもケラケラと笑うだけで、言葉とおぼしき言葉を発してはいなかった。そしてこちらも目は真正面を向いちゃいなかった。だが芳賀とはちがい、しっかりとした足取りで自らのフォルテッシモに乗り込む。
 そしてそれを下から見る、メカニック部の一条常盤。眉間に皺を寄せて、2人の様子を見ていた。主に『やらかしてくれるなよ』という気持ちが大半で。その『やらかし』には機体のメンテや本人たちの動きとかも大いに含まれていた。
 特に電堂芳賀は別の意味でも、眉間に皺を寄せてしまう案件だった。理由としては───

「実兄があんなんなって自分の設計したフォルテッシモじゃなくて、完全オリジナルで作り上げちまったヤツに乗られちゃ妹としては複雑ってか」
「どぅわ!」
「おいおいんな驚かなくてもいーだろが」

 思ってたことを全て後ろから出てきた男──狂示に言われてしまい、若干顔を青くして彼から飛び退く。そんな常盤にケケケと笑いながらバスバスと背中を叩く狂示。顰めっ面をしてその手を振りほどくと、また2人の方へと目線をやる。

「……まー、あの2人は大丈夫だろ」
「壊したりしないすか?特にまろんさん…」
「あれ、お前知んなかったっけ?」
「ウチは基本パイロットのことに関してはノータッチって決めてるんすよ」
「んじゃまいい機会だし教えてやろう。藤山まろん、もとい───『藤田ろまん』はな」

 それぞれのコクピットに2人が乗り込む。そのうち、『カオナシ』に乗り込んだまろんは手馴れた様子で操作していく。ある程度操作をして、フォルテッシモを起動させると、突然ガクンと体の力が抜けてしまった。
 だが、それはすぐに終わる。すっと顔を上げずに手を所定の位置に持っていくと、ゆっくりと体を持ち上げる。そうして上がった顔にはめ込まれた瞳には、普段は無いはずのハイライトが光り輝いている。

「───『アレ』に乗ってる時だけ、本来の『人格(おもかげ)』が出てくんだよ」

 にやりと笑うと、狂示はタバコに火をつける。

「───オペレーション起動、感度、視界、その他問題なし。パイロット、機体、共に問題なし。正面モニタ、背後、サイド、共に問題なし。状態良好。確認了」
『───同じく此方も問題なし。いつでも行ける』
「味方機より状態確認報告有。出撃準備完了。これより、目的地に向けて出撃します」

 ゆっくりと2機のフォルテッシモが動き出す。ひとつは顔のない、不気味な雰囲気を纏ったフォルテッシモ。もうひとつは、素早さや見た目を重視した、細身でスタイリッシュなフォルテッシモ。共通するのは、『他の機体とは似ても似つかない容姿』ということ。言われるまで本当にフォルテッシモかどうか疑わしい。
 扉が開かれる。そこを出ればもう目の前には壮大で、『憎らしい』景色が拡がっている。芳賀は内心で舌打ちをし、まろん、否ろまんはただひたすらに前を見つめる。

「フォルテッシモ、『デイジー・ベル』」
「フォルテッシモ、『カオナシ』」

「出撃する(します)」


 異様な2機のフォルテッシモが、飛び出した。


続く