複雑・ファジー小説
- Re: 何回目かの初めまして。 ( No.4 )
- 日時: 2019/05/26 07:51
- 名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)
[今世:朔目線]
楓と出逢い、自分の腕の中で死ぬのは、何十回も何百回も見てきた筈だ。それでも、出逢いがハッピーエンドではないと分かっていても、心から愛してしまうのだ。
楓の変わらない容姿も、透き通る声も、柔らかい肌も、無茶をしてよく怒られるとこも、俺を必死に慰めようとする優しいけれど不器用なとこも、抱き締めた時の甘い匂いも、寝る前の暖かい楓の温もりも。楓という人間の全てに恋をしているのだ。
でも、今世では1つだけ違う事があった。俺に逢えば思い出す筈の"記憶"が楓には無いのだ。
もちろん、寂しいし、悲しいし。でも、これで良かったのだ。楓が俺を思い出せば、"18歳で死んでしまう"。楓が生きるためには、俺が楓から離れなくてはならないのだ。それが出来ずに今までの楓は死んだのだ。18歳という若さで。
その全てが"血水晶"と呼ばれる石のせいだ。楓が苦しんで、「もっと生きたい。」「まだ死にたくない。」と泣いて死んでいくのも、それを何百回も見て悲しむ俺も、"それ"が繰り返されるのも。全て。
「あ。朔、おはよう。」
隣の席に腰を掛けて挨拶をした楓。
「おう。おはよう。」
慌てて挨拶を返す。不審に思われていないだろうか。
「もう、身体、大丈夫な、のか?。」
そう言って楓を見上げる。楓は元気ということを体で表した。
「うん。ほーら。こーゆうこともできるよ。」
とバク中をする。楓のスカートがふわりと舞った。思わずそこに目がいってしまう。
「おう。そーか。それは良かった。」
まんざらでもない楓を見て、なんだか此方が恥ずかしくなり、目を反らす。
「残念でした。私、見せパンなの。」
楓がスカートの端を少し持ち上げて、イタズラな笑みを浮かべた。
「誰がオメーの色気のねぇ下着なんか見るかっての。」
思わず対抗心剥き出しでそう言ってしまった。ゴォンと辞書が俺の頭の上に降ってきた。
「………………………いってぇー。」
あまりにも不意討ち過ぎたので反応が遅れてしまう。涙目で楓を見上げると、楓は頬を膨らませて立っていた。そんなところも可愛いと思ってしまう俺は重症らしい。
「誰が色気が無いですってぇ?。」
殺すわよ、と言わんばかりの殺気を放っている楓。懐かしさと、寂しさが一気に込み上げてきた。
いきなり静かになった俺を、楓が心配そうに見つめる。
「ごめんね。痛かった?。」
なんとも言い表せない愛しさが込み上げてきた。楓が"俺"を知っていれば口付けでもしていただろう。それが出来ないから、ただ見つめる。
楓は俺を辞書で殴ったところを優しく撫でた。
「別に。こんなの怪我の内にもはいらねーって。」
に、と笑った俺は楓の頬を撫でる。これが精一杯だった。楓は俺の触れたところから順に頬を染めた。
何度目かの"恋"