複雑・ファジー小説

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.1 )
日時: 2019/07/01 17:21
名前: Nahonn (ID: DLaQsb6.)

 私には、所々だが前世の記憶があった。

 小さなころに思いだし、泣き叫んだ。「あの人に会いたい」「また置いていってしまった」と。でも私はその日のことを覚えていない。"あの人"が誰なのかさえも。

 唯一覚えていることといえば死ぬ直前の風景位だ。ぼやけていてほとんど分からないのだが。
 私を抱き締めて泣き叫ぶ男の人、少し遠くで泣いている女の人を泣きそうな顔をして抱き締める男の人、目尻を下げて泣くまいと堪える男の子、女の子にすり寄って心配そうにこちらを見る子犬のような小動物。それ以外にもたくさんの人に囲まれて私は死んだ。

 ここまで聞くと、私のただの妄想と思われるかも知れないが、十歳の時前世での死因である脇腹を刺されたところがあかい痣となり浮き上がってきた。これで私は決定付けてしまった。これは現実だ、と。
 その前世の記憶に加え、未来を少しだけだが見えてしまう体質のせいで私はいじめられていた。


 今日も、何度目かの引っ越し。
 因みに今はおじいちゃん家の旅館に過ごしているが、引っ越しは昨日だったので今日が初登校だ。
 「お母さん。お父さん。行ってきます。」
 私は仏壇に置かれた両親の写真に手を合わせて、家を出た。母の形見の、半透明で藤色の宝石の付いたネックレスを首に下げる。
 「おじいちゃんおばあちゃん。行ってきます。」
 手を振って家を出る。



 「今日は、このクラスに転入生が来ています。…どうぞ、入って下さい。」
 何度繰り返していたって恥ずかしい自己紹介。先生の声が唯一の救いだ。緊張で足が震えないように、ちょっとギクシャクだがまっすぐに歩き始める。

 まず、目に付いたのは長めの髪をひとつに結った少年だ。整った顔つきで、高校生にしては体格がとても良く、制服のネクタイをだらしなく緩めて、ワイシャツの第二ボタンまでを開けていた。
 「………。」
 私は彼と暫くにらめっこをしていた。
 何処かで会ったことがある。直感だった。
 「あの。どうかしましたか?。」
 先生に声をかけられて私はようやく現実に引き戻された。

 「埼玉県から来ました。小日向楓です。」
 宜しくお願いします、と頭を下げる。不協和音の拍手が起きた。
 「じゃあ。小日向さんの席は早乙女君の隣ね。早乙女君。小日向さんにいろいろ教えてあげてね。」
 先生がそう言って窓側の席を指した。


 何度目かの"出会い"