複雑・ファジー小説
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.31 )
- 日時: 2020/09/28 22:00
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「尽く散れ」
そう言い放つと同時に理は血の大鎌を振り上げる。するとどうだろう、それまで己の武器を構えていた門番達は、呆気なく消え去った。耳障りな叫び声を残して。あまりにも早すぎる決着に、時雨も泥も唖然とする。神聖な場所だと言うのなら、その門番はもっと力のあるものが務めるべきだろうと。とはいえ、これで障害はなくなったわけだから、心置き無く教会の中へと入ることが出来る。
と、思ったがつかの間。
「待て…!まだ終わってなどない!」
理の一撃を耐えた1人の門番が、立ち上がって時雨立ちを睨みつける。武器は構えたままで、こちらを絶対に殺さんと目が物語っている。
「無意味に立ち上がるな。『眠れ』」
だがそんな者に慈悲を与えるまもなく、理はまた大鎌を振り上げた。瞬間、門番は努力虚しく消え去った。それに目をくれてやることもなく、さっさとその門扉を開く。あまりにも早すぎる決着に戸惑いを隠せない時雨と泥であったが、もとより目的はこのモノたちでは無いことを思い出し、理の後に続く。
重い音を響かせながら、扉はゆっくりと開いていく。その先に何があるのか、何が行われているのか。
「───おや、来ましたか」
開かれた先にいたのは、1人の『神父』と多数の『子供』。その子供たちは皆、神父が3人に声をかけたあと、くるりと顔を向けた。その目はどれも暗くにごっており、明らかに『生』を感じさせるものではなかった。口は半開き、そして何かを延々と繰り返し呟いているようだ。その光景に思わず時雨と泥は眉をしかめた。
「何をしている……とは、愚問か」
「ええ、全くその通り」
理の問いかけに、神父は当然と言わんばかりに答えた。嘲るような笑みを浮かべながら。
「我らが『救世主(メシア)』様の教えを、希望の子らに説いていただけです。この素晴らしい教えは、彼らによってまた未来へと語り継がれる───しかし、あなた方は残念なことに、それが理解も納得もできないようですが」
「そもそも貴様らの宗教の教えなど、糞にまみれた虚言そのものだろう?そんなものを理解しろと言われてするとでも?」
「ふむ、これは思ったより重症のようだ。魂が汚物に塗れているためにこんな妄言を」
そう言うと神父は、指をすい、と動かした。するとそれに倣うように、子供たちが3人の目をじっと見つめる。口は動きを止めて、ただただじっと見つめてくる。
頃合だと言わんばかりに、神父は動かした指をはらった。まるで『行ってこい』と指示を出すように。
「さあ希望の子らよ、愚かな彼らに『救世主(メシア)』様の教えを、その身をもってして理解させなさい」
瞬間、子供たちは3人にわらわらとくっついてくる。その口はずっと、「めしあさま」「めしあさま」「めしあさま」と繰り返している。引きはがそうにも、子供が足や腕をかなり強く引っ掴んでおり、思うように動けない。
「くそ、離れろっ」
「この子達…思ったより、力強い!」
「ち……外道が」
しまいにはある子供が時雨の首元に到達し、そこに小さな両手をあてがった。そしてどんどん力を込めていく。
「かっ…!」
「時雨!っぐぁ」
時雨の方に手を伸ばそうとした泥もまた、別の子供の手によって、首を絞められる。頭もクラクラとしだし、次第に目の前が暗くなり始めたその時、突如として引っ付いていた子供たちがいっせいに散り散りとなる。一気に解放された時雨と泥はその場に崩れ落ち、激しく咳き込み肩で息をする。
そんな彼らの隣には、子供たちを払ったのだろう巨大なハンマーを手にした理が、神父をぎろりと睨めつけていた。
「……」
「おや、アレを退けましたか。なかなかやるようで」
「喧しい、紛い物の外道が……!」
どうやら自らの『血』を使い、ハンマーを作り出して思い切り衝撃波を作り出したらしい。視界がはっきりしてくると、少し離れた位置に、まるでクレーターのようなものが刻み込まれているのがわかった。
なお、弾き飛ばされた子供たちは、その衝撃で気を失っていた。辺りは動かなくなった子供たちでいっぱいだった。
「───まァ、ここで私をやったとしても、あまり意味はありませんが」
と、不意に神父が笑いながらそう漏らす。
「どういう意味だ?」
「『本体』は別の場所にあるということです。ただここで何もせずに倒されるのは癪ですので……少し『時間稼ぎ』としましょうか」
その瞬間、神父の背中から何かを引き裂くような音が響く。ばりばり、べりべり、あるいは言葉で表せない音。そこから出てきたものに、3人は思わず目を見張る。
それはまるで蛸足、または『触手』と言うようなものが、神父の背中を『割って』、顕現していたのである。
ぐちゅり、ぐちゅりと音が鳴る。黒い液体を垂れ流し、奇妙な動きを繰り返す。まさに、『この世のものとは思えない』ものだった。
「それでは、頂くとしましょうか」
神父の声が二重に聞こえる。顔も、腕も、何もかもが変わり果てていた。おぞましいなにかへと変貌していた。
「2人とも、構えろ…来るぞ」
「わかってる」
「……一応、奴の触手1本は回収するぞ、何かわかるかも知らん」
「────応」
この世にあるまじき生物との戦闘が、いまこの瞬間をもって始まった。
◇
ところ代わり、ここは上空。先程出動した【カオナシ】と【デイジー・ベル】が、トラブルなく飛行していた。目指すは『メシアの揺り籠』本部のあるビル。2人に課された任務は、『メシアの揺り籠本部の壊滅』。至極単純な任務だ。だがこの任務に選ばれた芳賀は、なんとも言えぬ顔を浮かべていた。
『藤山まろん、及び電堂芳賀。お前らに任務を出す。メシアの揺り籠本部をブッ壊して来い』
当初リーダーに呼び出され、渋々ながらも行ってみたら、開口一番がそれだった。なんで自分がという気持ちよりも、なんでこいつも?という疑問の方が勝ってしまった。その疑問はするりと口から出ていたようで。
『なんでこいつも?』
『オメーと相性いいから』
『ハァー?』
帰ってきた返答に益々意味がわからなくなった。無法地帯が手足生やしてそこら辺歩いて喋っているような存在のこいつが、俺と相性がいいとはなんなんだ。出来れば詳しく問いつめたいところだが、直ぐに出撃させるんだろうからそんなことは出来ないか、と内心肩を落とす。
『そんで?理由は?』
『お前も耳にはしてると思うが、メシアの揺り籠の活動が活発化しててな。一時期は静かだったのが、ココ最近急にだ。んでそいつらがこっちに危害加える前にボコそうっつー話』
『無茶苦茶だな』
『だがちょうどいいだろ。くそ野郎どもの息の根を止める絶好の機会(チャンス)だぜ?特にお前にとっちゃ』
『………あぁ、そゆこと』
リーダー、狂示のその言葉に芳賀はため息をつく。ようするに、だ。『お前殺っちまえよ』、と言いたいのだろう。
『で、だ。こいつホントに俺と相性いいんか?』
『フォルテッシモに乗りゃわかんぜ』
『ぶえーばびばー』
『……ほんとか?』
乗る前から既に不安要素しかない。だが任務は任務、大人しくまろんを引きずって出撃ポートへと向かっていった。
「(───まさかマジ話とは思わねーよ)」
フォルテッシモに乗ったまろんは言った通り、『人格』がまるっきり変わった。普段の彼女からは全く予想もできない言葉や行動が出てくる。そのせいでかえってやりにくいが。
『目標補足。メシアの揺り籠本部と確認。戦闘準備します』
「来たか」
数分がたった頃、まろんから通信が入る。目の前を見遣れば、明らかに異質な作りをしていたビルが、不気味に立っていた。あれがメシアの揺り籠の本部とみて間違いないだろう。まろん、芳賀は共にいつでも戦闘行為に入れるように構える。するとその建物から静かに、フォルテッシモと思しき機体がこちらに向かって来た。
『敵影あり。こちらに来ます』
「ご丁寧にお出迎えか!」
デイジー・ベルが自らの周りに青い鎖を出し、それを向かってきたものに素早く伸ばす。鎖は瞬く間にそれに絡みつき、捕縛に成功した。
「さぁてこっからどうするか───」
『──その声は』
「!」
突然響いてきた『聞き覚えのある二度と聞きたくない声』が、芳賀に向かう。芳賀は目を見開いて、そいつを見た。
『おお、息子……!悪魔の手から逃れ、帰ってきたのね……!!』
その瞬間、芳賀は絶叫した。
「んで、ここにいやがる、クソ野郎が────────ッ!!」
その時彼は、自らの『生みの親』と思わぬ形で再会を果たした。
続く