複雑・ファジー小説

Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.7 )
日時: 2019/07/03 22:02
名前: 白刃 さとり (ID: DLaQsb6.)


 少女は、駆けていた。肺が、胸が、擦りむいた膝小僧が、どれだけ熱く苦しくても。ただひたすらに駆けていた。少女は、今の家である甘味処に駆け込んだ。少女が次に目にしたのは、惨殺されている叔父と叔母。そして、自分の親友達であった。

 少女が悲しみにうちひしがれていると、少女の前に、大きな黒い影が出来た。それは、すなわち叔父と叔母そして親友たちを"これ"に変えた張本人ということになる。

 少女は悟った。自分の死と、そんな自分に残った激しい憎しみを。

 そこで、少女の記憶は途切れた。



 少女は目を覚ました。

 体が重い。そう思った矢先、自分の体に痛みと疲労がのし掛かってきた。"それ"に小さな叫び声をあげると、少女は周りを見渡した。知らない天井だ。あまり広くもない。そして隣にはこの前、叔母に紹介された『叶』という女性が少女………亜里彩を見下ろしている。口をポカンと開けて、直ぐによそよそと動き始めた。

 「叶お姉、」

 亜里彩は唯一の安心材料に話しかけた。が、案の定血の混じった咳が出て話しかけられなかった。亜里彩が咳き込んでいると、叶が亜里彩の口を湿らせた布で押さえる。そしてゆっくりと拭いてくれた。

 「頑張ったね。よく頑張った。」

 叶が最初に発した言葉はそれだった。

 「威琉鹿が。亜里彩のこと伝えに来てくれたの。」

 にゃあご、と威琉鹿が亜里彩の頬にすり寄ってきた。亜里彩は微笑んで威琉鹿に頬擦りをする。

 「亜里彩。でもね………。」

 叶が言いづらそうにそっぽを向いてそう言った。

 「わかってる。」



 そのまま二人は、少しの間だけ黙り混んでいた。