複雑・ファジー小説
- Re: 失恋後、異世界召喚され魔女と呼ばれています ( No.2 )
- 日時: 2020/05/27 17:22
- 名前: 結縁 ◆aOxlQEeWR2 (ID: 57ZTMspT)
第1話・異世界召喚
眠りに落ちてからどのくらいの時間が経ったのか。数分なのか数十分か。それとももっと長い時間か、どうにも感覚がなくて、変な気分だ。
私、今寝てるはずなんだよね……? ずしりと心は重たい感じがするのに反して体は信じられないくらい軽い。まるで宙に浮いているかのような、現実では体験できないような感覚が全身を覆っていた。
何もない真っ暗な空間。手を伸ばしてみても触れられる物はないし、浮いているような足場の無い感覚が慣れなくて上下すら分らなくなりそうな夢だった。
「夢でも1人なんだな……」
思わず漏れた本音、誰かに聞いて欲しかったわけでもないし、返事も期待してなかったつい口から漏れてしまった言葉。
だけどそんな思いに反して、途切れ途切れながら私を案じてくれる声が確かに聞こえた。
「りじゃないよ……あなたは……1人じゃない」
「えっ……?」
自分しかいないと思ってただけに驚いて、声が聞こえた方へと振り返る。
と、そこには碧く煌めく綺麗な瞳をした黒い龍がいた。
「今の声は……あなたの?」
夢だと分っているからだろうか。驚きも龍に対する恐怖心も自分でも嘘みたいに感じていなかった。
「そうだ、私があなたを呼び寄せた」
「呼び寄せる? あなたは一体……」
聞き覚えのあるその声、この声はまるであの時の——
「説明する時間は残されて、ない。後は常守が……どうか、世界を救って」
悲しそうな視線と言葉を最後に、まるで最初からそこにはいなかったかのように龍は消えてしまった。
「常守? 世界を救う? どういうこと……?」
分らない事だらけで頭が混乱する。今日はなんだか非日常な出来事ばかりだ。
理解が追いつかず佇む私の前に、唐突に白い光が現れる。
眩しさに目を反射的に閉じると、体が光に包まれて……地に足が着く感覚が戻ってきた。
「ふう、どうやら成功したようですね」
人の声? 光が収まると静かだった音が戻ってくる。
それがなんだか朝起きたときの感覚に似ていて、ゆっくりと瞼を上げ目を開ける。
「大丈夫ですか、魔女様」
魔女? そう呼ばれたのが自分であることに驚きを隠せない。それに何より、目の前にいるこの少年は誰なんだろう。まだ夢を見ているんだろうか。
「返事もできないんですか? それとも言っている事が分らないんですか?」
呆れたような困ったような態度でため息混じりに問いかけてくる少年。何か答えなければと思うけれど、さっきまで軽いと感じていた体が今は鉛でも付いてるみたいに重く、上手く声が出せない。
「口をパクパク動かしてどうしたんです? 言いたいことがあるなら……」
辛辣な言葉を投げかけたと思ったら、少年は急に私の額に左手を伸ばしてきた。
「酷い熱だ……これも召喚の影響? それとも刻龍の……。と、このままにはしておけないですね」
言うなり私の反応を待つこともなく、少年は軽々と私の体を持ち上げる。
「!?」
「ちょっと、動かないで下さい。暴れるなら縛って連れて行きますよ!」
「……」
そんなことを言われても、初対面の明らかに年下の男の子にお姫様抱っこなんてされたら、羞恥心から暴れてしまうのも分ってほしいと、そう思ってしまうのは私だけだろうか。
それに、仮にも病人? を縛るって酷いと思うんですが……。
「そんな目で見たって降ろしませんよ。文句があるなら体調を治してから言って下さい。全てはそれからです」
何も言っていないのに、言いたいことを察せられてぐうの音も出ない。
これ以上見透かされるのも悔しかったので、大人しく少年の首元へと腕を回した。
すると一瞬、少年の肩がビクッと跳ねた気がしたけど、体のダルさに支配された思考ではそれも特別気になることは無かった。