複雑・ファジー小説
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜【修正済】 ( No.8 )
- 日時: 2021/01/24 23:21
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第三話 銀朱色
がたがたと体が揺れる。窓が全開になっているせいで風が吹き込んで、前髪を激しく揺らした。それをどこか鬱陶しく感じながらも、心は軽い。昨日蓮の家に転がり込んでから、今朝もう秋津原の近くまで行けるらしい『列車』なるものに乗っている。
それを思い返す度、自分は消えてしまうのだ、と淡く思った。何を今更、と心の中でもう一人の自分が嘲笑しているのにも気づいていたが。それでも、窓の外を眺めながら決意を固める。
───責任はとる。迷惑は掛けない。最後は、力で。
「わ……華鈴さん、外見て下さい!」
不意に華鈴の目の前に座る蓮が外を指差した。目をキラキラと輝かせ、楽し気に笑っている。何を見つけたんだ、と思いながら蓮の指差す方向へ視線を滑らせた。
「……山が赤い?」
華鈴は本気で首を傾げた。
その理由を本気で解していない華鈴を見かねたのか、右斜め前に座る楓樹は微笑んで口を開く。
「華鈴ちゃんは紅葉、って知ってる?」
「こう、よう……何ですか、それ?」
「紅葉、って言うのはもみじ、って書くんだけど。葉っぱが、秋になるとじわじわ赤くなったり黄色くなったりする事を言うんだよ。あの山はきっと、葉が全部、紅葉したんだろうね」
ニコリと笑った楓樹は、楽しそうに解説を始めた。それを聞いた華鈴が更なる疑問に首をまた傾げる。
「命風の木は、あんなことになってませんでしたけど……。」
「それはきっと、その木が常緑樹っていう種類だからさ」
「じょうりょくじゅ?」
「うん。常に緑の樹、って書いて常緑樹。その種類の木は紅葉しないんだ。詳しいことは知らないけど」
華鈴と楓樹の会話を黙って聞いていた蓮が今度は首を傾げた。
「もうこの辺は秋なのかな? あっちはまだ夏の終わり、って感じだったけど……」
「それは多分、ここが秋津原に近いからだな。秋津原に近ければ近い程秋の訪れが早い、ってこの辺に住んでる知り合いが言ってた」
楓樹が昔の事を思い出しながらそう言う。
「すごいね、全然知らなかったや」
「そんなことがあるんですね……」
「俺、昔は放蕩息子って呼ばれてたからな。色んな所に行ってたんだ。ま、今はさすがにちゃんと働いてるけどね」
ひょいと首を竦めながら楓樹は笑って言った。
世界は広い、なんて華鈴は思う。命風に居たら欠片も見えなかったものが見えているのだから。舞い飛ばされ、窓から滑り込んで来た銀朱色の葉が、ふわりと華鈴の膝に舞い落ちる。
本当に赤くなっているその葉を見つめて、華鈴は微笑んだ。