複雑・ファジー小説
- Re: 壬辰丁酉.第1章 ( No.2 )
- 日時: 2019/11/30 00:17
- 名前: エイ (ID: Xr//JkA7)
『私征夷大将軍足利義昭は朝廷にこの座を返還し山城国へ帰還致す所存であります!天皇陛下。私の帰還をどうかお許し下さいませ。』
足利義昭は節刀【征夷大将軍の証】を後陽成天皇《ごようぜいてんのう》の目前に置き礼した。
天正16年(1588年)1月13日、山城国(京都)に帰還。征夷大将軍を辞して出家。准三宮の宣下を受け皇族と同等の待遇を得た。足利義昭は1338年に室町幕府を立てた足利尊氏の子孫である。同年室町幕府は滅んだ。
そして関白である豊臣秀吉《とよとみひでよし》は武士と農民を区別する為同年8月29日に刀狩令【特定の人物から武器を没収する事】と海民の武装解除を目的とした海賊停止令を発行。
ー大坂城【現在の大阪府中央区】ー
秀吉は前田利家《まえだとしいえ》と碁を打っていた。利家は冷静に碁を打つ。対して秀吉は直感で碁を打っていた。利家は秀吉のその様子に笑った。『関白殿下は何か急いておられるのですか?もう少し冷静に考えて打たねば。』秀吉は利家の言葉を聞き冷静になるが…『もう辞めた!よく考える碁なんて懲り懲りだ。そんなに考えて楽しいのか?』と言い碁台を立ち上がる。『関白殿下。囲碁も戦ですので慎重にならなくてはなりません。戦のように一手間違えれば一瞬で負けてしまいますぞ。最後まで諦めず…ほら、碁台にお座り下さいな。』その言葉を聞き大人しく秀吉も立ち去ろうとしていた足を止め碁台に座る。すると加藤清正《かとうきよまさ》が書状を手にしてやって来た。『関白殿下。徳川家康《とくがわいえやす》殿より書状を受け取って参りました。』『何だと?徳川家康だと?』秀吉は急いで書状を清正から受け取り開く。
〈関白殿下。罪人である雨下友家《うのしたともいえ》の首を取りましたので送ります。〉
書状と共に送られてきた箱の中には…
終
- Re: 壬辰丁酉.第1章.第2部《明を狙う野望》 ( No.3 )
- 日時: 2019/12/01 20:51
- 名前: エイ (ID: Xr//JkA7)
その箱の中には雨下友家の首があった。それに驚きを隠せない秀吉。
雨下友家…徳川一家と対立する豊臣家の家臣。
『徳川家康。あやつ、決して許すものか!』秀吉の怒鳴り声が大坂城を響いた。その怒鳴り声に驚く加藤清正を始めとするその家臣達。
駿河国【静岡】/駿府城《すんぷこく》
中務大輔《なかつかたいふ》である本多忠勝《ほんだただかつ》は権大納言《ごんだいなごん》であった徳川家康にメルカトル図を差し出した。
『中務大輔よ。これが領邦国の地理学者が作ったとされる世界地図であるか?』本多忠勝にそう尋ねる徳川家康。『はい。権大納言様。この大明国の隣にあるのがここ日本であります。』本多忠勝は徳川家康からの質問に答えて日本列島を指差した。『何だ?日本はこれほど小さい島国なのか?明国の半分にも劣る小国であるな。』徳川家康は企み顔でメルカトル図を見つめ公家成《くげなり》・井伊直政《いいなおまさ》を呼びこう通達する。『この世界地図を関白殿下に再び届けるがよい。』
朝鮮/漢陽
1567年の宣祖の即位により、士林勢力が最終的に勝利を収め士林派が中心となって政治を行う時代が始まったが、士林勢力は1575年には西人《ソイン》と東人《トイン》と呼ばれる2つの勢力に分裂し、主導権争いを続けるようになった。この時代に見られる派閥に別れて論争を繰り広げる政治体制の事を朋党政治と呼ぶ。党派の分裂は再度の政局混乱を呼び、各王はその安定を求めて様々な施策を試みなければならなくなった。
東西に別れた士林派は互いを牽制していたが、李珥《イ・イ》がこの対立を抑えている間は両党派とも目立った動きは起こさなかった。1584年に李珥が亡くなると両党派ともに政治の主導権を抑える為に活発な動きに出る。当初は東人有利に進んでいたが後の1589年に全てがひっくり返る事になる。
1588年11月5日
東人派である柳成龍《リュ・ソンリョン》国王である宣祖《ソンジョ》にこう進言した。『国王陛下。倭国に送っている密偵より知らせが届きました。』柳成龍は宣祖に書状を渡した。その中には…〈王様。倭国は長年戦乱の世が続き乱世となっております。その間、力を持つ徳川家康が明国を狙っている様です。もしかすれば朝鮮まで倭国の標的にされるやも知れません。その事に備えて軍事能力を高めてみては如何でしょうか。〉その書状の内容に呆れる宣祖。『この者は朝鮮が誠に小さい島国にやられる事を案じておる。この者は大変臆病であるな。臆病者に倭国の密偵を任せられるものか。違う者に密偵を任せるがいい。』すると、同じく東人派の李徳響《イ・ドッキョン》が少々不安そうに言う。『王様。私が自ら密偵として倭国へよろしいでしょうか。』
その言葉に驚く朝廷の大臣達。『副提学《プジェハク、弘文館の副使》、この朝廷の場での前言撤回は許されぬからな。』
壬辰丁酉.第1章.第2部《明を狙う野望》.終