複雑・ファジー小説

Re: 不良品心情公開舞踏会 ( No.2 )
日時: 2021/05/22 20:39
名前: 独 ◆VMdQS8tgwI (ID: 2fSLq59j)

pr.2 今此処に誓うか


「はい、クナ。テストですからね」

 白衣姿の女性は、薄く微笑みながら殺風景な部屋を背景に僕に告げた。
 ”テスト”。それはどうやら、不良品なのかどうかを検査するらしく、自分の事も詳しく教えてもらえる。そう、他の人が言っていた。

 僕は男で、精神年齢状態は14歳を想定されて作られたそうだ。商品名はAdelaide=Cunay(アデレード=クナイ)』比較的落ち着いた性格で、染まりやすいらしい。
 色んな事を聞いたが、どうでも良い。だって、僕は不良品だから。
 
 体に、針を刺された時だった。「いたっ」の一言で、僕の世界は一気に歪んだ。fairって言う物、本来痛みを感じないそうだ。
 急に話が変わるんだけど、僕、正常って好きじゃないんだ。だってさ、普通って事でしょ? 凄くも無いし、駄目でもない。そんなのは――もう。

「僕、今回こそ不良品で良かったです」

 くす、と笑いながら、女性の目を見つめながら言った。自分でも、馬鹿げた事を言っているのは十分理解している。
 自分は失敗作なのに、それを嬉しいと言っているんだから。相手からすると、困るでしょう。
 宝石は――そうだな、パールが良いな。王道のダイヤモンドでも良いんだけど。
 先生をふと見ると、呑気に考えている僕とは裏腹に目を大きく見開いて、白衣のポケットにある無線通信機をすぐさま耳に当てた。
 ――どうせ、これもマニュアル通り。ただの、無理矢理当事者意識を持たされた操り人形の末路だ。
 それに書いているのかなどどうでも良いが、先生は無情な声を発した。

「業務連絡致します、No.25984。狂気と痛みに異常……ただち」
「駄目ですよ、先生。人の話に耳を傾けないなんて」

 一瞬、僕の理性なんかは消えて、気付けば彼女に馬乗りしていて、近くの針を手に持っていた。
 床と無線機がぶつかり合い、カコン、と大きく音を立てる。
 やめて、お願いよ。泣きながら震える姿は、いかにも愉快だった。――マニュアルはこれの対処までは教えてくれないんだってさ。
 
「先生、僕、宝石はやっぱりアクアマリンにします」

 彼女の耳には、もう。それは届いていなかっただろう。
 一本の鉄に、赤い液体が塗りたくられていた。返り血は付いていない。これからは、針で人を殺せば。そんな思考にも、眩しい僕は入って来なかった。

「誰だ!! 私の優秀な部下を殺したのは!」

 びく、と体が飛び上がる様な感覚を覚えた。
 ”捕まる”。嫌だ、嫌だ。馬乗りはもうやめていたし、針も持って無いけど。直感で、演技で――大丈夫。大丈夫だから。

「ひ……ァ……お姉さん、きゅ、急に……ッ……」

 直感だろうか、不味い、と思えば泣き真似をして、その場を凌ごうとする。

「じゃあ他に誰がやったんだと言う!? 不良品連絡が入っていたぞ 25984は、お前しかいない筈なん」

 なんだよ!! なんて言われて、てっきり捕まるとでも思っていたのに、おじさんの「なんだよ」は何時まで経っても聞こえない。
 誤解するな、僕は殺してない、僕は―――。

 不意に目をやったのは、自分の手。そこには、メスが握られていて。
 おまけに、血まで付いていたとなると、もう。



 本当にうれしくて。

****

「おーい。こんにちはー。きゃう、起きたら美人の姉さんが居て驚いたかい? うふ」

 誰、と声も出せずに、周囲を見渡す。
 上には立派な大樹の葉。僕が手を置いているのは眩しい日を遮る日陰の芝生。
 どうやら、いつの間にか研究所からは抜け出せたらしい。くるん、と右に首を回してみれば、ピンク色の髪の女性が目立つ。僕と同い年くらいの顔立ち。虫眼鏡を悪戯っぽく持って、僕の方をまじまじと見つめている。

「誰……」

 ようやく思っていた言葉を放ちながら、むくりと体制を変える。詳しく言えば、そこから腰をあげ、芝生に尻を付ける。
 まあ、先程まで寝ていたのだ。

「私? えっと……イヴェ=カーネルちゃんですね、うふ。因みにね、fairだけど、tetra(テトラ)っつーんだ!! 美味しそうでしょ?」
「テトラ……? なんですか、それ」

 よくぞ聞いてくれた! と言わんばかりの表情をイヴェはしている。後ろに広がる木々にピンクの髪がゆらゆらと風に靡く。

 話を要約すると、tetraと言う物は、異能持ちのfairらしい。fairから枝分かれして出来たものがtetraだと。イヴェの異能は……。

「イヴェの異能は何」
「私の異能? これさ!」
 
 どや顔を拝見させて頂いた後、自慢げに持っている虫眼鏡を突き出してきて。これだけじゃなんの事かわかる訳無いじゃん。と言うと、分からないのねそうですか可哀想に、と目が語って来るが、すんとして返答を待つ。
 ついに面白くなくなったのか、渋々イヴェは異能について口に出す。

「虫眼鏡じゃん、手錠じゃん、鎖じゃん、眼鏡じゃん、どや」
「へえ、色々な形に変えられるんですか」

 物分かり良いねぇ、とお褒めの言葉を素直に拝借。素直に食べる。
 にこにこ、と彼女の顔は音を立てながら、補足説明をしてくれるのかな。

「でさあ、君をえー、名前何だっけ? まあ、うぇーっと。あ、君をfair専用の館にご招待しますっ! 喜べ!!」

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