複雑・ファジー小説
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.10 )
- 日時: 2020/05/20 18:08
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
幕間 遥カ昔、秋津原ニテ
遥か、遥か昔のこと。
まだ秋津国も、タリスク国なんてものも無かった時のこと。
命を与える力と、死を与える力と言う、相反する力を持った人間が居た。
命を与える力を持った者の名はすず、死を与える力を持った方がはな、と言う。
力は相反しながらも、とても仲の良い従姉妹であった。
はなはずっと、力の制御が不得手だった。
誰が殺されるか分からないそれは恐れられていて、故に彼女は牢に閉じ込められていた。
そこにやってきたすずは、己の力があれば大丈夫だと言って、はなを外へ連れ出した。
秋津原に二人が訪れた時のこと。
何故か彼女らを歓迎するように飛んでいた赤蜻蛉を、はなが暴走させた力で殺してしまったのだ。
その赤蜻蛉は消え去り、すずの力で生き返らせることは不可能だった。
もしも、殺したのが彼女でなければ神たちは手を下さなかっただろう。
けれど、神たちは恐れていた。神をも超越できる生と死の力を。
だから、それを口実にして二人を捕らえた神は、天上へ召し上げて罰を受けさせようとした。
そこではなは己を責めた。こんなことになったのは私の力のせいだと。
そしてすずを庇ったはなは、罰を受けるのは自分だけで構わない、と言った。元凶は私なのだから、と。
神をも殺せるかもしれぬはなの力を最も恐れていた神たちは、それを聞き入れた上で二つ条件を課すことにしたのだ。
一つ目は、今後すずの子孫から生贄を捧げ続けること。
二つ目は、神を祀る社を建ててそこで暮らすこと。
その条件を飲まされたすずは、泣き叫びながら下界へと戻された。
はなは別れの瞬間、優しく笑っていて。それがすずを苦しめた。
神を祀る社を建てることも、生贄を捧げるものも。全て神が再び同じような力を持つ者が産まれた時の為の監視であるとすずは分かっていた。
けれど神に従うしか無かったすずは、条件の通りに神社を建てて生贄を捧げ続けるように子孫へ伝えた。
己の後を継ぐものへ、片方を選びもう片方を生贄として捧げるように。
これ以来、ここには二人の候補を立て一人を秋津原へ送ると言う慣習が残った。
そしてこれは何百年と受け継がれ、今に至る。