複雑・ファジー小説

Re: 『残念』悪役令嬢はざまぁを目指すようです。 ( No.1 )
日時: 2019/11/23 16:56
名前: RITSU (ID: 3pCve.u0)

 くんくんくん。
 なんか、あまーい匂いがする。
 なんだっけ……これ。

 あ、そうか。あたしの大好きなイチゴケーキの匂いだっ!
 と、思ったら、目の前に美味しそうなイチゴケーキがぷわん、と浮かんだ。

 きゃーっ、きっと、神様があたしのために焼いてくれたんだわ!あたしはちょっとお行儀悪いかなーと思ったけど、近くにナイフやフォークがないから、いいやと思って、せいいっぱい大きく口を開けた。

 パクリ。

「いったああああああああああ!」

 うん?
 甘くないよー。スポンジみたいに柔らかくもないし……正直言って、マズい。
 あたしはそれをぺっと吐き出した。
 神様、作ってくれるのならもうちょっと美味しいのを頂戴ね。そう、思ったときーー。

「いい加減に起きやがれ! この白目女!」

 ぐはっ!
 あたしは、温かいお布団をひっぺはがされて、イッキに目が覚める。
 ……お布団?
 っていうことは、イチゴケーキは夢か……。

 って、あれ?
 あたしの側に、見慣れない男の子が立っていた。
 金髪に緑色の瞳、そこそこ良い服を着ている。顔も悪くない……ううん。イケメンの類いだろう。

「きゃあああああ! なんで男があたしの寝室にいるのよぉぉぉぉっ! あたし、まだ早いと思うんだけど!」

 も、もしかして、あたしもう……。
 おそるおそるあたしは自分の格好を見下ろす。
 見慣れたドレスだ。少し汚れているけど、脱がされたような風ではない。

「何が早いんだ……変なこと口走んな白目女。誤解されたらどーしてくれんだよ」

 ふ、ふん。
 あんた、あたしを襲いに来たってわけじゃないみたいね。
 少し落ち着いたことで、ゆっくりと周りを見渡すことができた。そこそこ立派だけど、見慣れない室内。
 も、もしかしてあたしっ!

「さらわれたの……!?」

 悲劇のヒロインってやつね。
 ヒロインじゃなくて悪役令嬢だけど。

「落ち着け。家の前にぶっ倒れてたから拾ってやったんだよ」

 ふーん。信じたわけじゃないけど、とりあえずそういうことにしといてあげるわ。
 よし、じゃあ記憶を辿りましょう。
 あたしはリーナ・クラウリア。前世は仁科美華、十七歳。死んで、この乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生した。昨日、婚約破棄されて追放された。
 そこから……あんまり記憶がないわ。

「目が覚めたんならとっとと出てけ白目女」

 白目女?

「白目女って誰よ」
「お前だよ」

 あたしが白目女?

「あんたのそこについてる緑の目は飾りなの? あたしの目は青よ」
「ちげーよ。白目剥いてぶっ倒れてたからそう名付けた」

 ……白目を剥いてぶっ倒れるなんて、乙女にあるまじき行為!
 仮にもあたしは元令嬢!
 倒れるなら美しくおしとやかに倒れたかったわね……。

 でも、過去は変えられないわ。しょうがないから、この失礼な男にも変なあだ名をつけてあげなくちゃ。何か特徴はないかな?……と、思ったら、男の右腕にクッキリと歯形が。

「じゃあ、あんたは歯形男ね」
「この歯形はお前のせいだよおおおおおおっ!」

 ……もしかして、あのマズいイチゴケーキはこいつの腕だったの……?
 それは悪いことをしたわね。ちょっとだけ……ほんのちょびっとだけ、反省してあげなくもないわよ。

「ま、まぁいいじゃない? 流石あたしの歯形だわ……まるで芸術品のように美しいわよ? 歯形男っていうのもそう考えると褒め言葉になると「ならねーよっ!」」

 うぐっ。

「はー。お前といると疲れるな。さっさと出てけ。お前、いいとこのオジョーサマだろ? その服、良いやつだもんな。こんなところにいつまでも居座らないで、家に帰れよ」

 ……。
 待って、あたし、帰るとこないわ。屈辱だけど、こいつにゴマすって頼み込んで住ませてもらうしかないわね!

「あたしをこの家に住ませて!」

「……はぁ?」