複雑・ファジー小説
- Re: 東京放浪記 ( No.1 )
- 日時: 2021/01/25 00:03
- 名前: たけすこ (ID: 9nPJoUDa)
・序章
「東京敗北」
――――時の首相、柳本内閣総理大臣は外交上問題となっていた尖閣諸島問題に対し、実に強硬的な姿勢を崩さなかった。
‥その姿勢は相手国である「共和国」にとっては極めて不都合であった。
「――――尖閣諸島は我が国固有の領土であり、『外敵』である共和国船舶は『排除』されなければならない。」
国会におけるこの発言は、国内に限らず、世界に波紋を及ばせた。
―2035年9月17日 正午
<東京都 霞が関>
―突如、皇居を右に見る形に、内堀通りを7台のトレーラが高速に走り出した。
多数の車に囲まれているにもかかわらず、小石の様に振り払う。
周りの民衆は騒然とした。どうしたんだ、事故か。と手元の携帯で撮影する者や、逃げ惑う者と溢れている。
やがて先頭の車両は、警視庁へ突進する。街路樹はその重さと速さでなぎ倒された。
続いて2台、3台目と玄関口周りに衝突。大きな音と共に周囲は砂ぼこりや機関の排気、火災黒煙により煙が立ち込めている。
既に10名を超える死傷者が生じた。辺りには追突を免れた警官が、様子を伺っている。
「至急至急、警視庁庁舎に7両トレーラーが追突。テロ攻撃かと――――――」
と、無線を取り通報した矢先、トレーラは荷台より爆発した。車両爆弾によるテロだった。
その警官は炎にまかれ、吹き飛ばされるとともに頭蓋が割れるのを感じた。それを最後に絶命した。
―同日 午後1時
<首相官邸>
首相執務室にノックが響く。入れの声と共に秘書官が慌てて入室した。
「総理!霞が関‥‥警視庁に複数のトレーラーが追突!爆発テロです!」
総理柳本は慌てて椅子より立ち上がった。一時思考は真っ白になったが、すぐに。
「閣僚を集めてくれ。緊急会議を開催する。現状をすぐに資料にしてくれ」
立ち上がり、官僚と共に設置された会議室へ向かった。
柳本が来る頃には、閣僚の面々は揃っており、「総理入られます。」の声に応じ、起立した。
彼が座り、周囲に現在状況を尋ねた。
内閣危機管理監である住之が答えた。眼鏡をずり上げ、口を開く。
「先程の情報に追加です。警視庁は幽閉状態で、既に民間人、警官に多数の死者が。モニターに映します。」
壁に掛けられたテレビジョンには、公共放送の航空映像が流されている。
警視庁周辺には多数の警察車両が停車しており、厳戒態勢が敷かれている。変わらず煙が立ち込めている。
それらも微かに確認できる程度である。
「これはテロか?」
「これは‥恐らくテロリストによる自爆攻撃―――周囲には工作員はいないようですが、既にERT(緊急時初動対応部隊)を始めとした銃対、現場封鎖は機動隊が。」
同じく画面を見ていた西村官房長官は、画面右上の端に移る車を見逃さなかった。
一台の重装甲なSUVが、内堀通りに広がる機動隊警備線に向かって走り出した。
「ちょっと!車が来てるぞ、ありゃなんだ!」
と声を上げると同時に、機動隊員は跳ね飛ばされ、その一台に続いて15を数えるSUVが突入してくる。
会議室は騒然とし、テレビの方でも焦りを見せている。
<い、今、一台のSUV…でしょうか。車が機動隊員を跳ねました!そのまま現場に走っています!>
その車全てが、本庁前に止まると同時に黒ずくめの男がぞろぞろと降りてくる。
彼らの手には、短機関銃やアサルトライフル等の銃器が。
今、テレビの前では警官隊と「彼ら」との銃撃戦が発生している。
「おい、どう言う事だ!何故彼らは軍用車に乗り、そしてこの日本で銃器をもって警官と戦っている!?」
柳本は怒鳴り、ここに代わりに出席している警視庁副総監に視線を向けた。
副総監は慌てふためき、唇を震わせ
「只今、総監に確認を!」
―同日 午後2時
<警視庁前 桜田通り>
既に銃器対策部隊の隊員は戦闘状態にあり、軽装の巡査はほとんどが死亡またはその凶弾に傷を負った。
車両数えて20台。テロリスト集団の人数は現場の警官よりも多数。多勢に無勢である。
「ここは無理だ!他んところの管区から援軍呼べ!」
「小隊残り何人だ!」
遊撃車の陰に隠れ、指揮官は叫ぶ。
「分かりません!20名ほどしかないかとォォ!」
「クソッ!あいつらはSWATか!?あの装甲車はアメの奴じゃないのかッッ!?」
「彼ら」が乗っていた装甲車はSWATのそれと同車であった。
日本の車両より遥かに重装甲な車に、MP5の9ミリ弾は通用せず。
SMGしか持たぬ部隊に、恐らくカラシニコフやM16で武装された彼らに敵うことは無かった。
一人の戦闘員は、肩にRPGを構え、それを放った。
‥‥‥着弾し、全ての隊員は絶命――――警視庁防衛戦に警察は敗北した。
僅か2時間の戦闘だった。
警視庁に堂々入庁した「彼ら」は、虐殺の限りを尽くした。
庁内に残るSPや警備の警官は応戦。
「絶対、ここを通すな!総監や幹部を屋上に、ヘリを呼べ!」
警備部長は各員にそう指示し、自らも護衛と共に避難した。
10分と経たないうちに、警官らは殺されつくした。
―――――歴史上二度目となる。警視庁は占拠された。
―午後2時40分
<首相官邸>
警視庁陥落の知らせを聞いた会議室には、暗雲が立ち込めている。
それぞれが落胆し、後に到着した総監の会議の席についた。
「総理、現在、各署から増援を要請しております。臨時に設置された警視庁緊急対策指令室にて、副総監には指揮をとってもらっています。」
他所でのテロ攻撃の恐れもあります。と付け加えた。
現在、警視庁周辺にはテロリストが密集している。東京は敗北した。
総監の予想どおり、警視庁警察署へも襲撃事件が発生。
銃器対策部隊等の出動もままならず、警視庁は対応が出来ずに終わった。
それぞれの知らせを把握した危機管理監は立ち上がり、
「総理、ここ東京は日本で最も危険な地域となりました‥。首相官邸の数キロ圏内においても銃撃を確認しました。総理、ここは危険です!今すぐヘリをお呼びしますので退避を。」
「ど、どうするんだね。東京を‥見捨てろと?!」
怒鳴り声が響く中、官僚の一人が立ち上がり、防衛大臣に耳打ちした。
大臣は口を大きく開き、マイクに話し始めた。
「テレビをもう一度映してくれ。」
その画面には、衛星から写された写真が浮かんでいる。
東京湾が映し出されており、そこには多数の船が。
「総理!緊急事態です。湾内に50のフェリーです。湾岸に乗り上げました‥‥ん?共和国軍だと!?」
岸壁には正規軍の姿をした者が溢れており、その中には装甲車に戦車も映っている。
「信じられん。海保はどうしている!?」
「近くの巡視船に応答はありません。あれは‥‥軍隊です!―――侵攻軍です。」
東京湾より上陸した共和国軍は、第一普通科連隊や陸自の総力と戦闘を繰り広げた。
総理は、東京より脱出し、東京を捨てた―――――。