複雑・ファジー小説

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.18 )
日時: 2019/09/06 19:41
名前: 白刃 さとり (ID: OH2Ram.J)


 俺達は屋上に来ていた。屋上に置いてある椅子や机を扉の前に置き、鍵を閉める。誰にも邪魔なんてさせたくないからだ。
 目の前でうろたえる楓がどうしようも無く愛しい。それと同時に失うのが怖かった。

「私の・・・前世のこと・・・?。”死ぬ前”の記憶があるの?。」

楓はそう言った。今、一番楓が怯えているのは俺に対してだろう。抱きしめたい。しかし、そうしたときの彼女の反応を考えると出来なかった。

「楓は・・・前世を覚えているのか?。」

楓は小さく、でもはっきりと頷いた。

「でもね、断片的に・・・。なの。朔は?。死ぬ前のこと覚えてないの?。」

俺は何を言っているのか分からなかった。

「俺は死んでない。」

俺はそう言った。楓を安心させるように両手を広げた。楓はまた、一筋の涙を流した。俺の傍まで来ると俺の心臓の部分を触った。

「うそ・・・だ。」

ボロボロと大粒の涙を流した楓。胸が痛かった。

「楓はきっと夢を見ていたんだよ。」

優しく、できるだけ優しく。楓を抱きしめた。楓の長い髪が手にかかった。

楓だ。

確かに俺の知っている楓だった。でも、楓は前世とは違いどこか怯えていて、俺を見る目が明らかに違う。

「楓・・・。」

俺はそっと呟いた。その声は、春の暖かい空気がそっと飲み下してしまった。