複雑・ファジー小説

Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.20 )
日時: 2020/07/07 18:44
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

目を覚ますと生活感がある部屋のベットで眠っていた。
ぎしっと音を鳴らして起き上がると
左手首に違和感があって振り返った。

先ほどの天使がレイの手首をぎゅっと握っていた。

目を閉じ口を少し開け幸せそうに眠っている様子は
愛らしかった。

何を考えているんだと我ながら思う。

握られている手首をじっと見詰め
(力、強いな………)と思った。

こんなに掴まれている力が強いなら逃げるのは不可能だ。

そもそも外に出ると自然の声が聞こえてくるのは
何故だろう。
あの声が幻聴じゃないならここからバレずに
脱出するのは無理だ。



……どうしようか?


彼女を起こさないと行動できないから
起こしてしまおう。

握られていない右手で彼女を揺さぶる。

「……あの。起きて、くだ……さぃ。」

声がどんどん小さくなっていく。
怖くなってきたのだ。

彼女が起きたらどんな事をされるだろうか。
彼女を起こしたら怒ってしまうだろうか。
彼女は。彼女は?


はっとすると汗でぐっしょりとしていた。
息が荒く体が熱かった。

彼女のことばかり考えている。

本来は自分はこれからどうするべきかを考えるのでは?

「んぅ?あ、起きてたぁ......んふふ」

ふにゃりと笑ってレイを抱き締めた。

「う”ぁ」

苦しくなって声がもれた。

すると彼女はパッとレイを離し
今度は腕を広げた。

「え、っと?」
「ん?ああ、おいで?」

おいで、というのは彼女が先ほどまでしていた事を
レイからしろ、ということだろう。

そうレイは解釈し、一応彼女の言う通りにした。

彼女の腕の下に自身の腕を通し、
彼女の背中へ手を回して、
彼女の胸に顔を埋める。

「あは、かわい」

彼女はそう呟きレイの頭を撫でた。

「ねえ、レイちゃん今日の朝、卵が良い?
それともお魚が良い?」
「……た、まご?」

少しだけ離れて卵と答えた。

クスッと優しく笑って彼女は立ち上がった。

かと思えば急にレイの方に振り向き
顔をずいっと近づけた。

レイはびっくりして反射的に目を瞑った。
鼻に柔らかく温かい感触があった。

少し時間が経ってから目を少しずつ目を開けると
ニヤニヤ笑った彼女がレイを眺めていた。

「なぁに?期待、しちゃった?」
「えっ?ちがっ!」

クスクスと笑って彼女はすたすたと寝室を出ていった。

放置するなら僕出ていけるかも。と思った瞬間
『カチャン』という金属音がした。

うん、まぁ、当たり前だよなぁ。
寝室のなか何かないか調べよう。

と思いレイも立ち上がった。
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Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.21 )
日時: 2020/07/09 19:42
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

ベットは特に異常無し。

ベットから出て整えてから探索を始める。

ベットの隣の引き出し。
全ての段に鍵がつけられるようだ。
下から開けていく。
簡単そうな雑誌が入った段。読めない文字が書かれた書類が入った段。
刃物が入った段。鉛筆などの文房具が入った段。
鍵がかかっている段。
因みに引き出しの上のライトには埃が被っていた。
………掃除、していないのだろうか?

取り敢えず全ての段を閉め次の場所を調べよう。

次はクローゼット。
栗色の可愛らしいクローゼットを開ける。
当然、服がハンガーに掛けられていた。
右側は仕切りがあって裁縫セット、アイロン等が収納されていた。
……人間っぽい、かもしれない。
服をわざわざ物色するのは気がひけたのでしなかった。

クローゼットを閉めて次の場所を調べよう。

クローゼットの場所から左を向くと引き出しがもうひとつあった。
下から開けていく。
きちっとしたスーツ等が入った段。
ゆったりとしたパーカーやパジャマが入った段。
下着のシャツが入った段。
上下の下着が入った段。
上の2段は恥ずかしくなったので何か分かった瞬間
ぴしゃりと閉めた。

全ての段を閉め次の場所を調べよう。

次は簡易的な鉄を黒く塗装した本棚。
難しそうな本が沢山あった。
じっと見ていると『転生か生き写し』『貴方であり貴方でない者』など
転生や生まれ変わりについての本が多い気がした。
そういうの、好きなのだろうか。
今度おすすめの本とか訊いてみようかな………。

次は。
……………………………。


次は。
………………………………………。


もう、めぼしいのは無いかな。
ぼふんっと音をたてベットにダイブする。

ん、彼女の匂いだ。
慣れないけれど臭くはない。
寧ろ個人的に安心して好きな香りだ。

枕をぎゅっと抱く。

「………名前、どうしても教えてくれないのかな。
なんて呼べば良いかわかんない、しー。んんぅ〜」

顔を枕に埋め肺まで彼女の匂いでいっぱいにする。
すると扉からカチャンと音がした。

目を細めて幸せそうに笑う例の彼女が立っていた。

「……そんな事思っててくれたのかぁ。嬉しいよぉ?
ところで何でそんな可愛い行動してるの?」
「へぇっ!」

天使はレイに覆い被さった。
それと同時にレイの手首をベットに押し付けた。

「ん”ッ!」
「ねえ、レイちゃん。……………って、…………で?」

「ん?」

「お姉ちゃんって呼んでみて?」

はっきりとした声で、余裕のなさそうな声で。
そう言った。求めるように。

言っている事は頭が可笑しいけど。

「えっ、んゃぁ。はなしって!」

目が怖かった。
目の中心の黒い所が大きくて。
ブラックホールみたいで吸い込まれそうだった。

じたばたするも上から体重と重力をかけてくる相手には
抵抗はできてもピクリと動くことすら出来ない。

「言って。お願い、きいて………?」

目に吸い込まれた。目を奪われて与えたいと思った。
母性本能というもの、だろうか?

「お姉、ちゃん………手、いや……だ」


「………あ、ごめん。痛かった?跡は、ついてないね。良かった。」

ほっと胸を撫で下ろす彼女はとっても綺麗だ。

レイは何も言わず天使を包んだ。
どっちが天使か分からないくらいに優しく。

「レ、イちゃんっ!?えっ?ちょ……」

天使、以下お姉ちゃんは顔を真っ赤にして
行き場のない手をあわあわと動かしていた。

少しお姉ちゃんは考えてレイの背中に手を回した。

「お姉ちゃん、もうちょっとこのままが良い。」

震えた声でレイは言った。
お姉ちゃんはその言葉を聴きすっと目を閉じた。

「うん、分かった。」

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Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.22 )
日時: 2020/07/11 16:33
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

「いやぁ、さっきのレイちゃん可愛かったなぁ♪」

幸そうにニコニコしてスキップしている
お姉ちゃんに手を引かれるレイは顔を赤らめ
「忘れて、下さい………!」と言った。

そんなレイを眺めてより満足するお姉ちゃん。

「あーんなことするから、ご飯冷めちゃったかも」

口を尖らせてレイをみやるお姉ちゃん。
レイはその顔を見てハッとし、だんだんと青ざめていった。

「あ、ごめんなさい。僕のせいで。折角のご飯を」
「ああ!責めるつもりじゃなかったの!
ただちょっと、ちょぉっとだけだよ!からかってみたかった、
…………ん、です。」

しゅんと羽を下げて悲しみながらレイの顔を覗きこむ。
その顔が愛しくて眉を下げながらレイは笑った。

「えっ、レイちゃ……ボクに、笑っ、た」

顔がどんどん赤くなって煙でもでるのではないかと
思うくらいに熱くなった。

すると下を見てぶつぶつと呟き始めた。

「でも、……ちゃ………もう………モノだか……
この………レ…………自体………の…から!」

ばっと顔を上げじっとりとレイを見た。

「慣れていかないとね!レイちゃん!」
「?うん……」

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「レイちゃん。嫌いな食べ物ってある?
一応大体把握してるつもりなんだけど、記録漏らしあるかもだし」
「大丈夫です。嫌いでも食べる事は出来ますので。」

少し背の高いお姉ちゃんを見てはっきりとそう告げた。

「そっか、ボクは嫌いで一口も食べられない物、
いーっぱいあるから、レイちゃんにあげちゃおっかな?」
「自分の物はきちんと最後まで残さず食べないと
ダメです……………。」

「はーい」とクスクス笑いながら歩く。

ふと、空を見たいなと
なんの前触れもなく思った。

きっとお姉ちゃんはもう脱走しないように
外には出さないだろう。
しかも寝室にもこれだけ歩いても、
窓なんて1つもなかったのだ。

時間は時計を見なければわからない。
それにデジタルの時計ではないので、
午前か午後かすらもレイにはわからない。

いつか名前も知らぬ天使から信頼を得て、
外に出られるように今は我慢して、媚びを売る。

「レイちゃん、ここがリビングだよ。入って〜」
「は、はい。お邪魔します。」

この天使には絶対勝てないから少し怖い。
力が強いし、捕まれると抵抗なんて出来やしない。
足の速さはわからないけれど、飛んでしまえば
僕なんてすぐに捕まる。




…………。


……………。


………………。


羽を使えなくしてしまえば?

「なぁに考えてるの?考えるなんて
ボクのことだけで良いんだよ?」
「考えてたのは、お姉ちゃんのことです。」
「……!嬉しいよぉ!何考えてたのぉ?!」

表情がコロコロ変わるお姉ちゃん。
可愛い。

けど、今のあなたは大っ嫌い。

「お姉ちゃんの腰に生えてるふわふわ、
触ってみたいなって……」
「いいよぉ、ご飯食べて、朝の準備して、
お着替えさせてくれたら、触らせてあげるー!」

……自分のやりたいことはちゃんとやらせる。
そういう所はきちっとしてるんだぁ。



………さっきの『今のあなたは』って。
何だろう?この人には会って数日間くらいしか経ってないし、
今のお姉ちゃんしか知らないはず。なのに。

なんで?

「でもね、今はなんにも考えないで、
ご飯を一緒においしく食べようよ。ね?」
「わかりました」

すとんと椅子に座って準備されたご飯を食べ始める。
お姉ちゃんも座ってちょくちょくレイを眺めながら
ご飯を食べる。

嫌いな食べ物を無言で僕のお皿に避けた時は軽く
睨んだけども「美味しく食べてもらった方が
お野菜さんも嬉しいよ」と言われて渋々避けられたものも食べた。

それと「お野菜さんって何ですか。子供扱いしないで下さい。」
と言ったら、お姉ちゃんは「今度から気を付けます」と言って
しあわせそうに笑った。

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Re: 迷い込んだ。異世界へ ( No.23 )
日時: 2020/07/19 16:37
名前: 水音(みおと) (ID: GLKB1AEG)

お姉ちゃんとの生活が始まって早数ヶ月。
……確かな情報なんてものじゃないが、お姉ちゃんに
本とペンを貰って日記を書いている。

まあ、毎日レイが寝ている間に
レイにバレないようにこっそり見てるらしいが
そんなの3日でレイに見つかった。

点検されているから変な事はかけないし、
脱走を企てていることもバレてはいけない。

「んーと」

日記に書く内容を悩んでいるとお姉ちゃんが
後ろから抱きついてきた。

胸が当たってるんだよなぁ。
はあ、何でそんなに大きいのか知りたいですね。
僕の方がご飯をちゃんと食べてるのに。
どこからくるんだその養分。

「暑いです。お姉ちゃん。」
「うんうん、暖かいねえ〜」

ますます話を聴いてくれなくなった。
前は「ごめんね」とか言いながら止めてくれたのに。

求められている気がして悪い気はしないけど。
正直面倒くさい。

レイがお姉ちゃんに反論しようと思い
お姉ちゃんの方向を見上げようとする。

「ん、お姉ちゃん」
「なぁに、ちゅーする?」

お姉ちゃんのレイを抱き締める力が緩くなる。

「しません。」

お姉ちゃんの今の目標はレイからキスしてもらう事、
らしい。

命令して嫌々やったとかではなく、
レイから自主的にキスをさせるのが目標!と先週言っていた。

キスなんて、好意を持っている訳でも
家族でもないのに。

お姉ちゃんはレイにとって、誘拐犯。なのに。
何を………ほざいているのだろう。

「何書いてたの?見せて〜」

こっそり見ていたのに、今では堂々と見に来る。
寧ろ、一緒に書いていると言っても過言ではない。

「出来れば見せたくないんですが………。
お姉ちゃんの日記も一度くらい見せて下さいよ」

「だぁ〜め。お姉ちゃんの仕事には外部に漏らしちゃいけない
情報もあるの。その事についてボクの意見とかが
書いてあるから見せちゃいけないんだ。
…………見られたくない事も書いてるしね?」

お姉ちゃんの人差し指をレイの唇に当てられて
言われた。

「じゃあ寝室の引き出しに仕事の物だと思われる書類が
入っていたのですが。良いんですか?」

「えー、レイちゃん。あの文字読める?
読めるなら仕事場だけで全部消化してくるよ?」

お姉ちゃんの指が離されそのままお姉ちゃんの唇に
たどり着く右手の人差し指。

間接キスだ、なんて考えてしまったのは
レイもお姉ちゃんに毒されて来たからかもしれない。

「読め、ません………けど。
誰かにここに立ち入られて盗まれるって事になっても
僕は知りませんからね?」

お姉ちゃんの目からは光が消え
口角は少しだけ降りた。

その表情に背中が冷たくなった。

「ないよ。そんな事。
…………あったら、許さない。」


壊される、そう感じた。

すると表情が明るくなってにぱぁっと笑った。

「それに!レイちゃん、そんなこと言って、
盗まないでって抵抗してくれるでしょう?」
「…………はい。もちろん、です」

お姉ちゃんは少し目を逸らし考えるような仕草を
した後、苦しそうに笑った。

「でも、その時は絶対見つかんないように隠れてて。
レイちゃんの目に映る生物はボクだけで良いから。」

今度は何も言わずにコクンと頷いた。

笑いかたが、苦しみ方が、依存させ方が。
どうにも懐かしく思えてしまう。

「今日はもう、寝よっか。」

「あ、待って下さい。最後の文だけ、
書かせてください。」
「ん」

『レイ    125日目』
と書いてぽすんと日記を閉じた。

レイと書いたのは覚えていた名前をもしも忘れて
しまった時に思い出すため。

お姉ちゃんの方に振り替えって
共にベットに入る。

「ん、おやすみなさいのちゅー。
こっち向いて?」

「はい。…………おやすみなさい」

額にキスをさせてから枕に頭を沈める。

「おやすみ。良い夢を。」

前髪をすっと撫でられ目を閉じる。
ぎしっとベットに音を鳴らしながら入るお姉ちゃん。

肩まで布団がかかって温もりを感じる。
背中にぺったりくっついた温もりですうっと眠りに落ちる。

いっつもこうしていたような気がする。
この世界に突っ立っていたときから大体8年と4ヶ月。
4ヶ月前まではこんなことしていなかったのに。
なんでだろう?

『いつか、いつかだよ。今じゃないけど。
思い出してね!*ちゃん!』

考える事は出来なかった。

「すぅ………すぅ………」
「もう寝たの?早いねぇ」

小声でそっと呟かれたその声だって聞こえやしなかった。

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