複雑・ファジー小説
- Re: シルキー&フェイのアトリエ【オリキャラ募集中】 ( No.18 )
- 日時: 2020/02/20 23:20
- 名前: L ◆zWpDOhpQ2s (ID: AfHZgVrd)
序章 走り出す運命
どこまでも広がる真っ青な空。そして、そよ風に吹かれて流れる白い綿雲。
一人の少年と少女がその空を見上げ、空の色が瞳に映りこんで青く染まっていた。
「あの空って、どこまで続いてるのかな〜?」
少女は空を見上げてふとそんな言葉をこぼす。少女の無意識に近い問いに、少年は腕を組んで頭を垂れて唸った。
「わかんない。きっと、世界の果てまで続いてるんじゃないかな……」
「ふぅん……そっか」
少女はそういうと、空を見上げるのをやめて地上へと顔をやる。
地上は広い草原だ。草が青々と茂り、風に揺られて静かに揺れる。森や山が遠くの方で見えていた。森の奥の方に、森の木の何十倍もの巨大な一本の大樹が聳え立っている。川も水が岩に当たって飛沫の音を立てながら、緩やかに流れて……この瞬間のこの周辺だけ見れば、世のどこにも争いがないと錯覚してしまう程、のどかで平和な風景だった。
「シルキーちゃん、今日の目的ってなんだっけ?」
少年が、シルキーと呼ぶ少女に向かって尋ねながら、肩から下げるカバンから紙束を取り出す。紙束には、「狂暴な魔獣を退治してほしい」という文字が大きく書かれ、猪や狼のような動物の絵が描かれていた。紙束の内容を見たフェイは、再びカバンにそれをしまいこむ。
シルキーは腰に手を当ててふんっと鼻を鳴らす。
「とーぜん! 魔獣退治だよフェイ。最近増えてる魔獣をやっつけないと、皆安心して暮らせないもん!」
フェイはそんなシルキーを見て、くすっと笑い、口元に手をやった。
「うん、正解。シルキーちゃんってば無鉄砲だから、確認しないとすぐ目的忘れちゃうもん」
「ぶぅ、そんな頻繁に忘れるわけじゃないし!」
シルキーは口を尖らせてフェイに顔を向けて抗議する。
フェイはというと、何かに気づいて腰に下げている剣の柄を右手で握る。その表情は、先ほど見せていた柔らかい笑顔とは一変、鋭い目つきで遠くを見つめる——まるで獲物を狙う獣のような目つきだ。
「シルキーちゃん、きたよ」
「だいじょーぶ。あの辺にあらかじめ、トラップを仕掛けておいたから!」
シルキーはそういうとにやりと笑う。フェイとは違い、余裕がありげな表情だ。
「もう、そういう油断が危ないって師匠も言ってたじゃない」
「ん……まあ、なんとかなるでしょ!」
「相変わらず無鉄砲なんだから……」
フェイはシルキーの言葉に呆れて肩をすくめる。
フェイの言う通り、彼らからかなり離れた場所に、狼の群れが横断している様子が見えていた。何の警戒もなく、十数体の狼が走っている。
フェイとシルキーはその場に俯せになって息をひそめた。狼たちの様子がギリギリ見えるか見えないかぐらい、頭を低くして様子を伺う。フェイはいつでも動けるように剣を握り、シルキーは肩から下げているバッグに手を突っ込んでいる。狼たちは何の疑いもなく走っていた。
その瞬間——
ボンッという大きな破裂音と共に、狼の群れが吹き飛んだ。破裂音がした場所には大きな穴が開き、狼の群れが半分以上それに巻き込まれたようだ。
シルキーはその様子を見て「よしっ!」と叫んでこぶしを握り締めてガッツポーズ。フェイはその場からすぐさま立ち上がって、狼の群れに向かって駆け出した。
その手には剣を構え、フラフラと立っている狼たちに向かって突進、両手で剣を大きく振り下ろした。突然の出来事に狼たちはうまく対応できない様子で、混乱しているようだ。
「フェイ!」
背後からシルキーの声が聞こえる。
フェイはその声に呼応するように、その場から離れた。
一方、シルキーはいつの間にか両手で、シルキーの身体の半分くらいはありそうな大きな樽を持ち上げ、苦悶の表情で狼たちを睨む。
そして、持っている樽を力いっぱい、狼たちに向かって投げた。
「どっっっせぇぇぇーーーーーいっ!!」
シルキーの腹から出る力強い叫びと共に樽は宙に放り出され、狼たちに直撃する。
フェイはシルキーに突進した。
二人は地面を滑って倒れこみ、ほぼ同時に爆風と爆音、そして熱が辺りを包んだ。その後は黒い煙が立ち上り、狼たちは焼き焦げていた。
二人がその様子を見て、歓喜の声を上げた。
「やったぁ、大成功!」
「やったねシルキーちゃん、まずは狼退治、成功だよ!」
二人が喜び合っていると、ふとシルキーが遠くを見る。その視線の先に、茶色の塊がこちらを睨んでいる。フェイもそれに気づいて鞘に納めた剣を構えた。
「喜んでる場合じゃないよフェイ。大ボスがいるみたい」
「まあ、そうだよね。もう一仕事、頑張ろう」
「うん」
フェイとシルキーが互いの顔を見合わせ、頷くと同時に、茶色の塊——いや、大きな猪が地面を蹴ってこちらに突進してきた。
物凄いスピードだが二人はひるまず、フェイは剣を構え、シルキーはバッグに手を突っ込んでいた。
- Re: シルキー&フェイのアトリエ【オリキャラ募集中】 ( No.19 )
- 日時: 2020/02/23 22:46
- 名前: L ◆zWpDOhpQ2s (ID: AfHZgVrd)
シルキーとフェイがなぜ平原で魔獣狩りを行っているか……
それはこの日の朝に遡る。
「何? 冒険者になるのか、お前達」
とある街の宿の部屋。木製の床と白い壁、ベッドが二つ並び、テーブルと椅子が置いてあるシンプルな部屋だ。そこに三人の人物がいる。
黒髪の青年が驚いた声を上げ、目を丸くして、二人の少年と少女を見る。
青年は触角のようなくせ毛が特徴の黒い短髪で、焦げ茶色のコート、黄色のシャツ、黒いズボンと見た目はどこにでもいる普通の傭兵のように見える、背の高い男で、目の前の二人を見下ろす形で腰に手を当てている。
目の前の赤い髪の少女と金髪の少年は彼——「ジャクス・イクスブロンド」を見上げて大きく頷いていた。
少女は赤い髪、前髪はくるんと渦を巻いて、頭のてっぺんには立派に立って、渦巻いた所謂アホ毛がピーンっと背を伸ばしている。ピンク色の魔女が被るような大きなツバ付き三角帽子をかぶり、同じ色のかわいらしいドレスを着こんでいて、スカートはまるでチューリップを逆さにしたような大きなものだ。まるで絵本などに登場する魔女そのものだ。
一方、少年は、金髪のボサボサ髪だが、前髪を三つ編みにしている。黄色のフードがついた黒い袖のない上衣、黄色の腰巻、黒いズボンと、とても動きやすそうな格好だ。
少女はジャクスに向かって胸を張って腰に手を当てながら言う。
「あたしたち、もう16歳なんだよ! 二人で冒険者やりながら、大陸を回りたいの」
「あのなぁ……」
ジャクスは頭を抱え、大きくため息をついた。
「大陸を回るって言ったって、どういう目的で回るんだ? まさか、ノープランじゃないだろうな?」
「むぅ、流石にノープランなわけないよ、バカにし過ぎだし!」
少女は頬をぷくぅと膨らませ、しかめ面をする。
「大体、子供二人だけだと、間違いなく大人にナメられるぞ」
「16歳だよ!? もうそろそろ独り立ちすべきだと思うの!」
「俺からすりゃまだまだガキだっつの」
「大人はそうやってすぐ屁理屈こねる〜! そうやって否定ばっかしてると視野が狭くなるんだよ!」
「視野の問題じゃないだろう? 俺は保護者としてだなぁ——」
「保護者なら子供の巣立ちぐらい理解してよ! 私たちだってもう自分で考えて自分の足で行動できるの!」
「だからといってだなぁ——!」
二人はお互い譲らずに言い合う。そこを少年が慌てた様子で口を開いた。
「え、えっと、師匠……ちゃんとした理由はあるんだよ」
少年はそういうと、深呼吸をして一息ついた後、再び口を開く。
「今、ティラール大陸は「魔導具」の行使で「マナ」が不足して、精霊たちがマナを求めて暴走していて、各地で荒れてるっていう状況だよね。僕達、「ユニサス先生」と師匠が教えてくれた大切な事を生かして、大陸で困ってる人たちを助けたいんだ。さっきシルキーちゃんが言ったように、僕らはもう自分で考えて自分で行動できる。……僕達は、師匠や先生から受けた恩は忘れてないし、忘れない。でも、師匠言ってたよね。「俺やユニサスから受けた恩は、社会に貢献することで返すんだぞ」って。今がその時だって、僕は思う」
少年がそう言った後、シルキーは腕を組んでうんうんと頷いた。
「それに、「イクスブロンドの誓い」、第二条! 「平和な世の中になるように努力しよう」だよ。今やらないでいつやるの!」
少女が真剣な眼差しでジャクスを見据える。少年も同じく、だ。
ジャクスは二人の話を黙って聞いた後、しばしの沈黙。そして、二人の思いが真剣そのものだと悟ると、大きなため息をついて、頭をぼりぼりと掻き始めた。
「確かに、お前たちは俺が思ってるほど、もう子供じゃあなさそうだしなぁ……。いやはや、なんというか。お前たちが成長して俺から離れるとなると、途端に寂しくなるもんだな。わかった。お前達が出る事を認めよう。どこへ行って、何をするか、自分で考えられるだろうしな」
それを聞くと、少女も少年も両手を上げて歓喜の声を上げた。
「ところで、どこで何をすれば冒険者になれるのか、わかってるんだろうな?」
「んもう、バカにして。そんなの、各領地にある「冒険者ギルド」に行けばいいんでしょ!」
「わかってるならいいんだ」
ジャクスはシルキーの返答に大きく頷くと、自身のコートのポケットに手を突っ込み、何かを取り出す。
「もし、本気で困ったときは俺か「ユニサス」を頼れ。それから、これを持っていけ」
ジャクスは少年に手を出すよう言い、その手の上に黒い紐が通った白い角笛を渡す。二人はそれをまじまじと見つめ、首を傾げた。
「それは「竜笛」。それを吹けば竜人にしか聞こえない音が俺に届くから、俺を呼びたいときはそれを使うといい」
「この白いの……竜のツノ?」
「俺のだ」
それを聞くと、少女は驚いてジャクスの頭をまじまじと見つめる。「へぇ〜」などと声を上げながら。
「ありがとう、師匠」
少年は竜笛の紐を首にかけ、首から下に下げる。
ジャクスはそれを見ると、うんうんと頷いた。
「それじゃ師匠、いってきまーす!」
「いってきます、師匠」
二人がそう言うと、部屋から出ようと入り口まで歩いて行った。
「「シルキー」、「フェイ」。気をつけてな」
ジャクスがどこか寂し気にそういうと、二人は振り返ってにこりと笑顔を浮かべる。そして、ジャクスに向かって親指をビシッと立てた。
それを見たジャクスも同じく親指を立て、二人を見送った。
- Re: シルキー&フェイのアトリエ【オリキャラ募集中】 ( No.20 )
- 日時: 2020/02/24 00:13
- 名前: L ◆zWpDOhpQ2s (ID: AfHZgVrd)
猪型の魔獣を倒すと、倒れた猪は何か黒い靄のようなものを発していた。
フェイは「ふう」と声を漏らすと、剣についた血糊をポケットに入っていた布でふき取る。シルキーも、腕をぶんぶんを振り回して、軽く背伸びした。
「これで全部かな、依頼の奴!」
「うん、あとは——」
フェイは「帰ろう」と言いかけると、突然勢いよく振り向いた。視線の先は、森の中からそびえ立つ巨樹だ。青々と生い茂る巨樹は、空を覆う程の枝と葉。あの樹は大陸のどこからでも見えるぐらい巨大で立派なものだ。
シルキーはフェイの様子に首を傾げた。
「どったの、フェイ?」
「何か、聞こえない?」
フェイの問いにシルキーは巨樹を見る。
——けて。
シルキーの耳にかすかに何か声が聞こえた。消え入りそうな声。……誰のモノなのかはわからないが。
「聞こえた、女の人の声……かな、ちょっと聞き取りづらかったけど」
「なんとなく、あっちの……「セフィロト」から聞こえてこない?」
フェイは巨樹を指さす。シルキーも頷いて巨樹を見つめた。
「ねえ、この後は報告するだけでしょ。行ってみない?」
「え、えぇ!? 大丈夫なの……?」
「でも気になるでしょ、だいじょーぶ。セフィロトの周りには水辺があるだけだったはずだし!」
シルキーはそう言い終わらない内に歩き始めていた。フェイは慌てて「待ってよ〜」と言い、シルキーを追いかける。二人は巨樹の前にある鬱蒼とした薄暗い森に入った。
この二人は以前、あの巨樹の目の前まで来たことがある。その時は師匠のジャクスと一緒に来ていた。
その時聞いたのは、「世界樹セフィロト」について、「魔導具とマナと世界樹の関係」。魔導具はここ数十年で急速に普及し、すでに人々になくてはならない技術となってしまった。
「だけど、魔導具はマナを大量消費して、世界樹に悪影響を及ぼしている。そのせいで、マナそのものである「精霊」たちはマナを求めて暴走し、それが災害の原因となる上に、大陸が荒廃していく」
魔導具はそれほどまでに環境に影響を及ぼしているわけで、最近では「魔導具を撤廃しろ」なんて声高らかに叫ぶ過激派もいるが……その人々ももちろん魔導具を使っている。
一度便利なものに慣れると、人間という物はなかなか捨てられないのだ。
……と、二人の錬金術の師匠である「ユニサス」がそう教えてくれた。だから、それに代わる新しい技術が必要なのだが……。
フェイが頭の中でそんな事を整理しながらシルキーについていき、歩いているとシルキーがフェイの服を引っ張って前方を指さした。
フェイは指の先を見ると、森を抜ける。薄暗い森に慣れていたせいか、開けた場所に入った途端、まぶしくて思わず顔の前を手で覆って、目を半開きにする。
光に慣れた頃に手を降ろすと、世界樹セフィロトが一望できた。
何百人が手を繋いで樹の周りを囲んでも足りないくらい太く、見上げれば空を覆いつくすほどの巨大な樹。樹の根元は湖のような水辺になっており根は水底から直接生えている。水は澄んでいて水底がよく見えるし、表面は太陽の光を反射している。まるで絵本で見たような光景に、二人は息をのんだ。
「世界樹セフィロト……いつ来ても大きくてデカいし巨大だね!」
「とにかく、大きいって事だよね……」
シルキーが身体いっぱいに大きさを表現していると、フェイは力なく笑いながら樹の方にも目をやる。普通の樹とは違い、葉は一枚一枚キラキラと輝いていた。風もさわさわと枝を揺らしている。
「ん」
フェイはまた何かに気づく。
「どうしたの?」
「さっきの声、大きくなった……多分このあたりから聞こえるんだよ」
フェイがそう言うと、シルキーは周りを見渡す。人影はない。
「誰もいないよ?」
シルキーは「空耳かも」と口にしようとした瞬間、フェイは樹の方を指さしながら大声を上げる。
「見て、あそこ! 何か光ってる!」
フェイの言葉にシルキーもその場所を見やると、確かに光の玉がこちらへ向かってきている……物凄い勢いで。
「ちょ、何アレ!?」
シルキーがそう叫ぶと、二人の目の前まで光の玉が舞い降りてくる。二人の前で静止すると、光の玉はバシュウという音を立てながらはじける。
その光から現れたのは、緑色の長い髪と金色の瞳が目立つ妙齢の女性だった。
女性が瞼を開けると、驚いている二人に視線を送り、静かに口を開く。
「——助けてください……」
その声は儚げで、とても澄んでいる声だ。どこか悲しそうにも聞こえる。
「え、え、えええぇぇぇぇぇーーーーっ!?」
シルキーは驚いて大声を上げた。いろんな意味で驚いて声を出すしかない。
フェイは落ち着いて彼女を見る。
彼女は薄い緑色のベールと同色のドレスを身にまとい、まるで物語に登場する女神のように、まるで大輪の花のような美しさを持つ女性だ。表情は美しさに似合わない、とても悲し気な顔……。どうやら助けを求めているらしい。
「あ、あの……あなたは?」
フェイは恐る恐る彼女に尋ねると、女性はフェイを見て答える。
「私は大樹の精霊、与えられた名を「レーラズ」と申します」
「たっ……」
「大樹の精霊!?」
二人はレーラズの言葉に驚いて、シルキーは思わず頬に両手を押し付け、フェイは口元を手で隠す。
「大樹の精霊」といえば、絵本にもなる程の伝説の存在。その存在は架空のモノだと、思われていたのだが、まさか実在するとは……!
レーラズは二人の様子に頷くと、また口を開く。
「どうか、私の願いを聞き入れて下さい」
その言葉に、二人は「願い?」と首を傾げる。
「はい。この世界樹が吐き出すマナの量と、消費されるマナの量の天秤が傾いており、このままでは世界樹は死んでしまい、マナを吐き出すことができなくなってしまいます。そうなれば人も精霊も、生ける全ての存在が死に絶え、この大陸……いえ、世界が死滅してしまう事でしょう」
「先生の言葉通りだ……」
レーラズは両手を合わせて二人にそう訴え、フェイは頷く。
先生が言っていた、「マナを失えば世界が滅ぶ」と。シルキーも腕を組んで「なるほど!」と頷いていた。
「あの、僕らはどうしたらいいんですか?」
フェイはレーラズにそう尋ねた。
「この世界樹を救ってほしいのです。この世界樹が死ねば、やがて人も精霊も死に絶える……その前に」
レーラズがそう言うと、手を二人の前にかざす。レーラズの手から手のひらサイズの光の玉が現れ、二人の目の前まで飛び込んでくる。シルキーは思わず手を出してみると、シルキーの手のひらに光の玉からペンダントのような、金色の装飾の中に青い宝石が埋め込まれたモノが落ちた。
青い宝石は所々黒い斑点があり、お世辞にも綺麗には見えなかった。
「それは、世界樹の雫。それが世界樹の生命力を示しています。その宝石が全て黒くなった時、世界樹は死にます」
「世界樹の生命力……」
二人は同時にそのペンダントを見ながらつぶやく。
このペンダントの宝石が黒く染まる前に、世界樹を救う方法を探しださなければ、世界は滅びる……。
そう考えた途端、ペンダントがとても重く感じた。
「お願いします、どうか世界樹を救ってください」
レーラズはもう一度二人に頼み込む。シルキーはレーラズの様子を見て、フェイに顔を向けた。
「ねえ、レーラズのお願い、聞いてみようよ」
「……シルキーちゃん?」
「元々、そうする予定だったじゃん、あたしたち!」
「で、でもシルキーちゃん……」
「うん」と頷かないフェイを見かねて、シルキーは腰に手を当てて力強く叫ぶ。
「「イクスブロンドの誓い」、第一条! 「困ってる人がいたら助ける」、でしょ!」
フェイはその言葉を聞いて、目を見開き、その後腕を組んで考えこむ。
しばらく考えた後、やれやれと肩をすくめて頷いた。
「うん、わかった。「イクスブロンドの誓い」、第十条。「為せば成る、努力は人を裏切らない」だもんね」
シルキーがその言葉を聞くと「うんうん!」と頷いて笑顔を見せた。
「レーラズさん、必ず世界樹を救って見せます。今すぐには何とかならないだろうけど、世界樹が死んでしまう前に、絶対なんとかします!」
「だから、あたしたちにどぉーんっと任せて!」
二人が自信たっぷりにそう言うと、レーラズは満足げに笑みを浮かべ、小さな光を発しながら消えてしまった。
「あ、あれ、消えちゃった?」
「もしかしたら、レーラズさんが出てくるだけでもかなりのマナを消費したんだと思う。精霊は、可視化されたマナの集合体っていう説もあるし」
フェイがそう言うと、「そっか、そうだよね」とシルキーは頷く。
「それにしても……」
「ん?」
フェイがぷるぷると震えながら両手で握りこぶしを作って、天に向かって仰いだ。
「大樹の精霊……本物だ、本当にいたんだ!」
「うん、あたしもびっくり! おとぎ話だと思ってたけど」
シルキーも興奮してその場でぴょんぴょんと飛んでいた。
「こうしちゃいられない! すぐ冒険者ギルドに行って報告して、先生と師匠に報告しなきゃだよ!」
フェイはそう言い終わる前に、もう待ちきれないと言わんばかりに、踵を返して森に向かって走り出した。シルキーもそれに合わせて、「キャッホー!」と歓喜の声を上げながらフェイを追いかける。
- Re: シルキー&フェイのアトリエ【オリキャラ募集中】 ( No.21 )
- 日時: 2020/04/01 01:46
- 名前: L ◆zWpDOhpQ2s (ID: 1JjPbNpp)
二人はフローライト領城の城下町にある、冒険者ギルドの本部へとやってきていた。
少し古びた外見の大きな建物の中に入ると、中は見た目以上に広く、冒険者や依頼者、傭兵たちで埋まっていた。いかつい見た目の冒険者や傭兵、シルキーとフェイぐらいの少年や少女、老人や若者……老若男女問わず、依頼の掲示板を見ていたり、依頼者と話をしていたり、受付に並んでいたりと忙しそうである。
フェイはバッグから依頼書の束を取り出して、受付に並ぶ。前にいる人物は赤い髪と赤いマントを羽織った少女。背はフェイより高めだ。腰から背丈くらいある長弓を下げており、後ろ姿からでもかなりの手練れだと感じ取れる。
シルキーはその少女を見て、「なんだかあたしたちくらいなのに、ちょっと強そう」と小声でフェイに言う。フェイもその後姿を見て頷いた。
しばらくした後、シルキーとフェイに順番が回ってくる。フェイは紙の束を受け付けの前に出して見せた。
「依頼完了の報告に来ました」
フェイがそう一言添えると、受付は笑顔で応対する。シルキーはというと、周りをキョロキョロと見回し、落ち着かない様子だ。
「やっぱり、冒険者とか依頼者、けっこー増えてる気がするね」
シルキーは腰に手を当ててふぅっと溜息をつく。
シルキーとフェイは、ジャクスと共に何度かこの冒険者ギルドの本部へ赴いたことはある。……だが、その時は人数はこんなに多くもなかった。
現在問題になっている魔獣増加問題、魔導具の行使によるマナ減少に伴う精霊暴走。その二つが原因で冒険者ギルドの仕事が増えているのだろう。……とフェイはそう言い、困ったように笑った。
「確かに魔導具のおかげで、機関車が出来て大陸全土を回れるようになったし、工場とかできて物資の量産もできるようになったし、武器だって強いものが増えたよね」
フェイがそう言った後、シルキーは首を振る。
「でもおかげで精霊暴走で困ってる人たちも、魔獣も増えたら意味ないじゃん」
「それは確かにそうだけど……だからって魔導具をなくすことはできないし、魔獣だって僕達が率先して倒せば……って、流石に楽観的過ぎるかな」
フェイは肩を落として落ち込んでいると、受付が二人を呼ぶ。
依頼を完了した二人は晴れて冒険者となった。
冒険者になるためには、冒険者ギルドの許可証が必要となる。……というより、何をするにも冒険者ギルドの許可が必要なのだ。
魔獣が蔓延る外に出れば、魔獣に襲われて最悪命を落とすため、戦えないものを安易に外に出すわけにはいかないし、護衛無しの移動は現在六領家の決定で禁止になっている。それほどまでに魔獣は脅威なのだ。
冒険者や傭兵になるためには、まずギルドから「仮パス」を発行してもらい、依頼を一つこなせば「冒険者許可証」をもらう事ができる。許可証があれば、大陸を練り歩くことができる。
シルキーとフェイは許可証を受け取った後、冒険者になれた事を改めて喜び合った。
「やったね、フェイ! 冒険者になれたよ」
「う、うん、そうだね」
「よーっし、早速先生のところに行こうよ。大樹の精霊の事も言っておかなきゃ」
シルキーはそう言うと、浮かれた様子でフェイの腕を引く。フェイはシルキーの様子に笑みを浮かべ、頷いてシルキーの歩みに合わせた。
「うん……ところでシルキーちゃん、先生の家はわかるの?」
「んもう、わかるってば。フローライト領の「霧の森」って場所でしょ! まず領都から汽車に乗って、アンバーって街に行けばいいんだよね。そしたらすぐに霧の森がある……だったっけ」
最後の方はごにょごにょと小声で言うと、フェイは頷く。
「そうそう。そいじゃ出発しようか。早く行かないと、暗くなっちゃう。霧の森って夜だとすぐ迷っちゃうし」
「よーっし、急いでいこう!」
- Re: シルキー&フェイのアトリエ【オリキャラ募集中】 ( No.22 )
- 日時: 2020/04/07 22:45
- 名前: L ◆zWpDOhpQ2s (ID: 1JjPbNpp)
城下町から汽車で約20分程で行ける街アンバーは、のどかで穏やかな風が吹いている。
だが、少し歩けば地面の裂け目から瘴気が噴き出し、立ち入り禁止の看板と共に柵まである。
瘴気とは、魔獣を生み出す毒素の事で、マナに影響されやすい精霊や動物は多量に摂取すると魔獣へ変貌するのだ。稀に人間も魔獣に変わるらしいが、大体は汚染されて病にかかり、命を落としてしまう。どちらにせよ、対処方法が今のところないため、こうやって立ち入り禁止区域に指定して近づかないようにするしかない。
瘴気は一説では、おとぎ話にもなっている「災厄の邪竜」が生み出しているとも言われ、地下深くから地上に噴き出している。というが、真相は定かではない。
カルト教団の間では神が与えた人間に対する罰だの、精霊の怒りが瘴気に変わって襲い掛かってくるだの、神が与えた試練だの、不安を煽るような事を言っているのだが、当然根拠はない。
だが、フローライト領は特に地震による被害が多く、瘴気が噴き出す区域が増えている。邪竜が復活しているのではないか……そんな声も囁かれているのだ。
立ち入り禁止の看板を見たシルキーは腕を組んで溜息をつく。
「そういやフローライト領って、邪竜が封印された場所だって先生、言ってたよね。もしかして、本当に復活の前触れだったりなんだったり!?」
「そんなわけ……ないとも言い切れないのが微妙なとこだね」
フェイも頷いて周囲を見回す。
人がいない。立ち入り禁止区域の前だから当然と言えば当然か。と、自問自答した後、シルキーの腕を引っ張って霧がかかった森を指さした。
「今日はいつもより霧が薄いよ。これなら迷わずに先生の家に行けそうだ」
「んお、ホントだ。精霊がサボってるのかなぁ〜なんちゃって」
シルキーはケラケラ笑う。フェイも「まさかそんな」と言いつつも笑みを浮かべる。
二人は森の中へ歩いて行った。
森の中は霧がかかっていて視界が悪い。
「霧の森」は、霧の精霊が住んでおり、霧を生み出しているため常に霧がかかっている。と言われる森だ。
精霊の招かざる人間が一たび入れば、10分もせず森の外に出てしまう不思議な場所で、不用意に近づくと精霊の怒りを買う。と、アンバーの街の人は言う。
そんな森に住むのは、精霊の加護を受けた者のみだ。
シルキーとフェイは森を歩み進めていると、大きな影が見える。レンガの壁の割と小綺麗な民家が見えた。その前に人の姿がある。シルキーとフェイはその人物を見るや、笑顔を見せ走り出した。
「先生!」
二人が同時に叫ぶと、先生と呼ばれた人物は驚く。
「シルキーにフェイ。早かったな、ジャクスから「しばらく帰ってこないかも」って聞いたもんだから、てっきり遠くに行っちゃったかと思ったぞ」
男のような強い口調でその人物は、抱き着いてきた二人を受け止めながら笑みを浮かべた。
白い帽子と紫色のケープを羽織る、額から一本のツノが生えた肌の白い女性で、髪は肩まであり、薄い紫色とミント色の二色の髪色が特徴的だ。表情は二人に会えた事で綻ばせている様子。服装は白いブラウスと緑のコルセット、紫色のスカートがなんとなく清楚な印象を与える。目はたれ目で、優し気な雰囲気を与える。
彼女は「ユニサス・フロイライン」。フローライト領をはじめとした、大陸各地で名を馳せる錬金術師だ。
「ちょっと報告したいことがいくつかあって。大樹の精霊を見たの!」
シルキーはユニサスにしがみつきながら、彼女の顔を見上げる。ユニサスは大樹の精霊と聞くなり、目を見開く。
「そうなのか。どんな奴だった?」
「なんというかすごく美人だったよ」
フェイが顔を赤らめながら説明すると、シルキーは途端に顔をしかめる。ユニサスは「そうかそうか」と二人の頭に手を置いて優しく撫でた。
「そりゃあすごい大発見だな。大樹の精霊なんて、一生見れるかどうかの精霊だ。……それで、何か言ってたのか?」
ユニサスがそう言うと、フェイは頷く。
「宝石もらったんだ。それに、世界樹を救ってほしいって言われたよ」
「……ふむ」
ユニサスはフェイから受け取った宝石を手に取って空にかざしてみたりする。
ユニサスの様子に、彼女から離れるシルキーとフェイ。何か考え事をしているようだ。
「他に何か言ってなかったか?」
「えっ? ううん、世界樹を救ってほしいってだけ……」
「なるほど、レーラズの奴、もう限界に近いのだろうな……」
ユニサスは神妙な顔で小声でつぶやいた後、二人に向かってにっと微笑む。
「何してる、早く私のアトリエに入るといい。もうそろそろ陽が沈むぞ」
「え、先生、家に泊めてくれるの?」
「かわいい弟子二人が久しぶりに来たんだ、丁重にもてなすのが家主の仕事だぞ。どうせ冒険者になったんだろう、その祝いも兼ねてな」
ユニサスはそう言うと、家のドアを開けて二人を招いた。
「さっすが先生、太っ腹〜!」
「それじゃお言葉に甘えてお邪魔します」
二人はそう言って嬉々としてユニサスの家の中へと入っていった。
- Re: シルキー&フェイのアトリエ【オリキャラ募集中】 ( No.23 )
- 日時: 2020/04/07 23:28
- 名前: L ◆zWpDOhpQ2s (ID: 1JjPbNpp)
「ごちそうさまでした〜!」
二人がそう同時に手を合わせて嬉しそうに言う。ユニサスの家の部屋で、3人で四角のテーブルを囲い食事を済ませていた。
しかし、ユニサスの隣の席では、一人分の食事がまだ手を付けられていない。が、シルキーとフェイはそれに構う事はなかった。
その理由は、ユニサスが昔「もう一人家族がいてな、奴は超とドが付く恥ずかしがり屋なんだ。だから私たちと食事したがらない。機会があれば合わせてやりたいんだがな」と二人に説明していたからだ。シルキーもフェイも昔からユニサスに世話になっていたのだが……一度も会った事はない。特徴は白いぶっきらぼうなヤツ。とだけ聞いた。いつかその気になれば会えるかも。とは聞いているので、その時を二人は楽しみにしている。
「先生の作るご飯はいっつも美味しいよね。やっぱ錬金術師だから?」
シルキーは口元をナプキンで拭きながら無邪気にユニサスに尋ねる。ユニサスはそれを聞いて呆れたように溜息をついた。
「錬金術師だからって料理が下手な奴もいる。私は一人暮らしが長いからな、料理もその過程で覚えたんだよ」
「へぇー、流石先生だね」
フェイも感心して頷いた。
その後はっとした顔をして、ユニサスは思い出したかのように二人に尋ねる。
「で、二人は住まいとかどうするんだ? アテはあるのか?」
「え゛っ、あっ……それは……」
シルキーはそれを聞いて目を泳がせる。その様子にユニサスは頬杖をして笑った。
「まあないわな。私もそうだったから」
「先生も?」
「そうだぞフェイ。誰しも最初は何もなくて、ゼロからのスタートなんだ。この荒廃した大陸には本当に何もないし誰も助けてくれない。冒険者をやるのであれば、それなりに覚悟は必要なのさ」
「覚悟……」
少し強めに言われてしまったため、流石の二人も怖気づいて顔が引きつる。
確かに考えなしで冒険者になったのは事実……。傍から見ればお気楽な若輩者なのだろう。
「ま、でもなんとかなるだろう。今までもそうしてきたんだし」
二人の様子を見てぷっと噴き出した後、笑いながらそういうユニサス。そして腕を組んで二人を見た。
「そんな辛気臭い顔をするな、大丈夫。二人は錬金術の知識は多少なりともあるだろう。私が教えたんだし。……一応ツテは作ってあるから」
ユニサスはそう言うと自身のケープの中に手を突っ込み、丸めた羊皮紙を取り出してフェイに渡した。
シルキーは首を傾げて羊皮紙を指さした。
「なぁにこれぇ?」
「紹介状。それをフローライト領主に渡せばアトリエを作ってくれると思う。錬金術師は絶滅危惧種みたいなもんだから、結構貴重でな。領主も人材を求めてギルドに募集をかけてるらしいが、全然人が集まらない……なんて泣きつかれたぐらいだし、まあ私の代わりに行ってやってくれよ」
「先生はいかなかったの?」
「ああ、領主の腰巾着の「サルファ・ヘリオトロープ」って男がど〜〜〜〜にも気に食わんのでな。上から目線だし、主上主上うるさくてかなわん」
ユニサスが不機嫌そうに愚痴をこぼした後、「おっとすまない」と咳払いした。
「とにかく、私の紹介なら領主もお前たちに力を貸してくれるだろう。元々私の席だったし」
「ありがとう、先生!」
シルキーは両手を上げて万歳しながら満面の笑みを浮かべた。しかし、ユニサスは「その代わり」と言う。
「何があっても、どんな事が起きようとも、ここがお前たちの帰る場所だ。それを覚えておくように」
二人はそれを聞くなり、「はい!」と元気良く返事した。
翌日。
朝陽が上り、霧の森の霧が朝陽に照らされる最中、シルキーとフェイはユニサスの家を旅立った。ユニサスが見送り、二人はユニサスに向かって手を振りながら森の出口へと向かう。ユニサスも少し寂しげな表情で二人に手を振っていた。
二人の姿が霧に紛れた後、ユニサスは腕を組み、誰かに向かってつぶやくように声をかける。
「あの子達についていってほしい、命の危険に晒された時は助けてやってくれ……」
ユニサスの声に霧の中から返事が響く。
「……ユニサスの頼みなら、是非もない」
「ありがとう、本当にすまないね」
「礼も謝罪もいらない、俺の命はユニサスの為にあるのだから」
「そう言ってくれると嬉しいけど、私なんかの為に命を懸けるんじゃない。お前の命はお前の為にあるんだ」
「……行ってくる」
ユニサスの言葉を振り切るように、霧の中の声は風の音と共に消え去った。
ユニサスはその音を聞いた後、軽く背伸びをする。
「ま、また皆で美味しいご飯を食べられたらそれでいいんだがな」
第一章へ続く