複雑・ファジー小説

Re: 『残念』悪役令嬢はざまぁを目指すようです。 ( No.2 )
日時: 2019/11/23 20:09
名前: RITSU (ID: 3pCve.u0)

「……もしかしてお前、追放されたっていう令嬢サンか?」

 あ……あは。
 そうでーす。ご名答でーす。

「流石ですね歯形男様! 素晴らしい慧眼をお持ちでいらっしゃるっ!」

「あからさまにゴマをするな、お前……だがその歯形男をやめないあたりにお前の汚い心が映ってるぞ」

「うふっ!いやですわ歯形男様。汚い心なんて……あたしの心は歯形男様と同じくらい歪んでいるだけでしてよ!」

「ゴマすれてないぞお前!」

 はっ!機嫌をとるつもりが、この歯形男を見たときに感じる強烈な嫌悪感のせいで、うまいことを言えないわ!どうしてこいつのことが褒められないの……持ち上げられないの……?

「こいつに良いところがひとつもないからかしらね」
「お前、初対面の男に、しかも頼んでいる側でよくずけずけとそこまで言えるな」

 あたし、正直ですから。
 胸を張ってそう言おうとしたときーー。

「!?」

 ベッドに座っていたあたしのほうに、男が寄ってきてーー。
 押し倒されているような形になってしまう。
 こいつ、顔だけはいいから何とも思ってなくても勝手に心臓がドキドキしちゃうしーー。

 ゆっくりと、自然な動作で男の唇が近づいてきてーー。

「あたし、もしかして今、キスされそう?」

 男はピタッと止まってジト目でこっちを見てくる。

「そーゆーこと、口にだすなよバカ」

 うきゃあああああっ!
 キスしようとしたって肯定したようなものだよね、今の!
 全国の乙女のみなさんっ!この男、さっきあたしに初対面がどーたらって言ってましたけど、初対面でキスしてこようとする人のほうがどうかしていると思いませんか!

「顔、真っ赤」

 しょ、しょうがないでしょっ!
 こーゆー恋愛経験なんてないんだし!
 それに……。

「あんたがカッコよすぎるのが悪いのよ!」

 顔だけだけど!
 あんたの顔が無駄にイケメンなせいだもの!
 あたしがそう言うと、歯形男は目をパチパチ。ついでに長い睫毛が目立って、さらにイケメン感が増した。その後、ふっと微笑みーー。

「目、とじろよ」

 そして、さらに近づいてくる唇ーー。

「やめてってばああああああああああ!」

 あたしはそう叫び、無我夢中で手足をじたばたさせた。
 いやああああ、あたしのファーストキス、こんな顔だけ男なんぞに奪われてたまるものですかあああっ!

「ふぐっ!?」

 あと少しのところで動きが止まり、歯形男はさーっと青くなった。
 ばっとあたしから勢いよく離れると、へそより下のほうをおさえて悶える。

 うーん。
 どうしたのかな。

 ともかく、乙女のピンチは過ぎ去った!
 バンザイ!
 あとはこの変態歯形ヤローを処分……じゃなかった、この家に住ませてもらえるように交渉するのみね。

 うんうん。
 あたしが頷きながら計画を練っているうちに、回復したらしい歯形男はよろめきながらこちらを見た。

「俺はお前を女だなんて認めないッ」

 ちょっと涙目だった。

「あたしは正真正銘の女よ」

「……百万歩譲って女だとしよう。だがお前は令嬢ではない! 俺の夢見ていた優しくておしとやかな令嬢じゃないっ!」

 そんなこと言われてもねぇ。
 あたしは元令嬢だけど、優しくておしとやかな令嬢なんて少数派じゃないの?
 夢見すぎよ。

「それよりも、あたしをここに住ませて頂戴。住むところがないの」
「くぅっ……お前は俺の夢見ていた令嬢じゃなくても、とりあえず令嬢だった!」

 さっき令嬢って認めないとかなんたら言ってたけど、現実は受け止めてくれるのね。

「だから……百万歩譲って、ベッドで寝てるだけでいい! あとは俺が服ひんむいて勝手にする!」

 きゃーっ!乙女の敵よ!

「令嬢令嬢うるっさいわねぇ! そんなに優しくておしとやかな令嬢を拝みたいなら、あたしに一人心当たりがあるから、その子の情報で手を打ってくれない?」

 友達を売る?
 いいえ、あの子ーーヒロインとは、友達じゃないわ。