複雑・ファジー小説

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.93 )
日時: 2019/03/07 20:30
名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)

第五章 追憶

 キドルは執務室にて、マビノギオン砦での戦いの報告を受けていた。
 マビノギオン砦には、キドルの部下である「ラクス=エルフォード」を潜入させ、アイオロス公の一人娘である「シャラザード・グン・エリエル」について調べさせていた。彼はソール王国の追撃部隊の指揮官を務めていたが、一人の竜騎士に邪魔をされたという話も聞く。恐らくセレスだろう。無事にあちらに合流できているようで安心する。
 シャラザードという少女は思った通り、民のために命を賭す立派な騎士だ。ラクスの報告には、ボロボロの武器を持って二人の重騎士相手に民を守ったという。その後ラクスは、一人の治療師の渾身の一撃で深手を負ったという。なんでも、精霊の力を使った。とのことだ。
 治療師というのは、癒す力はあっても戦う力はないと思っていたが、多分火事場の馬鹿力というやつだろう。とキドルはふっと吹き出してしまった。

「閣下、以上が報告であります」
「すまない。次の出撃まで身体を休めてくれ」
「失礼します」

 簡素な掛け合いだが、彼はジュウベエやレイアやプラチナとは違い、かなり冷静沈着なのだ。常に冷静で口数も多い方ではない。最近おしゃべりな部下が増えたものだから、むしろそっちが普通なのをすっかり忘れていた。
 それにしても、もうあまり時間がない。できることは今のうちにやっておかねばならない。兵の数もそうだが、他にもいろいろと問題は山積みなのだ。
 キドルはふと外を見る。
 いつもと変わらない街並みが広がっている。そして、窓から見て右側に鬱葱とした森があった。キドルはそういえばもう8年くらい前だろうか……。森で修行していた時に、不思議な精霊と出会ったな。と思い浮かべた……。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.94 )
日時: 2019/03/08 00:26
名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)


 8年前——。
 キドルは森の中でジュウベエと共に修行をしていた。幼いキドルは槍を振り回すだけで、体が持っていかれる。ジュウベエはその様子を笑い飛ばし、まずは体を鍛えることだ。とキドルに教える。
 彼はジュウベエの言葉を真摯に受け、言われたとおりに修行を重ねた。
 天幕を張り、ジュウベエと共に寝ていたある夜……。キドルは何かの気配を感じて天幕を出る。護身用の短剣を持ち、気配のする場所を目指して歩いた。
 夜とはいえ、満月の夜のため薄暗い程度で木々の間から月光が漏れている。木々の間を歩くと、その先には開けた場所に出る。森の中だが、そこだけは木が生えておらず、空からの月光に地面は照らされていた。
 キドルは人の気配を感じ、視線を気配のする方へやる。切り株があり、その上に女性が座っていた。
 長い黒髪、修道服を着て空を見上げている。よく見るとあちこち包帯を巻いていて、黒く変色している部分もある。……怪我をしているのか? キドルはそう思った。

「だれ?」
「あっ……えと」

 女性はキドルに気づいたのか、顔をこちらに向け見ている。
 キドルは彼女の顔を見て驚いた。包帯で左半分が隠れているのだ。ところどころ傷跡が見えることから、傷を癒すためにここへきて休んでいるのかもしれない。
 キドルはとりあえず名乗る事にした。

「俺は「キドル・ティニーン」……、あなたは?」
「私は「ステラ」、精霊だよ」

 精霊……いつの間にかぼうっと生まれ、人間に魔力を与える大精霊の御使い……とジュウベエの買ってくれた本で読んだことがある。
 彼らは人間と同じく生きているが、人間と共にいれば食事も必要としないらしく、死んだ時に死体が残らないとかなんとかと本には書いてあった。本当かどうかはわからないが、人間が生まれ変わると精霊になるらしく、強い意思があれば記憶を持ったまま生まれてくるんだとか。
 そもそも精霊は人間の前に姿を現さないため、それが真実かどうかも不明なのだが。

「精霊がなぜここにいるの?」
「月が綺麗だから、かな」
「ふーん……」

 ステラの答えに相槌を打つキドル。確かに今日はひときわ大きな月だ。見上げれば青白く大きな満月がこちらを見下ろしている。

「そういう君は?」

 ステラがこちらを見て尋ねる。

「俺は、なんとなく目が覚めたからかな」

 キドルはそう答える。嘘は言っていないし、別に理由があってここにきた訳ではない。ただ、人の気配がしたからなんとなくここにきただけだ。

「そうか、まあ静かな夜だし、人の気配がしたら目が覚めちゃうよね」
「ダメだった?」
「いーや、私も特に理由があってここにいるわけじゃないしね。お互い様ってことで」

 ステラは口元を緩ませてキドルを見る。
 キドルは彼女に出会ってからずっと感じていたことを口にする。

「ステラさんはどうしてあちこち包帯を?」
「ん、これは……」

 ステラは困っているかのように目を逸らした。余程話したくない理由があるのだろう……とキドルは考えて、「変なこと聞いてごめん」と謝る。

「いや、大丈夫だよ」

 ステラはそういうと、困ったように笑う。あまり他人の事を詮索するのは良くないな。キドルはそう思い、これから注意していこう。と心に決めた。
 それにしても夜は本当に冷えるなぁ。と思いながらステラを見る。彼女は特に寒そうな仕草はない。きっと精霊だからかな、と自信を納得させる。
 しばらくの沈黙の後、ステラはすっと立ち上がる。

「そろそろ眠くなってきたし、私はこの辺でお暇するよ」
「あ、そうなんだ……」

 キドルは立ち上がったステラを見る。自分もそろそろ帰らないとジュウベエが起きて心配するかもしれない。それか拳骨でも喰らいそうだ。

「あの、さ……明日の夜もここにきていいかな」
「明日……いいよ」

 ステラはふっと笑い、キドルの頭を撫でる。キドルは顔を赤らめた。

「や、約束だから!」
「うん、私はいつでも待ってるよ」

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.95 )
日時: 2019/03/08 20:53
名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)


 次の日の夜も同じ場所に彼女は居た。キドルはステラに手を振った。月明かりに照らされ、彼女もキドルを見て笑みを浮かべる。

「約束通り来たよ」
「君は律儀だね、まあ私も待ってなかったなんてことはないよ」
「素直じゃないんだなぁ」

 ステラの言葉にキドルは吹き出して笑う。

「君はなぜここにいるんだい?」
「ん〜、師匠と修行中なんだ」

 キドルはステラに経緯を話した。騎士になるために今頑張っている事と、将来は絶対に竜騎士になって将軍になってみんなを守るなど、夢や今考えたり感じている事をステラに話した。ステラは頷きながらキドルの話を真摯に聞いていた。キドルはとても楽しそうに話していたため、彼女も自然と笑みを浮かべていたのだ。

「大体分かった、君はきっと将来はこの国を……いや、この大陸を変えるだろうね」
「いやあ、大陸は変えられるかな……」
「変えられるさ、今話した信念が続く限りは、ね」
「信念……」

 ステラの言葉を繰り返すキドル。真っ直ぐな思いが燃え尽きない限り、必ず何かが変わるはず。キドルは今はまだ理解はできないけど、いずれその言葉の意味を理解し、現実にすることができるかも……と腕を組んで頷く。

「キドルはいつまでここにいるんだい?」
「師匠の気分次第かなぁ。昼はいつも重しを担いで森の中を走ったり、槍の素振りとかやってるんだ」
「辛くはないのかい?」
「うーん……」

 キドルはその質問に自分が辛いかしばらく考えるが、その後に「ない!」と笑顔で答えた。

「本当に君はまっすぐでいい子だね」
「いい子じゃないと思うよ。俺、捨てられたし」

 キドルはさらっと口にする。本当にいい子なら捨てられず、父と母と共に笑っていられたはずだ。まあ今はジュウベエという父のような存在がいるおかげで寂しくはないし、今更顔を知らない両親に会っても仕方がない。というのがキドルの考えだ。ステラはキドルの話を聞いて無言で頷いた。

「そういうステラさんは両親とか……家族はいないの?」
「う、ん……」

 ステラが黙り込んでしまった。キドルはその様子を見て、聞かない方がよかったかもしれないな。と感じ、慌てて手を振る。

「ご、ごめん! 話したくないならいいよ!」
「……いや、今日は月明かりも綺麗だし、話すことで何か変わるかもしれない。ちょっと聞いていってくれないか」

 ステラはそう言った後、哀し気な表情に変わり、口を開いた。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.96 )
日時: 2019/03/09 00:05
名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)


 ステラは元々「シェルテリア・テラクォツィー・クロウヴェルンツィア」という名前で、ラーフ公国の「クロウヴェルンツィア」伯爵の息女だったらしい。ジュウベエから聞いたことがある、一時は栄えた名家だったが不可思議な事件が起きて滅びた……とかなんとか。だがそれはかなり昔の話なため真相は今となっては闇の中である。
 ステラには姉がいたが、姉と常に比較され跡継ぎである姉は大層かわいがられていたが、ステラ自身は感情の突起も少なく不気味がられていたという。別段珍しい話でもない。どの家系でも跡継ぎは大切にするものだ。まあ、そうでなくとも感情表現の乏しい人間は何を考えているかわからず不気味に思えるのだろう。そのせいか、周りの人間はステラを見向きもしなかったという。
 ある日、ステラの母はステラの顔を切り裂き、ステラは一度死んだ。目障りだった……という理由で、らしい。彼女は大精霊に強く願い、精霊に転生をしたという。
 精霊は、生への執着心があれば大精霊が意図的に……それとも気まぐれか。どちらにせよ願いを聞き届け、死んだ人間の魂を精霊に転生させてくれることがある。さらに、強い意思さえあれば記憶を持ったまま生まれ変わるらしい。だが、転生するまでの時間は死んですぐとはいかない。その辺はよくわからなかったが、生まれ変わるまで1年……あるいは10年ほどかかると本には書いてあった。真相は大精霊に聞いてみないとわからないが、聞き届けてくれる大精霊によって、精霊の属性が変わるらしい。そういえばキドルが少し前に会った旅をしていた精霊は、雷の精霊だった気がする。ステラは何の精霊なんだろうな。……なんてキドルは考えた。
 転生したステラは自身の家を家族を、使いを焼き殺したという。……だが、焼けた屋敷から姉の手紙とペンダントが入った箱を発見し、ひどく悔やんだという。
 そこに、一人の魔女が現れた。名前は聞いていないのでわからないが、黒髪の燕尾服を着た男だったらしい。その男はステラに腐敗の呪いをかけた。

「禁忌を犯したお前は、腐り果てて朽ちるのがお似合いだ」

 と言い残して。
 その言葉通りどんどん体が朽ちていき、今では昔ほど自由に動くこともままならなくなった。
 ……これがステラの話した全てだった。

「どんな理由があっても、身勝手な理由をつけて他人の命を奪うのは大陸の秩序を乱す事になる」
「でも、それって……ステラさんにはもう時間が残されてないってことじゃあ……」
「そうだね、でも心残りはないよ。ただ……」

 ステラは腕を組んで瞳を閉じる。

「今住んでいる教会に孤児がいるんだ。あの子たちを残して逝くのは心惜しいかな」

 キドルは何も言えなかった。自分は話を聞くくらいしか何もできない。悔しいが、今の自分には何も変えられない。

「だけどもう少し時間はあるよ、そんな顔しないでキドル。男の子でしょ」
「でも……」
「話を聞いてくれただけでも、こうして一緒にいるだけでも嬉しく思うよ」

 ステラはキドルの頭を撫でる。その顔はキドルを安心させようと、頑張って笑おうとしているようだ。口元を歪ませている。

「ステラさんの笑顔って、すごく不気味だな」
「失礼だね君は」

 その日は既に夜も更けてきたので、そのまま別れた。明日もここで会うという約束を残して。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.97 )
日時: 2019/03/09 16:22
名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)


 次の日の昼下がり、キドルとジュウベエは共に修行をしていた。キドルは木の棒を持って素振りをしている。ジュウベエはキドルの様子を見ながら、昼食の片付けをしている。キドルの邪魔をしないように音を立てず静かに皿を重ねたり、食器を掴んでいる。昨日はなんとなくどんよりとした天気だったが、今日は晴れているのか、木々の間から陽の光が差し込んでいる。暑くもなく寒くもないという、ちょうどいい天気だった。
 しかし、ジュウベエは何かに気づく。何かが燃えているような臭いがしているのだ。

「師匠……」
「ううむ、キドルはここで待っていろ」

 ジュウベエは木に立てかけていた大剣を手に取って担ぐ。しかし、キドルも自身の槍を手に取って首を振る。

「俺も行く!」
「……まあ、いいだろう。はぐれるなよ」

 ジュウベエはため息をつきながら、キドルと共に臭いの本へと駆け出した。


 ジュウベエが臭いのする方へ駆け出していると、何かが燃える音と共に熱や人の皮が焼けるようなひどい臭いが立ち込めた。思わずキドルは鼻と口を腕で覆って顔をしかめる。ひどい有様だった。
 燃えていたのは森の中にある教会であり、焼け焦げた人の死体が転がっていて、地面は深紅の血が染みついていた。ジュウベエは状況はわからないが、とりあえず中に人がいないか確認する。キドルも槍を握りしめてジュウベエについていく。
 教会の扉を蹴り破ると、中には黒いローブを着た集団と子供たちの前に立ちふさがるステラの姿があった。

「何奴!?」
「キドル……!?」

 集団のリーダーと思しき人物とステラが驚いて二人を見る。ジュウベエはその光景を見て「なるほど」と一言頷いた。

「なぜお前たちがこの教会を襲ったかはわからんが、子供や女に手を出すなんざ見過ごせんな」

 ジュウベエはそう言い放つと、担いでいた剣を構える。両手剣を片手で軽々と持つ程の力強さを持つ彼を、ローブを羽織った人物たちは後ずさりする。が、リーダーらしき男がジュウベエに対し指をさした。

「ええい、何をやっておる! さっさと殺すのだ!」
「なるほど、ではこちらも殺されないように反撃しなきゃなあ」

 ジュウベエはそういうと笑う。彼にとって戦いとは生きる楽しみでもある、らしい。キドルには理解できないが。
 キドルはリーダーらしき男に対し、槍を構え突撃する。男はローブから剣を取り出し、その槍を剣で受け止めた。

「小僧の癖にやりおる……!」
「毎日修行してるんだ、このくらい!」

 キドルは自身の身軽さを利用し、剣を身体を反らせて避けたり、地面を蹴って勢いづけての刺突などで自身の動きが捉えられないように男に攻撃を加える。

「ステラさん! 今のうちにその子たちを連れて逃げて!」
「そうはさせぬぞ!」

 男はステラと子供たちの逃げ場に手をかざす。炎が逃げ道を塞ぎ、ステラ達を阻んだ。

「クソ、余計なことしやがって!」

 キドルは苛立って思わず叫んだ。苛立ちにより冷静さが欠かれ、判断力を失う。キドルは背後に迫る敵の存在に気づかなかった。
 気づいた時には一瞬を突かれ、右腕を剣で斬りつけられる。血が舞い、深く斬られたのか腕が痺れてきた。キドルは二人の男を睨み据える。まだまだ自分は未熟だと思い知らされる。
 キドルは痺れる右腕を無理やり動かして槍を握って、大きく薙ぎ払う。だが、それすら読まれているのか、あっさり避けられ今度は胸を斬られるが、傷が浅かった。だが、腕と胸の傷の出血により立ちくらみをしてしまう。だが、気をしっかり持ち、槍を強く握りしめる。

「キドル……!」

 ステラは血を流しても尚立ち上がる彼を見て、名を呼ぶ。まだ出会ってそこまで経っていないのに、なぜそうまでして命を賭けてくれるのか……ステラにはわからなかった。
 その時、教会が大きく揺れる。いや、揺れているというより、教会が焼かれたことによって支えた柱が脆くなり天井を支え切れなくなっているのだ。
 ジュウベエはそれに気が付き、壁を剣で切り倒し、子供たちに走るよう促す。子供たちはジュウベエの言う通りに全力で走って教会から脱出した。
 黒いローブを着た男たちもそれに気がついて、そそくさと逃げようと走り出した。
 だが、キドルは立っているのもやっとなのか、判断が遅れてしまった。天井が崩れ落ちてくる。キドルは朦朧とした意識の中、それを見上げていた。

Re: イストリアサーガ-暁の叙事詩- ( No.98 )
日時: 2019/03/09 20:22
名前: 燐音 (ID: .CNDwTgw)


 キドルは何かの衝撃により、落ちてくる天井から逃れることができた。キドルはそれを見開いて凝視する。大きな音を立てて、崩れた天井の下敷きになる。キドルは腕の痺れに耐え、まだ炎に包まれている木材をどかそうとするが、力が入らない。そこへジュウベエが慌ててやってくる。キドルがまだ中に残っていたからだ。

「キドル、何をしている!」
「師匠、ステラさんが……っ!」
「……待ってろ!」

 ジュウベエはそういうと、崩れた木材を力任せにどかす。下からは、虫の息のステラが現れ、ジュウベエはステラを抱きかかえると、キドルも腕に抱え燃える教会から脱出した。
 ジュウベエとキドル、ステラが脱出した瞬間、教会は大きな音を立てながら崩れ去った。ジュウベエはその場に座り込んで「間一髪だった」と安堵のため息をついた。

「ステラさん!」

 ジュウベエがステラを横たわらせると、キドルはすぐさまステラの脇で名を呼ぶ。ステラはキドルの顔に手を触れた。その手は震えていて、少し冷たい。

「……子供たちは?」
「みんな無事だ、なんとか逃がせた」
「よか、った……」

 ステラはそういうと、安心しきったように表情が和らぐ。
 ステラの身体は呪いが進んでいるのか、黒い痣で肌全体が染まっていた。もう解呪したところで手遅れだろう……とジュウベエは諦めたように目を背ける。
 キドルは涙をこらえながら、ステラに抱き着いた。

「ごめん、もっと早く気づけば……!」

 ステラは懐から赤い十字架のペンダントを取り出すと、キドルの手にそれを落とし、握らせる。

「これを」
「これ、ステラさんの大事な物だろ?」
「うん、だから……君に持っていてほしい」

 キドルはどう声を掛ければいいかわからなかった。ステラは続ける。

「これは報いだ……。精霊の身で在りながら、大精霊の加護を持つ者達を手に掛けた私への……」

 ステラは満面の笑みを浮かべる。

「そんな私に、一瞬でも仲良くしてくれて、助けに来てくれて……ありがとう、キドル」

 ステラはそう言った瞬間、ステラの身体が崩れ落ち、燃え尽きるように消えてしまった。
 残されたキドルは自身の手を見る。ステラの持っていたペンダントがそこにはあった。




 キドルはふと自身のポケットにあるペンダントを掌に乗せて見つめる。
 あの後は孤児たちを近くの修道院に預けた。あの子たちは俺達の事を覚えているのだろうか……なんて考えていると、執務室のドアがノックされる。

「失礼する」
「プラチナ、どうした?」
「ソスランが流刑に処され、ベリアル皇子から出撃の命が出た。すぐに出撃せよとのことだ」
「……わかった」

 東部戦線に出撃する命が出た。……恐らく、この出撃でキドルは用済みとなるだろう。
 だが、そのための準備は整えた。今は進むしかない。……自分のために命を賭してくれた者達のためにも。
 キドルは執務室を出た。




 東部戦線の前線。ソスランから託された軍を率いるアイオロスは、愛馬の手綱を握り上空を見上げる。
 竜の大軍が押し寄せてくるのだ。空を黒く染める程の……。

「ついに来たか、「竜将」……!」

 アイオロスはそう一言呟くと、腰に下げていた剣を握りしめる。
 一方、黒い飛竜に乗るキドルは、手に蒼い槍……銘を「フェルニゲシュ」と呼ばれるものを握りしめる。

「手を出すなよ、プラチナ」
「……わかっている」

 この戦いで、キドルはアイオロスを討った。
 そして、イース同盟とトゥリア帝国の戦いは後に大きく揺れ動く。
 後に英雄と呼ばれる少女と青年の物語は、終局へ向けさらに激しさを増していくのであった。