複雑・ファジー小説

Re: 朧月IIー天の賭けを信じてー ( No.3 )
日時: 2019/11/22 17:42
名前: エイ (ID: Xr//JkA7)

第2章

呂孤の王宮には次々と火が放たれ宮へ参勤していた王臣(国王に仕える臣下)らは宮の財物を盗み逃亡した。そして呂孤の王宮の北門である智舎門《ちしゃもん》から逃げようとした王臣の目の前には三星の槍《みつぼしのやり》を手にした賀眞が立っていた。その王臣は目の前に立つ賀眞に膝を突き命を乞うた。『賀眞様。どうか私を見逃して下さい。賀眞様!』賀眞はその言葉にも耳を貸さず無残に刀を振り落とした。

義信の執務室。周囲は火事でありながらも義信は呑気に寝ていた。そこに義信の息子である王位継承者の義那《よな》が火を被りながら義信を助けに来た。『国王陛下!お逃げ下さい!』義信はその声で目を覚ますが火に囲まれている状況を目にした義信はまず戸惑った。その様子を見た義那は急ぎ走り義信をおぶって連れ出す。そして義那が外に出ようとしたその時義那の胸に銃弾が突き刺さった。しかしその痛みに耐えながらも兵士がいない王宮の東門である五舎門《ごしゃもん》を通過した。その後義那は義信を背中から下ろして息絶えた。『義那よ!目を覚さぬか!』義信のその泣声は火に包まれた前王宮を響く__

次日の早朝に先頭にいる叉仁が10万の兵士を連れて上京を果たした。叉仁の後方には味方の宇津、明白、楽覇、賀眞が馬に跨り上京した。

新宮の羅苑宮《らえんぐう》で叉仁の即位礼が行われる。『新国王陛下、千歳!千歳!一万歳!』賀眞が千歳一礼《せんさいいちれい》を行う。千歳一礼…千歳を生きて長寿せよと礼する事。

ー伽彌 羅苑宮ー


『王命を下す。これより三年は税金を免除せよ。そして''貴豪軍役免除法令(貴族や豪族が金品を国に納めて軍役を免除する法令)''をこれ以上一切認めない。成人した男は必ず軍役に行かねばならぬ。更に軍事科挙を来月末に行う事とする!この科挙は尊卑で区別せず能力で宮へ登用せよ!』
叉仁は王布を見に纏いその配下の重臣らに通達した。その命令に重臣らは頭を下げて言った。



『国王陛下の命令に従います!』と。


ー妃嬪宮《きひんぐう》ー

妃嬪宮から赤ちゃんの泣き声が聞こえた。赤ちゃんの背中には華麗な桜模様と朧月が刻まれた。叉仁の妃はその息子にこう名付けた''桜月《おうげつ》''
              叉仁の王子である桜月は後に波乱万丈な人生を歩む事となる。 


25年後…《叉仁王存位二十九年》 ー伽彌 黄鷹宮《きだかぐう》ー

筆を手にして華麗な朧月を描く男が一人いた。その男に耳打ちする宦官の衣を見に纏った男。『王子様。国王陛下が播遷をなさるそうです。』男は筆を起き王子の官服を纏った。

馬に跨り王子・桜月は砂漠を走り抜ける。桜月は刃先が鋭い槍を手にして敵軍のいる大山《テサン》に向けた。

『敵は!大山なり!』




次回予告
第2章 第2部《大山の戦争》
叉仁らが二度目の播遷を行う中、桜月は一つの槍を頼りに敵軍のいる大山に出陣し敵を負かし大山から退軍しようとした時…

Re: 朧月IIー天の賭けを信じてー ( No.6 )
日時: 2019/12/11 16:24
名前: エイ (ID: Xr//JkA7)

第2章.第2部《大山の戦争》

王子である桜月《おうげつ》が伽彌に攻め入って来た四万の敵軍を千にも劣る僅かな軍兵で討たんとしている。
その意気は家臣誰一人も止められるものではない。桜月は宍間槍《ししまけん》を自らの手で握り己の部下である宇我《うが》と共に敵軍に対して言い放った。


             『敵軍を全滅させよ!』


その言葉に千の兵士は雄叫びを上げた。その瞬間過酷な戦場と化した。
『皆の者よ聞け!この大山で!勝利して国王陛下の播遷を止めねばならぬ!』
桜月は宍間槍を握って千の兵士らと大山を襲撃した。宇我は五百の大砲部隊に発砲令を下す__

宇我率いる大砲部隊によって崩壊する山壁。その頃山頂で敵軍の頭と桜月は槍を交わらせていた。崩壊する山壁や次々と山間で死んでいく兵士たちの血の匂いを嗅いで狂気と化したのだろうか。興奮の絶頂へ辿り着いた敵軍の頭である島治《とうち》。島治は自らの限界を超えて桜月と紅清《べにきよ》の二人を相手に刀を振り回した。桜月は鋭い槍である宍間槍を持ったが島治のその狂気に中々苦戦した。

そうして島治が山頂で戦っている際、桜月軍は負傷兵を出さずして山頂へ千の兵士と五百の大砲部隊が登って参った。つまり島治を除いた敵軍全員が死んだと言う意味だ。負傷兵を出さずして敵軍を全滅させたのだ。

『島治。降参しなさい。そなた以外の軍兵は全滅したのだ。終わりだ。』

島治はその事実を知ると膝を落とした。
『何だと…終わりなのか…全て終わりなのか…終わってしまったのか…』

島治は現実逃避して山頂から逃げようとしたその時、足を滑らせて山頂から落ちたのだ。四万の敵軍は千の兵士を無傷で帰した。

1ヶ月後…《叉仁存位二九年四ヶ月》

百を超える上奏【大臣・議院・官庁等が君主に意見を申し述べること】が宦官によって王宮殿に慌て運ばれて来る。

叉仁はその上奏に目を通し怒りを抑えている様子でその宦官に強い口調で言った。



     『桜月を呼べ。急ぐのだ!』



桜月は叉仁に呼ばれ王宮殿の中へ…その瞬間、叉仁はその上奏を桜月に投げつけた。桜月がその上奏に目を入れた瞬間桜月は表情を変えて跪いた。

『国王陛下。このような上奏決して私は知りませぬ!』

その上奏には〈国王は王子に譲位せよ〉と記されている。譲位とは…王位を譲る事



         『王解伏罪〈おうかいふざい〉をせよ。』


王解伏罪…国王が許すまで跪いて許しを乞えと言う意味
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『国王陛下!何卒お許し下さいませ。私に譲位など!陰謀でございます!どうか!お許し下さいませ!』

桜月は雨中跪き薄着で震え叉仁の許しを乞うた。

その頃村中では良からぬ噂が響いていた。

『前王を殺した上に息子まで殺す気か。』『自分は命だけでも助かろうとして播遷しようとしたくせに息子は必死に千の兵士で戦勝したと言うのに…』

この噂は既に王宮殿にも伝わり宦官や女官までもが噂していた。いずれ国王は''暴君''として称され仕方なく叉仁も桜月を許す事となる。

覆面をした謎の男が矢を強く握り締めて的の真中に放ちこう言い放った。

『この矢は上物だ。幾らで売ってくれよう。』

男の質問に矢の売人は

『一本500銭(200円)だ。何本買うんだ?』

『100本4万9千銭(約2万円)で売ってくれ』

男は覆面を外すが見たところただの短い白髭を生やした老いた貧乏人の容姿である。しかしこの男は前王である義信である。
実は生きていたのだ。義信。叉仁に『殺された』前王は。