複雑・ファジー小説

影の町………どんな町? ( No.1 )
日時: 2019/09/30 18:48
名前: マッシュりゅーむ (ID: VOI/GMTL)

今回は、『セイテンノカゲボウシ』本編、20、21話の間の話です。

***

「〈カゲボウシ〉の術者の登録じゃよ」
 
 そう言われた時、真っ先に浮かんだのは、元の世界でよく読んでいた小説、それも冒険者が出てくるファンタジー系だ。
 『登録』と言われたら、真っ先に思うのは主人公が冒険者の登録を、俗に言う、『冒険者ギルド』なる所でする光景。ああいうのに、少なからず一回は「やってみたい」と思ったことは、ファンタジー小説を読む同志たちになら分かるだろう。
 しかし、まさかそれに似たことが出来るとは。ショボい理由とは言え、少なからずここに連れてきた川本江に感謝である。

——これが後にコミュ障だったことを思い出した時点で、感謝は呪詛に変わるのだが……。「何もやっていないのに……」という川本江の声が聞こえてくるような気がする。

「そうじゃ、折角影の町に行くんじゃ。日没まで時間があるから、どうじゃ?影の町を観光というのは」
 と、その時ヘイズが私に一つ提案をしてきた。
 なるほど、確かに私はここに来るときに少し通ってきただけで、ゆっくり街を回っていない。影の世界には興味がある。別にファンタジーのお約束は、そのあとでも構わない。

 と、いうことで、私は二つ返事でヘイズの言葉を了承し、影の世界に来てから初めての(ぶっちゃけ前の世界でも引きこもってて買物らしい買物はあんまりしていなかったが)ショッピングに行った。

英国紳士は、モザイクの下に ( No.2 )
日時: 2019/10/15 17:12
名前: おまさ (ID: cZfgr/oz)

さて、異世界に来てしまった私だが、現在隣のロリババアと共に絶賛観光中である。
「———。」
正直、日本にいた時もあまり街歩きなどしたことが無かったから、こうして人通りの多い石畳の上を並んで歩いていることは、かなり新鮮な経験をしていることになるのか。
いずれにせよ、あまり異世界に来たという感覚にはどうもなれない。何故なのか、しばし考えた後違和感の正体にたどり着いた。

思 っ て た ん と 違 う 

そう、違うのだ。異世界とは言っても、建造物やあたりを走る乗り物は、ファンタジーというよりかはどちらかというと大正ロマンな雰囲気に近い。無理くり表現しようとするならば、スチームパンク・・・より若干新しい、みたいな?
先の違和感も、たぶん私の中での異世界像と現実とのイメージの乖離なのだろう。だからあまり、視界に入る景色も新鮮ではなかった。
「・・・街の雰囲気的に、レ●トン教授が出てきそう」
「誰じゃ、その“れいとん”とは」
「私の渾身のモザイクどこいった」
 某英国紳士の名をぼそりと呟くと、ヘイズに首を傾げられた。思った以上に感覚が鋭いらしい。
「これじゃモザイクがクソエイムだろうと何だろうと関係ないな・・・最も恐ろしい物の片鱗を味わったぜ」
「戯言の最中じゃが、到着じゃ」
 ふざけるのもこれくらいに、目線を上にあげる。

  首が痛くなる程の高層建築、というか人知を超えた大きさの建築物だ。壮大なその建築物は細部にまで意匠のこだわりが見え隠れしており、それを誇張するようにペルセウス像———のようなものが翼を広げていた。組み込まれている塔はもはや雲に手が届きそうなほどに高い。
 緻密に計算された設計は、その高すぎる塔による調和の瓦解を殺し、全方位から美しいと思わせる構造を実現するのに一役買っている。
 イメージだと、スペインのサグラダファミリアとかフランスのストラトブール大聖堂なんかに近い。

「ここは・・・」
「約千年前、始祖の〈ミコ〉たる『刻眼』———ヘデス・メーメル様が、建造を命じられた大聖堂、ブール=ドール大聖堂じゃ」
「せっ、千年!?」
「うむ。・・・とはいえ巨大な聖堂を仕上げるのに、210年を要したんじゃ。ヘデス様がお亡くなりになった後も、建造は続いた。建造の間、そして出来上がった暁よりこの国から内乱が無くなった。大聖堂の最大の功績は、戦を鎮めたことやもしれんな」

・・・すみません、スペインの皆さん。サグラダファミリアの比じゃなかった。
ていうかそもそも、サグラダファミリアは工事が途中で中止したから、作るのに百何年くらいかかっている訳で。
フル体制で工事して、それでも二百年以上かかる建物って、いったいどういう。
ただ、この聖堂は〈ミコ〉の影響力の大きさを物語っているものだとも感じた。己の死後も尚国民をまとめ、内乱を鎮めることなど容易いことではない。多分、邪馬台国の卑弥呼ですら無理なんじゃないか。
そう考えると、多少なり目の前の幼女(中身は別)に畏怖の念を感じてもいいんじゃないだろうか。思わず、胡乱げな視線を向けた。
「・・・何じゃ?」
「ううん、別に」
と—————、



「———わっ、ごめんなさいっ!」
 小さな、ローブを着た人影がぶつかってきた。咄嗟に、
「あ、いえ」
 しかし、人影はこちらに会釈することなく走り去ってしまった。
人とぶつかってしまうのは、なるほど、ここまで混みあった大通りであれば多少は仕方ない。
 しかし、人影はかなりの速度でこちらに突っ込んできたのだ。
 それに。
「あの子は・・・」
「ふむ、どうやら焦燥に駆られているようでもあった様じゃが・・」
 ヘイズは、人影が走り去った方向を見て言う。一瞬だけ、ローブの下から覗いた表情を零す。
 直後。



「———そこをどけ!道を空けろ!!」
 非常に大柄な——190センチ以上あるだろうか——男が民衆を押しのけ、血眼で迫ってきた。
「レナ!」
「ぷろっと!?」
 後ろ襟をヘイズに掴まれ、刹那私は空中遊泳を楽しむ——余裕もない。
 そうして、男の軌道から逃れると、今の状況を整理。
「今の男とさっきのぶつかった人。ここから考えるに・・・」
「追われているようじゃな」
 ヘイズは上目遣いに、真剣な眼差しで見つめる。静謐さと、責任感を孕んだ紅い瞳。
 言外に、こう、問うている。

 ————追うか、否か。

 私は、その問いに答えた。