複雑・ファジー小説

Re: 応竜の率軍 序章 ( No.2 )
日時: 2020/01/19 03:14
名前: 騎士 (ID: lBubOowT)


   663年(天智二年)白村江《はくすきのえ/はくそんこう》の戦い

  【天智天皇《てんちてんのう》日本三十八代天皇】

 応竜の絵画に顔を向けて笑みを見せて沈黙を破った。

   『干魃《かんばつ》を救う龍──応竜。彼が倭に希望を与えたのだ。応竜が再びこの干魃を救ってくれる事を祈っておる。』

 天智天皇《てんちてんのう》幼名は中大兄皇子《なかのおおえのおうじ》645年に蘇我氏を倒す政変を起こし太子となる。661年に日本第三十八代天皇として即位する──。

   天智天皇の元へボロボロの衣服を纏い戦況通達官がやって来た。敗北の風情を漂わせて天智天皇に通達した。

   『天皇陛下。恐れながら…我が日本百済《くだら》復興連合軍は全滅致しました。今後の対策を検討して下さいませ。』

  戦況通達官の言葉に天智天皇は腰を抜かせて応竜の絵画を眺めながら


    『応竜…結局は…倭には味方してくれなかったな…結局は…唐や新羅《とうやしらぎ》に肩入れしたのだな…』

              目に涙を溜めながら…そう呟いた。


    

 『応竜が天之四霊を率軍して日本にやって来れば俺たちは食べ物に困る事はないんだ!』

 応竜、鳳凰、霊亀、麒麟。その四霊が集り''天之四霊''そう呼ばれるようになる。しかし天之四霊を呼べるのは''善なる天''のみだ──。


 西暦636年(舒明8年)中大兄皇子十歳

 書物を熱心に読む幼き中大兄皇子。彼の姿に父の舒明天皇や母の宝皇女は誇りに思っていた…

 『孔子は十有五にして学に志ざした。私はそれより早くから学に志し孔子を超えた存在になります!』

 そのように幾度となく父・母に向かって言っていた。それゆえいつしか父・母は厳しくなり朝早くに起こし夜遅くまで勉強させた。

   ー昼過ぎー

 宮の塀を越えて皇子が向かったのは──
             ''観相の部屋''
                という看板が張り出された 
                   小さな小屋のような屋敷であった。
 『うちの中先生《なかのせんせい》に観相して欲しければ確と並べ!』

 終

Re: 応竜の率軍.序章 ( No.3 )
日時: 2020/01/20 23:32
名前: 騎士 (ID: lBubOowT)


   笠を被った稚い貴族の少女が使用人を連れてやって来た。すぐに少女と使用人は部屋へ通された。


   少女は笠を取り皇子と目を合わせた。皇子は普通に観相をするが少女があまりにも見つめてくる為照れて目を違うところへ向けた。

  そして観相証に''凶''と記された…

『お嬢様は恐れながら凶運であります…お嬢様は若き男に恋心を抱きますがその男がご家庭に災難を起こすでしょう。目の下にある黒子からは武運をお持ちだと伺え今後戦場に出ると思われます。成人すると高い身分にお就きになるでしょう。そしてその身分に就いた際に初恋の人に会う…これ以上は言えませぬ。お嬢様は色恋沙汰にはお気をつけ下さい。』

  少女は笠を被り一言言った。

 『若いのに観相師とは…素晴らしいな。名を申せ。』

  皇子は一息つき『葛城《かつらぎ、中大兄皇子の諱》。葛城と申す。覚えていてくれると嬉しいです。』

 少女は皇子の名を聞いて笑みを顔にして立ち去った。皇子の顔にも少しの笑みが残っていた…そこへ刀を腰にした黒髭を鼻下に伸ばした中臣鎌足《なかとみのかまたり》がやって来た。

 『皇子様。直ぐに宮にお戻り下さい。宮から離れた事が天皇陛下に知られました。直ぐにお戻り下さい!』
    その言葉に皇子は驚き鎌足の肩に乗り宮へ向かう──


  645年(皇極4年)中大兄皇子十九歳

 プゥーという喇叭の音が日本全土に響き渡った。

   『皇子様の成婚だー!皇子様の成婚だー!皇子様の成婚だー!

 飛鳥の人々は尊卑に関係なく騒然となった。市場の子供達は毎朝『皇子様の成婚だー!』と喚いた。人々は此度の皇子の結婚で米が1年間ただで配給される事を楽しみにしていた──。飛鳥時代では皇子や皇女。位によって異なるが王族の婚姻が決まると一定期間の間米が配給されるのだ。

   中大兄皇子に義殿《よしどの》がこの物語の始まりとなる運命の通達を告げた──。時は六四五年(皇極四年)の文月。日本は猛暑と化し人々は炎天下を歩いていた──。
 
   『成婚?私が成婚するのか?誰と?近々か?誠なのか?』

 中大兄皇子は義殿に対して矢継ぎ早の質問を浴びせた。

   『蘇我入鹿の姪だそうです…』義殿は皇子の気を慮りながら宣った。

 その言葉に皇子は気が動転し倒伏した。その言葉を聞き駆け付けた皇極天皇。

 終

Re: 応竜の率軍 ( No.4 )
日時: 2020/01/22 06:20
名前: 騎士 (ID: lBubOowT)

   皇子は杳として目を開けた…………

   序章『乙巳の変』

 この日、倭の京である飛鳥は、皇子(米)の話題で持ちきりだった。『米はどうなる』『貰えると思って全部食ってしまった』人々はそう呟いており皇子の病の事など眼中になく米の心配をしておった──。


  京で口々噂している民の目の前を三韓《さんかん、朝鮮半島を指す》の使臣が三人。輿に腰をかけて王宮と対面となり近傍になった。

  そして三人の使臣とその使臣の後に続く家来達は宮に向けて頭を下げた。

 『何だ…あの格好は…韓の国ではあのような服を身に纏うのか?』と。京の人々は三韓の使臣の格好に驚きを感じたとされる。

  皇子が着替えを始まるので鎌足は思わず『どこへ行かれるのですか?』と尋ねてしまう。すると皇子は''何か''を鎌足に陳じた。


  昼過ぎ__物売りが並ぶ倭の市場を歩く新羅《しらぎ 朝鮮読み:シルラ》の使臣・金春秋《キム・チュンチュ》は何者かに追われる。それを悟った金春秋は短刀を懐から取り出す。そして黒い覆面をした集団は人気のない海辺で金春秋を囲み刀を突き付け合う。


 〈何者だ…答えるのだ!私を誰と心得る。新羅の使臣団である金春秋である。私を殺せば新羅の大王陛下と倭の天皇陛下が黙っておらぬだろう!〉

 〈心配ない。この殺害命令は百済の大王陛下からの命令だ。倭の上部と既に接触しお前の事など誰も気にすることはない。〉

 七世紀中期__勢力を伸ばす新羅に対して百済は武力抵抗を起こし各々戦争を起こしており対立状態にあった。新羅が勢力を伸ばせたのは金春秋の実績が高く百済からも目を付けられていた。元々百済と倭の蘇我氏は接触があり前々からこの時期に金春秋を殺す事は計画されていたらしい…

  そして…黒い覆面をした集団の一人が刀を金春秋に振り落とした………!!










































  馬に跨った中大兄皇子が放った矢がその男の胸を貫いた──。

    〈やめぬか!倭の地で他国の者が人殺しをするつもりか!〉

  皇子は流暢な朝鮮語で男達に怒鳴りつけた。金春秋は目の前で死にゆく男の姿を見て口を開き愕然としている。

  〈何だお前は?倭人か?俺らの邪魔するとはいい度胸してんじゃねぇか!お前を先にぶっ殺してやるわ。〉

  皇子に刀を持った黒い集団が襲い掛かろうとした時…鎌足の素早い一振りで二秒、いや一秒も経たずして十五人ほどの集団全員が倒れ死んだ…

  『感謝します。あの…何故私をお助けに?』

  『流暢な日本語ですな。私はこの国の皇子である中大兄皇子です。あなたに渡すものがあって来ました。』

   中大兄皇子は日本刀を金春秋に託した。
『これで朴白《パク・ソヌ》を殺して下さい。進貢の儀式の際に。』

     金春秋と中大兄皇子は後の660年に百済戦で戦う──。


   終