複雑・ファジー小説

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.15 )
日時: 2020/06/14 09:00
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

「はあぁ〜ぅ。」

とても眠い。

これからどうしようっていう焦りが出てきた。
そういや、あの男に目の敵にされたら
嫌だなぁ………。

みたいな事を考えていたら
いつの間にか、朝!

まあ!僕、一睡も出来てないわ!
どうしましょう!

おはよう、太陽くん。
あと5年くらい待って。
そしたら起きるからさ〜。

っていうねぇ。
徹夜のせいで脳内パレードを繰り返しています。

とまぁ、気長に素材集め兼戦闘練習をモンスターとやっている。

『プギー!?』

んん。今のモンスターかわい〜ん。

.....うん。僕、脳ミソ溶けてんな。

「今夜はきちんと寝なきゃいけないかも。」

また欠伸をした。目を閉じる。
その瞬間、後ろから声がした。




「昨夜は寝られなかったんですか?」




振り返ると真白き翼を生やし、
若緑の瞳を持つ天使は金色の髪を揺らしながら笑った。

その声は懐かしく感じた。
不快な気持ちになんてならない、耳の中を反響する声。

そして、目を細めたよそ行きの笑顔は
どこか見覚えがあった。

「............は」




頭が痛い。
ナイフが刺さっている。

目眩がする。姿を目に焼き付けないといけないのに。

喉が痛い。声が出ない。






............声が出たとしても話す内容がわからないが。



相手は人間じゃない。


天使と呼ばれる種族にも見えるが
他の種族かもしれない。

僕は学校には行ったものの専門的な知識はない。
そして全ての種族も覚えていない。

「............だ......ぇ......?」



嗚咽しか出ない。
気持ち悪い。こんなの僕じゃない。レイじゃない。



「えー?ボクですか?天使と言う種族の者ですよ。」

面白そうに笑った。
彼女は誰。


そんな事を考えようとしても回らない頭。
苦しい。気持ち悪い。痛い。苦い。嫌だ。

「辛そうですね?寝ちゃいましょっか?」

彼女はそう言うと甘い匂いがレイの体を包み込んだ。
徹夜明けで眠たかったレイは
天使に体を預けて眠ってしまった。

「おやすみなさい。ここではレイちゃんだっけ?
んふ、可愛いねぇ?」

最後に見たのは彼女の
幸せそうに笑った狂気じみた笑顔だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.16 )
日時: 2020/06/15 04:32
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

「んむぅ?」

起きると見知らぬ風景が広がっていた。

手は後ろで縛られていて動かす事が出来ない。
指先までテープらしき物でぐるぐる巻きに
なっている感覚だ。

口は布に縛られている上に
テープまで貼ってある。

冷たい床をふくらはぎで感じ、
床よりは温かい壁に背中を預けた。

「んっふぅ?」

全く状況が把握出来ない。
すると何かが擦れる音が近づいてきた。

「おはよー、気分はどお?」

悪いと言いたかったが口を動かせる訳もなく。
音を出さずに何コレという少し怒った
目で睨み付けたものの意味がないようだ。

せめて口は外してというように
顔をゆっくり横に揺らし「んっ」とだけ言って
レイの口を主張した。

「口〜?ん、しゃーないなぁ。
剥がすだけですよ。苦しかったね、ごめんなさい。」

彼女は眉を下げた。

そしてレイの顔の近くに自分の手を持っていき

ゆっくり

優しく



剥がすことなく



勢いよく「ビリッ!」という鈍い
音を出して剥がした。

痛みからレイは涙目になるとふっと笑って
満足したようだった。

次のアクションをとらなければ。

次は手を外してもらう?
そんな事する筈がない。抵抗すると考えるのが普通だ。

ならば。次は。次は。

言ってる事わかるかは正直多分わからない。
けど、こいつの相手をしなくちゃ。

「あ、まぃぇ......おひえ、ぉ」

名前、教えろと言ったつもりだが通じるだろうか。

答えはYESだった。


「んふ、そんなにボクの事知りたいんですか?
嬉しいなぁ?ふふ............」


......でも教えてくれないようだが。


助けて。誰か。



............否、ダメだ。

まだ挫ける時じゃない。
僕のことは僕がやんないと。

あーあ、折角あの街でも知人が出来たというのに。
遊びたかったな。

遊びたかったな?

遊び、たい?


「思い出してくれました?」


ふんわりと笑う金髪の天使。

天使とはこのような鬼畜な者ばかりなのだろうか。


意識を手放してはいけない。
独り言でも良い。
何かを考えて。頑張って。


「ん〜だんまりですか。暇になってきたので、
外の空気吸ってきます。良い子にしててくださいね。
じゃないとどうなるかは............わかってませんね!」


良いですよ?わかんないままで。
と付け加え笑ってこの薄暗く冷たい部屋を出ていった。

目を凝らす。
隅から隅まで見落としがないように
精一杯の情報を受けとるために。

そして見つかったのは____。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.17 )
日時: 2020/06/19 06:07
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

レイの目に入ったのは写真たてだった。

レイの幼い頃の写真。
アヤメと一緒に笑ってる写真。
コーと手合わせをしてる写真。


......全てレイが写っていた。

「............ぁ、は?」

意味がわからない。その時僕は天使なんて見ていない。
彼女に会ったことはない。

......筈なのに。



なぜか涙が溢れてきた。

どの感情からだろうか。

恐怖が一番だと思う。
だけれど、何故か。

どうして、あたたかい感じがするんだ?


上からガタガタと音がした。
流れた涙は手を使えないため拭けるはずもなく。
ただ頬を伝っていった。

上を見上げると、ダクトがあった。
何か生物がいるのだろうか。

ネズミだろう。一般的に考えて。

僕を助けに?なんて一瞬考えたが助けてくれる知人なんて
何処にもいない。

嗚呼、彼女はそれを狙ったのだろうか。

そして僕が諦めてくれるようにと。
自分だけに依存してくれるようにと。

意識を保っていたって彼女を楽しませる玩具にしかならない。
ならば、諦めてしまおうか。

きっと彼女のあのねっとりとした温かい目は
僕のことは殺しはしないだろう。

何をされるかはわからないが。



そして上のダクトがガタッと音を鳴らして
開いた。

「レイ、さんですか?」

あ、また彼に助けてもらってしまった。

そう思った。

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.18 )
日時: 2020/06/23 18:45
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

心配そうな顔をした桔梗色の瞳を持つ
彼女はレイのところへ降りてきて
口の布をとった。

「あぅ......あ、ありがと、ございます......」

彼女はこくんとうなずいた。

すると彼女はレイを持ち上げた。
所謂、お姫様抱っこと呼ばれる形で。

先端に刃物が付いた紐を
ダクトにの奥に投げ、『かつん』と音がした。

すると彼女はくいっと引っ張って
飛ぶようにダクトに入った。
紐を回収し入りくんだ無機質な狭い道を
すいすい進んで行く。

彼女に抱っこされ自動的に見るものが変わっていく。

目を開けておろおろしながら見ていると
急に視界が眩しくなり、思わず目を瞑った。

「わぁ......!」

一面緑色だった。

風が騒がしい。

森が揺れる。

「あの、気持ち悪くなったり、怖くなったら言って下さい。
速度落とすか、止まるかします......ので。」

彼女は少しくせがある髪を揺らしながら
こちらを見ずに静かに告げた。

彼女もダウアと同じく目を見ながら話せない
のかな、今は移動してるからこっちを
見れないのは当たり前だけど。
......そう、なのかな?

なんて事を考えたらクスッと笑えてきて、
微笑ましくて。


......こんな状況だということを一瞬忘れてしまっていた。


幸せからの少しの不幸せは絶望と同じように
見えてしまうから、幸せは苦手だというのに。

幸せを感じてしまった。



風がうるさい。

あの女の子が逃げてるよ、
と彼女に知らせる。

森が焦る。

他の人間と一緒にいるよ、
と彼女に伝える。


......あ、コレは監視されている。

逃げられない。

と思ってしまった。
この行動をさえしなければ逃げ切れたかも
しれないというのに。

「あの!降ろしてください!お願いです!
そして僕を置いていって!」

泣いて桔梗色の彼女にすがった。

貴方も危ない!全部壊されちゃう!
と狂気に囚われて。

「......?!」

彼女はやはり急な出来事に驚いていた。
そして暴れるレイを落とさないように
丁寧に扱うために足を止めてしまった。


「あれ?おいかけっこってもう終わり?ざんねーん」

光など最初から存在してませんというような
瞳で凛とレイ達を見おろした。

そして「でもレイちゃん、理解出来たみたいで
ボク、嬉しいよ♪」と言って笑った。

「結構楽しかったしこの状況を作ってくれた
君の名前。覚えててあげよう。教えなさい。」

天使は愉しげに彼女を指差した。

天使は指を決まった動きを3回程繰り返した。

「ほら、言えるでしょ?」

そう言って笑った天使は早くと急かす。
彼女は口をゆっくり動かした。


最初は『あ』の口から
始まるようで、少しずつ開いていく。




ゆっくり。





「あ」


舌足らずなその声が頭の中を整える。





「......なたなんかに教える名前なんてないわ!」

天使は驚いたように目を丸め、
次の瞬間きっと彼女を睨んだ。

「あんた、契りは誰かと交わしたの?
それとも非人間?」

先ほどの高く愉しそうな声ではなく
低く面白くないという雰囲気を醸し出した。

「教える義務もないでしょう?」

「......わかった。教えなくて良い。けど......
ボクのモノを返して、もらえるかなッ!?」

天使は天を蹴って物凄い速さでレイ達に襲いかかってきた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.19 )
日時: 2020/07/05 08:21
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

全てが怖かった。

桔梗色の彼女が傷つき苦しむ姿が。
天使の彼女が笑いながら叫ぶ姿が。

赤が弾けては落ちて集まっていた。
くっついてだんだんとそれが大きくなっていった。

「あ、あぁ......!」

レイの頬は赤く染まり、多くの涙が流れた
跡がついていた。

紫がかくんと膝を折り
静かになった時はもう既に声が枯れていて何も出来なかった。

天使はそれを持ち上げ木の根本にそっと置いた。

先ほどまで彼女と戦っていたとは思えない程
優しく、まさに天使のように。

その天使はレイの方を振り返り苦しそうに口角を上げた。

「ごめんねレイちゃん。迎えに来たよ?」

天使はレイに向かって腕を広げた。

訳がわからなくなったレイは反射的に
自身の右手を彼女の腕へと伸ばし、掴んだ。

天使はニヤリと怪しげにそして嬉しそうに微笑んだ。
レイには幸せそうに見えた。

「帰ろっか......!」

今度はふわりと優しい笑顔だった。




どこか懐かしいこの笑顔は......?

何故か彼女といると優しい気持ちで溢れてきて、
慈しむことを止められない。

彼女の事を考えていて、傷つくことの方が多いけど
それよりもずっと____。



否、

気のせいだ。だって今日初めて会ったのだから。

そして会ったばかりの彼女に体を預けるのもおかしいが
すぅっと安心したように目を閉じた。


「貴方からは離れていかないでね。

............離す気は一切ないけど。」


切ない声色は泣きそうな程震えていた。

レイはそれにつられたのかはわからないが
もう一筋、涙を流して眠った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー