複雑・ファジー小説
- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.11 )
- 日時: 2020/03/26 02:48
- 名前: 水音(みおと) (ID: vzo8adFf)
「おおぉ............!」
レイは生まれてはじめて海を見た。
何処までも続く青き地。
鼻につく気持ち悪くも儚い匂い。
ザアァと寄っては返る波。
この街は広い。
海があり、そのせいか賑わっている朝市。
街の人々は揃って笑顔だ。
「お姉さん、一人旅ですか?」
初対面の男性に話しかけられた。
黒い髪が目にかかるほど長く、
ディープブルーの瞳をもっている。
眼鏡をかけており真面目そうに見える。
「え。はい。ひとり、です。」
レイは動揺して言葉が滑らかに出てこなかった。
なにせ今まで狭い町で暮らして来たため、
初対面なんて無いに等しかったからだ。
もし初対面があったなら新しい命が生まれた時だけだ。
男性は口角を上げ右手を顎の下にもっていった。
「そうですか。でしたら僕が観光案内致します。
お茶でもどうでしょうか?」
街を案内して欲しいとは思った。
が、さすがに怪しいのではとも思った。
レイが迷っていると、男性の後ろに近づく
桔梗色の瞳を持つ女性が現れた。
「先生何をしていらっしゃるんですか。
先生の助手であるあたしが怒られるのでさっさとしてください。」
その女性は早口で尚且つ真顔で言った。
「すみません。迷惑をおかけしました。
それでは失礼致します。」
ペコリと礼儀正しく頭を下げ先生と呼ばれる男性の
首根っこを掴みズルズルと引きずって行った。
男性はギャーギャー喚きながら楽しそうに笑っていた。
「んへぇ、疲れた。」
ダメだな。このくらい話すだけで心が張りつめて
無駄に体力を消費してしまう。
午後に少しだけギルドとか行ってみようかな。
とも考えてはいたのだが、この僕のコミュ障には不向きのようだ。
ソロでモンスターとか賞金首とかを狩って
コツコツ貯めてかきゃいけないなとレイは思った。
「ぐぎゅるうぅるぅ」
............。
.......................。
腹を満たしてからにしよう。うん。
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.12 )
- 日時: 2020/06/09 01:49
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
「おおお!」
ほくほくと湯気が上へ上へと上がっていく。
その度にレイの所まで美味しそうな良い匂いを運ぶ。
少しだけレアなステーキは切り込みを入れるだけで
「じゅうわぁ」と音をたて、肉汁が波のように溢れ出す。
口へ運び、味わうようにゆっくりと噛もうと
したところ2,3回噛んだ所で溶けた。
本当に口に入れ噛んだとは思えない程の
ふんわりとしたなくなり方だった。
その溶けた余韻を噛みしめながら、
幸せな時間を思う存分楽しんだ。
ーが。
酔っぱらったおじさんがドンとぶつかり酒を溢してきた。
べとべとする。気持ち悪い。
僕は一応未成年なのだが。
つい、ため息を大きくついてしまったのだ。
「あ”あ”ぁ?俺の酒を奪っといてクソでかいため息とは
なんだぁ?あ”あぁん?俺の酒を返せよ。」
ああ、こういう人か。
まあ、何処でもこういう人は居るだろう。
仕方がない。
「すみません。私が故意的にやった訳でも
私からアクションを起こした訳でも無いので、
弁償することはしません。
............寧ろ、私の服の弁償してくれませんか?」
「お前、女だろう?男の俺に歯向かうとどうなるか
......分かってないなぁ?」
僕は考えた。
こいつは何をしてくるか。
暴力?性行為?
否、それに発展する前に片付けられるだろう。
こんな鍛えもしない体で、働きもしない愚図の頭で、
どうやって僕に勝てると思ったのだろうか。
女だから。だろう。
あーあ、男に生まれたかったな。
ステーキの代金をドンッと強めに置き、
僕は男に言いはなった。
「分かってないので、少し外に出て
話、しませんか?」
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.13 )
- 日時: 2020/06/10 05:14
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
はああ!ついついやってしまった。
頭に血がのぼって。
ううう、帰りたい。
「で、自分から人影がない暗いとこに来て
一人だけで何をしようってんだ?お嬢さん?」
煽ってきているのだろうけど
自分の反省点や改善点を考えてたら全然腹がたたない。
「話をするって言ったじゃないですか。
要求は何ですか?お金ですか?お酒ですか?」
月明かりだけが頼りの夜。
暗い路地裏。
バレずにこの男を始末するというのも
できるであろうこの状況。
だがそれは、男にとっても同じだ。
「そうだなぁ、金がいいけどなぁ。
嫌なら体でもいいぜ?」
......。
所詮は屑か。
「貴方、家族や仕事はあるの?」
男はぴくっと反応し眉をひそめた。
「家族はねえが関係あんのか?」
ふーん、仕事はきちんとあるんだ。
ないように見えた。
......ただの呑んだくれかと。
男の後ろで黒い影が動いた。
男の仲間か。たまたま通った人間か。
「おめぇ、話なげえよ。無理やりでも
こっちは良いんだって分かってんのか?」
男はレイの手首をグッと引っ張り自分に引き寄せた。
反射的に変な声が出て腕を動かそうとした。
「やぁっ?!」
か弱い乙女のような高い声が出たところで
影が近づいてきた。
見覚えがある。あの男は......。
「何女の子に乱暴してんねん、おっさん。」
昼間の弱そうなあの男。
桔梗色の瞳を持つ女性の尻にしかれていたあの男。
昼間の張り付けたような笑顔ではなく、
ねっとりと耳の奥についてくる声ではなく。
低く静かな......。
長い黒い髪が風でなびく。
「は?お前に関係あんのか?」
「きゃー。こわーい。」
するとその男は缶のような物を取りだし
フシューと音を鳴らしながら煙を男にかけた。
「うおっ!」
驚いたようで目を擦りレイの手首をパッと離した。
その瞬間に黒い髪の男に手首を引っ張られた。
「走れる?!逃げるよ!」
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- Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.14 )
- 日時: 2020/06/12 06:20
- 名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)
月明かりが僕達を照らす夜。
満月が僕を監視する。
「ハァッ、ここまで来たらもう追って来ないと思うよ。
それとも、宿までおくろうか?」
息切れした呼吸を肩を上下させてなんとか通常に
戻そうとする男は真剣な眼差しでこちらを見上げた。
男はしゃがんでレイの手をそっと手に持っていた。
「いえ、大丈夫です。お礼をしたいので
お名前、教えて頂けませんか?」
きょとんという顔をして目を丸めた。
そして急に笑ったかと思えば、元の真剣な表情に戻った。
「ん〜、一応あんましお礼したいからって
そーゆーこと言わん方がええと思うよ?
ま、僕だから今回は大丈夫やけどなぁ」
男は口角を上げたま目を伏せた。
僕は単純にその様子を見て綺麗だと、
美しいと感じてしまった。
夜のような暗く青いその瞳と
濁りのない綺麗な漆黒の髪はとてもー。
「うん、また今度会ったらお礼してよ。
今は真夜中だし、今度。ね?」
レイの目はやはり真っ直ぐ見なかったがこちらを向いたのは確かだ。
彼は胸に右手をそっと当て小さく息を吸い込んだ。
「僕の名前はダウア。一応これでも科学者やってます。
よろしくね〜?」
その笑顔は昼間と同じ張り付けた笑い方だ。
線を引かれるのは苦手なのだ。
寂しいから、独りになんて成りたくないから。
「はい。僕はレイです。よろしくお願いします。」
手を差し出す。
線なんて土足で越えてやるために。
ダウアは目を丸くする。
レイの手をじっと見つめる。
ふっと少し笑って自分の胸の手を当てていた
右手で握手をする。
「それじゃ、早く帰るんだよ。」
そう言って彼は
............夜の街に消えてった。
あれだけ優しくても、
助けてくれたとしても、
「やっぱり男の人なんだよなぁ」
ハハッっと苦笑いした後にそそくさと宿に向かった。
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