PR
複雑・ファジー小説
- Re: 魂込めのフィレル ( No.25 )
- 日時: 2019/07/10 10:45
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)
【間章 動乱のイグニシィン】
時はさかのぼる。
「終わりだよ、裏切りのエイル」
現実となれ。ファレルの解放された言霊使いの力が彼女に迫った。
彼が力で彼女を動けなくしたから、彼女はもう死を待つしかない。
エイルはその目に悲しみを浮かべながらもファレルを見た。全てを理解しているという顔だった。
最後に、とファレルは問うた。
「君はどうして、僕らを裏切ったんだい?」
「……『お母さま』が」
彼女はぽつりと呟いた。
「『お母さま』が、わたしに命じたんだ。みんなみんな殺しちゃえって。そうすればわたしを愛してくれるって。わたしに本当の愛をくれるって」
その言葉に、ファレルは悲しそうな顔をした。
「『お母さま』が誰かは知らないけれど……僕らでは、君の居場所になれなかったのかな。僕はねぇ、この城の人間全てを僕の家族だと思うようにしていた。実際そのように振る舞ったし、リフィアもエイルも旅立ったロアも、血の繋がりこそないけれど家族だと思っているんだよ。それでは足りなかったのかい? 僕の愛では、君の心を満たせなかったのかい?」
エイルはうつむいて唇を噛んだ。
「ファレル様の愛や優しさは知ってる。でもわたしの一番はファレル様じゃないし、大親友のリフィアでもないの。遠い昔、わたしを地獄から救ってくれた『お母さま』だけ。わたしは『お母さま』の命令でここにいる。『お母さま』の言葉になら、何にだって従う」
彼女は『お母さま』に盲従していた。
「誰もわたしを見てくれなかった。誰もわたしをあいしてくれなかった。みんながみんな、この特異な見た目のわたしを気味悪がるだけ。でも『お母さま』は違ったんだ。『お母さま』は最初から、わたしを愛してくれたんだ。だからわたしは『お母さま』に従うの。それだけ」
「……あたしと仲良しだったのも、その人に命じられてのことなの?」
「違うよリフィア。わたしはあなたと友達になりたかったの。でもできなかった、それだけ」
リフィアの言葉に首を振る。
さぁ、と彼女は赤い瞳でファレルを見た。青いショートボブの髪が、揺れる。
「任務は失敗。帰ったら怒られちゃうよ、嫌われちゃうよ、酷い目に遭っちゃうよ。だからそうなる前に殺してよ、ファレル様」
「……ここに居続けることは、出来ないのかい?」
「無理。わたしと一緒に来てた男たち、『お母さま』の仲間。あの人たちならわたしを殺すことなんて造作ないし、それにずっとここにいたらファレル様たちが危険だよ」
わたしに未来なんてないんだよ、とどこまでも淡々と。
ファレルは溜め息をつき、目を閉じた。彼の周囲に濃密な魔力が集まる。
そんな彼にリフィアはしがみついて叫んだ。
「駄目、駄目だよファレル様ぁっ! エイルちゃんはまだ——!」「息絶えよ、エイル。——現実となれ」
が、問答無用でファレルは“言葉”を発した。彼の周囲ですさまじいほどの魔力が膨れ上がり、問答無用でエイルを襲い、彼女を亡骸に変えた。リフィアの瞳から涙が流れる。
ファレルはそんなリフィアの頭を優しく撫でてやりながらも、幼い子に諭すような調子で言った。
「仕方のないことだったんだよ。彼女はもう、殺してやるしか幸せになる術はなかった」
「……ファレル様は……平気、なの?」
涙をこぼしながらもリフィアは問うた。ああ、とファレルは淡々と答える。
「悲しいとか辛いとか、そんな感情はずっと昔に封じた。僕が人殺しをしたのは初めてじゃないし、今回はその相手が僕の家族だったってだけさ」
「……ファレル様は、もしも相手がフィレルとかロアだったとしても、場合によっては殺せるの?」
「場合によっては、ね。ああ、勘違いをさせないために言っておくけれど、僕は周囲から受ける印象ほど聖人君子ってわけではないし善人でもない。だからエイルを殺しても、リフィアほど心は痛まない」
そう、とリフィアは頷いた。
流れる涙は止まらない。
「あたし、さ……エイルちゃん、大親友だって思ってた。何があっても、これから先ずっと一緒にいるんだって思ってた。それがこんなことになって、さ……。辛いよ、悲しい、よ……」
人はいつしか死ぬものだよ、とファレルは言う。
「だから涙を拭いて。ケーキとか吹っ飛んじゃったし、後片付けしないと。折角の御馳走が台無しになっちゃったね。フィレル達はうまく逃げられたかなぁ」
言いつつ、彼は次の作業に取り掛かろうとするが。
エイルの亡骸が、彼の記憶の中の誰かと重なった。
それはずっと封じていた記憶。彼が壊れた原因である、遠い遠い日の記憶。
あの日、彼の母親は殺されたのだ——。
思い出すまい、強くこらえて、彼は自分を守るために、こうせざるを得なかった。
「意識よ……消え、よ」
呟けば、彼に言霊が応じた。
そして彼の意識は闇に包まれる。
「ファレル様!?」
リフィアの悲鳴が遠くに聞こえた。
◇
- Re: 魂込めのフィレル ( No.26 )
- 日時: 2019/07/14 13:19
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
穏やかな光の中、ファレルは目を覚ます。
そこは彼の部屋だった。彼の眠っていたベッドの横には、椅子の上でリフィアが目を閉じていた。あの後、彼女が後始末をし、ファレルをここまで運び、ずっと傍にいてくれたらしい。申し訳ないことをしたなとファレルは思ったが、あの時、あれしか最善の策は無かったのだ。
ファレルはそっと身を起こす。トラウマの記憶は心の奥に封じ込めた。それに付随する言霊使いの力も一緒に封じ込められたが、仕方あるまい。彼が力を使うことは、最悪の場合彼自身を壊しかねない、非常にリスキーなことなのだ。
「さて、これからどうするか……」
ファレルとリフィア。二人だけならばきっと生きていけるだろう。変わらぬ毎日を過ごしながら、フィレルたちの帰りを待つ。騒がしい弟がいないと毎日は非常に退屈になるだろうが、フィレルには果たすべき責任があるのだ、仕方ない。
「う……ん……」
身動きしたファレルに気付いたのか、リフィアが目覚めて大きく伸びをする。彼女は「うー、寝違えたー」などとぼやきながらも目をこすり、ファレルに焦点を合わせた。その顔が輝く。目が一気に覚めたようだ。
「あ、ファレル様! 起きたのね! おはよーございまーっす! 体調、大丈夫?」
「ああ、おはよう、リフィア。うーん……ちょっと頭痛がするけれど、まぁいつものことだし、あまり気にしなくていいかな。リフィアはさ、僕が倒れた後にどうしたんだい?」
「町の人呼んで後片付け手伝ってもらいましたぁ! 毒物もあるし、流石にあたし一人じゃ無理だわ。……エイルちゃんね、あたし一人で弔って、お城の前のイチイの木の下に埋めたの。それで疲れちゃって寝ちゃったのね」
彼女の顔には、疲れがあった。
ファレルは穏やかに微笑んで、言う。
「昨日はよく頑張ってくれたね。今日は料理とか僕が作るからさ、君は一日中休んでいていいよ」
ファレルの言葉にリフィアは驚いた顔をし、全力で首を横に振る。
「ええっ、そんな! ファレル様をあたしの代わりに働かせるとか罰が当たるわよ!」
「メイドには休みがない。君だって、時には休んでもいいと思うんだけどなぁ」
とんでもないと彼女は首を振る。
「領主さまは領主さまとしてしっかり責任を果たしているからそれでいいの。領主さまに代わりなんていないけれど、メイドなんて誰だって代われる存在でしょ? だからあたしはそれでいいの!」
僕だって何かしたいんだけどなぁ、とぼやくファレルに、ファレル様は優しすぎるんだからとリフィアは呆れた顔。
「とりあえず万事あたしに任せなさい。そーだ、フィレルたちの話、何か掴めたら町で聞いてくるわね。今日は町にお買い物に出かけなきゃだし、そのついでね。ファレル様は何もしなくていいの。だってファレル様はあたしたちに居場所をくれたじゃない。それだけでいいのよ」
言って、行ってきまぁすと彼女は足早にファレルの部屋を出る。
そんな彼女を、複雑な顔でファレルは見ていた。
◇
昨日は流せなかった涙。大好きだったエイルへの涙。
一人になったら流せるだろうか? 思って、城の外へ駆けだして、近くの森の木に頭を押し当ててリフィアは泣いた。昨日は忙しかったからそんな暇なんてなかったけれど、エイルのことを思えばちゃんと泣けた。
「エイルちゃん……どうし、て……」
理由は昨日、説明してくれたけれど。
それを頭では理解できるけれど、感情は納得していなかった。
初めて出来た友人なのだ、同年代の友人なのだ。そんな友人にいきなり裏切られて敬愛する人物に殺されて、悲しくないはずがないのだ。
そうやって、泣いていたら。
掛けられた、声。
「どうしたんだ?」
そこにいたのは青髪赤眼の、
「……エイル、ちゃん?」
「どうして妹の名を知っている?」
それが、彼と彼女との出会いだった。
エイルとよく似た外見の青年は、不思議そうにリフィアを見ていた。
◇
- Re: 魂込めのフィレル ( No.27 )
- 日時: 2019/07/16 09:09
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)
「俺はレイド。いなくなった妹をずっと探していたんだが……成程、そういうことか」
リフィアの拙い説明を、エイルそっくりの彼は即座に理解した。
青い、少しぼさぼさの髪、赤く輝く瞳には知性が宿る。灰色の地に黒いつる草模様のあるシャツを着て、その上には青のジャケット。大きな灰色の肩掛け鞄を肩から下げ、やや黒寄りのズボンを履き、靴は黒の、機能性に優れていそうに見えるもの。腰には二本の剣を差している。双剣使いに見えなくもない。
彼は泣きじゃくるリフィアに、不器用に声を掛けた。
「話は理解した。リフィア、と言ったか? 大親友を失って辛いだろうが、現実はずっと続くぜ。涙を拭いて前を見ろ。
あんたには感謝している。これで新しい目的ができたからな」
「……目的?」
「妹は死んだ。あの子が『お母さま』と呼ぶ存在によって、望まぬ裏切りを強いられて、な。ならば兄は妹の為に動かねばなるまい。俺はあの子の復讐をしに行く。情報は少ないが……絶対に、何とかしてやるさ」
その瞳には、強い決意があった。
だが、と彼はリフィアを見た。
「こうやって泣いている女の子をそのままにしておくのも忍びないな。何かの途中だったか? 折角だから、そちらさえ良ければ一緒についていってやるよ。こういうときは、誰かが傍にいたら心強いだろう」
リフィアは涙に濡れた顔を上げた。
「……いいの?」
ああ、とレイドは頷いた。
「逃げられたって追い付けばいい。気長に追跡戦を仕掛けるさ。それに、妹が世話になったしな、ファレル様? に、礼を言わなくちゃならない。そしてお詫びもしなくちゃならない」
しっかりした人だ、とリフィアは思った。
ロアもこういうところがあるが、この青年ほどしっかり者だっただろうか。
いつもフィレルに振り回されているロアを想像し、無理だなとリフィアは思った。ロアも確かにしっかり者だけれど、この青年ほどではないだろう。
「立てよ、まだ生きていくつもりならば」
青年は手を差し出した。その手は無骨で、ずっと武器を握り続けてきたことがうかがえる。
リフィアは頷き、差し出された手を握って、立ちあがる。
気づけば涙は乾いていた。「ほら」と差し出されたハンカチ。礼を言って涙を拭う。
「あたし、買い物に行くところだったんだ」
思い出したように呟いて、ふらふらと歩きだす。
おいおい大丈夫かと、青年の呆れた声がした。
◇
今日の夕御飯の材料と、いくつかの日用品を買いに行く。
町の人たちはイグニシィン城であった事件を皆知っていて、気の毒そうにリフィアを見ていた。が、彼女の近くに控えるエイルそっくりな青年を見ると、みんながみんな目を丸くして何者かと訊ねる。そのたびにレイドは「生き別れになった妹を捜しに来た兄だよ」と答えていた。
「聞きたいんだが、お前たち、この町では有名なのか?」
質問の多さに辟易しながら、そうレイドは訊ねた。
そうね、とリフィアは頷く。
「まず、ファレル様の弟のフィレルが問題ばっかり起こしていてある意味有名。で、哀れにもそのフィレルのお守りに任命されたロアが苦労人として有名。で、あたしとエイルちゃんはファレル様のお使いとしてしょっちゅう町に出掛けていてそこそこ顔が広い。ファレル様はお城から外に出ないけれど、お城の中には割と頻繁に町人を招いていて、その優しさや明るさ、おおらかさにみんな心酔。で、あたしたちは『ファレル様御一行』と一括りにされるようになって、まぁみんなみんな親しいのよね。ファレル様は町人との間に身分の垣根を作らない方だし」
「……今時、そんな領主が、いるのか」
驚いたようなレイドの言葉に、ええそうよと誇らしげに胸を張る。
「ファレル様は世界で一番の領主さま。私利私欲に囚われないで、常に町のことを考える。ここの税金の安さを知ってる? それだからいつもお城は貧乏。でもそれでもファレル様はお城の住人ばっかり気遣って、ファレル様自身の部屋も衣服もみぃーんな貧相」
彼女の言葉に、レイドの口角が上がった。
「そんな聖人君子みたいな領主さまがいるとはな。ますます会いたくなってきたぜ」
「買い物終わったら会わせてあげるわ。
……ああそうだ、頼まれてた情報聞かないと」
ふと思い出し、リフィアは近くにいた町人に訊ねた。
「ねぇねぇ! あの事件の後さ、フィレルたちがどうしてるか知ってる?」
声を掛けられたのは大工みたいな恰好をして、腰に金槌やら釘やらの道具をぶら下げた男だった。男はああ、と頷いた。
「助けを求めていたから俺の家に匿った。翌日、ツウェルを目指すとか何とか言って旅立った。それ以降は知らないが、危機的状況は脱したようだ。足取りを追いたければツウェルに向かうことだな」
相手の言葉に、リフィアは頷いた。
「そっか、あなたの家に泊まったのね。フィレルは悪さしなかった?」
「別に。というか俺の家には子供が悪さするようなものなど置いてねぇし、あの時は皆切羽詰まってたからそんな余裕などなかったと思うがな」
「わかった、ありがとう!」
「おう。嬢ちゃんも頭切り替えて、頑張れよ」
わかってるって、と笑顔を見せて、彼女は大工風の男と別れる。
その様を見て、レイドが感想を漏らした。
「『ファレル様御一行』か。愛されているんだな」
当然よ、とリフィアは笑う。
「この町には敵なんていないわ。みんなみんな仲間だもの!」
気づけば涙は完全に乾いていて、そこにはいつものリフィアがいた。
無理していない、自然なリフィア。いつもの明るさがそこにあった。
彼女はレイドを振り返った。彼の手には「手伝う」と彼自身が申し出て持った幾つかの荷物がある。
「じゃ、行きましょ。ファレル様に紹介するわね!」
ああ、と頷いた彼。
その瞳の奥の感情は、読めない。
◇
- Re: 魂込めのフィレル ( No.28 )
- 日時: 2019/07/18 14:42
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)
「……ってわけで、ファレル様。エイルちゃんの兄さんらしいのね」
「初めまして、領主ファレル。レイド・アルクェルと言います。宜しくお願い致します」
「初めまして。ファレル・イグニシィンだよ。こちらこそよろしくね」
リフィアがざっと事情を話し、二人はファレルの部屋で対面する。
ファレルはいつもの穏やかな青の瞳でレイドを見ていた。
済まないね、とファレルは申し訳なさそうな顔をした。
「せっかく妹を捜しに来たらしいのに、もうあの子はいないんだ。
……恨んでも、いいんだよ? あの子に直接手を下したのは僕さ。でも、それしかあの状況のあの子が幸せになる道はなかった。あの子が生きていたら、『お母さま』の手の者が任務に失敗したあの子をひどい目に遭わせるんだって、そうはなりたくないからせめて、敬愛する僕の手で殺して欲しいって、そう懇願されたんだ」
済まないね、と彼はもう一度謝った。
ファレルの言葉に、レイドはつとその目を細めた。が、それはたった一瞬のことで。
「……こちらこそ、妹が迷惑をかけました」
淡々とした口調で謝罪の言葉を口にする。
ところで、とファレルは問うた。
「君さえ良ければ、君とあの子との間にどんな事情があったのか、話してくれないかい?
……そうそう。あの子はお城の前のイチイの木の下にリフィアが埋めたらしいから、後で行ってやるときっと喜ぶよ」
ああ、とレイドは頷いた。
「俺とエイルは双子だったのですが——」
◇
彼の語った内容によると、エイルとレイドは双子の兄妹だったらしい。二人は仲良しでいつもずっと一緒にいたが、ある時住んでいた町が津波に呑みこまれた。そこで両親は死に、双子は生き残ったもののばらばらになってしまった。生き残った双子は最初、相方も死んでしまったと思っていた。けれど双子の兄レイドは噂に聞いた。自分とよく似た外見の少女のことを。それが妹のことだと即座に理解した彼は噂を追って各地を放浪し、ようやくこの地にたどり着いたが妹は既に死んでいたということ。
「……まぁ、死んでしまったのならば仕方がないな。また会えればと思ってはいたが、死者は蘇らない。諦めるしかないさ」
そう、レイドは締めくくった。
じゃ、と彼は言う。
「あの子が世話になった相手に挨拶することができたし、あの子の結末も分かった。俺はこれ以上ここにいる用を感じない。だからもう、出掛けるぜ」
「……もう、行っちゃうの?」
リフィアは寂しげにレイドを見た。
そんな彼女に、
「ついてきたいならば止めはしない。お前も大親友を殺した相手を知りたいならば好きにすればよい」
彼は言う。
リフィアの赤い瞳が、戸惑うようにファレルとレイドの間をさまよった。大好きな領主様と、新しい世界への誘
いざな
い。どちらも選びたいけれど、選べるのはひとつだけ。
「行けばいいじゃないか」
優しく笑ってファレルは言った。
「僕は一人でも構わないんだ。ああ、ひとりぼっちでも寂しくはないさ。それに僕は僕の存在によって、大切な家族の行動を邪魔したくないのさ。後悔しない選択をしなさい。全ては君の心の赴くままに」
優しい青の瞳の奥の感情は読めない。
彼の言葉がリフィアの心を打った。
『後悔しない選択をしなさい』その言葉が、彼女に前へ進む勇気を与える。
やがて彼女は頷いて、ファレルに深く頭を下げた。
「……ごめんなさい、ファレル様。あたしはエイルちゃんを滅ぼした相手が知りたい。それにやっぱり! 旅がしたいの、外の世界を見て見たいのっ!」
「……それが、君の心から望むことならば」
ファレルは頷いた。
彼女はこのイグニシィンで生まれ育ち、イグニシィンから出たことがない。ファレルに仕えることは確かに幸せであったが、彼女にとって、外の世界は、未知の世界は、ずっとずっとあこがれの対象だったのだ。
でも、と彼女には不安があった。
「メイドがいなくなったら、家のことはどうなるのかな……」
「こんな手があるが」
レイドは肩掛け鞄から幾つかの何かを取り出し、宙に放り投げる。それは——
「……人形?」
「双剣も使うがな、俺の本業は人形使だ」
言って、彼はにやりと笑った。
「この人形たちにファレル様を守らせる。こいつらは意思持つ人形だから、俺の命令なくとも自分の意思で動き、与えられた使命を果たす」
そしてこいつらはいくら傷付いても死なないからな、と補足した。
「だから大丈夫だ。こいつらは家事もできるし、安心してくれて構わない」
ありがとう、とリフィアは笑った。
「ならば心配ないわね! ……でも、ファレル様。本当に、だいじょう……」
「大丈夫だから、心配しないで。君は君の好きなように生きればいい。君の行動を、僕が縛っていい理由なんてどこにもないのだから」
行ってらっしゃい、と彼は言った。
その優しく穏やかな瞳に後押しされて、行ってきます、とリフィアは頷いた。
「あたし、見てくるわ。ファレル様の知らない外の世界を。そして、帰ってきたら、出かけられないファレル様の為にいっぱいいっぱい話すのよ! だから楽しみにしていて」
ああ、とファレルは頷いた。
決まりだな、とレイドは言う。
「出来るならさっさとあの子を弔ってやりたいんだ。まだ日は高いし、今日中に出掛けたいんだが?」
「わかったわ、準備する!」
頷き、リフィアは駆けだした。
その背には若く輝かしい光があった。ファレルが“あの日”に失った光が——。
こうしてリフィアはレイドと共に旅立つ。
イグニシィン城から旅立ったこの新たな勢力が、今後物語にどのような影響を及ぼすのか——それはまだ、未知数だ。
◇
小説投稿掲示板
イラスト投稿掲示板
総合掲示板
その他掲示板
過去ログ倉庫