複雑・ファジー小説
- Re: ドラゴンズ・ゼロ ( No.1 )
- 日時: 2019/09/23 23:38
- 名前: 燈火 (ID: xJUVU4Zw)
第1章 第1話「竜狩りの戦士は産声を上げる」
エルザメレムは、シャクトフェリムと呼称される世界において北東に位置する大陸だ。9つある区分のうちもっとも広い面積を持つ。
魔法王国グアルギオラは大陸中央に位置し、国力においても大陸一といえるほど強大である。しかし竜たちによる100年の進攻は、確実にグアルギオラを疲弊させていた。
このままでは5年も持ち堪えられないだろう。国王シャクティ・エルフィルザレムは臣下たちの反対を押し切り、禁術“異界召喚”の儀を断行。自らの娘4人——全員——を生贄に捧ぐ。
「こりより召喚の儀を執り行う」
王城の地下深くに広がる巨大な空間。低く唸るような声で王の宣言が響き渡る。音を発するものが人以外にない空間では怖いほど響いた。
死刑宣告に等しいその言葉を聞き、彼の娘たちは涙を零す。王の号令と共に紡がれ始めた術師たちの祝詞に反応し、その涕泣(ていきゅう)が赤く輝いた。
「……娘たちよ。すまん。すまん!」
魔術とは神への祈りと研鑽、そして技術や学問体系が折り重なったものだ。中でも禁術は神の力を借りるために祈り——犠牲あるいは対価——が必要となる。
時空を捻じ曲げる神ゼベアはうら若き娘たちの涙を好む。むせぶ王の眼前で涙が燃えていく。娘たちの汚れを知らない美しい体を包み込む。その死を恐れる無垢な涙を燃料にして。
湿った陰気臭い空間に肉の焼ける匂いが充満していく。手足に錠を嵌められた彼女らは最初こそ悲鳴を上げながらのたうっていたが、すでに事切れている。娘たちが皆炭と化した瞬間だ。
供物となった彼女らを中心に世界の中心がごとき聖なる光が溢れ出す。その輝きは大瀑布がごとく広がり地下室を光の嵐で包み込む。
「なんだこれは? 私の体が!?」
「ひいぃぃ! 体が熱い! 崩れるっ!?」
「助けて……こんなの聞いていない!」
それは範囲内にいたすべての生命を刈り取る棺桶と化した。術師たちはもちろん、王も関係なく。光のカーテンが消えたその部屋には、横たわる浅黒い肌をしたエルフの女性が1人。
そして直立する2m近い巨漢がいるだけだった。おそらく男は異界より現れし者だろう。禁術は成功したのだ。優秀な術者たちと多数の王族を犠牲に。