複雑・ファジー小説

Re: 僕の頭はわんえるでぃーけい! ( No.1 )
日時: 2021/02/11 16:19
名前: 憑 ◆R1q13vozjY (ID: HZjgBtCK)

熱いパッションは大事だが、文がめちゃくちゃ乱雑になるなと思いました。書いた分だけとりあえず投下しますが、これが続くか続かないかは僕のやる気次第。
意味わからな設定だけど急に降ってきたのでうおおお!!という気持ちで書きましたよろしくお願いします。





「異世界でやってはいけないこと、その一。その世界の食べ物を食べる。その二、自分たちの正体について正直に言う。そして最後、その三、……その世界に長い間滞在する」

「……私、ついに異世界に行く方法を発見したの」



 Ⅰ



「異世界……って。日本、のこと」

 いつもどおり異世界を眺めていたときのことだ。急に変なことを言い出した有明あめに、灯景ひかげは顔だけ向けた。
 異世界でやってはいけないことのくだりもいまいち分からないし気にはなるが、今はそれよりもずっと異世界に行く方法の方が灯景は興味をそそられた。
 有明と灯景がいる場所は、天界と呼ばれる世界である。天界から様々な異世界……いわゆる天界以外の世界を監視し、そして管理をする。それが有明と灯景に与えられた役目だ。通常彼女たちのような存在は観測者と呼ばれている。また、観測者は彼女たち二人以外にも数多に存在している。
 彼女たちが監視していた異世界の通称は、日本。というのも、その異世界の観測者である彼女たち──有明と灯景が、数ある土地の中でもとりわけ日本という土地を気に入り、その日本という土地ばかりを眺めるから、そう呼ばれるようになっただけなのだが。だから本来は、その異世界には日本以外にももっと色々名前のついた土地があるのである。

「ええ勿論! 私、その世界に行こうと思ってるの。ねえ、灯景も一緒に行きましょ?」
「……え」

 自信満々に、でもどこか楽しそうな有明に、そう話を振られる。灯景は言葉に詰まってしまった。
 灯景も日本に興味がある。そう、できることなら、一度きりでも良いから有明と一緒に行ってみたいと思っていた。なんなら、有明と灯景二人で、そんな未来を語り尽くしたし、夢に描きもした。

「うん、行きたい、けど……」
「けど?」

 夢に見たはずのことが目の前で起こっているのに。灯景は歯切れ悪くそう答えると、控えめに有明から目を逸らす。夢が現実になろうとしている今、嬉しいはずなのに、揺れ動いている自分の気持ちに困惑していた。

「あたし達、きっと、ニンゲンから見たらすごく変な恰好してる。そんな恰好で日本に行くなんて……」

 単刀直入にいえば、灯景は周りから笑われ注目されることを恐れていた。灯景は再度有明の方に目を向けると、どこか自信なさげに呟くように言葉を紡ぐ。
 灯景の言う通り、有明や灯景の見た目は、日本に住むニンゲンとは全く異なっている。日本で一番近いものでいえば、コスプレだろうか。

「できない、って?」
「……う、うん」

 有明は、それがどうしたのだと言いたげな視線を灯景に投げた。“灯景が言いたいのは、こういうことなんだよね?”、有明の瞳が静かに問いかける。灯景は控えめに頷くと、少しばかり俯いた。
 たとえば髪。
 有明はパッと見こそ朝焼けを思わせるような赤色だが、髪の内側は星空を文字通りそのまま写し取ったような、特殊な髪色をしている。なので、有明の髪の内側はいつも、星々が煌めく夜空が広がっていた。
 反対に、灯景の髪は紺碧の空という言葉が似合いそうな藍色の色だ。しかし有明と同じように、髪の内側は別の色に染まっている。灯景の場合は晴れ晴れとした夕焼けの空であり、よくよく見れば雲は流れ動いている。
 次に瞳。
 彼女たちの瞳の色は、時間帯に依存していた。たとえば昼であれば薄い水色の瞳であるし、夜であれば濃紺の色をした瞳になる。勿論、夕方であれば、赤っぽい色に変化する。
 一言でまとめるならば、彼女たちは人間離れした容姿を持っていた。

「それの何が問題なの? だって、私たちニンゲンじゃないのよ。そんなの当たり前じゃない」
「でも、向こうの世界じゃニンゲンの方が多いんだよ? 何言われるか分かんないよ」

 有明の意見は至極当然であった。有明や灯景などの観測者たちはニンゲンと呼ばれるような存在ではない。ニンゲンよりも位が高い、遥かに超越した存在である。ニンゲン側からしてみればそれは、いわゆる神と名付けられるような存在だろう。有明たちは、自分たちが不可思議な存在であると生まれながらに自覚していた。
 灯景もそのことは重々承知していたし、否定する気は無い。けれど、ニンゲンたちにとって、自分たちのような存在は受け入れ難いのではないか。自分たちが今行こうとしている日本では、自分たちのような存在が認められるような空気感が薄いように思えた。
 要するに灯景は、少数派より多数派に属したいのだ。周りと同化することで安心を得たいのだろう。有明は首を少し傾げたまま考える。

「んー……じゃあ、私たちがニンゲンに扮装して、そしてお忍びして行きましょう。それなら、問題ないでしょ?」

 目を伏せたままの灯景に向かって、有明は快活な声でそう提案を持ちかけた。
 灯景の睫毛が上がる。灯景の僅かに困惑が滲んだ顔が、有明に向けられた。

「……あ、あたし達が、ニンゲンに?」
「ええそう、髪を切って、帽子を目深に被って、そして、ニンゲンが着ているような服を着ればいいのよ。そうしたら、多分だけどニンゲンになれるでしょ」

 彼女たちは、服装もかなり目を引くようなものであった。これと的確に表現することは出来ないが、言うなれば羽織を着た巫女服の形状に似た服だ。そのような身なりでは、パーカーやジーンズなどの服が主流である日本では目立つに違いないだろう。
 故に、有明の提案は灯景にとって素晴らしく思えた。
 自分たちの特徴である髪や瞳を積極的に隠すことには若干の抵抗を覚えてしまうが、日本という世界へ行く不安と比べれば、なんてことは無かった。彼女たち独特の服も、灯景は気に入っていたが、ニンゲンに扮するためには犠牲にする他は無い。
 灯景はこくりと大きく頷いた。

「じゃあ、それで決まりね」

 有明はパチンと手を叩きながら、嬉しそうにそう言った。

Re: 僕の頭はわんえるでぃーけい! ( No.2 )
日時: 2021/02/11 16:21
名前: 憑 ◆R1q13vozjY (ID: HZjgBtCK)


 Ⅱ



 それ以降の流れは早かった。

 有明が刃渡り数センチ程度の小刀を持ってきては、ざっくりと髪を切り落とした。約一・六メートルあった髪だ。地面スレスレまであったそれが、肩につくかつかないかというぐらいまで短くなってしまった。あれだけ髪は女の命だって言ってたのに、こんなにあっさりと切ってしまうのか。灯景はそう思ってしまうも、有明の散髪する姿は類を見ないほどに美しかった。
 有明の切り落とされた髪は地面にそのまま落ちることはなく、空に吸い込まれるように宙へ舞い上がっていった。そのときにちょうど、髪の内側に秘められていた星空が、蛇口から吐き出される水のように溢れ出したのだ。そこにはもう既に、有明の藍色の髪の毛は無かった。比喩表現でもなんでもなく、もう星空になっていた。まるで天の川を近くで見てるみたいだ。灯景は息を飲んだ。

「灯景も、どうぞ」

 有明から小刀を差し出される。灯景は「うん」と頷きながら、小刀を手に掴みとった。
 有明と比べると短く思えてしまうが、灯景もまた長い髪の持ち主だった。八十センチ程ある髪を、灯景もまた切り落とす。尻ぐらいまであった髪は、鎖骨辺りまで短くなった。夕暮れの切ない赤色が、有明の星空に滲み混じるようにして空に広がっていく。水彩絵のような煌めきと彩やかさを思わせるような、空の光景だ。有明は空を見上げつつ、物珍しいものでも見るかのような笑みを浮かべていた。


  ❖


 服や帽子は、帽子姉妹に見繕ってもらうことになった。というのも、有明や灯景はあの巫女服のような服以外のものを持っていなかったからである。
 帽子姉妹もまた、有明や灯景と同じ観測者である。二人組で、いつも帽子を被っているから帽子姉妹と周りから親しみを込めて呼ばれていた。だから、決して二人は実際の姉妹というわけではない。

「アメさん方には、このような衣装の方が良いのではなくって?」

 帽子姉妹の妹側、マリーがそう言う。マリーの手には、ペアルックと思われる色違いのパーカーが二着提げられていた。
 マリーもまた例に漏れず、奇抜な見た目をしていた。宝石のような光沢を持った金髪に、輝かしいほどの金色の瞳。黒を基調としたフリルたっぷりのドレスに、羽があしらわれた黒いミニハット、といった格好である。
 また、マリーは瞳の中に月を飼っていた。月の満ち欠けによって、視力や視界が左右される体質の持ち主でもあったのだ。新月の日は何も見えないが、満月の日であれば遥か遠くまで見通せる目を持っていた。

「なればアクセサリーも揃える方がよいのではないのかね」

 帽子姉妹の姉側、サリーが杖の持ち手をトントンと指先で叩きながらもそう話しだす。
 サリーもまた変わった容姿の持ち主だった。黒い白目と黒い瞳に、毛先がごうごうと燃えている赤い髪。そして、全身真っ白のフロックコートに、白いソフトハットを被っている。サリーは男性用の服を好んで着るためか、どこか男性的な雰囲気を纏っていた。
 またサリーの髪には温度があり、触ると火傷してしまいそうなくらいに熱いのも特徴の一つだろう。つまりはサリーの髪自体が炎となっているのだ。特筆すべきは、サリーの髪は水をかけても鎮火することのない炎であることだろう。

「彼女たち、首周りが涼しくなったものね。前のような大和風のお淑やかさも、嫌いではないけれど」
「ああそうだね、どちらかと言えば活動的なものに変わったようにうかがえる。ここは一つ、アクティブ的な要素を取り入れてもよいだろう、どうだねマリー」

 帽子姉妹は様々な服や帽子、アクセサリーなどを取り囲みながら、何やら盛り上がっている様子であった。
 しかし、帽子姉妹のように、あまりファッションに明るくない有明と灯景は黙って二人の様子を見ることしか出来なかった。

「──で、如何いかがかね、アメ、ヒカゲ」
「わたしたちなりに、あなた方にお似合いになるでしょう衣装を考えてみたのだけれど、どうかしら」

 そう言う帽子姉妹の手には、やはりあのペアルックの色違いのパーカー、そしてまたもや同じく色違いのジャージズボン、紫のキャップがあった。
 有明と灯景は思わず顔を見合わせ、そして笑った。

「ありがと、まり、さり! とっても素敵だわ!」

 有明は帽子姉妹の手からそれらを取るや否や、抱きしめるようにしてギュッとしつつ、顔を埋めた。そんな有明を横目に、灯景も服を受け取る。
 有明は、帽子姉妹の二人をそれぞれまり、さりと呼ぶきらいがあった。それは灯景も同様であったが。

「……さあ早く着替えに行きなさい、二人にはまだ渡すものがあるのだからね」

 サリーはどこか嬉しそうに目を細めながら、有明と灯景を更衣室へと送り出した。
 それから十数分経った頃だろうか。有明と灯景は更衣室から出てきた。

「まりさん、さりさん。……どうですか?」

 灯景が帽子姉妹の前でゆっくりと一回転しながら問いかける。
 有明は白色のパーカーに、白いラインが入った黒いジャージズボン。灯景は灰色のパーカーに、金色のラインが入った白いジャージズボン。そして、お揃いの紫色をしたキャップ。パーカーはいずれも無地である。二人の格好はどこかスポーティな雰囲気を漂わせていた。

「ふふ、そうね、とても素敵よ。最後になるけれど、これをあなたたちに授けるわ。……はやく、お付けになって?」

 マリーは口元に指先を添えくすくすと笑っては、小さな白い箱を取り出した。
 有明がその箱を受け取り蓋を開けると、そこには金属製の耳飾りが入っていた。金属といえど素材のお蔭だろうか、そこまで重くはないようである。

「かっわいい! 何これ!」
「でしょう? イヤーフックだから、耳に穴を開ける必要もないの」

 箱から耳飾りを取り出し眺めながら、有明は目を輝かせる。
 耳飾りは、三角型の飾りが複数個ランダムに紐のように連なり、フックの部分から垂れ下がっているような形状だった。しかも光の当たり方によって色まで変わるようである。ロマンチックだと有明は思った。

「……ね、どう、有明。……似合ってる?」

 耳飾りは二つしか入っていなかったため、有明と灯景でそれぞれ片耳ずつ付けることにした。
 有明が耳飾りを眺めている隙に、灯景は耳に掛けたらしい。灯景はそう言いながらも、わざわざ耳元の髪の毛をすくい上げた。

「ええ、よく似合ってる」

 有明は小さく頷くと、目を僅かに細めた。灯景は楽しそうである。きっと、こういった飾り物を身につけるのが初めてだから、なのだろう。そんな灯景を見ていると、有明は自分もはやく付けたくなって、耳飾りをそっと耳に掛けた。

「……どうかしら、灯景」
「うん、とっても可愛い」

 今度は有明が胸に手を当てながらそう灯景に問いかける。灯景は有明の姿を視界に映しつつふふっと控えめに笑うと、どことなく満足気な声でそう言った。