複雑・ファジー小説
- Re: 花束の其の一輪は【アンソロジー】 ( No.5 )
- 日時: 2019/01/27 14:51
- 名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)
【アザミ】
私は、人と話すのが苦手です。笑顔を作るのも苦手です。もちろん自分の感情を表現するも苦手です。
なら私に何が出来るのか?、そう聞いてみて下さいよ。私が得意な事はルールに従うこと、黙っていること、諦めることですかね?
「アッちゃーん!、さっきからずっとボ〜としてるけど大丈夫?」
「んっ・・・・・・・うん、大丈夫....」
「それなら良かった〜、それと早くお昼食べようよ!」
今は昼を少し過ぎた時間帯、それと先程から声を掛けてくる彼女はチナツ....常戸 千夏(つねど ちなつ)。
彼女はとても明るい人柄だ、そんな彼女は正反対な私の事を気にかけてくれてるのかよく話しかけてくれる。そして今日もいつもながら静かな私は彼女と一緒にお昼を食べるところだ。
「あーアッちゃん!、また今日もおにぎり一つだけ? それじゃあ力が出ないって」
「・・・・・・別に、美味しいです......。」
「ほらほら、何か私のお弁当の具を分けてあげるから。コレなんかどうかな?」
有無を言わせず私の口に唐揚げを放り込んできたチナツ、そこで私は仕方なくその唐揚げを自分の奥歯で噛み締める。
「どお!?、私の手作りなんだけど作ったのは今日が初めてでさ」
そう聞いてきた彼女をよそに私は噛み崩した唐揚げを飲み込むと一呼吸を置いて感想を述べた。
「・・・・・・初めてにしては完成度は高いです。しかし鶏肉に粉をまぶし過ぎてるせいで余分な油にある気がします」
「おっ!、どれどれ〜!!・・・・・・・・あっ!、確かにそうかも! それに少し生焼け気味かも」
私は嘘が嫌いだ。つい本当の事を相手の気持ちに関係なく言ってしまう、だから人と話すのが苦手なのだが彼女の場合は周りと何かが違うのだ。
「それじゃあさ!、アッちゃんに料理のイロハとか教われないかな〜?」
「・・・・・・構いませんよ」
「じゃあ決まり!、次の日曜日にお願いね!」
彼女の今の言葉には私は反応せず自分の手に持っているおにぎりを食べ始める。だけど何故か不思議と表情には現れずも私は心の何処かでワクワクしている様な気がした。
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あーそうそう、私とした事が言い忘れていたけど私の名前はアザミ.....吉野 薊(よしの あざみ)という。
それと今私はチナツの家へと向かっている、今日は彼女に料理を教えるという約束がある、遅刻しては彼女に対して失礼だし私は正当な理由がある以外に遅刻するのは人として許せないのだ。
(約束の時刻まで1分前......予想していた時間より少し遅れてしまったか)
「アッちゃ〜〜んッ!、ヤッホーーーっ!!」
そんな声が聞こえてスマホから視線を外すとチナツが私に飛びついてきた、私は急に起こった出来事に対して軽い混乱を催していた。
「やっぱりアッちゃんは真面目だな〜、もう少し遅れても罰は当たらないのに〜」
「物事には余裕を持っておきたいので・・・・・・」
「分かる! 分かる!、私なんて余裕がなくていつも慌ててるもん」
そう言って私の背を押すチナツ、私は少しよろけそうになりながら早歩き気味に前へと進んでいった。
するとここでチナツの住んでる家とおぼしき家が見てきた、そしてそこの玄関前に見知らぬ青年がこちらを見ながら待っていた。
「おーいチナツ〜!、早くドアを開けてくれー! あまりにも暑すぎてバターみたいに溶けそうだー!」
「OKショウちゃん!、これ私の家の鍵〜!」
チナツはポケットから鍵を取り出すと大振りな投げ方で今ショウと呼んだ彼へ鍵をパスする。
その様子を見て私はこの二人はかなり親しい仲だとふんだ。そう思っていると彼が玄関の扉を開けて家の仲へと入っていく、そして私もチナツに押されながら家の中へと上がった。
「いや〜、やっぱり夏は暑いねアッちゃん」
「確かに暑いですが、適度に汗をかくというは健康のためにも大切です」
「そうなんだ!、やっぱりアッちゃんは博学だね〜」
「あっ、いえ.......。」
私は心の中で自分に対して何をしているんだと呟いた。やはり人と話すのはなるべく避けた方が良いなと私は思いつつ自分の脱いだ靴を玄関の床に並べた。
「でよチナツ!、今日は何を作るつもりだよ?」
「えっとねショウちゃん、今日は唐揚げかな」
「おっ良いね!、ところでそこの人は?」
「ほら、だから説明したじゃん私達に料理を教えてくれるアッちゃんだって。それとアッちゃん、こっちはショウちゃんだよ〜」
先程までの流れで何回か聞いた名前を教えてもらった私は彼を少し見据えるような感じで観察してみた。
「ヨッ!、俺は戸田 正平(とだ しょうへい)だ! 皆にはショウって呼ばれてるからそこん所よろしく!」
「私はアザミ、チナツにはアッちゃって呼ばれているから貴方も好きに呼んでくれて結構よ」
「そうか、じゃあアザミでいいや。それと男を同時に10人ふったつうのは本当なの?」
「えっ、今なんて?」
「だから10人ふってやつだよ、アザミの噂って結構あるんだよな」
これだから男はとでも言いたくなったが私は何とかその言葉を飲み込むと心の何処かで溜め息を漏らした。
人との交流が少ないと火のない場所からも煙というのは立ってしまうらしい、私に関する噂は私自身も一度や二度は盗み聞きで聞いた事がある。だけど......。
「悪いわね、そういうのは根も葉もないただの噂ね」
「えっ、俺周りの何人からもそんな事を聞いたぞ!? じゃあ実は不良グループの親玉ってのもか!?」
「たんなる噂ね。それとも私がそんな人に見えるのかしら?」
「アッちゃんはそんな人じゃないよ!、だってよく勉強教えてくれたり私を助けてくれるもん!」
「はいはい俺が悪かったですよ。そんで唐揚げはどう作れば良いんでしょうかね先生?」
「まずはエプロン、次に油が跳ねてもいいように厚着をしてた方が良いわね」
「ラジャー!、そんじゃ俺は一応持ってきてたやつでも着るか」
「あっ、じゃあ私は上の階から学校のジャージを持って来ようかな」
そう言って始まった唐揚げ作り、私はこのメンバーでどれ程のものが作れるのか何故かほんの少し楽しみに思っていた。
【※つづく】
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作者からの注意書きですが恋愛というよりのんびりとした日常を描いた作品になりそうな気がして悩みに悩んでいる最中です(苦悩気味)。