複雑・ファジー小説

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.6 )
日時: 2019/05/26 21:41
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 蒸し暑い日の放課後だった。体育委員の朔と、今日いない体育委員の代わりにきた私は、二人きりでプールの掃除をしていた。本当は二学年の体育委員全員でやる予定だったのだが、いろいろなトラブルで最後の一時間は私たちのみでやることとなってしまったのだ。
 まだ、七時まで四十分もある。ほとんど終わって、あとは用具の後片付けとプールの水張りだけだ。何もなければ予定より早めに帰れそうだ。

 「ねぇ。朔。」

 私は、プールサイドにいる朔に声を掛けた。はっきりさせたい。二人きりの今なら話せるかもしれないと思ったからだ。朔は、ん?と此方を見た。夕暮れのオレンジがかった光が朔の黒髪を紅く染めている。

 「私を見て、誰を思い浮かべてるの?。」

 我ながら失敗した。これじゃあ女々しい、まるで私が朔を好きみたいな言い方じゃないか。いつまで経っても、朔の何言ってんだよ、の声が聞こえず、私は恐る恐る朔の顔を見た。また、あの切なくて悲しい顔。
 もしかしたら、今一番誤魔化して欲しかったのは私の方なのかもしれない。

 「変なこと、言うかもしれないけれど。…………私の………前世とかに、関係、ある?。」

 朔の目が、動揺して揺れている。でも、待っている答えは出てこない。きっと言えないことなのだ、と心の中で決めつけた。というより、そう願った。
 とたんに、朔が走ってきて私に抱きついた。私も、衝動的に朔を抱き締めた。男の子の逞しいごつごつした感覚が私の頬を染め直した。なぜか懐かしい朔の温もりが何より心地良くて安らいだ。

 「すまねぇな。"それ"、俺のせいだよな。」

 いつの間にか、大粒の涙がこぼれていた。朔の体育着が涙で濡れる。

 「まだ、………まだ全部言えねえんだ。」

 朔の鼻筋が首に触れ、なんとも言えない熱が身体を支配した。朔の息がかかる度に反応してしまう。左耳の方から聞こえる朔の嗚咽が全てを物語っていた。



 何度目かの"求め愛"