複雑・ファジー小説

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.44 )
日時: 2020/12/04 08:57
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)

【権力色の暴力】

 不思議な不思議な店がある。魔法の王国の片隅に。
 店の扉を開ければ、魔導士の姉弟が客を迎えてくれるだろう。
『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
 看板には、そんな文言が書かれている。

  ◇

 アンディルーヴ魔導王国、やや田舎の町リノール。
 そこにある頼まれ屋アリアの噂は、いつしか国中に広がっていった。

 「伝説の魔導士からの依頼をこなしたそうだ」
「災厄を未然に防いだそうだ」

 そんな噂が王都でも流れるようになり、ある日のこと。
 カランコロン、ドアベルが鳴る。今日も頼まれ屋アリアでの一日が始まる。

「はーい、ただいま!」

 その時は偶然店の奥の方にいたアリアがぱたぱたと駆けてきて、カウンターの前にやってきた。訪れた客を見て目をぱちくりする。赤い瞳に浮かんだのは警戒の色。

「初めまして、アリア様。私、こういった者なのですが」

 やってきた客はとてもきちんとした身なりの男性で、彼はアリアに身分証のようなものを見せてきた。そこに書いてあったのは、

「……フォーリン第一王子直属、ですって?」
「ええ、そうです。私は王子の命令を受け、ここに参ったのです。この店に依頼をしたいと王子が」

 礼儀正しく男が答えた。
 待ってよ、とアリアは頭を抱える。
 有名になったということは、依頼が増えるということ。依頼が増えれば負担が増えるが、背負った借金は返しやすくなる。先のイルシアのような裕福な人間からの依頼を受ければ、その分もらえる報酬は増える。だがしかし。
 相手は、王子の使者である。この国アンディルーヴ魔導王国の、次期王位継承者とみなされている王子の使者である。もしも受けるにしたってその責任はあまりに重大で。失敗したらという可能性を考えると、安易に承諾できるようなものではない。

「待って、待って、ちょっと待ってよ。王子様? ただの一般人のあたしに何故? どんな依頼よ何なのよ……」
「あなた様は類稀なる全属性使い。それゆえにあの方はあなたを、と」

 困り果てるアリアに、男が静かに言う。

「端的に申します。王子はあなたを王宮魔導士にすることを望んでおります」

 王宮魔導士。それはアンディルーヴ魔導王国の中では誰もが憧れる職業。
 魔法至上主義を掲げるこの国にとって、王宮魔導士になるということは輝かしい未来を約束されたも同然だ。努力したって、王宮魔導士になれるのはほんの一握りの人間だけだ。そんな輝かしい申し出を蹴る人間なんて、このアンディルーヴ魔導王国にいようはずがない。
 ただ、アリアの理性が「待って」と叫ぶ。ここに店を構えた理由を思い出せ。王宮魔導士にスカウトされるためじゃない。多額の借金を背負ったのは人助けのためであって、魔法を使うのは誰かを助けるためであって。確かに、王宮魔導士になれば借金なんてその給料で返せるだろうし魅力はあるのだが……。
 思い出せ。
 自分は、出世するために今、ここにいるんじゃない。

「……流石に急すぎましたよね」

 ぺこりと男性は礼をする。

「王子も即日中に返事が欲しいとはおっしゃりませんでしたし……一晩だけ時間を差し上げます。明日また参りますので、その時までに結論を出しておいてください。――良い結果を、お待ちしておりますよ?」

 ふふふと口元に笑みを浮かべ、では失礼と男性は去っていく。
 悩むアリアだけが残された。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.45 )
日時: 2020/12/07 09:04
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)

  ◇


「おい姉貴」

 店の奥からヴェルゼが出てきた。

「アリアさん……」
「とんでもない人が来ちゃったねぇ」

 その後ろからぞろぞろと、心配げなソーティア、飄々とした態度を崩さないデュナミスが現れる。
 ヴェルゼが問うた。

「で? 姉貴は王宮魔導士になるのかならないのか?」
「いきなり言われたって……それに考える時間が少なすぎてあたし、どうすればいいのかわかんない」

 王子の使者。迂闊な断り方をすれば、国に反逆していると取られてもおかしくはない。王宮魔導士にしてくれるという申し出は確かに魅力的だ。しかし。
 姉貴は、とヴェルゼがアリアに近づいていく。黒い瞳が真っ直ぐに、赤い瞳を覗き込んだ。

「本当は、どうしたいんだ。権力とか圧力とかそういうのは抜きにして。姉貴は王宮魔導士になりたいのか?」
「……ううん」

 アリアは首を振る。

「あたしはさ、この小さなリノールの町で、いつも通り穏やかな日々を送れていればそれでいいの。地位とか権力とか要らないわ。借金? そんなの自力で返してやるんだから。あたしはただ、穏やかな日々を送っていたいだけなのよ」
「なら受ける必要はない。心を捻じ曲げてまで就いた地位では長続きしないだろう」

 それに、とデュナミスが割り込んだ。

「あの口ぶりだとさ、王宮が欲しがっているのはアリアだけみたいだよねぇ。じゃあヴェルゼも僕らも一緒には行かれない。もしもアリアが王宮魔導士になったとしたら、僕らとは離れ離れになってしまうね」
「それは嫌!」

 アリアは叫んだ。
 これまで、たくさんの逆境があった。どうにもならないかも、と思った出来事もあった。それら全て、みんながいたからこそ乗り越えられた。アリアは弱い、だからこそ。一人では生きていけないのだ。ましてや王宮などという冷たそうなところなんて、ヴェルゼの冷静さがなければ生き延びられないのではないか。そのヴェルゼだって熱くなりすぎて周りを見失うこともあるのだし。
 みんな一緒だからこその頼まれ屋アリアだ。
 アリアにはみんなが必要なのだ。

「ならさ、アリア。嫌なら嫌だってはっきり言いな? 心を殺してまで権力の言いなりになる必要はないさ」

 デュナミスが冷たい気配を身に纏う。

「……最悪、僕が奴らを消し飛ばしてあげることも出来る。僕は死んでるけど、死ぬ前は天才死霊術師だったんだしまだ多少は力が残ってる。そして僕が反逆者になったって、そもそも死んでるんだから影響はないだろうし」

 穏やかな声に秘められたのは、覚悟。
 その灰色の瞳が本気を宿す。
 面倒なことになりましたね、とソーティアが目を伏せた。

「このまま何事もなければ良いのですが……。わたしも権力は好きではないです。わたしの住んでいたイデュールの里は、権力者たちに滅ぼされたので」
「とりあえず。姉貴は自分の道を行け。恐れるな、怯えるな。また使者が来たっていつも通りの姉貴でいろ、いいな?」

 ヴェルゼの力強い言葉に、うん、とアリアは頷いた。
 それでも不安は消えなかった。
 相手からの頼みを断った先、もしもひどい目に遭ったとしたら? だって相手は王宮なのだ、この国最大の権力者なのだ。何が起こるかわかったものではない。
 それでも、
 思い出せ、と声がするから。
 不安を恐怖を呑み込んで、アリアは無理して笑顔を浮かべた。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.46 )
日時: 2020/12/11 09:09
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


 翌日。いつもよりも緊張してカウンターの前に立つ。アリアの隣には寄り添うようにヴェルゼが立っていて、その後ろには見守るようにデュナミスが浮いている。イデュールの民は差別されかねないので、ソーティアは白いフードを目深にかぶって店の奥に待機していた。
 そして。
 カランコロン、ドアベルが鳴る。音を立てて扉が開く。

「こんにちは、アリア様……と頼まれ屋一同様。返事は決まりましたでしょうか?」

 昨日と同じ男性が、丁寧な口調で訊ねてくる。
 ええ、とアリアは頷いた。

「色々、考えたの。店のみんなで話し合ったわ。それで、出した結論は……」

 勇気を出せと心が叫ぶ。ヴェルゼの手が、安心しろとでも言うかのようにそっとアリアに触れた。
 アリアは、言う。

「お受け出来ません」

 はっきりと。

「あたしたちは権力なんて望んでないの。ただこの小さな町で、穏やかに暮らしていたいだけなのよ。借金は自分で返す。だから」
「……それは残念ですね」

 アリアの返答を聞いて、男は慇懃に頷いた。後ろを振り返り誰かを呼ぶ。

「……だ、そうですよ殿下。どうなさいますか?」
「ぼくが直々に出てこよう」

 凛、とした声が響き渡る。男がすっとよけた先には、一人の青年が立っていた。
 太陽のごとく美しい金の髪、赤玉石《ルビー》のごとく燃える瞳。身に纏う威厳は王のそれで。
 まさか、とアリアは思った。
 使者の男性は彼を「殿下」と呼んだ。その意味は。

「初めましてだな、アリア・ティレイト」

 青年は、名乗る。

「ぼくはフォーリン・アンディルーヴ、この国の第一王子だ。拒否されることを見込んだうえで、わざわざここに来た」

 改めてお願いしよう、と彼は言う。アリアは凍り付いたまま、動くことが出来なかった。

「全属性使いアリア・ティレイト――王宮魔導士になる気は、ないか?」

 発せられる威厳。思わず「はい」と答えてしまいそうになる。
 アリアの口が無意識の内に動き出そうとしたときだった。

「駄目だ」

 鋭い声が、アリアを現実に引き戻した。
 ヴェルゼが、アリアを守るように立っていた。黒い瞳に浮かぶのは警戒。

「姉貴、相手に気圧されるなよ? いくら相手が王子だからって、それで自分の意志を曲げるのか? 自分が正しいと思う道を進め」
「……不敬な」

 ヴェルゼの言葉に眉をひそめた王子が、つかつかとカウンターに近づいていく。警戒心を強めるヴェルゼ。王子はそのままヴェルゼに近づいていき、
 その頬をぶっ叩いた。

「……ッ!」
「ぼくはアリア・ティレイトに頼んでいるのだ。口をはさむな!」
「……王子だからって、好き勝手してくれるじゃないか」

 ヴェルゼの顔に、冷たい怒りが浮かぶ。
 ヴェルゼは静かに切れていた。その手が背負った鎌に伸びるのを見て、アリアは慌てて止めた。

「駄目よ駄目! 相手は王子様なのよヴェルゼ!」
「……フン」

 鼻を鳴らし、舌打ちをしてヴェルゼは伸ばした手を引っ込めた。その目に浮かぶのは明確な敵意。
 一度深呼吸して、アリアは答える。
 思い出せ、と心が叫んでいた。

「弟が粗相をして申し訳ございません。けれどあたしは、王宮魔導士になる気はありません。いくら王子様のお願いであっても、これだけは……どうかご勘弁を」
「……そうか。ならばこれならどうかな?」

 言って、王子が手で何かのサインを送る。すると王子の背後から数人の人間が飛び出してきて、ヴェルゼの首に刃を突き付けた。店の奥から、悲鳴。引きずり出され、首元に刃を突き付けられたソーティアが泣きそうな顔でアリアを見ていた。
 冷たい口調で王子は言う。

「彼らを殺されたくなければ、王宮魔導士になるんだなアリア・ティレイト」

ヴェルゼたちを人質に取られているから、亡霊のデュナミスも迂闊には動き出せない。ヴェルゼとソーティア。どちらかを助けたらどちからかが犠牲になるのは明白だ。

「……卑怯な王子様」

 アリアは唇を噛んだ。
 大切な人を人質にされてしまったのならば、選択肢は一つだけ。
 アリアは平和な生活を望んではいるけれど、それは大切な人たちが在ってこそ。彼らがいない頼まれ屋アリアなんて、アリアの居場所ではない。

「わかったわ。王宮魔導士になります。でも代わりに、弟たちを解放して!」
「断る」

 冷たく王子は言い放つ。

「彼らには人質としての役目があるのだからな、ついてきてもらう。さてさて、王宮へようこそだアリア・ティレイト。歓迎しよう!」

 半ば引っ立てられるようにして、アリアたちは店を出ていくのだった。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.47 )
日時: 2020/12/14 09:26
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


 アリアたちは、王子の用意した立派な馬車に乗せられた。もちろん、アリアはヴェルゼたちとは引き離され、王子たちと一緒にいる。どうしても話す気にはなれなくて、アリアは終始無言だった。
 馬車に揺られながらも、これは勧誘ではなく連行だ、とアリアは思う。
 大切な人たちを人質に取られて。これの何処が勧誘なのだ。
 ヴェルゼはきっと、自分の意志を貫き通せと言うだろう。けれど大切な人たちを犠牲にしてまで、貫き通したい意志などない。彼らを失って立ち直れるほど、アリアの心は強くない。
 だから、決意する。覚悟を固める。
 この先、王宮魔導士としてどんなことをやらされたって、やり抜いてみせると。ヴェルゼたちが生きているのならばそれでいいと。
 その想いを、まんまと利用されたわけだけれども。

(権力は、嫌いだ)

 アリアは思う。
 その権力を悪用し、こういったことをする人がいる。その事実をアリアは心に強く刻んだ。ましてや今回の相手はこの国では二番目に強い権力を持つ第一王子なのである。
 憂鬱な馬車旅は続いていく。

  ◇

 やがてたどり着いた花の王都。しかし今のアリアには、その全てが灰色に見える。これからの日々、希望なんて持てない。これからどうなるのだろうという不安だけがあった。
 馬車は王都の中を進んでいく。流れる景色は、これまで何度か来たことのある場所。しかしやがて、見覚えのない場所になっていく。選ばれし者しか入れない区画にやってくる。
 それが、こんな時でなかったらきっと楽しめただろうに。
 そして馬車はついに城へ着く。立派にそびえる巨大な城は、このアンディルーヴ魔導王国の繁栄の証。

「ようこそ、新人王宮魔導士アリア・ティレイト。ここがぼくの王宮だ」

 誇らしげに王子は胸を張るけれど、そんな気分ではない。
 ヴェルゼら人質を乗せた馬車は、さらに奥へ進んでいってやがて見えなくなった。

「ここから先は私が案内致します。どうぞこちらへ」

 アリアの手を、使者の男性が取った。手を引かれ城の中に入る。王子はまだ他にやることがあったようで、逆方向に進んでいった。
 使者の男性は落ち込んだままのアリアに優しく言う。

「どうか嘆かれますな。ここでの日々も、過ごしてみたら悪くはないものだと思えるようになりますよ? 弟ぎみたちと二度と会えなくなるわけでは御座いませんし」

 改めて紹介致します、と彼は軽く一礼する。

「私は第一王子の側近にして王宮魔導士を束ねる者、ギャレット・サヴィア。得意魔法は水属性。あなた様の上司になります。これからどうぞ、お見知りおきを」
「……あたしはアリア・ティレイト。全属性魔法使いで、得意属性は炎」
「よろしくお願い致しますね」

 差し出された手を、唇をかみしめたままアリアは取った。

  ◇

「ここがあなたたちの住処です」

 ヴェルゼたちが通されたのは一つの部屋。それは立派な部屋だったけれど、部屋の入り口には外からかけられる鍵が付いている。人質がここから出られないようにするためなのだろう、窓だってついていない。

「部屋こそ豪華だが、まるで牢獄だな」

 ヴェルゼが鼻を鳴らした。彼らをここに連れてきた屈強な男はそのまま聞き流す。

「何かありましたら部屋のベルを鳴らして下さい。お手洗いは部屋の奥に御座います。食事は空間転移魔法で運びます」
「運動は?」
「見張りつきでなら。ただし、逃げようとした場合は命はありません。王宮魔導士を甘く見ないことです」

 フン、と再度ヴェルゼは鼻を鳴らした。
 それではごゆっくり、と男は去っていく。鍵の掛けられる音、続いて何かを唱える声。この部屋は鍵と魔法とで、二重の施錠がされているらしい。
 困ったことになりましたね、とソーティアが難しい顔をする。
 二人は一緒の部屋だったが、それぞれのベッドの距離はかなり空いておりカーテンもつけられていた。
 そうだねぇとデュナミスが頷く。

「この部屋、特殊な障壁が張られているようで亡霊の僕でもすり抜けられないし。嫌になっちゃうなぁ」
「逃げ出すことは基本的に不可能、逃げ出したとしたら命の保証は出来ないし姉貴に迷惑が掛かる、か。だから権力は嫌いなんだよふざけんな」

 ヴェルゼは怒りをあらわにした。
 ここに送られる途中、武器は全て没収された。鎌もナイフも失っては、ヴェルゼお得意の自傷から成る血の魔術も発動できない。亡霊が通り抜けられないということは、死者を集めて死霊術を使うことも出来ない。完全にお手上げだった。
 幸い、本だけは部屋の中に大量にあるので退屈することはなさそうだったが、それにしてもである。

「これは不当だ。王宮の中に、まだまともな奴がいてオレたちを解放してくれることを願うしかない」
「でも……何も行動出来ないのは歯がゆいですね」
「仕方ないだろクソッ!」

 ヴェルゼはばん、と壁を殴った。痛いだけで何かが変わるわけでもない。
 頼まれ屋なんて始めなければ良かったのだろうか、とぼんやりと思った。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.48 )
日時: 2020/12/18 10:36
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)

 ギャレットに案内され、他の王宮魔導士たちに会う。その後ギャレットは用事があるとかでいなくなってしまった。居合わせた面々に恐る恐る名乗ると、皆優しげな表情で迎えてくれた。

「ようこそアリアさん。あの王子様に強引に連れてこられたのねぇ……。でも私たちはあなたを酷いようには扱わないわ。ここが新しい居場所になればいいわね」

 穏やかな微笑みを見せたのはローリア・フェイツ。流れるような紫の長髪に青い瞳をした女性だった。よろしくお願いしますと小さくアリアは言う。
 ローリアが説明を始めた。

「私たち王宮魔導士は、第一王子の抱える直属部隊。王子の命令に従って様々な仕事をこなすわ。あなたの頼まれ屋と少し似ているかしら? 依頼主が第一王子限定の何でも屋なの」

 あなたの力は大変助かるわと彼女は言う。

「十人十色な王宮魔導士だけれど、その時その場に必要な人がいないこともあるから……。でもあなたは一人で全てまかなえる。目を付けられるのも当然よね」

 つけられたくなかったのに、とアリアは心の中でこぼした。
 力を持っていたせいでこんな目に遭ったのならば、力なんて要らなかった。
 アリアの想いをよそに、ローリアは説明を続けていく。

「今王子から頼まれているのは、この国に時折侵略してくる小さな部隊の撃退。あなたがここに慣れたのならば、いずれ現場にも連れて行くわ。まずはあなたの実力を見極めないとね。さて、質問はあるかしら?」

 ないです、とアリアは首を振る。
 何も考えが浮かばなかったのだ。
 では、と彼女が言った。

「今はまだ日が高い……。あなたの実力を見てみたいの。だからちょっとついてきてくれないかしら?」

 はい、とアリアは頷いた。
 案内されるままに、魔法の訓練場にたどり着く。

  ◇

「あなたの戦い方を見てみたい。今から何体か魔法生物を呼び出すわ。そいつらと戦って頂戴」

 アリアは頷いた。隣にヴェルゼはいない。でもやらなければならない。
 最初に現れたのは、いつかのナグィルだった。いつかシドラに嵌められて、ヴェルゼを襲った毒持つ爬虫類。ヴェルゼとの日々が頭の中に蘇ってきてくらくらしたが、何とか集中してみせる。

「……とりあえず燃やしてみようかしら。燃え盛れ、山に咲く炎の華よ!」

 何も考えずに炎魔法をぶっぱなす。あの時ナグィルを倒したのはどんな魔法だったっけ、なんて考えもしないまま。
 だがナグィルの鱗は炎なんて簡単にはじく。一切ダメージを受けない様子で、ナグィルはゆっくりとアリアに迫った。
 ローリアが声を掛けた。

「ナグィルに炎は効かないわ! 相性をよく考えて! 全属性使いなんだから他の属性を使ってみたらどうかしら?」
「……はい」

 頷き魔力を集めるけれど、
 口にしたのは炎の魔法。

「燃えちゃえ! 太陽の中にある熱き炎!」
「だから、炎は効かないの! 違う属性で戦いなさい!」

 言われても、言われても。反射的に放つ炎の魔法、得意な魔法。
 駄目だ、とアリアは思う。ヴェルゼが隣にいないと駄目なんだ。いつも冷静なあの子が隣で指示を出してくれるからこそ、安心して戦えるのに。今ヴェルゼはいなくて、きっとどこかに囚われていて。

「風魔法を使いなさい、アリア・ティレイト!」

 迫るナグィル。ローリアが叫ぶけれど、放ったのは炎魔法。弾かれ、もうナグィルの爪は目の前だ。死にたくはないけれど、無効化される炎の魔法素《マナ》しか紡ぐ気力などなくて。
 死を覚悟した、その時。

「――烈風よ!」

 ローリアの声。彼女の生み出した風がナグィルの鱗を切り裂き、あっという間に絶命させた。
 呆然と突っ立っているアリアにローリアが近づき、指を突き付けた。

「あなた! 全属性使いでしょう! なぜ炎魔法しか使わないの!」
「……使えない」

 絞り出すようにアリアは言った。
 声は叫びに変わる。

「使えるわけがないじゃない! あたしは! これまでずっと、ヴェルゼと一緒だったの! ヴェルゼがいたから安心して魔法を使えたの! あたしって馬鹿だから属性の相性なんて分かんない! ヴェルゼが教えてくれたから、こうすればいいんだって教えてくれたから、あたしは戦えたんだってば!」

 伝い落ちた、涙。
 激情が彼女の中で荒れ狂う。

「あたしとヴェルゼは二人で一人の頼まれ屋アリアなの! なのにこうやって引き離されて! それで普通に戦えると思うわけ!? あたしはあの子がいないと駄目なのよ! それで戦えなんて無理よ!」

 二人で一人の頼まれ屋アリア。辛いことや苦しいことがあった時でも、二人一緒だったから乗り越えられた。ソーティアやデュナミスの助けだってあった。一人きりだったらきっと、もっと早くに死んでいた。

 いくら才能があったって、
 それを活かしてくれる最高のパートナーがいなければ、
 アリアはただの弱小炎使いにしか過ぎないのだ。

 号泣するアリア。それを見ながらもローリアは静かに言った。

「……それでも、戦わねばなりません。それが私たち王宮魔導士なのですよ、アリアさん」

 私はあなたの気持ちが分からないけれど、と彼女は言う。

「甘えたことは言っていられないのです。それを心に刻みなさい」

  ◇

 愛する人と引き離されて、まともに戦えるわけがない。
 アリアの存在は一時期期待の新人王宮魔導士として話題に上ったが、やがて彼女の話すらされなくなった。
 いくら周りがけしかけても、いくら死の危険を味わわせようとも。アリアは弱い炎魔法しか使うことはなかった。それくらいならそこらの炎使いをつかまえた方が幾分かマシというものである。
 そんなある日のことだった。周りから馬鹿にされ、落ち込んでまたその日を終えて、あてがわれた部屋で眠っていたアリアの元に、

 風が吹いた。
 宝石の瞳が、アリアを見つめた。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.49 )
日時: 2020/12/22 09:15
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


「やぁ、囚われのお姫様。起きて。君に幸せを届けに来たよ」

 囁くような声に目を覚ますと、そこには見知らぬ青年が立っていた。
 闇の中で顔は見えない。男性ということはわかった。彼の周囲では何もないのに、小さな風が吹いていた。

「……誰?」

 疲れ切った目で相手を見る。すると相手は悪戯っぽい声でこう言った。

「王子様」
「……は?」

 驚き飛び起き、明かりとして簡単な炎魔法を使う。暗闇の中にぼんやりと浮かび上がったのは、緑色。緑色の髪が真っ先に目に入り、続いて見たのは左右で色を変える瞳。右目が青緑、左目が青。宝石のような瞳を持つその青年は、飄々とした雰囲気を身に纏っていた。

「紹介しよう。俺はアンディルーヴ魔導王国第二王子、フェンドリーゼ・アンディルーヴ。まぁたあの駄目兄貴が変なことやったって情報聞いたからさ、飛んで帰ってきたんだよね。案の定だよまったく」

 無邪気に笑う彼からは、悪意なんて微塵も感じられない。
 同じ王子なのに、彼はあの第一王子とは全然雰囲気が違っていた。

「俺はあんたを助けに来たんだ。まぁあんたは俺からすりゃ赤の他人だけどさ、誰かがあいつのせいで囚われているっていうのが気に食わなくって、ね」
「……ヴェルゼは?」

 思わず問うたアリアに、安心しなと彼は言う。

「あっちには俺の部下が向かってる。第二王子の部下だ、引き留められるもんか。しかもこっちには魔法破壊の破術師がいるんだし、部隊の精度からしてもこっちのが上。兄貴の部隊は俺のよりは弱いぜ」

 まぁ、そんなわけで、と彼は手を差し出した。

「あんたはさ、こんなところより穏やかな場所で暮らしてる方が似合う気がするんだよな。だからさ……ここを出てみない? 帰ろうぜ、あんたの家に」
「……うんっ!」

 アリアは大きく頷いた。
 ずっと望んでいた、いつかここから出られる日を。
 王宮魔導士なんて望んでいない。ヴェルゼやソーティアたちと引き離されることなんて。
 差し出された手を取れば、全身に力が巡ってくるのを感じた。
 じゃあ行こう、と彼が言う。彼に手を引かれてアリアは外へ出る。
 外へ出てしばらく歩いた先で、懐かしい影を見た。

「――ヴェルゼッ!」

  ◇

 暗闇の中にあっても、見間違いようのない黒い姿。武器も返してもらったのか、背にはいつもの大鎌がある。
 アリアは思わず駆け出して、黒い姿に抱き着いていた。

「ああ、ヴェルゼヴェルゼ! 本物だ! 生きてるわ!」
「……姉貴、苦しいんだが」

 ヴェルゼがくぐもった声をもらすと、アリアはヴェルゼを解放した。その隣にはソーティアもデュナミスもちゃんといる。引き離された大切な人たちがちゃんといる!
 ヴェルゼの側には、茶色いフードを被った顔の見えない人影が、何も言わずに立っている。第二王子の腹心なのだろうか、人影はフェンドリーゼ王子に一礼した。

「改めて、名乗ろうか」

 第二王子の悪戯っぽい声。

「俺はアンディルーヴ魔導王国第二王子、フェンドリーゼ・アンディルーヴ。今回は兄貴が悪かったね。謝ったって、奪われた時間は取り戻せないんだけどさ……」

 左右で色の違う瞳が、宝石のようにきらりと光る。

「まぁでも、謝らせて欲しいな。本当に、悪かった!」

 頭を下げる彼に、慌ててアリアは言った。

「第二王子様のせいじゃないです! またこうやって会えましたし、大丈夫ですよ!」
「ん、そう? あー、あと俺のことはフェンでいい。呼び捨てが嫌ならフェン様でな。長い呼び名は面倒でね」

 あっけらかんとした声で彼が笑った。自由な人だなとアリアは思う。
 と、そこへ。

「フェンドリーゼッ!」

 怒りに震えた声がした。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.50 )
日時: 2020/12/24 09:47
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


 そこにいたのは第一王子フォーリン・アンディルーヴだった。思わず警戒するアリアたちを手で制し、フェンドリーゼは相手にずんずん近づいていく。

「こんばんは。兄上はご機嫌麗しゅう」

 芝居がかった仕草で礼をする。その声は笑っていた。
 どういうことだ、とフォーリンが怒鳴ると、どういうこととは? と聞き返す。
 怒りをあらわにフォーリンが叫んだ。

「お前は! ぼくの大切な部下を勝手に連れ出そうとした!」
「部下なの? 本人が部下だと認めてない人を部下と呼ぶの?」
「あたしは強引に連れてこられただけよ! 弟たちを人質にされて!」

 思わずアリアが叫ぶと、そういうことだねとフェンドリーゼが笑う。

「そんなやり方じゃ誰もあんたになんか従わないさ。俺はさ、こういったことが大嫌いなわけ。次期王位継承者? 知ったことか。あんたみたいなのが王になったらこの国も末だね」
「う、うるさい! 王位を放棄したお前に何が分かるか! ぼくは次の王だ、逆らうな!」
「次の王は兄貴じゃないよ。俺はもう、心に決めている人がいてね」

 フェンドリーゼの言葉に、ぼくこそが次の王だとフォーリンは叫ぶ。彼は顔を真っ赤にし、自分の部下たちを呼んだ。

「お前たち! 時期王の命令だ、奴らを殺せぇっ!」

 それを見て、おやおやとフェンドリーゼが眉を上げる。

「自称時期王がご乱心っと。これは弟がなだめなきゃぁ駄目なパターン?」

 彼の周囲で風が渦巻く。圧倒的な風の魔力が彼に集まる。
 アリアもまた身構えた。その視界の端、ごめんなさいと謝るような眼をローリアが向けた。彼女は王宮魔導士だ、王子には絶対服従しなければならないのだ。
 アリアはフェンドリーゼに声を掛ける。

「ねぇ、フェン様」
「ん、何だい? 軟禁生活で疲れたろ。ここは俺に任せていいよ小鳥ちゃん」
「あたしも一緒に……戦っていい?」

 その赤い瞳には強い意志。
 そうだ、今はヴェルゼが一緒だ。彼と一緒ならば、訓練された王宮魔導士だって打ち倒せるような気がした。二人で一人の頼まれ屋アリアだ、今こうして揃ったのならば。
 アリアの決意を見て取って、いいよとフェンドリーゼは頷いた。

「ただし……殺しちゃいけないよ。撃退目的の魔法を頼むぜ?」
「了解!」

 アリアは魔法素《マナ》を組み合わせる。組んでいるのは氷の魔法素《マナ》だ。氷の大きな壁を作り、その場から撤退する方針だ。
 ヴェルゼがいるから。他の属性だって思うように使える!

「さぁて始めようかぁ!」

 叫んだフェンドリーゼが風を吹かせた。それは幾千の鋭い刃となって王宮魔導士たちに襲いかかる。だが相手も訓練されたもので、咄嗟に張られた氷の盾に風は弾かれる。そこへアリアが氷魔法を発動させようとした瞬間、
 意外なところから声が上がった。それは普段ならば穏やかな人物の、凍えきった声。

「流れろ流れろ魂の炎、空を大地を穿て抉れ破砕せよ! 悲しみの運命に嘆く魂よ、今こそその無念を解き放て! 全力解放ッ! ――|魂の灯火《ウィスプ・リュウール》!」

 瞬間。
 幾つもの星が、落ちた。
 真夜中の、王宮に。
 穿たれた大地、爆裂した空気。吹っ飛ばされる魔導士たち、巻き込まれる第一王子フォーリン。
 デュナミス・アルカイオンが、冷酷な笑みを浮かべていた。

「僕はさ……こういった奴、大ッ嫌いなんだよね。何が第一王子? 何が権力? 権力をかさにして好き勝手しやがって……」

 瞬間、垣間見せられたのは元天才死霊術師の実力。死してもなお残るその力。
 誰もが圧倒され、彼を見ていた。
 怯えて尻餅をつくフォーリンに、デュナミスはそっと囁きかける。


「これ以上僕たちに関わるな」


 そこの言葉は、魔力さえ宿しているかのようで。
 あれほど偉そうだったフォーリンは、がくがくと頷いた。
 ヴェルゼを止めるのはデュナミスだ。しかしデュナミスを止められるのは何処にもいない。何故なら彼は死者、恐れるものなど何もないから。
 デュナミスは冷酷な表情を解き、いつもの笑顔を浮かべて言った。

「はい、撃退完了っと。あ、見せ場奪っちゃった? ごめんねぇ」
「……あんた、強いな」

 フェンドリーゼが笑っていた。

「これでもう兄貴もあんたらに手出しは出来まい。俺の役割は終わったな」

 ふわり、彼の周囲で風が吹く。
 最後に、と彼は空を見上げた。風が吹く。それは次第に勢いを増して、アリアたちを包み込んでいく。一体何が起こるのかと不安げなアリアたちに、彼は言った。

「迷惑料。今からあんたたちを風の魔法でリノールまで運んでいく。亡霊さんは実体化してないと置いてかれるから要注意な。『風神の申し子』なんて呼ばれた俺の実力、見せてやるよ。兄貴なんて余裕で撃退できたんだけどなぁ」

 風はどんどん強くなっていく。やがて。

「わぁっ、飛んだ!」

 アリアは驚きの声を上げた。
 アリアたちの身体が、ふわりと浮きあがっていた。
 一人大地に残っているフェンドリーゼが声を投げた。

「またな、頼まれ屋御一行。結構楽しかったぜ? では御機嫌よう!」

 フェンドリーゼが遠ざかる。アリアたちは空を飛ぶ。
 全てが小さく見えた。空の旅なんて生まれて初めてだし、これから先もあるかはわからない。アリアは景色を思う存分楽しもうと思った。
 その隣で。

「…………」
「ヴェルゼさん、大丈夫ですか?」

 一人、ヴェルゼが顔を青くしていた。
 彼は絞り出すような声で言う。

「地面を見ていると眩暈がする……」

 その日、ヴェルゼの高所恐怖症が判明した。

「ソーティアは……平気なのか?」

 はい、と彼女は大きく頷いた。

「イデュールの里があった場所が高山なんです。だから高いところから見下ろす景色は見慣れているんですよ。でも空を飛ぶなんて、流石に初めてですが……」

 実体化したデュナミスも平気そうである。
 悔しそうに、ヴェルゼは歯噛みした。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~ ( No.51 )
日時: 2020/12/26 11:16
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: fMHQuj5n)


 数時間後、アリアたちはゆっくりとリノールの町に着地した。着地まで丁寧である。この規模の魔法をこんなに長い間維持出来るなんて、とアリアたちは改めてフェンドリーゼのすごさを実感した。
 店の扉を開けて、アリアは大きな声で叫んだ。

「たっだいまー!」

 久しぶりに帰って来た店。帰って来ると、ああここが自分の居場所なんだなと実感する。王宮なんてきらびやかなところ、似合わない。ましてやヴェルゼと引き離された状態でなんて。
 王宮は一度関わってきた。フェンドリーゼは極力向こうが関わってこないようにすると言ってくれたが、どうなるのかは分からない。これ以上この町にいたら危険かもしれない。しかし借金を返し終わってはいない。

「……ひとまずは、借金問題が解決したら今後のことを考えましょうか」

 ずっとずっとリノールにいたいと思っていた。しかし状況によってはこの町を出ることも考慮せねばならないだろう。そして。

「デュナミス」

 ヴェルゼが透明になろうとしていたデュナミスに声を掛けた。

「穏やかなお前があそこまでキレるなんて珍しい。理由を聞かせてもらえないか」
「……思い出した、んだよね」

 デュナミスが顔をしかめつつ答えた。

「ほら、前に言ったろ。僕は貴族の家アルカイオンの息子だけど、本当は養子だったんだって。ある時僕は拾われたんだって、そんな話」
「拾われる前のことを、思い出したのか?」
「うん、少し」

 僕はどこかの王族だったはず、とデュナミスは言う。

「そこはとても良いところだった。でもね、当代の王がすっごく嫌な奴で……何か、酷い目に遭ったような気がする。だから僕は王族が好きじゃない」
「貴族かと思ったら王族かよ? すっごい生まれだな」
「ん……でも記憶が曖昧で。どこ出身かは思い出せないなぁ」

 分かっているのは、王族の彼が昔、王族によって酷い目に遭わされたということ。フォーリン王子のやったことは、その時のデュナミスのトラウマと似たようなことだったのだろうか。だから彼は珍しく、あそこまで怒りをあらわにしたのか。
 権力は暴力と相通ずる。それを忘れてはならない。
 分からないことはまだ多い。頼まれ屋アリアの中でも問題は山積みだ。借金は返さないとならないし、シドラとの因縁も決着がついていないしデュナミスのことも、ソーティアの故郷のこともある。ソーティアはいずれ故郷に戻ってみたいですとも言っていた。
 やることは、やらねばならないことはあまりにも多い。だがひとまずは。

「頼まれ屋アリア、依頼再開しました……なんてな?」

 日常に戻って来られたことを、喜ぶべきだろう。
 それから数日間は、アリアがヴェルゼに対してとても過保護になり、鬱陶しくなったヴェルゼが家出してしばらく戻って来なくなったのは別の話である。

【権力色の暴力 完】