複雑・ファジー小説

Re: 探偵タバレの事件簿 ( No.1 )
日時: 2019/07/19 21:16
名前: ニノマエ (ID: PxehR.Ud)

chapter1「天候を操る女」


 「雨乞い」……。

 干ばつが続いた際に、神に祈りを捧げ天から雨を降らせるための儀式のことを言う。世界の多くの文化圏に「雨は神からの贈り物であり、それが途絶えるのは神の罰である」という観念があり、方法は違えど、世界中の雨乞いの儀式は神の注意を惹き、喜ばせ、同情を買う目的で行われる。
 土地によっては、カエル、ヘビ、サンショウウオ、カメなど、雨や雨を司る神と関係があると考えられている生物があり、雨乞いの儀式では生け贄や小道具として用いられる。
 「祈雨」とも呼ばれるこの儀式は、現代でも様々な国の人々が供物を捧げて神に祈りを捧げる儀式が行われているという。
 ある土地では、「天候を司る神」を崇めており、その神の声を聴くことができる祈祷師……代々「アマミ・ペイズリー」の名を受け継ぐ女性が、人々に神の言葉を伝え導いているのだという。
 しかし、ペイズリーの周囲ではよからぬ噂が取り巻いている。

「例えば、そう! 「天海教あまみきょう」の教えに背く……つまり、御屋形様を裏切ると三日以内に死ぬ! とか。」

 なんて俺の目の前で汗を吹き出しながら力説するこのやけに細っこい小汚い男……元「天海教」の信者は、痩せ細った顔でもう、絶望を感じてるなんて顔つきで唾を飛ばしている。正直汚いし、清楚で巨乳の美女なら大歓迎なんだが、と思うと溜息すら出てしまう。

 俺たちはこの大きな街の片隅にある「フンケルン探偵事務所」の応接間にて彼の話を聞いている。部屋は掃除が行き届き、天井や壁は白く、床は木製でこげ茶のフローリングがワックスを塗ったように照明の光を反射している。客がいつでも座れるように、革のソファが二つ、その間に高そうな長テーブルが置いてある。その奥に、それまた立派な書き物机と椅子があり、俺たちは向かい合うようにソファに座っていた。

 というか、なぜこの男が俺にこんな話をしているかというと、まあ話せば長くなるのだが……。



 俺は「タバレ・フンケルン」。この街一のベリージェントルな名探偵だ。俺の親父、「ホームズ・フンケルン」から探偵事務所を継いで早3年。まだまだ小童扱いされるし、親父の名を聞いて仕事は少しずつ来るが、まだまだ俺の名は無数の小さく瞬く星屑の如く……という感じだ。
 できれば俺は呼吸してるだけでお金がもらえる仕事したい。探偵なんて仕事より楽して儲かる。

「……タバレ君、なーに溜息ついてんの? せっかくここまで来てくれた数少ないお客様なのに」

 俺の説明口調の回想に割り込んできたこのメスは、「ミラベル・マリ・ダビュロン」。
 容姿は赤く長い髪を三つ編みにして赤いリボンでまとめ、金色の真ん丸な瞳は、割と……きれいだと思う。赤い髪と同じく赤いシャツ、襟には青いリボンで飾っていて、革のコルセットで無い胸を強調——
「だれが無い胸じゃゾウリムシ!」
 ちょ、なんで聞こえてんだよ!?

 ……まあそこらのメスに比べりゃ貧乳と貧しい顔を除けば美女ではあると思う。あくまで俺の主観だ。
 比べ俺は白い髪の短髪、白いシャツ、青いベスト、黒いズボンと、小●●顔負けのイケメン——
「巨●で童●の小さくて無駄にデカいだけのクソッ●レ」
 誰が無駄にデカいだ!?

「タバレ君、そんな説明いいから、早く本編続けてよ」

 と、とにかく俺とミラはこの探偵事務所を共に切り盛りして、今年に入って初めての客が、今目の前にいる天海教の信者というわけだ。
 信者は何の汗かわからんが額についている水滴を必死こいて拭いている。顔は恐怖で歪んでいるみたいだ。そういやさっきこの男は何て言ってたっけな?
 たしか……

「御屋形様を裏切ると三日以内に死ぬ……でしたっけ」

 俺は男の言葉を繰り返してみた。
 というか、そんなことがあり得るはずはない! なぜなら、この世に呪いとか超常現象とか霊能力なんてものはハッタリ! ありえないし、ありえていいはずがない!

「タバレ君、足、足」

 バーカ、これは武者震いだ! 俺はな、一度だって怖がったこともないし、幽霊とかUFOとか信じてねえんだよ! そもそもそういうのは、人間が生み出した偶像なんだよ! ってどっかの奇術師が言ってたもん! 怖いんじゃないんだもん!

 ミラは俺の顔を見て、溜息をついて男に手に持っていたトレーの上にあった茶を差し出し、男を安心させるかのように優しい声で言葉を連ねた。

「安心してください、確かにこの男は使い物になりませんが、我々が必ずあなたをお救いしましょう。大丈夫、このフンケルン探偵はどんな事件も立ちどころに解決します!」

 おい、無責任なことを何ベラベラ口にしてんだこのメス!?
 なんて驚いて口を開閉してる俺のネクタイを強く引っ張り上げて、ミラは俺を睨みつけていた。

「おい、まさか受けないってわけじゃないよね? あたしへの給料二月分も滞納しておいて、そろそろ出るとこ出るぞてめえ……」
「……わ、わかってますよぉ」

 俺は冷や汗をかきながらそう返事した。全く、だから女ってのは怖い。
 まあ仕方ない。俺はそう溜息をついた。

「で、その御屋形様……「アマミ・ペイズリー」ってのはどこにいるんです?」



 俺たちは、「アマミ・ペイズリー」に挑戦することとなった。

Re: 探偵タバレの事件簿 ( No.2 )
日時: 2019/07/19 22:22
名前: ニノマエ (ID: PxehR.Ud)


 んまあ長ったらしい前置きはここまでにして、俺たちはとりあえず機関車に乗って御屋形様とやらがいる、ド田舎もド田舎……機関車で2時間くらいでいける村……「スルス村」に出向くこととなった。車窓から外を覗くと、どんどん建物が消えていき、森や山しかなくなっていく。実は俺はあの街から出たことがほとんどなかったんで、結構珍しいといえば珍しい。どんな珍獣が待っているのか楽しみだな。……なーんて思いながら、駅で買った弁当の中身を頬張る。めっちゃおいしい。

「で、早速行こう! とは言ってみたけど、何か策とかあんのタバレ君?」

 ミラも弁当の中身を頬張りながらそんなことを言っている。つーか女の子のくせにほっぺをそんな……はしたないだろうが!

「策とかない、だって呪いなんかないし」
「お父様とは大違いねタバレ君って。何も考えずに依頼を引き受けちゃったの?」
「そんなことねーし! 一応お守り持ってきたぞ!」

 俺はそういいながら首につけていたお守りをミラに突き出して見せる。

「……それ、安産のお守りだけど」
「……えっ」

 ミラの呆れ顔に思わず腑抜けた声を出してお守りを見る。





 そんなこんなで俺たちはスルス村へとやってきた。思った通り山や畑、牧草香るド田舎だ。俺たちは駅から出てくると、目の前に男二人、女が一人、ド派手な衣装とどぎつい化粧したバ……お姉さんが立っていた。
 男二人は黒装束を身にまとって、まるで死人みたいな顔立ちだし、女も黒装束を身にまとって顔に血の気がない。こうしてみるとめちゃくちゃ不気味だ。
 派手な女は衣服はギラギラしてるドレスだし、なんか祭りのダンサーみたいな派手な冠かぶってるし、いや、年に一度のパレードで美人のねーちゃんが着てるアレか!? しかも化粧は濃いし、巨乳でよく見りゃ美女だなこの人。……これで清楚だったらなぁ……。

「タバレ君、何胸に見とれてんの!?」

 ミラが俺の脇腹を思いっきり小突く。思わずさっき食べた弁当の中身をリバースするところだった。いや、見とれてねーし!

「お待ちしておりました、フンケルン探偵」

 黒装束の男の片割れが俺に向かって口を開く。死人一号と名付けておこう。
 一号が俺に向かって頭を深く垂れる。
 ……ん、あれ? なんでこの人ら、俺たちの事を……いや、なんで俺がここに来ることを知ってるんだ? 知ってなけりゃここで出待ちしてるわきゃねーもんな。

「あなた方がここに来ることは、天からのお告げにて聞いておりました」

 俺の疑問に答えてくれるかのように、ド派手な女がにこやかに笑う。
 あー、すごい。神様すごい。俺の事お見通しなんだー。笑っちゃうなー。
 俺は「ああ、そうでしたか」みたいな相槌を打つ。しかし、俺の愛想笑いは次の一言で凍り付く。

「ワタクシの、「ペテン」を暴きに来たとか」

 ……あっれー? なーんでバレテーラ?

「いやいや、そんなそんな」
「誤魔化さずともよろしいでございますよ、探偵さん」

 女はせせら笑う。まるで俺の考えることを手に取るように。
 マジかー。なんでわかっちゃったんだろー? 俺は冷や汗をだらだらと流す。
 しかし、ミラが呆れたような顔で俺を小突いた。

「もう、何やってんの。あんなの簡単なコールドリーディング。タバレ君の見た目とかあたしの見た目、それにここを降りてきたってことから、そんなのすぐわかるじゃない。惑わされないで」

 コールドリーディング……。
 具体的にいうと目の前の相手に信頼・信用されるために「この人、私のことよく理解している」という実感を与えるための会話術の事だ。よくいる詐欺師やカウンセラー、奇術師が客に向かってよくわかっているような口ぶりを見せるのは、大体コールドリーディングで相手をよく見ているからだ。
 実際、この駅に降りてきた物好きは俺たちしかいない。この駅に降りてきたということは、天海教の信者になるか、よからぬことを考えているか……ぐらいだ。
 もし間違ってたらめちゃくちゃ恥ずかしいだろうに。
 まあ否定しても良かったが、ここは相手のペースに乗り込むのも一興ではないか? なんて思い、俺は頷く。

「よくわかりましたね。俺は「タバレ・フンケルン」。探偵です」

 俺は女と握手を交わしながら名乗る。

「あたしは「ミラベル・マリ・ダビュロン」。フンケルン探偵の助手です」

 ミラも女と握手を交わす。……左手で。
 ミラはそれを見て眉をかすかに動かす。……気持ちはわかる。

「ワタクシは「アマミ・ペイズリー」と申します。この村の人々……即ち天海教の信者の方々に神の声を届ける、代弁者……とでも言っておきましょう」

 ペイズリーは「オホホ」と笑う。それにしてもこの女……やっぱでかいな。
 俺たちはここに来た経緯と、信者が俺に言っていた「三日以内に死ぬ」なんて呪いの事を聞いてみた。ペイズリーは否定することなく、「オーッホッホッホッホ」と高笑いを上げる。古典的な……。

「本当でございますよ、ワタクシが祈祷すれば裏切り者を処罰するなど、造作もない事……。神の御心に背いたのですから、当然でございましょ?」

 ペイズリーは楽しそうにそんなことを言う。それにしてもスカートのスリットから覗く生足がまた、セクシーだなぁ……。これで清楚だったら
「ターバーレーくぅん?」
 なんでもないです。

「まあ探偵さんもこの村でしばらくお過ごしになられてはいかがでしょう。ふふっ、じきにこの村から離れたくなくなりますわよ」

 それ……多分村から離れられなくなってるの間違いなのでは。
 俺はそう思っていると、一号がにこりと笑う。すごい不気味だ。

「本日夕刻より、ペイズリー様による信者の集会がございます。ぜひ、お二人もご参加くださいませ」

 集会……予想ではあるが、ペイズリーが信者の悩みとか聞いいたり解決したりするんだろうか? ……某ドラマじゃ第一話でそんなことしてたし。
 俺は「わかりました、それに参加します」と答えると、黒装束を着た女……死人三号が先導して村を案内してくれた。
 村では地下水を汲んで、それを濾過して信者に売りつけているらしい。俺とミラもそれをもらった。なんでも水が体内の穢れを洗い流してくれるんだそうだ。……うさんくさい。一本100メリスとかとんだぼったくりだよ! ただ今日は見学ってことで無料でいただいた。あとで流しておこう。
 信者たちは村で地下からの水を汲む作業、神へのお供え物である餅を作るための作業、畑仕事やら雑務などを毎日こなしている。働かざるもの食うべからず、らしい。ミラはそれを見て、「タバレ君もしばらくこの村で働いたら?」なんて言いやがる。ふざけんな!
 村を回っていると、陽が傾き始める。俺たちは集会の会場に向かうこととなった。
 集会では、叶えたい願いや夢、悩みを紙に書いて箱に入れて参加するらしい。俺たちは各々紙に自分の思いを書き連ねて、三号が持つ箱に紙を入れた。
 そして、集会に出向くとそこには多数の信者が集まっていた。