複雑・ファジー小説

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.7 )
日時: 2019/05/27 17:52
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 おじいちゃんの家は、まあまあのド田舎だった。始めて来たときは、旅館の手伝いなんてできるのか心配だったが
今はもう馴れてきた。といっても私に出来ることなど料理を運ぶか掃除か臨時の接待などで、内心おじいちゃんにもっと何かしてあげたかった。そう思って始めた会計と受付の手伝い。この旅館はテレビに秘境の温泉地として出ることも多くて、思ったよりも忙しかったが、今まで経営に携わることなど無かったのでやりがいも感じていた。

 「すみませーん。」

 会計の仕事をしていると、遠くから声が聞こえた。お客さんだろう。私は受付のカウンターへ出ていった。そこには、二十代と思われる男性がいた。結構な色男で朔よりも少し高めの背で、右耳にピアスをしていた。いかにも旅館に来るなどという人ではなく、東京で飲み明かしているのが似合いそうな男であった。
 男は私を見て目を見開いた。が、それも一瞬のことで、私は気にも止めなかった。

 「予約していた轆轤ですが。すみません。早めに来てしまったのですが開けてもらえますか?。」
 思ったよりも優しい声で問いかけられ、動揺してしまった。まあ人を見た目で判断した自分が悪いのだが。
 「ろくろ様、ですね。ええっと………。」
 私は予約者リストを見た。探してみると轆轤、なんて難しい漢字が出てきて、そこの部屋の名前を見た。伊織の間、まだ準備中の部屋だ。
 「申し訳ございません。今準備中なんです。広間でお待ちして頂いてもよろしいでしょうか。」
 そう言って、轆轤さんを広間へ案内し、ソファーに座らせた。

 「本当に申し訳ございません。」
 私は軽く頭を下げる。轆轤さんは笑って、
 「いえ。私こそ、予約よりも早く来てしまいました。貴女が謝ることではありませんよ。」
と言ったが、何かその笑みが営業スマイルに見えて安心は出来なかった。
 「轆轤さんは、どうしてこちらにお越しになられたのですか?。」
 話題を変えようと、そういうと、はにかんだような笑みが彼から溢れた。さっきの大人びた笑みとは違い、青年のような親近感を感じる笑みだ。
 「俺は、ちょっと彼女に会いに………。」
 はにかんだ理由が可愛く、私からも笑みが溢れた。
 「遠距離なんですか?。」
 相当彼女にぞっこんらしい。頬を赤らめて轆轤さんは、「えぇ。まあ。」と曖昧に言った。
 「週一で会ってはいますが、相手と年が離れてますので、俺の幼なじみくらいしか交際は知りません。今年中は仕事でここに居れるので、毎日会えますよ。」
 年上か。大人っぽい彼の見た目から彼女を想像していた。きっと、清楚系の美女なのだろう。

 「あ。」
 暫く、轆轤さんと話をしていると、朔が見えた。そういえば二時に用があるって言っていたことを思い出し、私は手を振る。もうそろそろ二時だ。
 「轆轤。何でいんだ。」
 朔は近づくなり、そう言った。轆轤さんと知り合いなのだろうか。
 「朔、轆轤さんと知り合い?。」
 私がそう問うと、朔の代わりに轆轤さんが頷いた。
 「はい。彼とは幼なじみです。」
 「は?。幼なじみなんて可愛いもんか。」
 相当長い付き合いのようだ。憎まれ口を叩く朔を、轆轤さんは上手にあしらえていた。
 「それじゃあ、轆轤さんは叶ちゃんとも知り合いなの?。」
 そう聞くと、轆轤さんの顔が少し赤らんだ。ん?。この反応は?。
 「楓。知らないのか?。……轆轤と叶、付き合ってるんだぞ……。」
 朔がそういうと、轆轤さんの顔がもっと赤くなった。
 「んで、今度来るうちのクラスの副担任。」
 「えぇ!?。」
 「そいでもって、女嫌い。」
 「えぇ?。私とは普通に話してたのに?。」
 「な。楓と叶だけは普通に話せ………。」
 「私、初対面よ?。」
 「いや、そうゆうことじゃなくてな。」
 「終いには、キモいくらいに叶にぞっこんだ。」

 「そ、それ以上はメンタルにくるんで止めてください。」
 轆轤さんがそう言うまで朔は轆轤さんについて話していた。