複雑・ファジー小説

プロローグ ( No.1 )
日時: 2020/11/25 17:16
名前: おでん猫 (ID: vzo8adFf)


プロローグ


「はぁっ、はぁっ……誰かぁ……助けて…っ」

1人の小さな少女が夕焼けに染まる森の中を走っていた。

髪の毛はぼさぼさ、着ている赤いワンピースはぼろぼろ。

手に握られているのはかなり前からあったようにも見えるウサギのぬいぐるみ。

肌には見るだけで痛々しいような小さな傷がいくつもある。

「ううっ……おかぁさん……おにぃちゃん……どうして……そんな」

周りの樹々は少女を覆い尽くしてしまうような魔女の爪のよう。

少女が足の動きを緩めた。

すると「あっ」と思った瞬間、石につまづき、大きく転んでしまった。

頭をガツンと打たれた衝撃。

その影響で頭がふらふらする。

身体のあちこちを擦りむいて、血がたらたらと流れる。

ズキズキと痛む、擦りむいた傷。

なんとか身体を起こそうとしたが、身体が悴んで思うように立ち上がれない。

11月の夕方は昼と違ってとても寒かった。

意識が朦朧として、今にも気を失いそうだ。

それでも、やはり11月の寒さと擦りむいた傷は少女の身体を段々と蝕んでいく。

転んで倒れてしまった姿勢のまま、少女は精一杯の力を振り絞って声を出した。

「だ、だれか……た……」

しかし、その声は喉の途中で掠れてしまう。

それに、すっかり暗くなって空気が冷たい中、森の中を歩く人なんていなかった。

眼から溢れた水滴が頬を撫でる。

11月5日。

少女は暗くて冷たい森の中で眠りについた。