複雑・ファジー小説

Re: 魂込めのフィレル ( No.18 )
日時: 2019/06/22 17:58
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)


 ツウェルの町からエーファへ。エーファはそこそこ大きな町で、街道もそれなりに整備されており、旅に特に不便は感じなかった。
 そしてたどり着いたエーファの町。町の入り口には大きな門があり、町の周囲をぐるりと城壁が取り巻いている。
 門には番人のような男がおり、どうやらこの男に認められないと門をくぐることはできないらしい。
 フィラ・フィアは難しい顔をした。
「この町に来た目的を言わないといけないようね……。でも、素直に喋ったら信じてもらえるわけがないわよね。——そう、イルキスの時みたいに」
「だよねぇ。どうすればいいんだろ? 普通に『入れてー』って言えば通してくれるかなぁ?」
「そんなので通ったら町の警備はどうなってるんだって話だよ。何か良い言い訳を考えないとな」
 ロアは難しい顔をする。
 街道を通る人は皆検問を受け、その後で町の中に入っているらしい。
 そこでフィレルはぽんと手を叩き、小脇にキャンバスを抱えて、門番に近づいた。「お、おい?」戸惑うロアの声に、大丈夫だよと親指を立てて見せながら。
 フィレルは「何の用だ」と声を投げる門番に、最高に無邪気な笑顔を向けた。
「僕はフィレルぅ! 旅の絵描きだよぅ。あのねー、今ねー、いろんな町を回っては絵を描いてるの。こっちの町の風景も描いてみたいなぁって、ね!」
 無邪気に笑う少年の姿に毒気を抜かれたのか、ああ、と門番は頷いた。
「わかった、通って良し!」
「あっちの仲間も一緒でいーい?」
「構わない。次!」
 言って門番は、次の通行人の検問に入っている。
 仲間の元にたどり着いて、フィレルはやったねと笑った。
 フィレルの明るさや無邪気さは、確かに彼に禁忌を犯させたけれど。それは意外なところで役に立った。
 実際、「僕も町の風景とか描いて、記念にとっておこうかなぁ」などと本人も言う始末。これをまさか違う目的で町に入ろうなどとは思うまい。「そんな暇なんてないわ」と実際、フィラ・フィアに止められたが。
「とりあえず第一目標は達成できたわ。後は情報収集、ね!」
 言葉と共に歩きだすフィラ・フィアの後に続いて、フィレルとロアは門をくぐった。
  
 町の中に入った時、ロアは違和感を覚えた。
「ロア、どうしたの?」
 ふと眉をひそめた相棒に、フィレルは気遣わしげな声を掛ける。また頭痛が再発したとでも思っているのか。
 ロアは難しい顔で答えた。
「いや……何だか、皆に見られているような気がするのだが……気のせいか?」
「外部から来た僕らが珍しいんじゃない。確かに最近はさぁ、旅の絵描きとか減ったしさぁ」
「そうだといいんだが……」
 ロアは難しい顔を崩さない。
 まぁとりあえず、とフィラ・フィアがまとめた。
「違和感の原因は後で突き止めるとして……今、大事なのは情報収集よね。あれから三千年。死の使いデストリィは今、どうしているのか。それが知りたいわ」
「……だな」
 そこへ。
「ねぇねぇ旅の絵描きさん。今、『デストリィ』って言った? それならぼく、知ってるよ!」
 会話の端を聞いて、フィレルよりもさらに幼い、可愛らしい顔をした少年が声を掛けてきた。
 くるくるとカールした、癖っ毛ぽい淡い金髪、海をその奥に封じ込めたかのような、深く美しい碧の瞳。純白の衣装を身に纏った少年は、まるで天使のようだった。
 彼は言う。
「旅の勇者さん、お願いなんだよ。出来るならあんな神様、倒しちゃってよぅ!」
 少年はティムと名乗った。彼の話によると、死の使いデストリィは毎週一人の生贄を求めるらしい。逆らえば町の全ての住人を大虐殺する、つまり生贄は町を守るための仕方のない犠牲なのだという。そして生贄として差し出された人間は、次の週には見るも無残な姿で帰ってくるという。
「ぼくの父さん、生贄になって帰ってきたよ。見ないで、って母さんがぼくの目をふさいでたからどうなったのかは知らないの。でね、その母さんはそのまま弱って死んじゃった。今は姉さんがぼくの面倒を見てくれているの」
 そう、少年は淡々と告げた。
「ずっと昔からそう。デストリィは生贄を求めるの。でも、ぼくらはそれでもこの町を捨てられないんだ。この町を見た? 海が近いから魚も取れるし、港があるから貿易も盛ん。太陽もよく当たるから農作物も立派に育つし、家畜だってまるまる太ってる。場所だけならば最高の町なんだよね」
 ぼくらの祖先は、貧しかった北方から逃げてきてこの町を見つけたんだってさ、と彼は言う。
「だから今更帰れないの。だから犠牲は仕方ないもの、この町を守るための人身御供なんだってさ」
「なんてこと……」
 フィラ・フィアは思わず顔を覆った。
 しかしその原理は当然とも言えて。
 大を生かすためならば、小を切り捨てることを厭わない。隣で誰かが泣いていても、それが集団を生かし、守る唯一の方法ならば仕方がない。
 そんな負の連鎖が三千年も、この町で続いてきたというのか。否、多少町が変わっても、この地ではずっとそんなことが起きていたというのか。神に歯向かった町は虐殺という名の粛清を受けるが、土地条件が良いために、気が付いたらそこには新たな町ができている。そして神は再び生贄を求める……。
 そこで、とティムは一同をすがるような眼で見上げた。
「生贄はくじ引きで選ばれるんだ。でね、先週のくじ引きでね、とうとうぼくの姉さんが、残った唯一の家族がさぁ、選ばれちゃったんだよぅっ!」
 彼は泣きそうな顔をした。
 歳は多く見積もっても十歳になるかならないか。そんな子がいきなり家族を全て失うことになったとしたら。そして家族のうち二人が生贄としてささげられることになったとしたら。その悲しみは、やるせなさは、いかほどのものか。
 口をきゅっと引き結んで、それでも泣くまいとした少年。彼に目線を合わせ、フィラ。フィアはそっと、その細い肩に触れた。赤い瞳が純粋な怒りを宿している。
「大丈夫、大丈夫よ。わたしが封じる、わたしが何とかするから。わたしたちは今ね、悪いことをする神様を封じる旅に出てるのよ。デストリィも封じるから、安心して大丈夫。あなたの姉さんは死なないわ。約束、する」
 ほんとうに? と言う少年に、ほんとうよ、とフィラ・フィアは強く頷いた。
 良かったぁ、と少年は嬉しそうな顔をした。
「やったやったやったぁっ! わぁいわぁい、ありがとうっ!
 ……あれれぇ? でもさぁ、デストリィは強いんだよぅ? 町の大人たちでも倒せなかったんだよぅ? 確実に倒せるって自信はあるの?」
 それは、とフィラ・フィアは言い淀みかけたが、あるよ! とフィレルが力強く笑った。
「僕はただの絵描きってだけじゃないもん。描いた絵を実体化させる、『絵心師』だもん。そこのフィラ・フィアは神様さえ封じられる『舞師』だし、ロアもすっごく強いんだからっ!」
 相手の言葉を聞いて、少年はおかしそうに笑った。
「はははっ、神封じのフィラ・フィアだって? そんなのがいたら心強いねぇ」
 彼は明らかに本気にしていないようだったけれど。
 それでも、フィラ・フィアは強く言った。
「わたしはフィラ・フィア、神封じのフィラ・フィアよ。信じてくれなくてもいい。でも、これだけは信じて、ティム。
——わたしはこの悪夢を終わらせる」
 強い決意で放たれた言葉に、お願いねとティムは頷いた。

  ◇

Re: 魂込めのフィレル ( No.19 )
日時: 2019/06/24 11:59
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)


 折角だから泊まってってよ、というティムの言葉に甘えて、デストリィ戦への英気を養うためにも、フィレルらはティムの家に一晩だけ、厄介になることにした。ティムの家はそこそこ大きく、親がそれなりに裕福であったことがわかるような作りだ。
「初めまして。ティムの姉、ティラですわ」
 ティムに案内されて立派な柱時計のある応接間に通され、しばらくして、そこからティムと、一人の少女が現れた。
 歳は十九、二十くらいか。艶やかで美しい黒髪を背中に垂らし、その瞳は憂いを含んだ紫。ワインレッドのワンピースに身を包み、白い靴下、黒い革靴を履いている。人形のような少女だった。
 彼女は問うた。
「ティムから聞きましたけれど……あなたがたが、デストリィを倒して下さる勇者様ですの?」
 ええ、とフィラ・フィアは頷いた。
「ティムと約束したの。わたしたちが、絶対にあの神様の横暴を止めてみせるって!」
「そう……」
 ティラは頷き、艶やかに微笑んだ。
「それはそれは、非常にありがたいですわ。わたくしはまだ、死にたくはないのです。殺されたくはないのです。あんなに無残な姿になって、苦しみぬきたくはないのですもの。あなたがたがわたくしたちの希望の光、わたくしの未来は託しましたわよ」
「託されたわ! ええ、任せなさい!」
 強く答えるフィラ・フィアに、紫の眼差しを向けて。
「では、素敵な晩餐に招待いたしますわね。ああ、遠慮はなさらないで。わたくしたちの、感謝の気持ちですの。素直に受け取って下さると助かりますわ」
 言って、彼女は部屋を出た。その後ろでティムが、「しばらく待っててね。できたら呼ぶから!」と声を掛けてから、姉の背中を追い掛けていった。
「妙なことになったな」
 二人が応接間の扉を閉めてから、ロアがそんなことを言いだした。
 そうかしら、とフィラ・フィアが首をかしげる。
「神様に虐げられている人々がいる。ティムくんのあの表情を覚えているわよね? ならばそれを助けるのがわたしの使命よ。ツウェルでは神様を信仰していたみたいで人間と神様の関係はここほど悪くはなかった。でも、ここの神様はそうじゃないし、だからこそしっかり封じないと。何がおかしいの、ロア」
「それはわかってはいるんだが……」
 彼は妙に納得のいかない顔をしていた。
「まぁ、なるよーになるよ!」
 フィレルは何処までも楽観的である。
 ロアは相変わらず、どこか腑に落ちないような顔をしていた。その顔がどこか遠くを見るように、ふと細められた。
「ノア……」
 知らず、呟かれたのは、霧の男がロアに思い出させた名前。
 フィレルの知らない過去、パンドラの記憶。
 ロアは、言うのだ。
「あの少年……ノアと、似ているような……? というかそもそも『ノア』って誰だ?」
 思い出せない、と言うロアに、思い出さなくていいとフィレルは言った。
 それでもその目は遠くを見たままで。
 それはロアの問題だ。いくらフィレルが『思い出さなくていい』と言ったって、考えてしまうものは考えてしまうのだろう。
 ただ、フィレルの心の内には嫌な予感があった。
——ロアが全てを思い出したら、僕らの幸せは崩れ去ってしまう。
 霧の男の言い草からして、ロアの失われた記憶は決して、良いものばかりではないことがわかる。記憶を失い、自分をそうして守らなければならないくらい最悪な出来事が起きた可能性だってある。だって今は戦時中なのだ、何が起きたっておかしくはない。
 それを思えば検問もなかったツウェルの町は開放的なところだったなぁとフィレルは思いを馳せた。
 何はともあれ。
「ま、とりあえずご飯を待とーよ」
 楽観的なフィレルは、あまり深く考えない。

  ◆

 丁度その頃。
「入って良し!」
「どうもね」
 検問をくぐってきた一人の青年がいた。
 頭の高いところで括られた、青みがかった銀の長髪、海を写し取ったかのような深い碧の瞳。魔導士めいてはいるが、ローブの腰のところをベルトで留めて動きやすくし、裾もたくしあげて焦げ茶のブーツを履いている。
 青の瞳の奥にきらめく諧謔の光を浮かべた青年は、町に入るとぐるり辺りを見回した。
「きっと次はデストリィだから……この町、だよねぇ」
 彼は一回引き返すと、検問の人に尋ねた。
「ねぇねぇ、この町に絵描きの男の子と黒の剣士と、踊り子の少女の三人組が来なかったかい?」
「ああ、来たぞ。旅の絵描きなんて珍しいからよく覚えているんだ。知り合いかね?」
「ま、そんなものかな」
 ありがとうと検問の人に礼を言い、青年は難しい顔をする。
「この町って何も知らない人には、否、この町を知っている人にだって危険なんだよね。あの一団は恐らく何も知らないだろうけれど……」
 青年は右足を大地に打ち付けた。途端、周囲に冷たい風が吹く。町人たちはそんな魔法を使った青年を驚いたような眼で見つめ、青年は冷たい声を放った。
「この町についてはよく知っているよ。言っておくけれど、ぼくに手出ししようと思うなんて無謀だからね。僕の魔法ならば、人間くらい簡単に八つ裂きに出来るんだ」
 冷たい声での威圧に怯え、町人たちは彼から距離を取っていく。
 それでいい、と彼は呟いた。
「うう……あの毒のせいで病弱体質が復活しそうなんだけど。でもまぁ、仕方ない仕方ない。今夜は野宿するしかないかな」
 その身体を震わせ、軽く咳き込みながらも青年は呟いた。

  ◆

Re: 魂込めのフィレル ( No.20 )
日時: 2019/06/27 11:29
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)


「ご飯、できたよーっ!」
 それからしばらく。
 天使のようなティムが、フィレルたちを呼びにきた。
「あのね、姉さんが頑張って作ったの。ぼくも手伝ったの。すっごくおいしいから食べてねっ!」
 無垢な笑顔に案内されて、一同は食事の間へと向かう。
 食事の間には、立派な料理が用意されていた。
 子羊の照り焼き、オマール海老のスープ、新鮮野菜のサラダに特製ドレッシングがたっぷり。そして小麦のふわふわのパン。
「わぁ、美味しそうっ!」
 目を輝かせるフィレルに、いつの間にか現れたティラは微笑みを向けた。
「喜んで下さって何よりですわ。さぁ、お召し上がりになって」
「みんなは食べないの?」
「客人が先に食べるのが礼儀というものでしょう」
 彼女の微笑に誘われて、フィレルは料理を口にした。おいしい、と目を輝かせ、もりもり食べる。その勢いにつられてか、ロアとフィラ・フィアも恐る恐る料理に口をつけた。咀嚼して呑みこみ、それぞれに感想を言い合う。
 が、その瞬間。
「あれれぇ……?」
 ぐらり、傾いたフィレルの身体。
「おい、フィレ……」
 その背を支えようとしたロアの身体も、崩れ落ちた。
「……ちょっと、あなた、たち」
 二人と同じく崩れ落ちながらも、フィラ・フィアは信じられないという顔をした。
「わたしたちに……毒、を?」
 がたん、落ちてきた料理の皿がフィラ・フィアの銀の腕輪に当たった。当たったそこが黒く染まる。——毒がある、証拠だ。
 フィレルらの視界に、姉弟の顔が歪んで映った。
「誰があのデストリィを倒せるなんて信じるかな。悪いけれど、きみたちには姉さんの代わりに生贄になってもらうから」
 二人は最初から信じてなどいなかったのだ。二人は余所者が町に来たと知ったときから、計画していたのだ。
——その余所者を捕まえて、デストリィに、自分たちの代わりとして差し出そうと。
 そうすれば、確実に自分たちは死なないで済む。そうすれば、確実に悲しみの未来を回避できる。
 相手がいくらデストリィを倒すと口にしたって確証はない。ならば確実に、自分たちが助かる方法を——選ぶ。
 その行動原理は理解できたけれど、騙された、という絶望は深くて。
 しかし今更何か描いて攻撃しようにも、身体に力が入らなくて。
 明滅しながら、少しずつ暗くなっていく視界。闇に落ちようとする意識を懸命に呼び戻そうとしたがうまくいかない。
「騙した、な……」
 悔しそうなロアの声を耳に聞きながら。
 抗えず、フィレルの意識は闇に閉ざされた。

  ◇

 次に目が覚めた時、フィレルらは縄で縛られて、一つの部屋に転がされていた。
「調子はいかがですの?」
 声に視線を向ければ、そこには黒髪の美しい少女。
 フィレルは彼女に恨めしげな目を向けた。
「悪いよぅ、すっごく悪い! さっさとほどいてよっ! 僕らにはまだまだやることがあるのっ!」
「それはできない相談ですわ。ああ、でも大丈夫。『やること』なんてもう、永遠にやらなくてよいようになりますもの」
「……僕らを、どうする気」
「決まってますわ」
 彼女は優雅に微笑んだ。
「わたくしたちの代わりにデストリィの生贄になっていただき、地獄の責め苦を受けていただくだけ。最終的には命も奪っていただけますのでご安心あそばせ。わたくしたちの代わりに、あなたがたは尊い犠牲になるのですわ」
「……っ、ふざけるなよなっ!」
 その身勝手な言い分に怒ったフィレルは、縄から逃れようともがくが、力が入らず、その身体はただ無駄に体力を使うだけ。
「抵抗するだけ無駄ですわ。さっさと運命を受け入れた方が楽になれましてよ」
 そんな捨て台詞を残して彼女はいなくなった。
「……あいつめ」
 フィレルの隣で、目を覚ましたらしいロアが毒づいた。
 彼も先ほどから縄から逃れようと試行錯誤しているようだが、どうにもうまくいかないらしい。
 そんな二人の隣で、目を覚ましたフィラ・フィアが、ぽつりと呟いた。
「……絶対に何とかするって、約束したのに。あっちも信じてくれたはずなのに」
 彼女の瞳は悲しげだ。
「わたしたちは裏切られたのね。善良そうな人たちだと、思ってたのに」
「……人は見かけによらないってことだな」
 ロアは悔しそうに歯を噛み締めた。
 そして、時が来た。
「生贄さーん、時間だよー」
 そんな声とともに、天使のような顔のティムが扉を開けた。
 彼の後ろに続くのは、何人もの大人たち。彼らは目の前に転がされているフィレルらを見、確認するように言った。
「こいつらがお前の姉さんの代わりの生贄でいいんだな?」
 うん、とティムは頷いた。大人たちは「わかった」と言うと、無造作にフィレルらを肩に担ぎあげた。
「わわっ、何するんだよぅ」
「いいから黙ってろ!」
 びっくりして声を上げたフィレルは頭を殴られ、涙目で大人たちを見た。
 そうして彼らは連れていかれる。予期せぬ形で、全身を動けなくさせられた状態で、死の使いデストリィの神殿へと。
 大人たちに連れていかれる。ティム姉弟の家の前でティムはフィレルらを見送っていた。最後、その唇が「ごめんね」という言葉に形作られた。もしもこんな形で出会わなかったのならば、彼らは友達になれたのかも知れないのに。
 裏切られたことへの苦い思いはあったが、フィレルの脳裏には、ティムが最後に見せた表情が離れずに繰り返し浮かんでいた。
 その表情は、罪を覚悟で、それでも自分たちが助かろうとして罪を犯した、それは一種の誇りのようなものであった。

  ◇

Re: 魂込めのフィレル ( No.21 )
日時: 2019/07/01 12:51
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


 どさり、投げ出された身体、感じた衝撃。石の冷たい感触、ひんやりとした空気。「一応返しとくぜ」隣に荷物も放り投げられた。
 デストリィの神殿についてからしばらく。フィレルらの身体は神殿の奥にある祭壇の前に投げ捨てられた。当然ながら、縄は解かれないままで。
「しばらくしたらデストリィが来る。一週間後にはおまえたちは、見るも無残な遺体となって捨てられるだろう。この町に来たことが運の尽きだ、旅の絵描きさんよぉ? ま、せいぜい、自分の悪運を恨むこったな」
 そう、大人の一人は言って、フィレルらを置いて来た道を引き返していった。
 フィレルらの意識はこの頃には既に完全覚醒していたが、今の状況の打開策が浮かばない。意識はあっても毒のせいか、全身は異様なだるさに包まれていた。
 そして、

  ◇

「——あなたたちが、今回の生贄?」
 空間を裂いて聞こえた声。それは淡々とした、少女の声。
 灰色の、ショートボブの髪。感情を湛えない、無機質な白の瞳。頭には黒いリボンがついていて全体に白っぽい灰色のフリルのついた、灰色のヘアバンド。胸元にはフリルのついた、手の大きさほどの黒いリボン。灰色のワンピースに、白いフリルが要所要所についている。太ももまである白のロングソックスを履き、黒の靴。ロングソックスは素肌は見えないギリギリ位までワンピースの丈はある。その手には真っ白な刃のついた、大きな鎌があった。
 全体的に、どこか死神っぽい印象のある、無機質な少女だった。彼女は名乗る。
「わたしはデストリィ。死の使いにしてこの神殿の主。あなたたちがわたしのおもちゃ? ここにいるということはきっと、そういうことなんだよね」
 フィレルはその意外さに驚いた。デストリィの別名は「愉悦に狂った収穫者」。そのあだ名の通りに、もっと狂った外見を想像していたのだ。
 彼女は面白そうな顔で、フィラ・フィアを見た。その顔に輝いたのは好奇心。
「へぇ、あなたは封神のフィラ・フィア? 生きてたんだ。死んだはずだよね、ずっと昔に。どうして生きてるの?」
 彼女の質問に、フィラ・フィアは唇をきっと引き結んで相手を睨んだ。
「あなたの質問に答える義理などないわ。そんな顔をして、あなたが散々ひどいことをしてきたのは町の人から聞いているの」
「へぇ、そう。まぁいいや。
 でも、あなたたちは今回、わたしの生贄として選ばれた、わたしの玩具として選ばれた。なら……」
 デストリィは面白そうに笑った。
 その白の瞳に狂気が宿る。

「——壊しちゃったって、いいよねっ!」

 言葉と同時、彼女は手にした鎌を振る。ぐるり描かれた半月の軌道、鎌の動きに合わせて無数の小さな白刃が現れ、縄に縛られたままの、無防備なフィレルらに迫る。
「くそっ!」
 ロアが毒づき、縄の拘束から逃れようと必死でもがくが抜けられない。そして非情にも迫る刃。

 その、刹那。
 柔らかな風が、吹いた。

Re: 魂込めのフィレル ( No.22 )
日時: 2019/07/03 01:48
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)

 フィレルは自分の死の瞬間を想像して怯えていたが、いくら待っても何も起こらないことを知り、恐る恐る顔を上げた。
 そして、気づく。
「……動ける」
 デストリィの刃は不思議なことに、フィレルら本体を傷つけず、縄だけを切り裂いて止まっていたのだ。
 はらはらと落ちた縄の残骸。
 顔を上げた先には、青みがかった銀の長髪の、魔導士めいた軽装の青年がいた。青年はフィレルの視線に気づくと、爽やかに笑って声を投げた。

「やぁ、ここで会えるなんて、“運”がいいね?」
「イルキス!?」

 彼は微笑み、間に合ってよかったと息をついた。
 そんな彼に、デストリィは怒りを向ける。
「ひどい。わたしの玩具、勝手に自由にしないで」
「ひどいのはどっちの方さ」
 呆れたようにイルキスは呟き、フィレルたちを振り返る。
「さぁ、拘束は解けたよ。毒はまだ抜けてないかな? ならば……それ、これでもどうだい」
 言って、彼は懐から何かを取り出した。マッチと……不思議な、木の一部。イルキスが小皿を取り出して木片をその上に置き、マッチで火をつけた。すると間もなく、清浄な空気がその気から漂い、それを吸い込むと全身のだるさが一気に引いていくのをフィレルは感じた。
 毒が抜けるとすぐにロアは立ち上がり、剣を構えてデストリィを睨む。
 フィレルは驚きの目でイルキスを見た。
「すごい……。これ、何なの?」
「山の奥深くにしか生えないオルファ香さ。あらゆる毒を消し去る万能の霊木だよ」
 これで何とかなったかな? と彼は笑う。
 フィレルは恐る恐る立ち上がり、身体を動かしてみる。動いた。それを確認すると、フィレルは転がされた荷物に飛びつき、キャンバスを取り出した。絵筆とパレット、一部の絵の具はポケットにあるし水筒は装備している。
「ありがとー、イルキス! 助かったんだよー!」
「……助けは本当に嬉しいけれど、どうしてわたしたちを助けたの。ツウェルでは敵対したじゃない」
 フィラ・フィアは訝しげな表情を浮かべながらも立ち上がり、落ちていた錫杖を拾い上げ、封印の舞を舞う準備をする。
 そんな彼女の隣に立って、イルキスは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あの時は確かに対立したけれど、今はぼく、きみたちが『本物』って信じてるし。それにさぁ、ぼくは風のように気まぐれなんだ。きみたちについていくの面白そうだと思って、ね」
 その目に諧謔《かいぎゃく》の光を浮かべ、笑うイルキス。
 そんな彼に向かって容赦なく白い刃が飛んだが、毒の抜けきったロアが剣を抜き放ち、それを防いだ。
「不意打ちを狙おうとしたのだろうが……させないぞ」
「……わたしの、玩具」
 デストリィの顔に強い怒りが浮かび、その瞳が赤く染まる。
「あなた、邪魔した。ならば壊してあげるよ、苦しめてあげるよ。わたし、容赦なんかしないんだよっ!」
 言って振った鎌の先、先ほどよりも圧倒的多数の白刃が浮かび、フィレルらに飛来する。流石のロアもこの量を一人で捌《さば》き切るのは無理だ。
 だが、今ここには、飛来する攻撃に対しては圧倒的な回避力を誇る特殊魔導士がいる。イルキスは真剣な目をして叫んだ。
「運命神《ファーテ》よ、ぼくに力を貸すならば今なんじゃないのかい!?」
 風も起こらない、何も起こらない。けれどその刹那、確かに感じた圧倒的な力の波動。それはファーテの力、運命神の力。イルキスと契約した、力ある神の力。
 幾千もの刃は一部はロアの剣に食い止められて砕け落ち、残りは奇跡的にもフィレルらを避けた軌道を取った。
 フィレルは呆然とした。この力、指運師の力。奇跡としか思えない力を駆使し、どんな矢も当たらなくしてしまうその力は確かに、状況によっては非常に有利な結果を味方にもたらしてくれるに違いない。
「……って、そんな場合じゃない! わたしは舞うわ。みんな、しばらく食い止めててッ!」
 同じく呆然としていたフィラ・フィアは不意に我に返り、封神の舞を舞い始める。しゃん、しゃん、と錫杖と身につけた鈴が鳴り、光でできた虹色の鎖が現れて、少しずつ実体を得ていく。
「間接攻撃は……無理? ああ、もうっ! みんな、わたしを怒らせるのは得意だね。わたしは無抵抗な生贄で遊ぶのが好きなのに……」
 苛立たしげに呟いたデストリィ。彼女の目が赤く光ったかと思われた、瞬間。
「あっさり殺してあげるね」
 彼女の身体が瞬間移動し、刹那の後にはイルキスの目の前にいた。驚いた顔のイルキスを彼女の大鎌が切り裂く。飛び散った血の飛沫。

Re: 魂込めのフィレル ( No.23 )
日時: 2019/07/04 10:25
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)


 だが、イルキスは笑っていた。その目に諧謔を浮かべながら。
 イルキスは幻影使いだ。そのことに気が付いたフィレルは、見る。イルキスを斬ったデストリィの背後、もう一人のイルキスが立っているのを。

 このイルキスが本物だ。

「もらった、よ!」
 イルキスの呼び出した水の竜巻はデストリィを包み込み、彼女を縛り、自由を奪う。同時、凄まじい勢いで回転する水はデストリィから酸素をも奪っていく。
 そんな彼に守られて、ついぞ完成した虹色の鎖。
 フィラ・フィアは銀の錫杖を、水に包まれた死の使いに向けた。
「覚悟しなさい、愉悦に狂った命の収穫者、デストリィ! 定められた命だけを奪っていればよかったのに、命を奪う楽しさに目覚めてしまったのが運の尽き! 悪いけれど、封じさせてもらうわね!」
 燦然と輝いた虹の鎖。
 が、
 不意に。
「…………ッ」
 イルキスが苦しげに膝を折った。水の竜巻が消滅し、死の使いが解放される。
 その顔は苦しみに歪められ、呼吸が荒く細く乱れている。「イルキス!?」フィラ・フィアの注意が逸れて、虹色の鎖の実体が薄れる。
 それを好機と見て、イルキスを殺さんと迫ったデストリィの鎌。
「させるかァッ!」
 ロアが吼え、デストリィとの距離を一気に詰める。が、あと一歩のところでロアの剣はデストリィの鎌に届かない。デストリィの顔に勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。だが。
「……僕のことを忘れてなぁい?」
 その瞬間、完成したフィレルの絵。フィレルは即席で描いたくせに緻密な仕上がりになっている絵に触れた。触れたところが緑色に輝き、描かれた絵が実体化する。
 それは、青々とした、植物のつた
「いっけぇ!」
 蔦はフィレルの指示に従って、真っ直ぐに伸びていく。蔦はイルキスを切り殺さんとしたデストリィの鎌に巻き付き、辛うじてイルキスが傷付くのを防ぐ。
 それを見て安心したフィラ・フィアは舞を再開、今度こそ実体化した鎖はデストリィに巻きついた。
「……死の使いデストリィ、封印完了!」
 フィラ・フィアの声とともに巻きついた鎖は光を放ち、数瞬後にはその場には、煙水晶に覆われた神の姿があった。煙水晶はフィレルの蔦の一部も一緒に巻き込んでいた。
「……ふう。今回はイルキスが大活躍だったわね。
 ……って!」
 錫杖を振り、満足げに呟いたフィラ・フィア。彼女は微笑んだが、その時イルキスが具合悪そうにしていたことを思い出し、片膝をつき、乱れた呼吸を繰り返しているイルキスに駆け寄った。
「あなた、大丈夫? どこか悪いの?」
「……ここに来る前に毒矢を喰らってね。それ以降調子が悪いのさ」
 調子が悪くても、それでも笑おうとするイルキス。フィラ・フィアは困った顔をした。
「……そう。本当ならわたしの舞であなたを治療したいところなんだけれど……神様を封じた直後だし、ごめんなさい、今はもう力の舞を舞えそうにないの」
「大丈夫さ。休んでたら……何とか、なる」
 とりあえず、第二の封印は達成したね、とフィレルは笑った。
「じゃあさ、帰ろうよ! 帰ってさ、エーファの人たちを安心させちゃえー!」
「……だな。イルキス、よく頑張った。よく助けに来てくれたな。お前は休んでろ。町までオレが背負って行ってやる」
「……済まないね」
 申し訳なさそうなイルキスを、ロアが背負う。
 じゃあ帰りましょうとフィラ・フィアは言った。

  ◇

Re: 魂込めのフィレル ( No.24 )
日時: 2019/07/08 12:52
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)

「デストリィは、最初は黄昏の主の命令を忠実に実行するだけの神様だったんだって」
「黄昏の主ぃ?」
「死の神様のことだ。それくらい知ってろ馬鹿」
 帰り道。フィレルらの応酬を隣に聞きながら、フィラ・フィアは今回の神様のことを訥々とつとつと語り出す。
「デストリィは忠実だった。デストリィは真面目だった。でもある日偶然、ある人間をひどい方法で殺してしまったときから、人を殺す楽しさに、弱きをいたぶる喜びに、目覚め始めた」
 彼女は、語る。
「そしてデストリィは黄昏の主の制御を離れ、好き勝手するようになった。黄昏の主もその息子カイも、そんなデストリィを放置して、誰も何とかしようとしなかった。そしてわたしが生まれたの」
 歩きながら、彼女は語る。
「黄昏の主もカイも、わたしが、わたしという神封じの存在が生まれたから、デストリィの処分はわたしに任せることにした。でもわたしは死んでしまった。だからあの神様はそれから長いこと、放置されることになってしまったのね」
 でも、と彼女は誇らしげに笑う。
「ようやく封じられたわ。ようやく封じられた。わたしは着実に、三千年前にやり残した仕事を終わらせてきてる」
「あとどれくらい封じればいいのさ?」
 フィレルの問いに、そうねと彼女は考え込む顔。
「戦呼ぶ騒乱の鷲、戦神ゼウデラでしょ、死者皇ライヴでしょ、生死の境を壊す者アークロアでしょ、無邪気なる天空神シェルファークでしょ、最悪の記憶の遊戯者フラックでしょ、運命を弄ぶ者フォルトゥーンでしょ……。
 あと六体? まだまだ道は長いわ」
 そっかぁ、とフィレルは頷いた。
「まぁ、地道に頑張ろーね!」
「そんなこと言ってられないわ。次の目的地は何処?」
「まぁそんなに焦りなさんな」
 ぶつぶつ言いだしたフィラ・フィアに、呆れたようにロアが声を掛けた。
「荒ぶる神々のせいで皆が被害を受けているのは解ってはいるが、こっちのスピードにも限度があるんだよ。焦っても何も始まらん。少し落ち着いたらどうだ」
「……それも、そうね」
 フィラ・フィアは不思議そうな眼でロアを見上げ、続いてフィレルを見、ロアに背負われているイルキスを見た。
「……不思議。あなたちといると、かつての仲間を思い出すの。ロアはエルステッドに似ているし、フィレルはレ・ラウィそっくり。イルキスは旅の序盤に散った、ユーリオ&ユレイオ双子にそっくりなの。ヴィンセントとシルークはいないけれど……」
 彼女の言葉に、フィレルはえっへんと胸を張った。
「ふふふっ、僕はレ・ラウィの子孫なんだよーっ! レ・ラウィと奥さんのルキアの間に神絵師ラキが生まれた。僕にはそんな英雄たちの血が流れているのさっ!」
「オレは記憶喪失の戦災孤児だから出自を覚えていないが、でも、唯一生き残ったエルステッドは、フィラ・フィアの死後、誰とも結婚しなかったと聞く。双子は言うに及ばずだ。だから真に英雄の血を引いていると言えるのは、そこのフィレルだけなんだ。オレやイルキスは……他人の空似だろう」
 そっか、とフィラ・フィアは頷いた。
 そうやって話している間に、エーファの町に着く。
 エーファの町の検問に会った時、一行は大いに驚かれた。
「生贄が……生きて、いる!?」
 驚く検問にフィラ・フィアは誇らしげに胸を張る。
「封神のフィラ・フィア、愉悦に狂った収穫者デストリィを、封印してきたわ。報告したい人たちがいるの。わかったならばさっさと通しなさい」
「封神のフィラ・フィア……? あなたが……?」
「疑うならば神殿に行けばいいわ。デストリィの形をした煙水晶がそこにある。それが、わたしが真にフィラ・フィアたる証」
「し、ししし失礼しましたっ!」
 検問の人はその場で大きくお辞儀をすると、一行を町の中に通してくれた。
 その先で、再会する。
「……どうして、生きてらっしゃるの」
 驚いたような顔をして、町の真ん中で固まったティラ。
 封じたんだよーっ、とフィレルは笑った。
「えっへん! 僕たちは強いんだからねーっ!」
「ああ、わたしはあなたちを責めないわ。仕方のない選択だって、わかっているもの。まぁ結果オーライだし、どうせすぐに新しい町へ旅立つから」
 フィラ・フィアの言葉に、青い顔をしてティラは黙り込むのみ。
 そんな彼女の隣から、天使のようなティムが現れて天使のような笑顔を浮かべた。
「旅の絵描きさん、本当にありがとう! お陰で姉さんも死なないで済みます。ひどいことしちゃってごめんなさい」
「大丈夫。だから結果オーライだってば」
 そんな少年にフィラ・フィアは優しく笑う。
「でも、もう二度と旅人を騙すなんてことはしてほしくないかな」
 ティムは強く頷いた。
「うん、しないよ。ぼく、絶対にしないよ!
 ……伝説の人、今、本当にここにいるんだね」
 そうよ、とフィラ・フィアの瞳に強い光が宿る。
「わたしはフィラ・フィア、封神のフィラ・フィア! 今は過去にやり残した仕事の続きをやろうとしているの。これで信じてくれたかしら?」
「うん!」
 少年の笑顔を見、一件落着と判断。別れの言葉を口にし、姉弟と別れた。
 今回はこの町の宿にお世話になることにする。次の目的地はのんびり話し合おうということになった。
 町にひとつだけある宿で、フィレルの地図を広げて相談する。その頃にはイルキスの体調も回復していた。
 そう言えば、とフィレルは首をかしげる。
「イルキスは今後、どうするのぉ?」
 言ったでしょ、と彼は笑った。
「ぼくは風のように気紛れなんだ。でね、きみたちのことを面白いと思ってね。ぼくは風来坊、旅をするのは大好きだし、きみたちさえ良かったら、封神の旅団に加えてもらいたいのだけれど?」
 その言葉に、フィラ・フィアは目を輝かせた。
「その申し出、ありがたいわ! わたしはいつでも歓迎よ。じゃあ、イルキスもついてきてくれるのね!」
 言っておくけれど、死ぬ可能性だってあるのよ? と言うフィラ・フィアの言葉に、覚悟の上さとイルキスは涼しい顔で答えた。
「でも、気になったからねぇ。この旅の結末がどうなるのか……ぼくはそれが見てみたい」
「じゃあ決まりね。ようこそイルキス、新生封神の旅団へ!」
 メンバーに新しい仲間が加わった。
 さて、とロアは言う。
「次はどうするんだ? 次に封じるのはどの神だ?」
 そうねぇ、と地図を見ながらフィラ・フィアは考え込む顔。
 彼女は地図に記された一つの町を指差した。
「次は、ここ。封じる神様は死者皇ライヴ」
 そこには「エルクェーテ」と書かれている。
 その町は、知る人ぞ知る、大きな魔道学校のある町だった。その魔道学校には、今後のシエランディアを担う、若く有望な学生が通っている。そんな町に、未来ある町に、荒ぶる神々の一角がいる。
「死者皇ライヴは死者を操る。単体じゃないからこれまでみたいには戦えないかもしれないわ」
 フィラ・フィアの言葉に、真剣な表情で一同は頷いた。

  ◇